水が引いたあとの事業所では、片付け、設備の点検、証明書の申請、資金の手当てが同時に始まります。順番を間違えると、あとで困ることがあります。たとえば、片付けを先に終えてしまうと、市の調査で被害の程度を確かめられなくなります。濡れた電気設備に通電すると、火災につながることがあります。

この記事では、浸水した事業所が業務を再開するまでにすることを、国と県内の市の資料から順に整理します。浸水の「前」の備えは「止水板と浸水防止の備え」と「倉庫の浸水に備える」で、2019年の台風19号で県内の事業所に起きたことは「2019年の台風19号で、神奈川の事業所に何が起きたか」で扱っています。

会社がまずすること
  1. 片付けの前に、建物の外4方向・浸水の深さ・部屋ごとの全景・被害箇所の写真を撮る(1章)
  2. 濡れた電気設備・電気製品は、点検を受けるまで通電しない(3章)
  3. 所在地の市区町村で、事業所の建物に出る証明書の種類と申請の期限を確かめる(4章。市によって期限が違う)

片付けの前に、被害を写真で残す

内閣府は、市町村が被害の調査をする前に建物を片付けたり修理したりすると調査が難しくなるため、被災者が可能な限り被害の状況を写真で撮って保存するよう、各都道府県に広報を求めています(事務連絡、令和2年7月5日)。写真は、罹災証明書などの申請のときに市区町村に出す資料にもなります。横浜市・川崎市・鎌倉市は、申請のときに被害の状況が分かる写真を持参するよう案内しています。

内閣府の同じ事務連絡には、調査員向けの撮影の手順が示されています。事業所で撮るときも、この手順に沿うと漏れが減ります。

表1被害の写真の撮り方(内閣府の留意点を事業所に当てはめた例)
撮るもの内閣府の留意点事業所で補うこと(編集部)
建物の全景可能な限り周囲4面を撮る看板や出入口の位置が分かるように撮る
浸水の深さメジャーなどを当てて、全体を写した遠景と、目盛りが読める近景を撮る外壁の浸水の痕、出入口、倉庫や工場の床からの高さを測る
部屋・区画被災した部屋ごとの全景を撮る事務室・倉庫・作業場・店舗の売場など、区画ごとに撮る
被害箇所被害の面積の割合が分かる範囲と、程度が分かる近景(クローズアップ)を撮る設備・機械・在庫・車両も、全体と近景の2枚ずつ撮る
撮り方の工夫指さしで何を撮ったかを示す。カメラの日時を正しくし、撮影日時の記録を残す。撮る順番を決めておく建物の図面に番号を振り、番号の順に撮ると整理しやすい

内閣府「住家の被害認定調査における写真撮影に係る留意事項について」(令和2年7月5日)の「撮影上の留意点」と別添のチラシをもとに編集部作成

写真は、片付けの前のものと、片付けの途中・あとのものを分けて保存します。市区町村の調査は、調査員が現地で浸水の深さを測って行うのが基本です。内閣府の運用指針(令和8年6月)は、浸水深は玄関の内側や掃き出し窓などの浸水の痕で測ることが考えられるとし、スマートフォンなどで撮った画像から算出した浸水深を使うこともできるとしています。被害の痕を消す前に、外壁と室内の浸水の痕を撮っておきます。

清掃と消毒、濡れた電気製品の扱い

清掃と乾燥を先に、消毒はそのあと

厚生労働省は、浸水した家屋では細菌やカビが繁殖しやすくなるため、感染症を防ぐには清掃と乾燥が最も重要で、清掃が不十分だと消毒の効果が出ないとしています。清掃のときの注意として、ドアと窓を開けて換気する、汚泥を取り除いてしっかり乾燥させる、けがを防ぐために手袋を着け、ほこりを吸わないようにマスクを着ける、終わったら手を洗う、を挙げています。令和元年の台風第19号のときの事務連絡では、ゴーグルと底の厚い靴の着用も示されています。※1※1同じ事務連絡は、がれきの撤去などの作業に専門的に従事する人について、汚泥から生じるレジオネラ菌を含む細かい水滴を多量に吸い込むとレジオネラ症を発症する可能性があるため、防じんマスクの着用を勧めるよう求めています。従業員に片付けを長時間させる場合は、この点も考えておきます。

消毒薬は、汚れを取り除いたうえで使います。厚生労働省の資料では、汚染の程度がひどい場合や長時間浸水していた場合は次亜塩素酸ナトリウムを使い、家具や床には0.1%、食器などには0.02%に薄めるとされています。色あせや腐食で次亜塩素酸ナトリウムを使えない場合は、アルコールや塩化ベンザルコニウムを使います。屋外(床下や庭)の消毒は原則不要とされています。消石灰は、肌や目に触れると炎症を起こし、目に入ると失明のおそれがあるとして、取扱いに注意を求めています。

