線路や幹線道路の下をくぐるアンダーパスは、周囲より低い位置を通る道路です。短時間に強い雨が降ると、周りから流れ込んだ雨水が集まり、早い段階で通れなくなることがあります。

事業所にとっては、従業員の通勤経路や配送車両の走行ルートに関わる問題です。この記事では、冠水が起きる仕組みを確認したうえで、自社の周辺で冠水のおそれがある場所を調べる方法と、ルートの見直し方を順に整理します。

アンダーパスで冠水が起きやすい理由

アンダーパスは、前後の坂道を下った先がもっとも低い地点になっています。雨水は低い方へ流れるため、道路の表面を流れてきた水が底の部分に集まります。

多くのアンダーパスには排水ポンプが設けられていますが、ポンプが処理できる量を超える雨が降った場合や、停電でポンプが止まった場合には水位が上がります。下水道や水路の排水が追いつかずに雨水が地表にあふれる現象は「内水氾濫」と呼ばれ、川の水があふれる洪水とは別に想定されています。※1※1内水氾濫は、川から離れた場所でも起こります。川の洪水を想定した「洪水ハザードマップ」とは別に、市町村が「内水ハザードマップ」を作成している場合があります。

図1アンダーパスに雨水が集まる仕組み(模式図)
アンダーパスに雨水が集まる仕組み(模式図)線路の下をくぐる道路は周囲より低いため、両側の坂から雨水が流れ込み、最も低い地点に溜まる。排水ポンプの能力を超える雨や停電があると水位が上がる。線路・道路(上)ポンプ周囲の坂から流れ込む最も低い地点に溜まる能力を超える雨・停電で水位が上がる

編集部作成。縮尺・水深は実際の構造を表すものではありません

冠水した道路に車で進入した場合に起きること

冠水した道路では、水面から深さを判断することが難しくなります。JAFは、アンダーパスを想定して前後に坂を設けたコース(水平部分30m)で、セダンとSUVが冠水路を走りきれるかを試しています。

表1冠水路を走りきれたか(JAFの試験、2010年)
水深速度セダンSUV
30cm時速10km走りきれた走りきれた
30cm時速30km走りきれた走りきれた
60cm時速10km登りの坂に差し掛かった地点でエンジンが止まった走りきれた
60cm時速30km(試験なし)約10mでエンジンが止まった

JAF「冠水路走行テスト(JAFユーザーテスト)」をもとに編集部作成。試験車はトヨタ・マークⅡ(セダン)と日産・エクストレイル(SUV)

水深30cmで走りきれた場合でも、速度が上がると巻き上げる水が増え、エンジンルームに多くの水が入ったと報告されています。別の試験(2014年)では、水深60cmで車内からドアを開けるのに、通常の5倍近くの力が必要でした。※2※2ドアの試験は計測器を使った条件での結果です。JAFは、実際の冠水路では水深も水の中の様子も分からないため、進入せずに迂回するよう呼びかけています。

重要度 高

水が溜まっているアンダーパスには、深さが分からなくても進入しないでください。手前で引き返せる場所があるかどうかも、平時のうちに確かめておくと判断が早くなります。

配送車両の場合は、車両そのものの損傷に加えて、積み荷の損害や配送の遅れにもつながります。ドライバー個人の判断に任せるのではなく、会社として「進入しない」ことを決めておくことが、判断を迷わせないための前提になります。

自社の周辺で、冠水のおそれがある場所を調べる

冠水のおそれがある場所は、1つの資料だけでは網羅できません。次の3つを組み合わせて確認します。

市町村の内水ハザードマップ

内水ハザードマップは、下水道の排水能力を超える雨が降ったときに浸水が想定される範囲を示した地図です。公表の有無や対象範囲、版は市町村によって異なり、まだ作成していない市町村もあります。※3※3内水ハザードマップは、紙の冊子やPDFのみで公表されている場合があります。所在地の市町村のウェブサイトで「内水」「浸水」などの語で探すと見つけやすくなります。

当サイトの市町村・区のページでは、各市町村が公表しているハザードマップの確認先と、地域防災計画に書かれた浸水の想定をまとめています。

道路管理者が公表する冠水注意箇所

国土交通省関東地方整備局は、国・県・市町村が管理する道路のうち、冠水のおそれがある場所を「道路冠水注意箇所マップ【神奈川県】」にまとめています。令和8年6月1日作成の版には県内128か所が載っていて、ほとんどがアンダーパスなどの立体交差です。

