止水板や土のう・水のうは、出入口からの浸水を防ぐ、または遅らせるための設備です。ただし、どの高さまで防げばよいか、誰がいつ設置するか、どこに保管するかを決めておかないと、必要なときに使えないことがあります。
この記事では、国土交通省の「地下街等における浸水防止用設備整備のガイドライン」(平成28年8月)を軸に、設備の高さの決め方、種類と選び方、設置・保管・訓練で確かめることを順に整理します。地下街などを対象にした資料ですが、浸水深を調べ、出入口の高さを測り、設備を選び、手順と点検を決める流れは、地上の事務所や店舗、工場、倉庫にも当てはめられます。倉庫の貨物をどの高さに置くかは「倉庫の浸水に備える」で、ハザードマップの凡例の読み方は「内水ハザードマップの読み方」で扱っています。
想定される 浸水深と、 出入口の 高さを 比べる
ガイドラインは、設備を検討する最初の手順として、洪水・内水・高潮のハザードマップ(想定最大規模の降雨・高潮にもとづくものを基本とする)で、想定される浸水深を把握するよう求めています。浸水深は、市区町村が公表するハザードマップのほか、国土交通省のハザードマップポータルサイトでも確かめられます。当サイトの拠点リスク確認で所在地の想定をまとめて見たうえで、市町村・区のページから各市町村のハザードマップの確認先をたどると、洪水と内水の両方をそろえやすくなります。
浸水深の区分は、国土交通省の「水害ハザードマップ作成の手引き」(令和8年5月一部改定)で共通のルールが決められています。標準では 0.5m・3m・5m・10m・20m を境に6段階に色分けし、0.5m は一般的な家屋の1階の床の高さ、3m は2階の床下、5m は2階が水没する深さに当たるとされています。内水で浸水の深さの差が小さい場合などには、0.3m と 1m の区切りを加えた詳細版も使えます。※1※1手引きは、流れが緩やかでも 0.5m 以上の水深があると大人でも歩くのが難しくなること、一般的に浸水深が 30cm 以上では車の走行が困難になり、50cm 以上では車が浮いたりパワーウィンドウの車では車内に閉じ込められたりすることを挙げています。止水板で建物を守れる深さであっても、周りの道路は歩けない・走れない深さになっていることがあります。
国土交通省「水害ハザードマップ作成の手引き」3.4.1 の浸水の深さの区分の考え方をもとに、編集部で作図。色は重ねるハザードマップの浸水の深さの凡例
次に、浸水するおそれのある出入口を洗い出し、それぞれの高さを測ります。ガイドラインは、開口部の幅、施設の床の高さ(すでにある段差などの対策の高さ)、出入口の側壁の高さ、周りの歩道の高さを把握するとしています。正確に知るには、設計図面を確かめるか、周りの地形とあわせて測量し、出入口の高さ(標高)と想定浸水深(標高)を比べる方法が示されています。比べた結果によって、必要な対策は次の3つに分かれます。
| 比べた結果 | ガイドラインの考え方 |
|---|---|
| 浸水深が、歩道の高さと床の高さ(既存の対策の高さ)を合わせた高さ以下 | 浸水する可能性が低く、対策は不要。ただし、車や風で波が立って浸水することも考えられるため、余裕の高さを持たせることも考えられる |
| 浸水深が上の高さを超え、側壁の高さ以下 | 浸水する可能性が高く、止水板などの浸水防止用設備の設置が有効 |
| 浸水深が側壁の高さを超える | 止水板などだけでは防ぎきれないため、側壁や屋根を含めた出入口の改修が必要 |
国土交通省「地下街等における浸水防止用設備整備のガイドライン」(平成28年8月)4.1 をもとに編集部作成
余裕の高さについて、ガイドラインは具体的な数値を示していません。また手引きは、雨の降り方によってはハザードマップに示されていない場所でも浸水し、浸水深も深くなる場合があると説明するよう示しています。想定の数値は、上限ではなく検討の出発点として扱います。
