止まると困る業務を選んだら、次は「いつまでに再開するか」を決めます。この期限が目標復旧時間です。目標の時間が決まると、それに間に合わせるために何を準備するかが決まり、BCPの対策に優先順位が付けられるようになります。
この記事は、BCPの基本の3つ目の段階「止まると困る業務を書き出す」のうち、目標の時間の決め方を扱います。
目標復旧時間と 許容限界
内閣府の「事業継続ガイドライン」は、重要業務について、どれくらいの時間で復旧させるかを「目標復旧時間」(Recovery Time Objective、RTO)、どの水準まで復旧させるかを「目標復旧レベル」(Recovery Level Objective、RLO)として決めるとしています。
決め方の筋道は次のとおりです。まず、業務の停止(または相当程度の低下)が許されると考える時間とレベルの限界、つまり「許容限界」を、事業影響度の時系列の分析から推定します。そのうえで、時間の許容限界より早く目標復旧時間を設定し、レベルの許容限界を上回るように目標復旧レベルを設定します。
たとえば「この納品が2週間止まると、取引先は別の会社に切り替える」と見込むなら、2週間が時間の許容限界です。目標復旧時間は、それより前に置きます。「通常の3割の量でもよいから届ける」のように、量や範囲を下げて再開する形が目標復旧レベルです。ガイドラインは、目標復旧時間を複数考え、各時点の目標復旧レベルを段階的に設定する組み合わせも可能だとしています。
ガイドラインは、許容限界も発生した事象の大きさや顧客の被害状況で変わり得るとしています。火災で自社だけが被災した場合と、広域災害で顧客や取引先も同時に被災した場合とでは、停止時間の許容限界はある程度異なると考えられる、という例が示されています。幅を持った推測しかできない場合も多く、ある程度大胆に推定し、あとで必要に応じて見直すことが推奨されています。
2つの 物差しで、 目標の 時間を 考える
中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」は、目標復旧時間を決めるにあたって、最低限、次の2つを考慮する必要があるとしています。
取引先や サプライチェーンの 要請
1つ目は、中核事業に関わる取引先やサプライチェーンの要請です。自社が被災した場合に、取引先からどれだけの事業停止が許容されるかを把握します。指針は、これを取引先の経営者や幹部従業員との直接のコミュニケーションなどを通して把握・調整しておくべき事項としています。
取引先に確かめるときは、「何日止まると困るか」だけでなく、「量を減らしてでも届けてほしいものは何か」も聞いておくと、目標復旧レベルの検討に使えます。取引先への説明の仕方は、取引先への説明で扱っています。
自社の 資金が 耐えられる 期間
2つ目は、自社の財務状況にもとづく時間です。指針は、中核事業が止まった場合に、収入の途絶に加えて、納期遅延などによる違約金、その間の従業員の賃金、災害対応のための臨時人員の賃金、事業所や設備機器が被災した場合の修繕や新規調達の費用などが発生するとし、これらにどれだけの期間耐えられる資金があるかを見極めるよう求めています。
2つの物差しのうち、短いほうが実質的な限界になります。取引先は1か月待ってくれても、資金が2週間しかもたなければ、2週間が限界です。休業したときの資金の過不足は、リスクファイナンス判断シートで試算できます。
復旧を 遅らせる 要因を 確かめる
目標の時間を置いたら、その時間で本当に再開できるかを確かめます。中小企業庁の指針は、復旧時間を遅らせる要因を表1のように整理しています。
| 要因 | 復旧時間への影響 |
|---|---|
| 従業員・設備等の被災状況 | 多くの従業員やキーとなる従業員が死傷した場合は復旧が遅れる。建屋や生産機械が損壊した場合は、修理や代替の確保に要する時間を見積もる |
| 協力会社の被災状況 | 協力会社が被災した場合は自社の復旧が遅れる。ほかの協力会社への一時的な生産移管に要する時間を見積もる |
| 顧客の被災状況 | 顧客が無事なら早期の復旧が求められる。顧客も被災していれば、顧客の復旧にタイミングを合わせる |
| 事業インフラの復旧の目処 | 電気・水道・都市ガスなどの復旧の目処を踏まえる。原材料や製品の移送のための交通の途絶・混乱も踏まえる |
中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」資料06 をもとに編集部作成
指針はインフラについて、阪神・淡路大震災では全面復旧までに電気7日間、水道90日間、都市ガス84日間を要したことを示しています。また、大規模地震の発生時には交通規制が実施され、発生後3日間は緊急車両の通行、約1週間は緊急支援物資の輸送に制限または優先されるとしています。
神奈川県の拠点であれば、県の地震被害想定も使えます。県の概要版(令和7年3月)は、都心南部直下地震について、上水道の復旧に33日、下水道の復旧に40日を要し、県東部で1か月程度通行止めとなる区間が生じ、鉄道の復旧には14日以上要すると想定しています。県は、復旧日数の想定には推定を多く含み、大規模災害時には大幅に遅れる可能性があるとしています。数字の使い方は被害想定の読み方にまとめています。
「案」から 決定に 進める 手順
内閣府のガイドラインは、この段階の目標復旧時間と目標復旧レベルは、実現性が未検証のため、あくまで「案」にとどまるとしています。対策の検討を経てから、経営判断で最終的に決めます。進め方は次のとおりです。
- 重要業務ごとに、時間の許容限界を書く。 取引先の要請と資金の限界の、短いほうを置きます
- それより前に、目標復旧時間の案を置く。 必要なら「3日後に一部、2週間後に通常の半分」のように段階で書きます
- 現状で可能な復旧時間を見積もる。 表1の要因と、業務に必要な経営資源が被害を受けた場合に、今のままでいつ再開できるかを見積もります
- 差を埋める対策を考える。 ガイドラインは、現状で可能な復旧時間が目標の案を満たしていないことは当然多いとし、その差を埋めるために、復旧を早められない要素(ボトルネック)の被害軽減や早期確保の対策を検討するとしています
- 経営者が決める。 対策の費用と実現の見込みを踏まえて、目標を正式に決めます
ガイドラインは、目標を許容限界より大幅に高めると、達成するための対策の費用が膨大になり、再検討の可能性も高くなると注意しています。また、対外的にも説明する目標は一種の公約で、実現できるものでなければならないため、実施の可能性を見極めてから決めることになるとしています。
中小企業庁の指針も、実際に被災した際には、被災の規模や状況によって目標の時間より復旧が遅れることについて、取引先に理解を求めることが必要になるとしています。決めた目標は、前提にした被害の想定とあわせて記録し、年1回の見直しで取引先の状況や自社の資金の変化に合わせて見直します。
過去の 災害で 見られた 復旧の 時間
目標の時間の感覚をつかむ参考として、中小企業庁の指針は過去の災害の事例を示しています。新潟県中越地震では、主要地場企業271社を対象にした調査で、地震発生から約10日目の時点で約半数の企業が100%復旧、8割の企業が50%復旧の状況であり、その後約1か月の時点で約9割の企業が100%復旧したとされています。商店街では、約10日目の時点で営業している店舗の割合が、被害が甚大な小千谷市で約4割、被害が少ない長岡市で約9割でした。
同じ地震でも、地域の被害の大きさで再開の時期は大きく異なります。指針が示すとおり、事例は業種や被災状況に留意したうえで参考にし、自社の目標は、取引先と資金の2つの物差しから決めます。