相模川の洪水浸水想定区域図には、相模原市から平塚市・茅ヶ崎市まで11の市町が関係市町村として挙げられています。酒匂川の区域図には、小田原市や足柄上郡の町など6つの市町が挙げられています。県央・湘南・県西の広い範囲の事業所にとって、確かめておく必要のある資料です。

この2つの川については、国と神奈川県が水防法にもとづく洪水浸水想定区域図を公表しています。この記事では、図がどの区間を対象に、どのような雨を前提に作られているかを整理し、事業所が自社の所在地を確かめるときの読み方をまとめます。

区間ごとに作成主体が分かれている

相模川は、河口に近い区間を国が、それより上流を県が管理しています。洪水浸水想定区域図も、区間ごとに作成主体が異なります。神奈川県は、国管理区間と県管理区間の図を重ね合わせ、最大となる区域・水深・浸水継続時間を示した参考の図面もあわせて公表しています。酒匂川は、県が下流区間と上流区間に分けて公表しています。

表1相模川・酒匂川の洪水浸水想定区域図(想定最大規模)の区間と前提
川・区間作成主体指定年月日・告示前提となる雨関係市町村
相模川 河口~神川橋(国管理区間)国土交通省 関東地方整備局 京浜河川事務所平成28年5月30日、関東地方整備局告示第219号相模川流域の48時間総雨量567mm平塚市、藤沢市、茅ヶ崎市、寒川町、大磯町
相模川 神川橋~小倉橋(県管理区間)神奈川県平成29年3月31日、神奈川県告示第170号相模川流域の48時間総雨量567mm相模原市、平塚市、藤沢市、茅ヶ崎市、厚木市、伊勢原市、海老名市、座間市、寒川町、大磯町、愛川町
相模川 小倉橋~山梨県境(県管理区間)神奈川県令和7年1月10日、神奈川県告示第12号―相模原市
酒匂川 河口~足柄橋神奈川県平成29年3月31日、神奈川県告示第172号酒匂川流域の日総雨量530mm小田原市、南足柄市、松田町、大井町、開成町、山北町
酒匂川 足柄橋~静岡県境神奈川県令和4年8月5日、神奈川県告示第338号―山北町

神奈川県「河川の氾濫による洪水浸水想定区域図」、同県の各区域図、京浜河川事務所「相模川の洪水浸水想定区域図(想定最大規模)」をもとに編集部作成

※1※1表1の「―」は、この記事の作成時に図面から前提の雨を読み取れなかった区間です。所在地がこの区間に近い場合は、県の公表ページから該当する図面を開き、説明文の「基本事項等」で確かめてください。

神奈川県は、相模川の県管理区間の家屋倒壊等氾濫想定区域(氾濫流)の図面を令和7年12月25日に修正しています。以前に図面を保存した事業所は、県のページで最新の図面に差し替えておきます。

また、相模川と酒匂川は、どちらも気象庁の指定河川洪水予報の対象です。気象庁の一覧(令和8年5月29日現在)では、相模川下流(京浜河川事務所と横浜地方気象台)、相模川中流(神奈川県と横浜地方気象台)、酒匂川(神奈川県と横浜地方気象台)の3つの河川予報区が挙げられています。

前提となる雨と、図に含まれていないもの

想定最大規模の図は、相模川では流域の48時間総雨量567mm、酒匂川では流域の日総雨量530mmの雨を前提にしています。神奈川県のQ&Aは、この「想定し得る最大規模の降雨」を、日本を降雨の特性が似ている15の地域に分け、それぞれの地域で過去に観測された最大の降雨量によって設定したものと説明しています。

一方で、図に含まれていないものもあります。各図面の説明文は、支川の決壊による氾濫、前提を超える規模の雨による氾濫、高潮や内水による氾濫などを考慮していないため、区域に指定されていない場所でも浸水することや、実際の浸水深が想定と異なることがあると明記しています。

事業所の所在地が相模川・酒匂川の区域から外れていても、次の点は別に確かめる必要があります。

  • 近くの支川の洪水浸水想定区域図(相模川水系では中津川・小鮎川・目久尻川・鳩川など、酒匂川水系では狩川・川音川など、県が川ごとに公表しています)
  • 市町村の内水ハザードマップ
  • 沿岸部では、高潮の浸水想定
※2※2神奈川県のQ&Aは、想定最大規模の図とは別に「河川整備の目標とする降雨」(計画規模)の図も公表している理由について、企業等が発生確率に応じた適切な対応を検討するには、比較的発生頻度の高い雨による浸水想定区域を示す必要があるためと説明しています。

3種類の図を、事業所の判断に対応させる

県と国は、平成28年以降の図として、想定最大規模の浸水区域のほかに、計画規模の浸水区域、浸水継続時間、家屋倒壊等氾濫想定区域(氾濫流・河岸侵食)の図を公表しています。事業所にとっては、図ごとに答えてくれる問いが異なります。

