2019年の台風19号(令和元年東日本台風)では、神奈川県内で9人が亡くなり、事業所にも大きな被害が出ました。土砂災害は、警戒区域に指定されていない場所でも起きました。相模原市では、建物がこわれた被害だけでなく、停電や断水で操業が止まった被害も数えられています。
- 所在地の内水と土砂災害の想定を確かめ、区域の外でも裏の斜面や前の道路を見る(7章)
- 地下や1階にある電気の設備と、停電・断水で止まる業務を確かめる(7章。相模原市の事業者の被害は4章)
- 計画運休のときの出社の決まりと、ダムや樋管の情報の受け取り先を決める(7章)
2019年10月12日の夜、川崎市の武蔵小杉駅の周りが浸水しました。相模川の城山ダムは、初めての緊急放流をしました。箱根町では、1日に922.5ミリの雨が降りました。
いま働いている人が覚えている最近の災害は、事業所が実際の判断の参考にしやすい災害です。この記事では、県・国・市の公表資料から、県内の自治体ごとに何が起きたかを整理します。そのうえで、市や県が進めた対策が、2026年10月の時点でどこまで終わっているかを確かめます。
被害の数字は、資料によって集計した時点と数え方が違います。この記事では、数字ごとに「どの資料の、いつの時点か」を書きます。別の資料の数字を混ぜて足し合わせることはしていません。
県内に 降った 雨と、 初めての 大雨特別警報
箱根町では、10月12日の1日の雨量が922.5ミリになりました。気象庁の観測史上、日降水量の全国1位の記録です。降り始めの10日19時から12日24時までの総降水量は1,001.5ミリでした。
雨は、県西部と相模川の上流に集中しました。気象庁は10月12日15時30分、神奈川県で初めてとなる大雨特別警報を出しました。対象は最初の6市町から夜にかけて広がり、最終的に13市町村になりました。13日0時20分に大雨警報へ切り替わっています。
| 地点 | 期間の合計 | 10月12日の日降水量 |
|---|---|---|
| 箱根(箱根町) | 1,001.5ミリ | 922.5ミリ(全国の歴代1位) |
| 相模湖(相模原市緑区) | 631.0ミリ | 595.0ミリ(この地点の観測史上1位) |
| 丹沢湖(山北町) | 542.0ミリ | 518.0ミリ(同) |
| 相模原中央(相模原市中央区) | 390.5ミリ | 361.5ミリ(同) |
| 小田原 | 254.0ミリ | 240.0ミリ(同) |
| 横浜(気象台) | 221.0ミリ | 192.5ミリ |
横浜地方気象台「令和元年 台風第19号に関する神奈川県気象速報」p.9・14〜16、気象庁「令和元年東日本台風(台風第19号)による大雨、暴風等(速報)」をもとに編集部作成。速報値
| 時刻 | 新たに対象になった市町村 |
|---|---|
| 15時30分 | 相模原市、小田原市、厚木市、箱根町、湯河原町、愛川町 |
| 19時07分 | 秦野市、南足柄市、清川村 |
| 20時50分 | 伊勢原市、大井町、松田町、山北町 |
| 13日0時20分 | 大雨警報に切り替え |
横浜地方気象台「令和元年 台風第19号に関する神奈川県気象速報」p.19〜20の警報の表をもとに編集部作成
風と潮位も記録を超えました。横浜では12日20時32分に最大瞬間風速43.8メートルを観測し、10月の記録を更新しました。小田原では12日16時11分に潮位が172センチに達し、それまでの最高(123センチ)を超えています。
県内の 被害と、 災害救助法が 適用された 19市町村
神奈川県の被害は、次のとおりです(消防庁のまとめ、第67報、令和2年10月13日)。
| 区分 | 数 |
|---|---|
| 死者 | 9人(川崎市1人、相模原市8人) |
| 重傷・軽傷 | 重傷3人、軽傷35人 |
| 住家の全壊・半壊 | 全壊56棟、半壊831棟 |
| 住家の一部破損 | 2,600棟 |
| 床上浸水・床下浸水 | 床上877棟、床下579棟 |
消防庁「令和元年東日本台風及び前線による大雨による被害及び消防機関等の対応状況(第67報)」p.1・2をもとに編集部作成。速報値
災害救助法は、県内の19市町村に10月12日付で適用されました(内閣府 第13報)。
- 川崎市、相模原市、平塚市、小田原市、茅ヶ崎市、秦野市、厚木市
- 伊勢原市、海老名市、座間市、南足柄市
- 寒川町、大井町、松田町、山北町、箱根町、湯河原町、愛川町、清川村
自治体ごとの内訳は、県が発表した被害状況で見られます(第21報、令和元年11月12日13時現在)。
| 市町 | 全壊 | 半壊 | 一部破損 | 床上浸水 | 床下浸水 |
|---|---|---|---|---|---|
| 川崎市 | 28 | 631 | 73 | 873 | 286 |
| 相模原市 | 24 | 42 | 56 | 10 | 51 |
| 横浜市 | 25 | 442 | 1 | 2 | |
