停電への備えを考えるとき、「発電機を置くかどうか」から始めると、費用の話で止まりがちです。先に決めるべきなのは、何を、どのくらいの時間、動かし続けたいかです。電源の種類は、その答えに合わせて選ぶものです。
この記事では、県内の市の地域防災計画が示している停電の想定を確かめたうえで、止まると困る設備の洗い出し方、電源の選択肢を比べるときに確かめる項目、燃料の保管と点検に関わる決まりを順に整理します。特定の製品は取り上げません。
市の 計画が 示す停電の 規模と、 事業所に 求めている こと
海老名市の地域防災計画(地震災害対策計画、令和5年2月修正)は、神奈川県の地震被害想定調査(平成27年3月報告)をもとに、市内の停電を想定しています。都心南部直下地震では、市の電灯軒数86,980軒のうち77,240軒が停電するとされ、復旧日数は7日です。大正型関東地震では停電77,240軒、復旧日数は12日とされています。※1※1海老名市の計画は、この復旧日数は電柱のみの復旧を対象としていると注記しています。冬の平日午後6時の発災を想定した値です。
市の計画は、事業所に電源の備えも求めています。大和市の地域防災計画(令和5年5月修正)は、事業所の役割として、燃料・電力などの重要なライフラインの供給不足への対応や、取引先とのサプライチェーンの確保により、災害時でも事業を継続できる体制の確立に取り組むよう努めることを挙げています。座間市の地域防災計画(令和8年3月)も、事業所の責務の中で、燃料・電力など重要なライフラインの供給不足への対応を業務継続上の取組として挙げています。
海老名市の計画は、病院や要配慮者に関わる社会福祉施設など人命に関わる重要施設の管理者は、発災後72時間の事業継続が可能となる非常用電源を確保するよう努めるとしています。介護・福祉の事業所では、この72時間が1つの目安になります。停電の想定は市町村ごとに違うため、所在地の数値の読み方は地域防災計画の想定を自社の計画に使う方法で整理しています。
止まると 困る 設備と、 動かす 時間を 決める
電源の計画は、次の順番で作ると、社内で説明しやすくなります。
- 止まると困る設備を書き出す。 情報システムのサーバーと通信機器、冷蔵・冷凍の設備、医療・介護の機器、照明、給水ポンプ、防犯・入退室の設備、電話・無線などを、部署ごとに挙げます。
- 止まったときに何が起こるかを書く。 「データが失われる」「在庫が傷む」「利用者の命に関わる」など、止まったときの影響を1行で添えます。
- 必要な電力の大きさを調べる。 機器の銘板や取扱説明書で消費電力を確かめます。取扱説明書に起動時の電力についての記載があれば、それも記録します。
- 動かし続ける時間を決める。 数時間でよいのか、72時間なのか、復旧まで何日も必要なのかを設備ごとに決めます。
- 優先順位を付ける。 電源が足りない場合に、どの設備から止めるかの順番を決めておきます。
この表ができると、必要な電源の容量と、燃料や蓄電の量の目安が出ます。逆に、この表がないまま電源の設備を選ぶと、容量が足りない、あるいは使わない設備に費用をかける、ということが起こります。
電源の 選択肢を 比べる ときに 確かめる 項目
事業所で使われる電源には、据え置きの非常用発電機、持ち運びできる発電機、蓄電池(据え置き・持ち運び)、電動車などからの給電、太陽光発電などがあります。どれが適しているかは、前の章で決めた容量と時間によって変わります。表1は、選択肢を比べるときに確かめる項目を並べたものです。
| 確かめる項目 | 内容 |
|---|---|
| 容量 | 止まると困る設備の消費電力の合計と、起動時の電力をまかなえるか |
| 継続時間 | 燃料または蓄電の量で、決めた時間を動かせるか。燃料の補給や充電の手段があるか |
| 燃料 | 使う燃料の種類と、事業所で保管できる量(消防法の指定数量と市町村の条例) |
| 接続 | 必要な設備に、どうつなぐか(分電盤への接続、延長コードでの給電など)。接続の工事や操作を誰が行うか |
| 設置場所 | 排気、騒音、浸水のおそれ、屋外に置く場合の降灰や雨の影響 |
| 点検と訓練 | 定期的に動かして確かめる手順と、操作できる人の人数 |
編集部作成。燃料の保管は消防法、点検は消防庁の点検基準、降灰の影響は国の検討会の報告(令和2年4月)による