浸水防止用設備の 種類と、 出入口以外から 入る 水
ガイドラインは、浸水防止用設備を、土のうや脱着式の止水板のような「持ち運びタイプ」、スライド式やシート式のような「据え付けタイプ」、壁や天井などと一体になった「建具タイプ」などに分けています。選ぶときの条件として、出入口に求める止水の性能、床や壁を加工できるかどうか、保管や収納の場所の状況を挙げています。
- 出入口全体が水没し、天井面まで止水する必要がある場合は、出入口全体の改修とあわせて防水扉を選ぶ
- 既存の扉やシャッターを取り替えたり加工したりできる場合は、上部に収納するタイプを選べる
- 建具は加工できないが床や壁を加工できる場合は、床収納型・壁収納型・脱着式の止水板を選べる
- 床や壁も加工できない場合は、重さや設置時間に応じて、脱着式のシート、土のう、水のうなどを選べる
- 開口部の幅が広い場合は、支柱を立てて横につなぐなどの方法を検討する
設置にかかる時間も、タイプによって大きく違います。
| タイプ | 種類 | 標準設置時間 |
|---|---|---|
| 持ち運びタイプ(保管場所から設置場所までの移動時間も考える) | 土のう等 | 保管場所、設置個数による |
| 持ち運びタイプ | シート等脱着式、止水板(脱着式) | 取付け時間 5〜10分程度 |
| 据え付けタイプ(設置場所へ直接向かう) | 止水板(スイング式) | 開閉時間 1〜5分程度 |
| 据え付けタイプ | 止水板(起伏式) | 手動 3〜5分、電動 1〜2分 |
国土交通省「地下街等における浸水防止用設備整備のガイドライン」(平成28年8月)7.1 表2 をもとに編集部作成。時間はあくまで目安で、場所や人などの条件によって異なるとされている
土のうや水のうは、専用の設備がない場所でも使えます。水害ハザードマップ作成の手引きは、浸水深が小さいときには、大きめのごみ袋やポリタンクに水を入れて水の入口となるところに並べる、長めの板と土のうで臨時の止水板を作る、といった方法を紹介しています。平塚市も、45リットル程度のごみ袋を二重にして半分程度の水を入れた水のうを段ボール箱に詰め、レジャーシートなどで包んで、出入口に隙間なく並べる方法を案内しています。
出入口以外の 浸水経路も 洗い出す
水は正面の出入口からだけ入るわけではありません。ガイドラインは、浸水する可能性のある出入口として、階段、エレベーター、地下駐車場の出入口、換気口、排煙口、設備スペースを挙げ、接続するビルなどから水が入ることもあるとしています。横浜市も、地下室や地下駐車場などの道路より低い宅地は、浸水の程度にかかわらず雨水が入り込む危険があると注意しています。
建物の中の排水口にも注意が必要です。平塚市は、集中豪雨で汚水管が短時間で満水になると、排水が流れにくくなったり、トイレや洗面器具からボコボコと音がしたり、封水を跳ね上げたりすることがあるとしています。その対策として、宅地内の汚水ますに付ける逆流防止弁や、排水管の中で行き場を失った空気を地上に逃がす圧力開放蓋を挙げ、施工は市の指定工事店に相談するよう案内しています。どちらも大雨の当日に取り付けられるものではないため、1階や地下にトイレや排水口がある事業所は、平時のうちに検討しておきます。
止水板を設置した出入口は閉じた状態になります。ガイドラインは、避難には設備を設置していない出入口を使い、設置した出入口が閉鎖されていることを掲示で示すことが望ましいとしています。どの出入口を避難に残すかは、止水板を置く場所と同時に決めます。
設置の 担当・時期・保管場所を 決め、 訓練で 確かめる
