大雨のときの浸水には、川の水があふれる「洪水(外水氾濫)」と、下水道や水路が雨水を流しきれずにまちの中にあふれる「内水氾濫」があります。市町村のハザードマップも、この2つを別々の地図として作っていることが多く、洪水ハザードマップで色が付いていない場所でも、内水ハザードマップでは浸水が想定されていることがあります。
この記事では、内水ハザードマップを事業所の立場で読むときに、どこを見ればよいかを順に整理します。例として県内の横浜市・川崎市・横須賀市の公表資料を取り上げますが、読み方そのものはほかの市町村の地図にも当てはまります。
内水と 洪水は、 別の 現象と して 想定されている
横浜市は、洪水ハザードマップを「大雨により河川で洪水が発生した場合に、浸水するおそれのある区域及び水深を示したマップ」、内水ハザードマップを、最大規模の雨が降った場合に「下水道管や水路からの浸水が想定される区域や浸水する深さ」などをまとめたマップと説明しています。国土交通省の水害ハザードマップ作成の手引きも、内水氾濫を、一時的に大量の雨が降って下水道などが雨水を排除できない場合、または下水道などから河川などへ雨水を排除できない場合に起きるものとしています。
もとになる区域の決め方も異なります。洪水の地図は、国や県が水防法にもとづいて指定する洪水浸水想定区域がもとになります。内水については、水防法第14条の2で、都道府県知事や市町村長が、想定最大規模降雨によって排水施設が雨水を排除できなくなった場合に浸水が想定される区域を「雨水出水浸水想定区域」として指定すると定めています(用語集の内水(雨水出水)も参照)。
神奈川県は、県内の河川の洪水浸水想定区域図について、高潮や内水による氾濫などは考慮していないため、区域に指定されていない場所でも浸水することがあると注記しています。洪水の地図と内水の地図は、どちらか一方を見れば足りるものではなく、両方を重ねて見るものです。
| 項目 | 洪水ハザードマップ | 内水ハザードマップ |
|---|---|---|
| 想定している現象 | 川の水位が上がり、堤防を越えたり決壊したりしてあふれる | 下水道管や水路が雨水を流しきれず、マンホールや側溝などからあふれる |
| もとになる区域 | 国・県が指定する洪水浸水想定区域 | 県・市町村が指定する雨水出水浸水想定区域(指定していない市町村もある) |
| 浸水しやすい場所の傾向 | 川の近くの低い土地 | 川から離れていても、周りより低い土地や道路のくぼみ |
| 作成する主体 | 市町村 | 市町村 |
水防法、国土交通省「水害ハザードマップ作成の手引き」、横浜市・神奈川県の公表資料をもとに編集部作成
想定している 雨と、 地図の 根拠を 確かめる
内水ハザードマップを開いたら、まず地図の余白や説明文で、どのような雨を想定しているかを確かめます。
横浜市と横須賀市の内水ハザードマップは、1時間あたり153mmの雨を想定しています。横浜市は、この値を国の設定手法にもとづく「1年の間に発生する確率が1/1000(0.1%)以下の降雨」とし、関東地域では千葉県香取市で観測された153mm/hrが設定されていると説明しています。横須賀市は、この雨を「概ね1000年に1度発生する降雨」と説明しています。
次に、その地図が水防法にもとづく区域の指定を受けたものかどうかを確かめます。県内でも扱いは市町村によって異なります。
- 横浜市は、令和8年6月1日から、水防法にもとづく内水ハザードマップに更新したとしています。地図は平成30年度末の河川や下水道などの整備状況を反映して作られています。
- 川崎市は、最新版を令和8年5月版とし、市の内水ハザードマップは「水防法に基づかないハザードマップ」であると明記しています。
水防法にもとづかない地図であっても、浸水のおそれを知るための資料として使えることに変わりはありません。ただし、作成の年月や前提とした整備状況は地図ごとに違うため、社内の資料に書き写すときは、市町村名・版(年月)・想定した雨をあわせて記録しておくと、あとで見直すときに比べやすくなります。
凡例の 色と 浸水深の 区分を 読む