表2区域図の種類と、事業所が確かめること
図の種類図が示すもの事業所が確かめること
洪水浸水想定区域(想定最大規模)浸水した場合に想定される水深を、0.5m未満、0.5m~3.0m未満、3.0m~5.0m未満、5.0m~10.0m未満などの区分で表示1階の床、受変電設備、在庫、車両の高さと比べて、どの資産が水につかるか
浸水継続時間浸水深が0.5mに達してから、その水深を下回るまでの時間事業所が孤立する時間の長さ。社内にとどまる判断ができるか、備蓄が足りるか
家屋倒壊等氾濫想定区域(氾濫流・河岸侵食)近くの堤防が決壊した場合などに、一般的な建築物が倒壊・流出する危険性が高い区域建物の中にとどまる選択肢をとれない場所かどうか
洪水浸水想定区域(計画規模)河川整備の目標とする、比較的発生頻度の高い雨による浸水頻度の高い雨でも浸水する場所かどうか

神奈川県「洪水浸水想定区域図に関するQ&A」、同県の各区域図をもとに編集部作成

浸水継続時間について、神奈川県のQ&Aは、屋外への避難が困難となり孤立する可能性のある浸水深0.5mに達してから、その水深を下回るまでにかかる時間を示すものと説明しています。継続時間が長い地域では、ライフラインの途絶などで建物内にとどまり続けることが難しくなるおそれがあるとしています。酒匂川の浸水継続時間の図では、12時間、24時間(1日間)、72時間(3日間)などの区切りで色分けされています。

家屋倒壊等氾濫想定区域については、Q&Aは、この区域では建物内での待避ではなく、避難所などへの立ち退き避難の必要性を判断することが求められるとしています。一方で、区域の外であることをもって家屋の倒壊などの可能性が否定されるものではない、とも明記しています。

重要度 高

事業所が家屋倒壊等氾濫想定区域の中にある場合は、「社屋の上の階に移れば安全」という前提で初動の手順を組まないでください。従業員をいつ、どこへ移すかを、事業所の外の場所を含めて決めておきます。

自社の所在地を確かめる手順

  1. 所在地に関係する図を選ぶ。 表1で所在地の市町村が関係する区間を確かめ、神奈川県の「河川の氾濫による洪水浸水想定区域図」のページから、想定最大規模・浸水継続時間・家屋倒壊等氾濫想定区域の図面を開きます。相模川の中流から下流にかけての事業所は、国管理区間と県管理区間を重ねた参考図が便利です。
  2. 浸水深の区分を読み取る。 建物の位置だけでなく、敷地の出入口や前面道路の区分も記録します。
  3. 浸水継続時間を読み取る。 事業所が孤立する時間の目安として記録し、備蓄や社内にとどまる人数の検討に使います。
  4. 家屋倒壊等氾濫想定区域に入っていないかを確かめる。 入っている場合は、上の注意に沿って初動の手順を見直します。
  5. 支川と内水の図も確かめる。 近くの支川の区域図と、市町村の内水ハザードマップを同じ手順で読みます。
  6. 確かめた日と図の版を記録する。 図面の指定年月日や修正の日付をあわせて書き留め、図が修正されたときに見直せるようにします。

所在地を入力して洪水の浸水深などをまとめて確かめたい場合は、拠点リスク確認も使えます。座間市と海老名市については、市のページ(座間市・海老名市)で相模川の想定と市の資料を整理しています。

法律で計画の作成を求められる事業所

洪水浸水想定区域が指定されると、市町村防災会議は、水防法第15条にもとづき、区域内にある要配慮者利用施設や、条例で定める用途・規模に当たる大規模工場等の名称と所在地を、市町村地域防災計画に定めることになっています(大規模工場等は、所有者または管理者からの申出があった場合に限ります)。

計画に名称と所在地が載った施設には、次の決まりがあります。

  • 要配慮者利用施設(社会福祉施設、学校、医療施設など):所有者または管理者は、利用者の円滑かつ迅速な避難の確保を図るための計画を作成し、市町村長に報告しなければなりません。計画にもとづいて避難の訓練を行い、その結果も市町村長に報告しなければならないとされています(水防法第15条の3)。
  • 大規模工場等:所有者または管理者は、浸水の防止のための計画の作成、訓練の実施、自衛水防組織の設置に努めなければならないとされています(水防法第15条の4)。

介護施設などを運営する事業者は、自社の施設が市町村の地域防災計画に載っているかを、市町村の防災担当の窓口で確かめておきます。ここで作る避難の計画は、BCPの初動の部分とも重なるため、あわせて整えると手間を減らせます。