濡れた電気製品・ガス機器は、そのまま使わない

製品評価技術基盤機構(NITE)は、水がかかったり浸水したりしたガス・石油機器や電気製品は、内部に水が残ったり泥や塩分が付いたりして、使い始めたときに不完全燃焼や火災を起こすおそれがあるため、そのまま使わないよう呼びかけています。使う前に外観・動作・異音・異臭を確かめ、異常があればすぐに使用を止めてメーカーや販売店に相談するとしています。停電の間に携帯発電機を使うときは、屋内では使わず、屋外の風通しのよい場所で使うことも求めています。NITEに通知された製品事故のうち、2011年度から2020年度までの10年間で、携帯発電機の一酸化炭素中毒の事故は12件(うち死亡事故5件)ありました。

片付けのごみは、市区町村の案内に合わせる

横浜市は、被災した建物の片付けで出るごみ(壊れた家具や家電など)を「片付けごみ」と呼び、日々の生活から出るごみと分けて出すよう案内しています。片付けごみの具体的な出し方は発災後に市が知らせるとし、知らせるまでは出さないよう求めています。藤沢市は、床下・床上浸水の消毒と廃棄物の問い合わせ先を環境事業センターと環境総務課とし、原則として罹災証明書の写しと現場の写真が要るとしています。事業所から出るごみの扱いは市区町村によって異なるため、片付けを始める前に所在地の担当課に確かめます。

電気設備は、点検を受けてから通電する

国土交通省と経済産業省は、令和元年東日本台風で高層マンションの地下の受変電設備が浸水し、エレベーターと給水が止まった事例をきっかけに、「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」(令和2年6月)をまとめました。対象は受変電設備、自家発電設備、分電盤とそれらに付随する設備機器などで、高圧で受電する建物を主に想定していますが、浸水したあとの復旧の手順は、事務所や工場、店舗の電気設備にも当てはめて考えられます。

ガイドラインは、浸水した電気設備の復旧について、次の順番と日数の目安を示しています。

表2電気設備が浸水したあとの復旧の手順と所要日数の目安
順番すること誰が行うか所要日数の目安
1電気設備の周りの排水。開始前に、電気設備関係者が点検・測定と開閉器類の開放などの安全処置を行う建物の所有者・管理者1〜2で約2〜3日
2受変電設備の清掃・点検と、復旧方法の検討。洗浄や部品交換で再利用できるかの判断には、製造メーカーの技術者の派遣が必要になることがある電気工事業者、電気主任技術者
3応急措置のための手配・準備電気工事業者、電気主任技術者3〜4で約2〜4日
4復旧作業(組立・配線)電気工事業者、電気主任技術者
5送電、停電の解消一般送配電事業者

国土交通省・経済産業省「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」(令和2年6月)5.(3)①(ⅱ)発災時・発災後の取組をもとに編集部作成。所要日数は、技術者や部品等の手配が円滑にできる場合の一般的な目安

ガイドラインは、停電からの復旧に必要な受変電設備(キュービクルなど)は受注生産の場合があり、浸水で使えなくなると復旧までに相当の期間を要することがあるため、「応急措置による復旧」も検討しておくことが望ましいとしています。応急措置の例として、レンタルなどによる代替キュービクルの設置、被害を受けていない別のキュービクルの活用、電力会社からの臨時電力の引込み(低圧)、代替発電機や電気自動車などからの電源供給を挙げています。どの方法を取るかは、電気主任技術者や電気工事業者、一般送配電事業者とあらかじめ検討しておくことが前提です。

平時の準備として、ガイドラインは2つを挙げています。1つは、電気主任技術者とその代務者、電気工事業者、一般送配電事業者、電気機器施工業者、自社の連絡窓口を書いた連絡体制図です。もう1つは、配置図、各階平面図、単線結線図、負荷設備配線図などの設備関係図面です。被害箇所に応じてどこを調べればよいかが分かり、作業が効率よく進むためです。停電が長引くときの電源の考え方は「停電が長引いたときに事業を続けるための電源の考え方」で整理しています。

注意

分電盤やコンセントまで浸水した事業所では、ブレーカーを入れる前に、電気工事業者などの点検を受けます。見た目が乾いていても、内部に水や泥が残っていることがあります。NITEの呼びかけ(前章)は、個々の電気製品についても同じです。