ガイドラインは、設備の設置を、各出入口に水が流れ込み始める前に終えなければならないとしています。出入口までの移動時間、保管場所から運ぶ時間を含めた設置時間、人数とチーム数を考えて体制を組み、時間内に終わらない場合は、設備の軽量化・電動化や人数を見直すよう求めています。
設置の 時期を、 気象情報に 結びつける
気象庁は令和8年5月29日から新しい防災気象情報の運用を始めました。低い土地の浸水など内水氾濫を対象とする大雨の情報は、レベル2大雨注意報、レベル3大雨警報、レベル4大雨危険警報、レベル5大雨特別警報に整理され、レベル4大雨危険警報が新たに設けられています。
国土交通省の「大規模工場等に係る浸水防止計画作成の手引き」(令和8年5月)の記載例は、雨水出水(内水)の場合、レベル4大雨危険警報(内水氾濫危険情報)が発表されたら速やかに指定の出入口に止水板または土のうを設置し、従業員等の避難が完了した後、活動時間が確保できる場合はほかの開口部にも設置する、という書き方をしています。手引きは、氾濫の原因や場所によって水が届くまでの時間が違うため、設置の時期は想定する氾濫ごとに決めることが望ましいともしています。
設置に10分かかる設備が複数あれば、準備はその分早く始める必要があります。たとえば、レベル2大雨注意報で保管場所と担当者を確かめ、レベル3大雨警報で設備を出入口の近くへ運び、レベル4大雨危険警報で設置する、というように段階を分けておくと、当日の判断が短くなります。この段階の分け方は編集部の例です。自社の設置時間と、所在地の浸水の起きやすさに合わせて決めてください。
止水板や土のうの設置は、従業員が安全に避難できる時間を残して終えることが前提です。水害ハザードマップ作成の手引きは、浸水が始まった後に移動することは大変危険だとしています。水が出入口に迫っている場合は、設置を中止して避難することを、担当者にあらかじめ伝えておきます。
設備の 一覧表を 作り、 保管場所と 点検を 決める
大規模工場等の手引きの記載例は、設備の配置図とともに、出入口ごとに「設置場所」「仕様(止水板か土のうか)」「幅」「高さ」「保管場所」「備考(数量や操作の方法)」を並べた一覧表を作ることを示しています。一覧表と配置図があれば、担当者が替わっても同じ手順で設置できます。
保管と点検については、ガイドラインが次の内容を定期的に確かめ、必要に応じて補修するよう示しています。
- 設置場所。 設置のじゃまになる物が置かれていないか。ごみやほこりがたまっていないか。
- 設備本体。 割れや反りがないか。設置後に隙間が生じないか。ハンドル類は動くか。パッキンが硬くなっていないか。
- 保管場所・スイッチ。 出し入れする扉がなめらかに動くか。施錠されているか。取り出しやすい位置にあるか。
- 土のう。 土を入れたままにすると袋の劣化が進むため、入れ替えられる場所も確保しておく。持ち運びタイプの設備は保管場所が必要で、確保できない場合はほかのタイプを選ぶ。
訓練について、ガイドラインは防災訓練や避難訓練に合わせて定期的に設置訓練を行うよう求めています。大規模工場等の手引きも、訓練や研修は年1回以上、定期的に行うことが望ましいとしています。訓練では、実際に保管場所から運んで設置し、かかった時間を一覧表に書き込みます。その時間が、気象情報のどの段階で準備を始めるかを決める根拠になります。
県内の 市の 助成と、 事業継続力強化計画への 書き方
止水板の購入や設置の費用を補助する制度は、市町村によって有無も条件も異なります。2026年9月27日に各市の公式ページで確かめたところ、事業所の建物も対象に含む制度として、次のものがありました。
| 市 | 制度 | 事業所に関わる対象 | 補助の額 | 受付 |
|---|---|---|---|---|
