大雨の予報が出た日の朝、「今日は出社させるか」「何時に帰宅させるか」を、その場の相談で決めている事業所は少なくありません。判断が遅れると、従業員が帰宅途中で冠水した道路や増水した川に行き当たるおそれがあります。反対に、基準がないまま早めの帰宅を指示すると、部署ごとに対応がばらつきます。

判断の物差しとして使いやすいのが、気象庁が発表する防災気象情報です。気象庁は令和8年5月29日から新しい防災気象情報の運用を始め、情報の名称に警戒レベルの数字を付けて発表するようになりました。この記事では、新しい名称を確認したうえで、出社・帰宅の判断を社内ルールにする手順を整理します。

令和8年5月29日から、情報名称にレベルの数字が付いた

気象庁は、令和6年6月に取りまとめられた「防災気象情報に関する検討会」の提言を踏まえ、令和8年5月29日から新しい防災気象情報の運用を始めました。河川氾濫・大雨・土砂災害・高潮に関する情報は、避難情報の5段階の警戒レベルに対応する形に整理されています。気象庁は例として、これまでの大雨警報が「レベル3大雨警報」という名称に変わったと説明しています。

大雨で社内の判断に関わる情報は、次のように整理されています。

表1大雨に関係する新しい防災気象情報と警戒レベル
警戒レベル大雨に関する情報土砂災害に関する情報キキクルの色
5相当レベル5大雨特別警報レベル5土砂災害特別警報災害切迫(黒)
4相当レベル4大雨危険警報レベル4土砂災害危険警報危険(紫)
3相当レベル3大雨警報レベル3土砂災害警報警戒(赤)
2レベル2大雨注意報レベル2土砂災害注意報注意(黄)は2相当
1早期注意情報早期注意情報―

気象庁「新たな防災気象情報について(令和8年~)」、同「防災気象情報と警戒レベルとの対応について」、国土交通省・気象庁「河川氾濫・大雨に関する情報の改善」「土砂災害に関する情報の改善」をもとに編集部作成

「大雨に関する情報」は、低い土地の浸水(内水氾濫)と、大きな河川以外の中小河川の氾濫をあわせて扱います。これまでの市町村ごとの洪水警報・注意報は、この大雨に関する情報に統合されました。1級河川などの大きな河川については、河川ごとに「レベル4氾濫危険警報」などの河川氾濫に関する情報が発表されます。土砂災害については、これまでの土砂災害警戒情報が「レベル4土砂災害危険警報」という名称で発表されるようになりました。

※1※1社内の規程や手順書に「大雨警報」「洪水警報」「土砂災害警戒情報」と書いている場合は、新しい名称に合わせて書き直しておくと、当日の連絡で迷いが生じにくくなります。

前日から当日までに確認できる情報

出社の判断は前日の夕方から、帰宅の判断は当日の昼前後から考え始めることになります。それぞれの時点で確認できる情報を、発表の時刻とあわせて把握しておきます。

  • 早期注意情報(警戒レベル1):5日先までの警報級の現象の可能性を[高][中]の2段階で示します。毎日5時・11時・17時の天気予報にあわせて、1日3回発表されます。大雨・土砂災害で[高]や[中]が出ている場合は、レベル3以上の情報が発表されるような現象が起きる可能性があるとされています。
  • 時系列情報(明日までの警報等の見通し):市町村ごとに、明日までにレベル3やレベル4などの情報の発表が見込まれるかを示します。毎日5時・11時・17時・23時の1日4回発表され、見通しが大きく変わった場合は臨時に修正されます。
  • キキクル:大雨・河川氾濫・土砂災害の各レベルの情報のもとになっている危険度を、地図の色で示します。大雨キキクルは、洪水キキクルと浸水キキクルを切り替えて表示できます。
  • 気象防災速報:記録的な大雨や線状降水帯の発生など、極端な現象を速報的に伝える情報です。これまでの記録的短時間大雨情報は「気象防災速報(記録的短時間大雨)」として発表されます。

気象庁は、時系列情報を「明日までの行動計画や防災体制等の検討」に活用するよう案内しています。前日17時の早期注意情報と時系列情報を見て翌日の体制を仮に決め、当日5時の発表で確定する、という流れにすると、判断の時刻がそろいます。