事業所の建物に出る証明書を確かめる

罹災証明書は「住家」の被害の程度を証明する

災害対策基本法第90条の2第1項は、市町村長は被災者から申請があったときは遅滞なく住家の被害などの状況を調査し、被害の程度を証明する書面(罹災証明書)を交付しなければならないと定めています(内閣府の資料による)。罹災証明書には、全壊、大規模半壊、中規模半壊、半壊、準半壊、準半壊に至らない(一部損壊)の6区分のいずれかが書かれます。区分は住家の損害割合で決まり、全壊は50%以上、大規模半壊は40%以上50%未満、中規模半壊は30%以上40%未満、半壊は20%以上30%未満、準半壊は10%以上20%未満、一部損壊は10%未満です。

水害では、木造・プレハブの戸建て1〜2階建ての住家について、外観と浸水深を見る第1次調査で判定します。内閣府の運用指針(令和8年6月)の表1では、内水氾濫などで外壁や建具が壊れていない場合、床上1.8m以上の浸水は大規模半壊、床上1m以上1.8m未満は中規模半壊、床上0.1m以上1m未満は半壊、床上0.1m未満は準半壊、床下浸水は準半壊に至らない(一部損壊)とされています。津波や河川の氾濫で水流やがれきがぶつかり、外壁と建具が壊れている場合は表2が使われ、床上1.8m以上の浸水は全壊、床上1m以上1.8m未満は大規模半壊、床上0.5m以上1m未満は中規模半壊、床上0.5m未満は半壊です。それ以外の住家は、内部にも立ち入る第2次調査相当の調査になります。被災者が申請すれば第2次調査が行われ、床下浸水など被害が軽い場合は、写真で現地調査を省く「自己判定方式」が使われることがあります。※2※2内閣府の運用指針は、床上0.1mの基準は巾木の高さを目安に設定したもので、外から見える範囲で内壁に巾木の汚損以外の損傷があると判断できる場合は、床上浸水であれば半壊と判定して差し支えないとしています。

事務所・店舗・倉庫は「住家」ではない

罹災証明書の調査の対象は「住家」です。事務所や店舗、倉庫の建物については、県内の市は別の証明書を出しています。名前も、申請の期限も、市によって違います。2026年10月8日に各市の公式ページで確かめた内容は次のとおりです。

表3県内の市の、事業所の建物や動産に関する証明書(2026年10月8日に各市の公式ページで確認)
市事業所の建物・動産に出る証明書証明する内容申請の期限申請先
横浜市被災非住家建物証明書(倉庫・事務所などの非住家の建物)、被災届出証明書(建物以外の財産)被災非住家建物証明書は、市の調査または写真などで被災した事実だけを確認し証明する。全壊・半壊などの程度の認定はしない。被災届出証明書は届け出た事実だけを証明する罹災証明書と被災非住家建物証明書は原則、被災した日から6か月以内被害のあった場所の区役所
川崎市罹災証明書(ページは住家を主に案内。市職員の現地調査または写真による自己判定方式)被害の程度罹災した日から原則6か月以内各区役所の危機管理担当(電子申請もある)
藤沢市非住家及び動産等罹災確認証明書(事務所、店舗、自動車、カーポート、フェンスなど)非住家・動産の罹災の確認ページに記載なし災害対策課
鎌倉市罹災証明書(建築物)、被災届出証明書(建築物のほか自動車などの動産、ブロック塀やカーポート)被災届出証明書は届け出た事実を証明し、被害の程度や因果関係は証明しない罹災証明書は罹災日から3か月以内納税課(14番窓口)

横浜市「罹災証明書等について」(2026年5月11日更新)、川崎市「罹災証明の交付申請(火災を除く)について」(2025年12月22日更新)、藤沢市「被災された方に対する支援制度について」(2026年9月9日更新)、鎌倉市「罹災証明書等について(火災を除く)」(2024年3月12日更新)をもとに編集部作成

必要なものは、各市とも申請書、本人確認書類、被害の状況が分かる写真が基本で、手数料は無料です。横浜市は、代理人が申請するときは委任状が要るとしています。川崎市は、一部損壊の申請では写真や領収書などの資料を必ず添えるとし、修理の見積書や領収書も被害を示す書類に挙げています。

鎌倉市は、2026年9月の台風第25号のあと、罹災証明書と被災届出証明書の発行、市税の減免、小災害見舞金の案内を1つのページにまとめました。現地調査に時間がかかる場合があるため、被害の状況が分かる写真を用意するよう求めています。固定資産税の減免の対象には、床上浸水の被害を受けた家屋と、損害の程度が10分の2以上の償却資産が挙げられています。小災害見舞金は店舗・事業所も対象で、全壊などで2万円、半壊・床上浸水などで1万円です(福祉政策課に連絡する)。藤沢市は、事業所税の減免の担当を納税課としています。所在地の市町村のページは、市町村・区のページの「支援と確認先」から確かめられます。