浸水深の色分けは、国土交通省の手引きで共通のルールが示されています。旅行者や通勤・通学者がどこにいても水害リスクを認識できるよう、災害の種類や市町村の違いにかかわらず、原則として統一するとされています。
| 区切りとなる浸水深 | 手引きが示す目安 |
|---|---|
| 0.5m | 一般的な家屋の1階の床の高さに相当 |
| 3m | 2階の床下に相当 |
| 5m | 2階が水没する深さ |
| 10m・20m | これを上回る浸水を表すための区切り |
国土交通省「水害ハザードマップ作成の手引き」3.4.1 をもとに編集部作成
標準では、20m・10m・5m・3m・0.5m を境に6段階に色分けします。浸水深が浅くなるほど淡い黄色に近く、深くなるほど赤から紫に近い色になります。手引きは、内水で浸水の深さの差が小さい場合などに、0.3m と 1m の区切りを加えた詳細版の区分を使えるともしています。内水の地図では、この詳細版で「0.3m 未満」「0.3〜0.5m」「0.5〜1m」のように細かく分けていることがあるため、凡例の区切りの数値を必ず確かめます。
浅い区分でも、事業所にとって軽く見てよいわけではありません。手引きは、氾濫した水の流れが緩やかでも、0.5m 以上の水深があると大人でも歩くのが難しくなるとしています。横須賀市も、浸水が約50cmを超えると歩いての避難が困難になると説明しています。また横浜市は、地下室や地下駐車場など道路より低い場所は、浸水の程度にかかわらず雨水が入り込む危険があると注意しています。
凡例の色は「浸水した場合に想定される水深」を示すもので、浸水が始まる時刻や、水が引くまでの時間を示すものではありません。内水は短時間の強い雨で急に起きることがあるため、色が薄い区分でも、地下や半地下の設備がある場合は別に確かめます。
事業所の 図面に 重ねて 確かめる 手順
地図の読み方がわかったら、事業所の建物と設備に当てはめます。総務やBCPの担当者が1人で始められる作業です。
- 所在地の地図を2種類とも用意する。 市町村のウェブサイトで、洪水ハザードマップと内水ハザードマップの両方を探します。国土交通省のハザードマップポータルサイトでは、洪水・内水の想定を地図に重ねて表示できるほか、各市町村が公表しているハザードマップへのリンクもたどれます。
- 版と想定した雨を記録する。 地図の名称、作成・更新の年月、想定した雨(例:1時間あたり153mm)、水防法にもとづく区域かどうかを書き留めます。
- 敷地と出入口の浸水深を読み取る。 建物の位置だけでなく、敷地の出入口や前面道路の区分も確かめます。建物は浅い区分でも、前の道路が深い区分に入っていることがあります。
- 低い位置にある設備を書き出す。 受変電設備、サーバー、非常用発電機、ポンプ、地下や半地下の倉庫、1階の床置きの在庫などを挙げ、その高さを表2の区切り(0.5m など)と比べます。
- 洪水と内水の深い方を採る。 同じ地点で洪水と内水の想定が異なるときは、それぞれを記録したうえで、対策の検討には深い方を使います。
- 周辺の低い道路を確かめる。 通勤や配送で通る道のうち、内水で浸水が想定される箇所に印をつけます。
地図に 表れない ことも 前提に する
内水ハザードマップは、一定の条件で計算した結果です。横須賀市は、局所的な大雨の発生や地域の状況の変化によっては、想定された区域以外でも浸水が起きることや、浸水深が異なることがあると明記しています。国土交通省の手引きも、設定した雨量などの条件から外れると浸水想定は違う結果になることを、利用者に伝えるよう求めています。
このため、地図で色が付いていないことを「浸水しない」と読み替えないことが大切です。敷地の中で雨のたびに水がたまりやすい場所や、過去に側溝があふれた場所など、従業員が日頃から気づいていることを書き添えておくと、地図の情報を補えます。
確かめた結果は、BCPの被害の想定や、事業継続力強化計画で自社の災害リスクを説明するときの根拠として使えます。所在地ごとの洪水・土砂災害などの想定をまとめて見たい場合は、拠点リスク確認もあわせて使えます。