道路工事や建設現場の出入口で車両や歩行者を誘導する交通誘導警備員は、天候にかかわらず屋外に立ち続ける仕事です。夏の午後に積乱雲が発達すると、短い時間に強い雨が降り、雷が近づきます。そのとき、警備員が自分の判断で持ち場を離れることは難しく、施工者の側も「誘導を止めると工事が止まる」と考えて判断が遅れがちです。
この記事では、気象庁が公表している雷と大雨の情報の使い方を確かめたうえで、施工者と警備会社が、交通誘導をいつ中止し、いつ再開するかの基準を事前に決める手順を整理します。
中止を 決める 人と、 書いておく 場所
警備員等の検定等に関する規則は、交通誘導警備業務を、工事現場その他人や車両の通行に危険のある場所で、負傷等の事故の発生を警戒し防止する業務のうち、交通の誘導に係るものとしています。工事現場の交通誘導は、施工者(元請など)が警備会社に依頼して行われるのが一般的です。
中止の判断を事前に書いておく場所は、次の二つです。
- 施工者の施工計画:国土交通省の建設工事公衆災害防止対策要綱は、施工者は工事着手前の施工計画立案時に、強風、豪雨、豪雪時における作業中止の基準を定めるとともに、中止時の仮設構造物、建設機械、資材等の具体的な措置を定めておかなければならないとしています。工事を止めるときに交通誘導をどうするかも、この基準の一部として決めておくと、施工者と警備員の判断がそろいます。
- 警備の契約の書面:警備業法施行規則第33条は、交通誘導などの警備業務の契約の概要に、警備業務を行う場所と、その場所における負傷等の事故発生時の措置を記載することを求めています。悪天候時の中止の条件と、中止したときの警備員の待機場所も、この書面の特約などで取り決めておけます。
労働安全衛生規則の悪天候時の作業禁止(第522条など)は、高さが2メートル以上の箇所での作業などが対象で、地上での交通誘導そのものを直接の対象にした条文ではありません。ただし、鳥取労働局の資料が引く昭和46年の解釈例規では、「強風、大雨、大雪等の悪天候のため」には、実際に悪天候になった場合のほか、気象注意報や気象警報が発表されて悪天候となることが予想される場合も含むとされています。工事全体を止める判断と、交通誘導を止める判断を、同じ情報にもとづいて行うようにしておくと、現場で食い違いが起きにくくなります。
雷は 「音が 聞こえたら」では 遅い
気象庁は、雷の激しさや雷の可能性を1キロメートル格子単位で解析し、1時間先までを予測する「雷ナウキャスト」を10分ごとに更新して提供しています。雷の状況は活動度1から4で表されます。
| 活動度 | 雷の状況 | 屋外で想定される対応 |
|---|---|---|
| 4 激しい雷 | 落雷が多数発生している | 落雷の危険があるため、建物や車の中へ移動するなど、安全確保に努める |
| 3 やや激しい雷 | 落雷がある | 同上 |
| 2 雷あり | 電光が見えたり雷鳴が聞こえる。落雷の可能性が高くなっている | 同上 |
| 1 雷可能性あり | 現在、雷は発生していないが、今後落雷の可能性がある | 今後の雷ナウキャストや空の状況に注意する |
気象庁「雷ナウキャストの見方」をもとに編集部作成
気象庁は、活動度2以上は落雷の危険が迫っている状況で、直ちに身の安全を確保する行動をとる必要があるとしています。特に活動度2は、雷がまだ活発に感じられないか、落雷の直前という段階で、気を許しがちになるものの、この段階で行動することが被害の軽減に大切だとしています。また、安全の確保に時間がかかる場合は、活動度1の段階から行動することが被害の防止につながるとしています。
交通誘導では、誘導を止めて車両の通行を安全な状態にしてから退避するまでに時間がかかります。このため、現場の基準は「活動度1で準備を始め、活動度2で退避する」のように、早めに置いておくのが現実的です。活動度が出ていない地域でも、積乱雲が急に発達して落雷する場合があることも、気象庁は注記しています。
退避する先について、気象庁は次のように示しています。
- 鉄筋コンクリート建築、自動車(オープンカーは不可)、バス、列車の内部は比較的安全な空間
- 近くに安全な空間がない場合は、電柱、煙突、鉄塔、建築物などの高い物体のてっぺんを45度以上の角度で見上げる範囲で、その物体から4メートル以上離れたところ(保護範囲)に退避する
- 高い木の近くは危険で、最低でも木のすべての幹、枝、葉から2メートル以上離れる
- 姿勢を低くし、持ち物は体より高く突き出さない
- 雷の活動がやみ、20分以上たってから安全な空間へ移動する
誘導灯や旗を高く掲げたまま立ち続けることは、この目安に反します。現場ごとに、警備員が退避できる車両や建物をあらかじめ決めておくことが、基準を実際に使えるものにします。
雷鳴が聞こえるなど雷雲が近づく様子があるときは、気象庁は落雷が差し迫っているとしています。車両の誘導の途中であっても、交通を止めて安全な空間へ退避することを、施工者と警備会社の共通の決まりにしてください。