| 小田原市 | 9 | 55 | 94 | ||
| 平塚市 | 1 | 54 | 15 | 38 | |
| 南足柄市 | 5 | 1 | 6 | 29 | |
| 三浦市 | 3 | 60 | |||
| 逗子市 | 1 | 45 | |||
| 藤沢市 | 32 | 1 | |||
| 箱根町 | 1 | 3 | 4 | 2 |
神奈川県「令和元年台風第19号による県内被害状況(第21報)」(令和元年11月12日13時現在、速報値)をもとに編集部作成。単位は棟。空欄は資料に数字がないもの
この表のほかに、15の市町村で建物の被害が報告されています。崖くずれは県内で189件、うち相模原市が147件でした(県の第21報)。
県の第21報と消防庁の第67報は、集計した時点が1年近く違います。そのため、床上浸水や一部破損の数が一致しません。違いの理由は、資料からは確かめられませんでした。市町村が自分でまとめた資料(市町村のページで紹介しているもの)とも、数が違うことがあります。※1※1たとえば小田原市の地域防災計画の資料編は、床上浸水60棟・床下浸水111棟としています(小田原市のページ)。箱根町の資料も、県の第21報とは数が違います(箱根町のページ)。
川崎市 多摩川の 水が 排水樋管から 逆流した
川崎市では、多摩川沿いの5つの排水樋管(山王・宮内・諏訪・二子・宇奈根)の周辺が浸水しました。広さは合わせて約110ヘクタールです。武蔵小杉駅の周辺を含む山王排水樋管の周辺(中原区)だけで、約60ヘクタールでした。排水樋管は、街に降った雨を下水道から多摩川へ流す出口です。
多摩川の水位は、田園調布(上)の観測所で12日22時30分に10.81メートルに達しました。計画高水位(10.35メートル)を超える、それまでで最も高い水位です。
市の検証報告書(令和2年4月)は、浸水のしくみを次のように説明しています。
- 多摩川の水位が高くなり、川の水が排水樋管から街の側へ逆流してあふれた
- その影響で流れにくくなった雨水も、あふれた
- 浸水は周りより地盤の低い所で起き、地表を伝って低い方へ広がった
当時の手順では、雨が降っているときはゲートを開けておく決まりでした。山王排水樋管では、22時27分にゲートを閉めると決めました。ところが22時52分の操作では閉まらず、閉め終わったのは13日10時50分でした。報告書は、何かの異物が挟まった可能性が高いとしています。
その後、市は次の対策を進めています。
| 時期 | 内容 | 状況(2026年10月) |
|---|---|---|
| 令和2年7月 | 5つの樋管すべてで、ゲートの改良、水位や流れの向きを測る機器、遠くからの操作、停電時の操作の手段、排水ポンプ車。操作の手順を「流れの向き」で決める方式に改めた | 完了 |
| 令和4年5月 | 諏訪の仮排水所のポンプを強化し、多摩川へ直接流せるようにした | 完了 |
| 令和5年8月 | 山王のバイパス管と逆流防止弁 | 完了 |
| 令和9年度末(予定) | 宮内・諏訪・二子・宇奈根にポンプゲート設備 | 工事中 |
川崎市 上下水道局「排水樋管周辺地域における中期対策(ポンプゲート設備の整備)等について」(令和6年11月21日)p.9・11〜13・19・26、同「排水樋管周辺地域における今後の浸水対策の取組について」(2026年6月26日掲載)をもとに編集部作成
台風19号と同じ雨と川の水位の条件で試算すると、山王の周辺では床上浸水に当たる浸水を防げる、と市はしています。一方、ほかの4つの樋管の周辺は、ポンプゲート設備が完成するまで対策の途中です。令和6年8月の台風第10号の大雨では、予報と違って、多摩川の水位が台風19号を上回る速さで上がりました(市の報告)。
中原区・高津区・多摩区の事業所は、5つの樋管の水位とゲートの開け閉めの情報を受け取れます。市のメール配信(メールニュースかわさき)などで配信されています。詳しくは、区のページにまとめています。
国の検証(内閣府、令和2年3月)は、高層マンションの地下にある電気設備が内水の浸水で使えなくなった例を挙げています。エレベーターや給水が、一定の期間止まりました。これを受けて、国土交通省と経済産業省は令和2年6月に「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」をまとめました。対象には、マンションのほかオフィスビルや病院なども含まれます。
相模原市 土砂災害と、 78の 事業者の 被害
相模原市では、緑区で8人が亡くなりました。
市内の土砂災害は250か所、道路の被害は52路線で474件にのぼりました(市の災害記録誌、令和4年7月)。停電は最大で約3,960軒、断水は最大で3,722戸です。どちらも緑区の津久井地域に集中しています。
この記録誌は、事業者の被害も数えています。商工の被害は50件、観光の被害は28件でした。
| 区分 | 件数 | 記録誌に書かれた被害の例 |
