倉庫が浸水すると、床に近い高さに置いた貨物から順に水につかり、フォークリフトや受電設備などの荷役・電気の設備も使えなくなります。預かっている貨物であれば、荷主への供給が止まるだけでなく、損傷した貨物の扱いを荷主と決めなければなりません。

大雨による浸水は、地震と違って数日前から予想できることがあります。国土交通省の「多様な災害に対応したBCP策定ガイドライン」(令和5年3月)も、台風や大雨などの風水害は発生の数日前にある程度予見でき、予見後に適切な対応を行うことで影響を回避・軽減できる可能性があるとしています。この記事では、平時に決めておく「保管の高さ」と、予見してから浸水するまでの「搬出の手順」を分けて整理します。

倉庫の場所で想定される浸水の深さと時間を調べる

最初に、倉庫の所在地でどの程度の浸水が想定されているかを確かめます。神奈川県は、国と県が水防法にもとづいて作成した「洪水浸水想定区域図」を、河川ごとにまとめて公開しています。

県のページによると、平成28年以降に公表した区域図は、平成27年の水防法の改正に伴い「想定し得る最大規模の降雨」を対象に作成されており、浸水の深さに加えて浸水継続時間も示しています。また、家屋の倒壊や流出をもたらすような激しい氾濫流や河岸侵食が想定される「家屋倒壊等氾濫想定区域」も定められています。※1※1県のページには、相模川と中津川の区域図が令和7年1月10日に更新されたこと(令和7年12月25日一部修正)など、河川ごとの更新日が載っています。倉庫の近くの川の区域図がいつ作られたものかも、あわせて確かめておきます。

表1洪水浸水想定区域図で倉庫について確かめること
確かめる項目倉庫の備えとの関係
想定される浸水の深さ貨物と設備を置く高さを決める基準になる
浸水継続時間浸水している間は搬出も復旧作業もできない。再開までの日数の見込みに使う
家屋倒壊等氾濫想定区域かどうか建物そのものが危険にさらされる。建物内にとどまらず、早めに退避する判断が必要になる
区域図の対象にならない浸水支川の氾濫、想定を超える降雨、高潮、内水による氾濫などは考慮されていない

神奈川県「河川の氾濫による洪水浸水想定区域図」の説明をもとに編集部作成

表1の最後の行は見落とされがちです。県のページは、区域図が支川の氾濫、前提となる降雨を超える規模の降雨、高潮と内水による氾濫などを考慮していないため、区域に指定されていない場所でも浸水することがあると注意しています。下水道の排水が追いつかずに起きる浸水(内水)は、市町村の内水ハザードマップで確かめます。複数の想定をまとめて見るには、拠点リスク確認も使えます。

保管の高さを決める

浸水の深さが分かったら、何をどの高さに置くかを決めます。経済産業省と国土交通省の資料「事業所等の自衛水防に役立つ情報提供のご紹介」(平成25年9月)は、浸水を防ぐための大規模な設備投資が難しくても、重要な資機材を2階以上へ移すといった応急的な対応で、被害を大幅に減らし、早く復旧できるとしています。

国土交通省の「浸水被害防止に向けた取組事例集」には、倉庫と物流拠点に関わる例が載っています。

  • 平成27年9月の関東・東北豪雨で本社工場が床上浸水した茨城県常総市の製造業(従業員30名)は、倉庫内の製品を下に敷くパレットを3段にしてかさ上げし、水害が予想されるときはパレットの枚数を増やしてさらにかさ上げすることにしています
  • 名古屋市の建設業は、物流拠点とした事業所で、浸水に備えて2階の高さにも倉庫を配置し、自動車が直接乗り入れられるように整備しています
  • 医薬品の製造業は、万が一の浸水に備えて物流拠点を分散して配置しています
  • 受電設備や電源設備を高い位置に置いたり、かさ上げしたりする例が複数紹介されています