市町村のハザードマップには、この一覧にない地下道や架道橋が「危険箇所」として載っていることもあります。当サイトの市町村・区のページの地図では、国の一覧の箇所に加えて、市町村のハザードマップにだけ載っている箇所も表示しています。

ハザードマップポータルサイト

国土交通省のハザードマップポータルサイトでは、洪水・土砂災害・津波などの想定を地図上で重ねて表示できます。内水の想定は掲載されている範囲が限られるため、市町村の内水ハザードマップとあわせて確認します。

表2冠水のおそれがある場所の確認先
確認先公表主体わかること
内水ハザードマップ市町村下水道の排水が追いつかない場合の浸水想定範囲
道路冠水注意箇所マップ国土交通省関東地方整備局(国・県・市町村の管理道路)冠水のおそれがあるアンダーパスなどの個別の場所
ハザードマップポータルサイト国土交通省洪水・土砂災害・津波などの想定の重ね合わせ

各機関の公表資料をもとに編集部作成

通勤・配送ルートを見直す手順

確認先がわかったら、実際のルートと照らし合わせます。作業は総務やBCPの担当者1人でも始められますが、ルートを日常的に使っている従業員やドライバーに確認してもらうと、地図に表れない情報が集まります。

  1. 拠点と主なルートを地図に書き出す。 事業所、倉庫、主な配送先を結ぶルートと、従業員の主な通勤経路を1枚の地図にまとめます。
  2. アンダーパスと低い道路に印をつける。 前の章の確認先で冠水のおそれがある場所を調べ、ルート上にあるものに印をつけます。
  3. 回避ルートを1本以上決める。 印をつけた場所を通らずに移動できるルートを決めます。
  4. 回避ルート自体の浸水想定も確認する。 迂回した先が別の浸水想定区域に入っていないかを、同じ資料で確かめます。
  5. 従業員とドライバーに共有する。 地図と回避ルートを配布し、年に1回は見直します。
注意

回避ルートは、交通規制や工事で使えなくなることもあります。1本に頼らず、状況に応じて「移動しない」判断も選べるようにしておきます。

社内で決めておく判断基準

雨の強さに応じて、誰が何を判断するかを事前に決めておくと、当日の連絡が短くなります。気象庁が発表する情報を基準にすると、社内で共通の物差しになります。

気象庁は令和8年5月29日から、新しい防災気象情報の運用を始めています。低い土地の浸水など内水氾濫を対象とする大雨の情報は、警戒レベルの数字を付けた名称で発表され、「レベル4大雨危険警報」が新しく設けられました。これまでの記録的短時間大雨情報は、「気象防災速報(記録的短時間大雨)」として発表されます。※4※4土砂災害と、洪水予報河川の氾濫については、それぞれ別の名称の情報が発表されます。社内の基準では、拠点や経路に関わる情報を選んで書いておきます。

表3気象情報と社内の対応の例
気象庁の情報社内の対応の例
レベル2大雨注意報当日の配送ルート上のアンダーパスを確認し、回避ルートを伝える
レベル3大雨警報冠水のおそれがある場所を通る配送は、出発を見合わせるか回避ルートに切り替える
レベル4大雨危険警報新たな出発を止める。移動中の車両は、アンダーパスや低い道路を避けて安全な場所で待機する
気象防災速報(記録的短時間大雨)移動中の車両はその場の安全を確保して待機し、会社に連絡する

情報の名称は気象庁「河川氾濫・大雨に関する情報の改善」(令和8年4月更新)と「気象情報(解説情報)の改善」による。社内の対応は編集部が作成した例

表3は一例です。自社の業種や拠点の立地によって、判断の段階や担当者は変わります。雨の状況は、気象庁のキキクル(危険度分布)で地図上に確かめられます。決めた内容は、事業継続力強化計画の「初動対応」の項目にも記載できます。※5※5事業継続力強化計画は、中小企業が防災・減災の事前対策をまとめ、経済産業大臣の認定を受ける制度です。認定を受けると、支援策を利用できる場合があります。