|---|---|---|
| 商工 | 50件 | 工場や敷地への土砂の流入、停電による機器の故障、断水による製造の停止、敷地の崩落による事務所の全壊、断水と停電による休業、資材置き場の土砂災害、重機や車両の埋没、浸水 |
| 観光 | 28件 | キャンプ場のバンガローの全壊、湖に流れ込んだ流木による桟橋の損傷 |
相模原市「令和元年東日本台風 災害記録誌」(令和4年7月)第2章 p.35〜36をもとに編集部作成
被害の総額は約138億円で、そのうち観光と商工の被害は14億円です。数えられているのは、建物が直接こわれた被害だけではありません。停電や断水で操業が止まった被害も含まれている点が、事業所にとって大切です。
交通も止まりました。JR中央本線の大月〜高尾間は、線路への土砂の流入などで10月18日まで運転できませんでした。緑区の詳しい情報は、緑区のページにあります。
城山ダムの 緊急放流 相模川の 下流へ 伝える 仕組みの 見直し
相模川の城山ダム(相模原市緑区)では、12日21時30分に、運用を始めてから初めての緊急放流(異常洪水時防災操作)をしました。ダムに入ってくる水と同じ量を、下流へ流す操作です。終わったのは13日1時15分でした。
ダムに流れ込んだ水は、最大で毎秒4,921立方メートルでした。計画(毎秒4,100立方メートル)を超える量です。下流へ流した量は、最大で毎秒4,527立方メートルです。下流の川で、越水や堤防の決壊による大きな被害はありませんでした(県の発表)。
一方で、県の検証では、緊急放流に移ることを伝える連絡が遅れたり、情報が錯綜したりしました。挙げられた課題は次の3つです。
- 県と市町・県民の間で、情報の受け止め方が違った
- 電話の連絡に時間がかかった
- 県の複数の部署から、短い時間に情報が入った
県はその後、次の見直しを進めました。
- 市町との連絡に、チャットの仕組みを軸にした情報共有を取り入れた
- 上流で48時間に480ミリ以上の雨が予測されるときは、前もってダムの水位を下げておく(事前放流)
- 下流に危険を及ぼさない最大の放流量を、毎秒3,000立方メートルから毎秒3,400立方メートルに見直した
相模川の下流には、相模原市、愛川町、厚木市、海老名市などの市町が並んでいます。相模川の浸水の想定は、相模川・酒匂川の洪水浸水想定の記事で整理しています。

相模川グラウンドから見た座架依橋
写真:株式会社キール(防災経営)
その ほかの 地域で 起きた こと
- 県西部:箱根町では国道138号が仙石原で崩れました。箱根登山鉄道は、沿線の被害で復旧に10か月ほどかかりました(箱根町のページ)。南足柄市と山北町では、砂防えん堤など57か所の砂防施設が被災し、すべて復旧しています。
- 臨海部:川崎市と横浜市のコンビナートでは、強い風で配管や変圧器がこわれ、液体が漏れた事業所がありました。建屋の電気の設備に雨水が入り、火が出た事業所もありました(消防庁 第67報)。
- 停電:県内の停電は、13日11時の時点で約44,900軒、同じ日の23時に約3,700軒でした(東京電力の発表)。
- 鉄道:首都圏の鉄道会社は、前日の11日に計画運休を発表しました。12日の午前から、順に運転を止めました。
次の 台風の 前に、 事業所で 確かめる
7年前の被害と、その後の検証から、事業所が今のうちに確かめておけることが見えてきます。
- 区域の外でも、裏の斜面や前の道路を見ておく。 土砂災害で人や家に被害が出た場所の約4割は、土砂災害警戒区域に指定されていない場所でした(国の検証)。区域の内か外かだけで判断しないことが大切です(土砂災害警戒区域の確かめ方)。
- 内水の想定と、近くの排水の仕組みを確かめる。 川崎市の浸水は、多摩川の水位が高くなり、川の水が排水樋管から逆流したことで起きました。街に降った雨の量だけでは、浸水の起こり方は決まりません(内水ハザードマップの読み方)。
- 地下や1階にある電気の設備を確かめる。 受変電設備や制御盤が水につかると、建物がこわれていなくても事業が止まります(止水板と浸水防止の備え)。
- 停電と断水で、操業がどれだけ止まるかを見積もる。 相模原市の事業者の被害には、停電による機器の故障や断水による製造の停止が含まれていました。断水は、地域によって10月19日まで続きました(停電が長引いたときに事業を続けるために)。
- 計画運休が出たときの出社・帰宅の決まりを作っておく。 前日に運休が発表されることを前提に、誰が出社し、誰が自宅で待つかを決めておきます(大雨の日の出社・帰宅の判断)。前日までの準備は、台風が近づく前日までに事業所で済ませることにまとめています。
- ダムの放流や樋管の情報を受け取れるようにしておく。 相模川沿いではダムの放流の情報、川崎市の多摩川沿いでは樋管の水位とゲートの情報が配信されています。担当者の連絡先に登録しておきます。
自社の所在地の浸水や土砂災害の想定は、住所を入れると拠点リスク確認でまとめて確かめられます。