台風は、地震と違って、来る前に時間があります。暴風警戒域や早期注意情報を合図に判断を始め、前日までに屋外の物を片付け、翌日の出社・帰宅を決めて知らせます。この時間を使えるかは、「いつ・誰が・何を決めるか」が前もって決まっているかにかかっています。
- 判断を始める合図と、決める担当・時刻を決める(1章)
- 強風域に入る前に、屋外の物を固定するか屋内に入れる(2章。表1)
- 計画運休を前提に、翌日と再開の日の出社を前日に知らせる(3章)
気象庁は、台風の進路を5日先まで予報しています。鉄道会社は、大型の台風が近づくと、前もって知らせたうえで列車を止める「計画運休」を行います。沿岸の事業所の高波と高潮は4章、前日までの手順は5章にまとめています。
暴風警戒域と 早期注意情報を 合図に、 判断を 始める
気象庁の台風の進路予報は、5日(120時間)先まで発表されます。5日先までの予報は6時間ごと、1日先までの予報は3時間ごとに更新されます。
予報円とあわせて示される「暴風警戒域」は、台風の中心が予報円の中に進んだ場合に、5日先までに暴風域に入るおそれのある範囲全体です。
- 進路予報
- 5日先まで
- 5日先までは6時間ごと、1日先までは3時間ごとに更新
- 強風域
- 15m/s以上
- 10分間平均の風速
- 暴風域
- 25m/s以上
- 10分間平均の風速
- 瞬間風速
- 1.5倍程度
- 平均風速に対して。大気の状態が不安定なときは3倍以上になることもある
気象庁「台風情報の種類と表現方法」、「風の強さと吹き方」をもとに編集部作成
もう一つの手がかりが、「早期注意情報(警報級の可能性)」です。5日先までの大雨・風・波・潮位などについて、警報を出す可能性を「高」「中」の2段階で示します。発表の時刻は次のとおりです。
- 3〜5日先の分:毎日11時と17時
- 明後日までの分:毎日5時・11時・17時
情報と 行動を 結び 付けて おく
社内の判断は、この二つを起点に決めておくと迷いません。たとえば、次のように情報と行動を結び付けます。
- 所在地が暴風警戒域に入ったら、翌日以降の予定の見直しを始める
- 早期注意情報で風の警報級の可能性が「高」になったら、前日の手順(5章の5つ)に入る
どの段階で何をするかを、時間の順に表にしておきます。担当者が替わっても、同じように動けます。
強風域に 入る 前に、 屋外の 物を 固定するか 屋内に 入れる
気象庁の「風の強さと吹き方」は、平均風速ごとに、人や屋外、建物に起きることの目安をまとめています。事業所の屋外の設備に関わるところを抜き出すと、次のとおりです。
| 風の強さ(予報用語) | 平均風速 | 屋外・建造物で起きること |
|---|---|---|
| 強い風 | 15〜20m/s | 看板やトタン板が外れ始める。屋根瓦・屋根葺材がはがれるものがある。雨戸やシャッターが揺れる。高所での作業はきわめて危険 |
| 非常に強い風 | 20〜25m/s | 看板が落下・飛散する。固定されていないプレハブ小屋が移動、転倒する。屋根瓦・屋根葺材が飛散するものがある。飛来物によって負傷するおそれがある |
| 非常に強い風 | 25〜30m/s | 固定の不十分な金属屋根の葺材がめくれる。養生の不十分な仮設足場が崩落する |
| 猛烈な風 | 30m/s以上 | 屋外での行動は極めて危険。走行中のトラックが横転する。35m/s以上では、ブロック壁で倒壊するものや、外装材が広範囲にわたって飛散し下地材が露出するものがある |
気象庁「風の強さと吹き方」から編集部が抜粋
表の風速は、10分間の平均です。瞬間風速は、平均風速の1.5倍程度になることが多く、大気の状態が不安定な場合などは3倍以上になることがあります(気象庁)。風速は地形や周りの建物の影響を受けるので、その場所の風は、近くの観測所の値と大きく違うことがあります。
強風域 (平均15m/s以上)に 入る 前に 確かめる もの
- 看板・のぼり・案内表示、屋外に置いた資材・パレット・台車・ごみ容器
- プレハブの倉庫や仮設の建物、仮設足場の養生(建設現場と資材置場は、末尾の「あわせて読む」も参照)
- 屋上や外壁の設備(室外機、アンテナ、外付けの配管の固定)
- シャッターと窓(閉めておく。飛来物が当たりそうな窓の近くに、物や人を置かない)
飛ばされやすい物は、屋内に入れるか、固定するかのどちらかに決めておきます。屋内に入れる場所も、前もって決めます。決まっていないと、前日の限られた時間では片付けきれないことがあります。
計画運休を 前提に、 翌日の 出社・帰宅を 前日に 知らせる
