がけ崩れや土石流は、川の洪水のように広い範囲が同時に浸水する災害とは違い、斜面や渓流の近くの限られた場所で起きます。そのため、事業所そのものは平地にあっても、従業員の通勤路や配送ルート、工事の現場への道が危険な場所を通っていることがあります。

土砂災害のおそれがある場所は、土砂災害防止法にもとづいて都道府県知事が「土砂災害警戒区域・土砂災害特別警戒区域」として指定しています。この記事では、神奈川県が公表している資料を使って、事業所と通り道が区域に入っていないかを調べる手順を整理します。

区域は、現象ごとに決まった基準で指定される

土砂災害防止法は、土砂災害の原因となる現象を、急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)、土石流、地滑りの3つに分けています。区域はこの現象ごとに指定されるため、同じ場所が複数の現象の区域に入ることもあります。

神奈川県は、それぞれの現象の説明と、県内で起きている主な地域を次のように示しています。がけ崩れは三浦半島や横浜、川崎、鎌倉市内を中心に、土石流は箱根・丹沢の山地部を中心に、地すべりは箱根・湯河原の山地部と三浦半島で発生しているとしています。

表1土砂災害警戒区域(イエローゾーン)の指定方法
現象警戒区域の範囲
急傾斜地の崩壊(がけ崩れ)傾斜度が30度以上で高さが5m以上の区域、急傾斜地の上端から水平距離が10m以内の区域、急傾斜地の下端から高さの2倍(50mを超える場合は50m)以内の区域
土石流土石流の発生のおそれのある渓流で、扇頂部から下流の勾配が2度以上の区域
地すべり地すべり区域と、その下端から地すべり土塊の長さに相当する区域(250mを超える場合は250mの範囲内)

神奈川県「用語の解説」(土砂災害警戒区域・特別警戒区域)をもとに編集部作成

特別警戒区域(レッドゾーン)は、警戒区域のうち、土石等の移動によって建築物に働く力が、通常の建築物が耐えられる力を上回る区域です。表1のとおり、がけ崩れの警戒区域は斜面の下だけでなく上側にも広がります。がけの上に建つ事業所や、がけの上を通る道も確認の対象になります。

※1※1神奈川県は、以前公表していた「土砂災害危険箇所」を令和6年4月に削除しています。県内では令和3年度に土砂災害警戒区域等の指定・公表が一通り完了したため、今後は警戒区域と特別警戒区域を確認するよう案内しています。古い防災マップに危険箇所として載っている情報は、現在の区域で確かめ直します。

所在地を調べる手順

調べる先は、主に3つあります。神奈川県の「土砂災害情報ポータル」、県の告示図書、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」です。

  1. 神奈川県土砂災害情報ポータルで位置を確かめる。 県は、警戒区域と特別警戒区域の位置をこのポータルで確認できるとしています。地図上で事業所の敷地を探し、区域の色がかかっているかを見ます。
  2. 告示図書で区域の詳細を確かめる。 県の「告示図書」のページで市区町村名を選び、所在地の区域を探すと、概略の位置図と区域指定図を見られます。例えば座間市のページでは、区域ごとに所在地、区域名、指定年月日、県告示の番号、位置図・区域図が一覧になっています。告示図書は、県の砂防課、所管の土木(治水)事務所、関係市町村でも閲覧できます。
  3. 国のハザードマップポータルサイトで重ねて見る。 「重ねるハザードマップ」では、土砂災害のリスク情報を、洪水などのほかの災害の想定と重ねて表示できます。洪水と土砂災害の両方の想定がかかる場所を一度に確かめるのに向いています。
  4. 市町村の土砂災害ハザードマップで避難先を確かめる。 県は、県内の市町村が作成した土砂災害ハザードマップの公表ページと、問い合わせ窓口の一覧を公表しています。区域の位置に加えて、避難場所や避難経路もここで確かめます。
  5. 判断に迷うときは窓口に問い合わせる。 敷地の境界付近に区域の線がかかっているなど、地図では判断しにくい場合は、所管の土木(治水)事務所や市町村の窓口で確認できます。