| 川崎市 | 簡易型止水板購入補助制度 | 工場・店舗・事務所・事業所・倉庫などの事業の用に供する建築物に設置する止水板を購入する者。止水板は市販の未使用品で、金属製・樹脂製、取り外しか移動ができ、繰り返し使え、高さ50cm以上のもの | 購入費用(消費税相当額を除く)の2分の1、上限10万円。設置工事費と配送費は対象外 | 令和8年5月25日から令和9年1月29日まで。予算に達した時点で終了 |
| 藤沢市 | 藤沢市止水板設置工事補助金 | 公共下水道等の排水区域内の住宅・共同住宅・店舗・事務所の建物を所有する者と管理組合 | 購入・設置・関連工事の費用の2分の1、1つの建物につき上限50万円 | 申請は申請日の属する年度の12月末日まで。先着順で、予算を超えると早く終了 |
| 厚木市 | 厚木市止水板設置補助金 | 過去に浸水被害が発生し、または発生するおそれがある地域の住宅・マンション・店舗・事務所等の所有者と使用者 | 補助対象経費の2分の1、上限50万円 | 受付期間の定めはページになし。着手前の申請が必要。申請の前に河川下水道総務課 河川下水道計画係(046-225-2367)に確かめる |
| 綾瀬市 | 綾瀬市止水板等設置助成金 | 過去に浸水で被害を受け、市内の建築物等を所有または使用している者 | 設置に要した費用の2分の1、1敷地につき上限50万円 | 受付期間の定めはページになし。予算の範囲内。申請の前に下水道課 整備担当(0467-70-5683)に確かめる |
各市の公式ページと交付要綱をもとに編集部作成(2026年9月27日確認)
川崎市・藤沢市・厚木市は、交付の決定を受ける前に購入・着工したものを対象外としています。綾瀬市も、要綱で申請と交付決定の手続きを定めています。藤沢市は令和8年4月1日以降に登記した建物を、綾瀬市は要綱の施行日以降に登記した建物を対象外としています。条件は年度ごとに変わることがあるため、発注の前に各市の担当課に確かめてください。※2※2このほか、厚木市は洪水浸水想定区域内の建物のうち、市と避難施設としての協定を結ぶものなどを対象に、止水板・土のう・水のう・逆流防止弁の購入や、電気設備を浸水想定階以上に移す工事などの費用の3分の1(上限1億円)を補助する制度を設けています。平塚市の簡易止水板等購入費補助金は、市内に住む個人が対象で、店舗や事務所との併用住宅は含まれますが、事業者は対象外です。
国の制度では、事業継続力強化計画の認定を受けた中小企業が、計画に従って取得した一定の設備について、取得価額の16%の特別償却を受けられる「中小企業防災・減災投資促進税制」があります。中小企業庁の実施要領(令和8年7月16日版)では、取得価額60万円以上の建物附属設備の対象設備の例に、止水板と防水シャッターが挙げられています。適用の期限や手続きは「事業継続力強化計画の認定で使える支援」で整理しています。自社の設備が対象になるかは、税理士などに確かめてください。
計画には、 設備と 手順の 両方を 書く
事業継続力強化計画の申請書では、止水板の備えを次の欄に分けて書けます(欄の構成は「事業継続力強化計画の申請書」を参照)。
- 災害の想定。 確かめたハザードマップの名称と版、所在地と出入口の想定浸水深を書きます。
- (1)対応手順の「人命の安全確保」。 止水板を設置する時期と、避難を優先して設置を中止する条件を書きます。
- (2)B欄(モノ)。 現在の取組に、設置済みの設備と一覧表・配置図があることを、今後の計画に、追加する設備や入れ替えの予定を書きます。
- (2)A欄(ヒト)。 設置の担当者と交代要員を書きます。
- (5)実効性を確保する取組。 設置訓練を行う月と、点検の時期を書きます。
一覧表・配置図・訓練の記録を計画と同じ場所に保管しておくと、毎年の見直しで高さや設置時間を確かめ直しやすくなります。