大雨の 情報は、 令和8年5月から 名称が 変わっている
気象庁は令和8年5月29日から、新しい防災気象情報の運用を始めています。大雨に関する情報は、警戒レベルの数字を名称に付けて「レベル2大雨注意報」「レベル3大雨警報」「レベル4大雨危険警報」「レベル5大雨特別警報」として発表されます。気象庁と国土交通省の資料では、令和8年度の出水期から、これまでの記録的短時間大雨情報は「気象防災速報(記録的短時間大雨)」に、顕著な大雨に関する気象情報は「気象防災速報(線状降水帯発生)」になるとされています。
一方で、雷注意報や強風注意報など、警戒レベルに相当しない注意報・警報は、これまでと変わらないとされています。社内の基準に古い名称が残っている場合は、書き換えておきます。新しい名称を使った社内ルールの作り方は「大雨の日の出社・帰宅の判断」でも取り上げています。
交通誘導の現場で使いやすい情報を、発表のタイミングの順に並べると次のようになります。
- 天気予報と雷注意報:各地の気象台は毎日5時、11時、17時に天気予報を発表し、雷の危険がある場合は雷注意報を随時発表します。気象庁は、予報に「雷を伴う」「大気の状態が不安定」などの言葉があれば天気の急変に備える必要があるとしています。
- ナウキャスト:降水・雷・竜巻の状況を1時間先まで予測した分布図で、5分または10分ごとに更新されます。
- キキクル:大雨に関する情報が発表されたときに、危険度が高まっている地域を地図で確かめられます。
- 気象防災速報:記録的短時間大雨や線状降水帯の発生など、極端な現象を速報的に伝えます。
気象庁は、単独の積乱雲による激しい現象は30分から1時間程度で弱まることが多いため、ナウキャストで状況を確認しながら安全な場所で積乱雲が過ぎ去るのを待つよう呼びかけています。短い中断で済むことが多いという見通しを施工者と共有しておくと、中止の判断をためらう理由が一つ減ります。
中止と 再開の 基準を 作る 手順
気象情報と現場の対応を結びつけた基準は、施工者と警備会社が一緒に作ります。次の手順で進めると、現場ごとの事情を反映できます。
- 現場の条件を書き出す。 誘導する場所の数、警備員が退避できる車両や建物までの距離、冠水しやすい低い道路が近くにあるかを確かめます。冠水のおそれがある場所は市町村のハザードマップや拠点リスク確認でも調べられます。
- 情報と対応を表にする。 表2のように、気象情報ごとに「準備」「中止・退避」「再開」の対応を決めます。
- 判断する人を決める。 中止を決めるのは施工者の現場責任者とし、責任者と連絡が取れない場合は、警備員の隊長が退避を先に行ってよいことを明記します。
- 連絡の方法を決める。 雷ナウキャストを確認する担当と、警備員への伝え方(無線、電話など)を決めます。
- 契約と計画に書き込む。 決めた内容を施工計画の中止基準と、警備の契約の書面の特約に同じ内容で記載します。
| 情報 | 現場の対応の例 |
|---|---|
| 天気予報に「雷を伴う」「大気の状態が不安定」、雷注意報の発表 | 雷ナウキャストの確認担当を置く。退避先の車両・建物を全員に伝える |
| 雷ナウキャスト 活動度1 | 誘導を止める段取りを確認し、交代要員に待機を指示する |
| 雷ナウキャスト 活動度2以上、雷鳴・電光 | 交通を止め、警備員は安全な空間へ退避する |
| レベル3大雨警報、気象防災速報(記録的短時間大雨) | 冠水しやすい場所の誘導を中止し、低い場所から離れる |
| 雷の活動がやみ20分以上経過、ナウキャストで雨雲の通過を確認 | 施工者の責任者が再開を決め、警備員に伝える |
情報の名称と気象庁の示す行動の目安は気象庁の公表資料による。各段階の対応は編集部が作成した例
表2はあくまで例です。高速自動車国道や自動車専用道路での交通誘導と、道路や交通の状況から公安委員会が道路における危険を防止するため必要と認める交通誘導では、警備員等の検定等に関する規則により、交通誘導警備業務に係る1級または2級の検定合格警備員を、交通誘導警備業務を行う場所ごとに1人以上配置することが求められています。神奈川県警察のページ(2025年9月24日更新)には、配置が必要な路線として、一般国道・県道・横浜市道・川崎市道の計32路線と、東名高速などの高速自動車国道、小田原厚木道路や首都高速道路などの自動車専用道路が挙げられており、配置路線では歩道なども配置が必要とされています。こうした路線で中止後に誘導を再開するときも、配置の基準を満たしているかを確かめてから始めます。
中止の基準は、使われなければ意味がありません。基準を決めたら、朝礼で雷ナウキャストの見方と退避先を確認し、雷の季節の前に一度、実際に誘導を止めて退避するまでの時間を測っておくと、基準の段階が現場の実情に合っているかを確かめられます。