所在地を入力して土砂災害と洪水などの想定をまとめて確かめたい場合は、拠点リスク確認も使えます。

通り道を確かめる

事業所が区域の外にあっても、人と車が通る道が区域の中を通っていれば、大雨のときの移動に影響します。次の順で経路を確かめます。

  • 通勤経路:従業員の主な通勤経路のうち、がけの下や上、谷の出口を通る道を、ポータルの地図で区域と照らし合わせます。
  • 配送・巡回のルート:配送や警備の巡回で毎日のように通る道、訪問介護で通う利用者宅の周辺を確かめます。
  • 工事の現場とその進入路:現場そのものに加えて、資材の搬入に使う道が区域を通っていないかを確かめます。

区域を通る道が見つかった場合は、大雨のときに使う別の経路を決めておきます。別の経路も同じ地図で区域に入っていないかを確かめます。大雨の情報が出たときの動き方は、土砂災害警戒情報が出たときの事業所の行動で整理しています。

注意

県は、大雨の際は土砂災害警戒区域等以外でも災害が発生する場合があるとしています。平塚土木事務所も、区域に指定されていないからといって、土砂災害の危険性がなく必ず安全というわけではないと注記しています。区域の外であることは、確認の終わりではなく、平時の点検や大雨の日の情報確認と組み合わせる前提です。

区域は見直される

区域は一度指定されたら変わらないものではありません。横須賀土木事務所は、県が土砂災害防止法にもとづき、おおむね5年ごとに区域の指定に必要な調査(基礎調査)を行い、地形が変わった場所や新たに確認できたがけ地などについて区域を見直すと説明しています。同事務所の管内では、横須賀市の一部の地域で2巡目の調査が進められており、調査結果の公表と指定の告示が地域ごとに順に行われています。

藤沢土木事務所も、開発行為の工事などで地形が変わった箇所は随時調査を行い、区域を見直すとしています。同事務所のページでは、鎌倉市・藤沢市などでの特別警戒区域等の指定のお知らせが、令和8年に入ってからも複数掲載されています。

このため、事業所の確認は1回で終わりにせず、次のような時期に見直します。

  • 事業所の移転や新しい拠点・倉庫の契約を検討するとき
  • 近くで造成などの工事があったとき
  • 県や土木事務所から、所在地の地域の調査結果の公表や指定の告示が出たとき
  • 年に1回のBCPの見直しのとき
※2※2県の告示図書のページでは、告示の前の基礎調査の結果(指定予定の区域)も、告示までの間、別のページで公表しています。指定の前でも、調査結果で区域に入る見込みがわかることがあります。

区域に入っていた場合に確かめること

区域に入っていることがわかったら、次の点を確かめます。

要配慮者利用施設の場合。 土砂災害防止法第8条により、警戒区域が指定されると、市町村防災会議は、区域内の要配慮者利用施設(社会福祉施設、学校、医療施設など)の名称と所在地を市町村地域防災計画に定めます。計画に載った施設の所有者または管理者は、第8条の2により、利用者の円滑かつ迅速な避難の確保を図るための計画を作成して市町村長に報告し、計画にもとづく避難の訓練を行ってその結果を報告しなければなりません。介護事業所などは、自施設が計画に載っているかを市町村の窓口で確かめます。

特別警戒区域の場合。 県は、特別警戒区域では、住宅宅地分譲や要配慮者利用施設の建築のための開発行為に知事の許可が必要になり、居室を有する建築物の新築・増築などには構造の規制が適用されると説明しています。拠点の増築や建て替えを検討する場合は、早い段階で所管の土木事務所に相談します。

どの区域でも。 大雨のときに、いつ、どこへ人を移すかを決めておきます。区域の外への移動が間に合わない場合に備えて、建物の中でがけから離れた部屋や上の階など、とどまる場所の候補も決めておきます。斜面の近くの事業所で平時に何を確かめるかは、斜面の近くの事業所・現場で平時に確かめることで整理しています。