資金と税の手続きを、証明書と並行して進める

県の災害対応融資と相談窓口

神奈川県の中小企業制度融資「災害対応融資」は、自然災害などで設備や建物などが被害を受けた県内の中小企業者等が使える融資です。2026年4月時点のチラシでは、一般枠は市町村等が発行する「り災届出証明書等」があれば申し込め、資金の使途は事業の再建に必要な運転・設備資金、融資限度額は2億8,000万円(うち無担保8,000万円)、融資期間は運転資金10年以内・設備資金15年以内(据置期間2年以内を含む)、融資利率(固定)は2年以内が年1.5%以内、2年超5年以内が年1.8%以内、5年超15年以内が年2.2%以内です。信用保証料率は一般枠が0.26%〜1.42%(県の補助と県信用保証協会の割引後)、別枠と激甚災害枠は1.00%です。申込みは取扱金融機関(チラシに載っている銀行・信用金庫・信用組合、商工組合中央金庫)で行います。

2026年の台風第25号では、横須賀市と三浦市に災害救助法が適用され、県は10月1日から中小企業向けの特別相談窓口(県金融課 金融相談窓口、045-210-5695、平日9時〜17時)を設けました。神奈川県信用保証協会も、横浜・川崎・小田原・横須賀・藤沢・厚木・相模原の各支店に窓口を設けています。県内の制度の一覧は「神奈川県内で使えるBCP・防災の支援」でまとめています。

国の融資・保証と、税の手続き

日本政策金融公庫の災害復旧貸付(中小企業事業)は、指定された災害で直接または間接の被害を受けた中小企業者が、災害復旧のための設備資金と長期運転資金を借りられる制度です。公庫のページでは、融資限度額は直接貸付が一指定災害につき1億5千万円、返済期間は設備資金20年以内・運転資金10年以内(いずれも据置期間3年以内)とされています。内閣府の「被災者支援に関する各種制度の概要」(令和8年6月1日現在)は、このほかに次の2つを挙げています。

  • セーフティネット保証4号。 指定地域で事業を行い、災害の影響で原則として最近1か月の売上高等が前年同月より20%以上減少し、その後2か月を含む3か月間も20%以上減少する見込みの中小企業者が対象。売上高等の減少について市区町村長の認定が要る。無担保8千万円、最大2億8千万円まで一般保証とは別枠
  • 災害関係保証。 事業所、工場、作業所、倉庫などの主要な事業用資産に倒壊などの直接の被害を受けた中小企業者が対象。市町村が発行する罹災証明書が必要だが、提出の時期は柔軟に対応するとされている。一般保証ともセーフティネット保証4号とも別枠

国税は、災害などで申告・納付をその期限までにできない場合、その理由のやんだ日から2か月以内の範囲で期限が延長されます。国税庁長官が地域と期日を告示する場合(地域指定)と、所轄の税務署長に申請して承認を受ける場合(個別指定)があります。災害で全積極財産のおおむね5分の1以上の損失を受けた場合などは、税務署長に申請して納税の猶予を受けられます。地方税(固定資産税など)の減免や徴収の猶予、期限の延長は、都道府県・市町村の税務の担当課が窓口です。

どの制度を使うかの前提になる「いくら足りないか」は、当サイトのリスクファイナンス判断シートで、復旧の費用と休業中の固定費から見積もれます。復旧にかける日数の決め方は「目標復旧時間の決め方」を参照してください。

再開までの順番を、平時のうちに決めておく

ここまでの内容を、水が引いたあとの順番として並べると次のようになります。

  1. 写真と記録。 建物の外4方向、浸水の深さ、区画ごとの全景、被害箇所、設備・在庫・車両を撮る。片付けの前のものと分けて保存する。
  2. 電気の安全処置。 電気主任技術者や電気工事業者に連絡し、点検と開閉器の開放などを受けてから、排水と片付けに入る。
  3. 清掃と乾燥。 換気し、汚泥を取り除いて乾かす。消毒はそのあと。濡れた電気製品・ガス機器は使わない。片付けごみは市区町村の案内に合わせる。
  4. 証明書の申請。 事業所の建物に出る証明書の名前と期限を所在地の市区町村で確かめ、写真を添えて申請する。
  5. 資金と税。 県の災害対応融資・相談窓口、公庫の災害復旧貸付、保証、申告・納付の期限の延長と猶予を、証明書と並行して進める。

連絡体制図、設備の図面、証明書の窓口、取引金融機関の連絡先は、事業継続力強化計画の「(1)対応手順」と「(2)B欄(モノ)」「(2)C欄(カネ)」に書いておくと、担当者が替わっても同じ順番で動けます。所在地で想定される浸水の深さは、拠点リスク確認で確かめられます。