電源の種類によって、弱い条件が違います。燃料を使う発電機は、燃料の補給が続くかどうかが継続時間を決めます。蓄電池は、容量を使い切ったあとに充電する手段がないと、それ以上は使えません。太陽光発電は天候に左右され、国の検討会の報告は、0.03cm以上の降灰で太陽光発電パネルの発電量が減るとしています。同じ報告は、火山灰の侵入によるガスタービン式の非常用発電設備の不具合や、メンテナンスの頻度が増えることによるディーゼル式の出力の低下も、降灰の影響として挙げています。1つの電源に頼らず、性質の違うものを組み合わせる考え方もあります。
燃料の 保管と 補給に 関わる 決まり
発電機の燃料を事業所に置く場合は、消防法の決まりを確かめる必要があります。消防法は、指定数量以上の危険物は、原則として貯蔵所以外の場所で貯蔵してはならないとしています(第10条)。所轄の消防長または消防署長の承認を受けて、10日以内の期間、仮に貯蔵する場合は例外とされています。指定数量未満の危険物の貯蔵と取扱いの技術上の基準は、市町村の条例で定めるとされています(第9条の4)。
| 燃料 | 消防法での区分 | 指定数量 |
|---|---|---|
| ガソリン | 第四類 第一石油類(非水溶性液体) | 200リットル |
| 灯油・軽油 | 第四類 第二石油類(非水溶性液体) | 1,000リットル |
| 重油 | 第四類 第三石油類(非水溶性液体) | 2,000リットル |
消防法 別表第一 備考、危険物の規制に関する政令 別表第三(e-Gov法令検索で確認)をもとに編集部作成
複数の種類の燃料を同じ場所に置く場合は、それぞれの量を指定数量で割った値の合計が1以上になると、指定数量以上として扱われます(第10条)。保管の量や容器、置き場所の基準は所在地の市町村の条例で決まるため、備蓄の量を決める前に、所轄の消防署に確かめておくと確実です。
補給の手段としては、資源エネルギー庁が「住民拠点サービスステーション(住民拠点SS)」を公表しています。自家発電設備を備え、停電時にも地域の住民に給油を続けられるガソリンスタンドで、2026年3月31日時点で全国約30,000か所のSSのうち14,215か所が住民拠点SSとされています。震度5強以上の地震のときなどには、営業状況を都道府県単位で地図に表示するとされていますが、同庁は、在庫不足などにより表示と実際の状況が違う可能性があるとしています。事業所の近くの住民拠点SSを平時に調べておくことはできますが、補給をあてにしすぎない計画にしておきます。
自家発電設備の 点検の 基準
消防用設備等の非常電源として設置された自家発電設備には、消防庁の点検の基準があります。平成30年6月1日に施行された改正で、点検の方法が見直されました。消防庁のリーフレットによる主な内容は次のとおりです。
- 機器点検は半年に1回、総合点検は1年に1回
- 総合点検の運転性能の確認は、以前は負荷運転のみだったが、負荷運転または内部観察等でよいことになった
- 運転性能の維持に係る予防的な保全策が講じられている場合、負荷運転または内部観察等は6年に1回でよい
- 原動機にガスタービンを用いる自家発電設備は、負荷運転が不要になった
消防庁は、自家発電設備の点検と整備は必要な知識と技能を持つ人が行うことが適当だとしています。点検の結果を社内の電源計画にも反映し、停電時に実際に切り替えて使えるかを、訓練で確かめておきます。
消費者庁は、携帯発電機の排ガスには毒性の強い一酸化炭素が含まれ、屋内や風通しの悪い場所での使用による死亡事故も報告されているとして、屋内では絶対に使用しないよう呼びかけています。屋外でも、排ガスが逆流しないよう出入口や窓などの開口部から離れた、風通しのよい場所で使うこととしています。
停電が復旧したときの事故にも注意が必要です。消費者庁は、停電復旧後の通電で、電熱器具が周りの可燃物に触れていたことによる発火や、水没・破損した家電製品のショートによる発火が起きているとしています。事業所から避難するときに時間の余裕があれば分電盤のブレーカーを切ること、電熱器具は停電時に電源プラグを抜くことを呼びかけています。社内の停電時の手順にも、復旧時にブレーカーをどう戻すかを書いておきます。
降灰で停電が起こる仕組みと、非常用電源への影響は富士山噴火の降灰が事業所に与える影響で、停電時の連絡手段は通信障害に備える 安否確認と連絡手段の複線化で整理しています。