大型の台風などが近づくときは、路線の特性に応じて計画運休が必要と考えられています。列車が駅と駅の間で止まることや、駅での混乱を防ぐためです(国土交通省「鉄道の計画運休の実施についての取りまとめ」)。
鉄道会社は、計画運休の可能性を前もって知らせます。実施する場合は、時刻などをできる限り具体的に知らせることとされています。国土交通省が示した情報提供のモデルケースでは、計画運休の開始の48時間前や24時間前を例に、段階を追って知らせる流れが描かれています。
運転再開の 日は、 駅が 混む
事業所にとって特に注意が要るのは、運転再開のときです。運転再開時は、利用者が駅に集中する一方で、列車の本数が十分ではありません。このため、入場規制などの混乱が起きることを、取りまとめは想定しています。
令和元年の台風第15号のあとの運転再開では、実際に駅で入場規制などの混乱が起きました(国土交通省)。国土交通省は、時差通勤やテレワークなど、利用する側で移動を減らす取り組みも必要だとして、企業に協力を求めています。
基準と 連絡の 手段を、 前もって 決めて おく
国土交通省が紹介した調査(県立広島大学・東京大学)では、台風や地震のときの通勤について、いちばん多い回答は次のものでした。
- 「事前に定められていないし、連絡が来るかどうかも決まっていない」
- 40.3%
- 回答のなかでいちばん多い
国土交通省が紹介した調査(県立広島大学・東京大学)による
同じ資料で紹介された企業の例には、次のようなものがあります。
- 計画運休の発表を受けて、翌日午前の自宅待機を決め、安否確認のシステムで全従業員に知らせた
- 日頃からテレワークに慣れておき、当日は各自がパソコンを持ち帰るだけで業務を続けた
- 台風が上陸する2〜3日前から、社内のホームページで、テレワークや時差出勤を使って早めの退社や無理な出社を避けるよう呼びかけた
- 育児中の従業員などには、計画運休とは別に、暴風警報が出た時点で帰宅を指示した
どの例も、判断の基準と連絡の手段が前もって決まっていました。
沿岸の 事業所は、 高波と 高潮も 確かめる
台風は、風と雨のほかに、高波や高潮も起こします。令和元年の台風第15号では、横浜市金沢区の福浦・幸浦地区で、高波により護岸の上部が倒壊しました。護岸の背後の舗装の陥没や、金沢工業団地の道路の状況が、横浜市港湾局の資料に記録されています。
その後、同じ年の台風第19号では、土のうで浸水を防ぎました。その実績も踏まえて、市は護岸の背後に防潮堤を整備しました。
沿岸に事業所や倉庫がある場合は、高潮の浸水の想定を確かめておきます。使うのは、市区町村の高潮のハザードマップと、当サイトの拠点リスク確認です。横浜市金沢区の想定は、金沢区のページにまとめています。
前日までに 済ませる 5つの こと (編集部の 提案)
ここまでの内容を、前日までの手順として並べます。毎年、台風の時期の前に見直しておくと、当日の判断が短くなります。
- 判断の担当と時刻を決める。 暴風警戒域や早期注意情報を誰が見て、何時に翌日の対応を決めるかを決めておく。決めた内容を知らせる時刻(たとえば前日の15時)も決めると、従業員が帰宅の予定を立てやすい。
- 屋外の物を固定するか、屋内に入れる。 表1の「強い風」(平均15m/s)で看板やトタン板が外れ始めることを目安に、強風域に入る前に終える。屋内に入れる場所も決めておく。
- 窓と出入口を閉める。 シャッター・窓を閉め、飛来物が当たりそうな窓の近くから物と人を離す。浸水の想定がある出入口は、止水板や土のうの準備も同じ日にする。
- 翌日の出社・帰宅・テレワークを知らせる。 計画運休の発表を受けて、翌日の勤務の扱い(自宅待機・テレワーク・時差出勤)と、取引先への連絡を決める。
- 再開の日の動きも決めておく。 運転再開の直後は駅が混むことを前提に、再開の日の出社の時間をずらすか、テレワークを続けるかを前日のうちに決める。
大雨のときは、低い道路が通行止めになることもあります。藤沢市の湘南台の地下道の脇には、道路管理者の柵と土のうが置かれていました(写真1)。通勤や配送の経路に低い道路がある場合は、前日のうちに別の経路も伝えておきます。

湘南台第二地下道(土棚石川線)の脇
写真:株式会社キール(防災経営)
台風の前日は、準備と通常の業務が重なり、時間が足りなくなりがちです。事業所の所在地で想定される浸水や土砂災害は、拠点リスク確認でまとめて確かめられます。
あわせて 読む
- 出社・帰宅の基準の作り方:「大雨の日の出社・帰宅の判断」
- 従業員への連絡の手段:「安否確認の方法と訓練」
- 出入口からの浸水を防ぐ設備:「止水板と浸水防止の備え」
- 建設現場:「建設現場の作業中止と再開の判断」
- 資材置場:「資材置場と重機の台風・大雨への備え」