注意

気象庁は、土砂災害に関する情報について、状況が急に変わる場合には、レベル3土砂災害警報を経ずにレベル2土砂災害注意報からレベル4土砂災害危険警報が発表される場合もあるとしています。社内の基準を「レベル3が出てから準備を始める」だけにせず、時系列情報や早期注意情報で先の見通しを確かめる段階を入れておきます。

社内ルールを決める手順

ルールづくりは、総務やBCPの担当者が原案を作り、各部署の責任者と確認する形で進められます。

  1. 事業所と通勤経路の想定を確かめる。 事業所の所在地と、従業員の主な通勤経路が、浸水想定区域や土砂災害警戒区域に入っているかを確かめます。所在地の想定は拠点リスク確認でも一覧できます。
  2. 判断する人と代わりの人を決める。 出社・帰宅の判断を誰が出すかを決め、その人が不在のときの代わりも決めておきます。
  3. 確認する地域の単位を決める。 大雨に関する情報や土砂災害に関する情報は、市町村ごとに発表されます。事業所の所在地の市町村に加えて、従業員の多くが住む市町村や、通勤で通る地域も確認の対象に入れます。
  4. 情報ごとの対応を表にする。 次の表2のように、どの情報が出たら何をするかを1枚にまとめます。
  5. 連絡の手段と時刻を決める。 前日の何時までに翌日の体制を知らせるか、当日の何時に確定するかを決め、連絡に使う手段を決めます。
  6. 大雨の季節の前に見直す。 情報の名称や発表の仕方は変わることがあります。年に1回は、気象庁の公表資料と照らして表を見直します。
表2出社・帰宅の判断の基準表(例)
確認する時点・情報社内の対応の例
前日17時の早期注意情報で、翌日の大雨・土砂災害が[高]または[中]翌日の在宅勤務・時差出勤・出社見合わせの候補者を確認し、仮の体制を知らせる
当日5時の時系列情報で、日中にレベル3以上が見込まれる仮の体制を確定する。外出・訪問の予定を見直す
勤務中にレベル3大雨警報・レベル3土砂災害警報危険な区域を通って帰る従業員から、帰宅を前倒しする。キキクルで通勤経路の危険度を確かめる
勤務中にレベル4大雨危険警報・レベル4土砂災害危険警報危険な区域を通る移動は始めさせない。事業所が安全な場所にある場合は、社内にとどまる
レベル5の情報、または気象防災速報(記録的短時間大雨)移動中の従業員は、近くの頑丈な建物に入り、会社に連絡する

情報の名称・発表時刻は気象庁の公表資料による。社内の対応は編集部が作成した例

表2は一例です。事業所自体が浸水想定区域や土砂災害警戒区域の中にある場合は、「社内にとどまる」ことが安全とは限りません。立地に応じて、どの段階で事業所の外へ移るかも決めておきます。

帰宅させるか、とどまらせるかの考え方

気象庁は、警戒レベル4や3に相当する防災気象情報が発表されたときは、市町村から避難指示などが出ていなくても、キキクルや川の水位の情報を使って自ら避難の判断をするよう呼びかけています。レベル5の情報については、すでに災害が起きている可能性が極めて高い状況であり、その前のレベル4までの段階で避難行動をとるよう求めています。

これを出社・帰宅の判断に当てはめると、帰宅の指示はレベル3の段階までに出し、レベル4の段階では危険な場所を通る移動を始めさせない、という順序になります。また気象庁は、避難にあたっては指定された避難場所にこだわらず、川や崖から少しでも離れた近くの頑丈な建物の上層階に移るなど、その時点で最善の安全確保行動をとることが重要だとしています。帰宅の途中で危険を感じた従業員が、無理に帰らずに近くの建物に入ってよいことも、ルールに明記しておきます。

労働契約法第5条は、使用者は、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとすると定めています。大雨の日の出社・帰宅のルールは、この配慮を具体的な手順として示すものでもあります。決めたルールは、BCPの初動の手順とあわせて従業員に配り、大雨の季節の前に読み合わせておくと、当日の判断が短くなります。