これらを倉庫に当てはめると、高さの決め方は次のように整理できます。

表2保管の高さを決めるときの区分(考え方の例)
区分例置き方の考え方
水につかると再開できなくなる設備受電設備、分電盤、サーバー・パソコン、充電設備想定される浸水の深さより高い位置に常設する。移設が難しいものは、浸水前の停止の手順を決める
水につかると価値を失い、代わりがない貨物精密機器、医薬品、紙の製品、荷主が特に指定する品目上段の棚や上の階を定位置にする。予見したら最初に動かす
包装を替えれば使える貨物防水性のある包装の品目下段でもよいが、パレットで床から離す
浸水しても影響が小さいもの空パレット、資材の一部最下段や床に置き、上段を空けておく

経済産業省・国土交通省「事業所等の自衛水防に役立つ情報提供のご紹介」と国土交通省「浸水被害防止に向けた取組事例集」第3章の事例をもとに編集部作成

上の階や高い棚を「空けておく場所」として平時から確保しておくと、予見したときの移動が短くなります。表2の区分は荷主によって違うため、預かっている貨物については、どれを優先して守るかを荷主と決めておきます。※2※2倉庫業法施行規則第3条の4は、一類倉庫の施設設備基準の一つとして、構造と設備が倉庫内への水の浸透を防止するに足るものとして国土交通大臣の定める基準に適合していることを挙げています。この記事で扱う備えは、こうした登録の基準とは別に、所在地の浸水想定にもとづいて考えるものです。

予見してから浸水するまでの手順

国土交通省の「大規模工場等に係る浸水防止計画作成の手引き」(令和8年5月)は、水防法第15条の4にもとづく計画の記載例と留意事項をまとめた資料です。市町村の地域防災計画に位置づけられた大規模工場等の所有者・管理者には、浸水防止のための計画の作成、訓練の実施、自衛水防組織の設置が努力義務として課されています。計画を作成し、または自衛水防組織を置いたときは、遅滞なく市町村長に報告しなければなりません(水防法第15条の4第2項)。対象にならない倉庫でも、手引きの記載例は手順を決めるときの参考になります。

手引きの記載例は、止水板や土のうを設置する時期を、気象や河川の情報に結びつけています。たとえば洪水の場合、レベル4氾濫危険情報、レベル4氾濫危険警報(氾濫水の到達までの時間が短い河川)が発表されたら速やかに指定の出入口に止水板または土のうを設置し、従業員等の避難が完了した後、活動時間が確保できる場合は、ほかの開口部にも設置する、という書き方です。雨水出水(内水)の場合は、レベル4大雨危険警報(内水氾濫危険情報)の発表を設置の基準にしています。あわせて、非常体制を確立したら指定の設備を2階の部屋まで移すことも記載例に含まれています。※3※3ここで挙げた情報の名称は、令和8年5月版の手引きの記載例に書かれているものです。社内の基準に書く情報の名称と、それが発表される河川は、所在地の市町村のハザードマップや気象庁の資料で確かめてください。

これを倉庫の作業に置き換えると、次の順番になります。

  1. 荷主と協議する。 気象情報や計画運休の情報を共有し、入出庫の停止・延期や、貨物の移動について決めます。
  2. 優先する貨物を上段・上の階へ移す、または別の倉庫へ搬出する。 表2の区分に沿って、代わりのない貨物から動かします。別の倉庫へ運ぶ場合は、道路が通れるうちに終える必要があります。
  3. 設備を止める、移す。 移動できる設備は高い場所へ移し、移せない電気設備は停止の手順に沿って止めます。車両やフォークリフトは浸水の想定がない場所へ移します。
  4. 止水板や土のうを設置する。 決めておいた出入口から設置します。
  5. 避難する。 手引きの記載例は、浸水防止対策が完了した場合、または避難指示等が発令された場合に速やかに避難を始めるとしています。避難経路には、止水の設備を設置する出入口を使いません。
重要度 高

搬出や止水の作業は、従業員が安全に避難できる時間を残して終えることが前提です。手引きは、避難場所を浸水が想定されない場所に設定しなければならないとしています。国土交通省の物流BCPのガイドラインも、物流拠点で荷役作業を行う際に浸水や施設倒壊のおそれがないかを確かめ、物流従事者の安全確保を最優先とするよう求めています。

実施の基準は、荷主と前もって決めておく

国土交通省の「多様な災害に対応したBCP策定ガイドライン」は、災害を予見したときに輸送の事前中止などを行う基準(気象警報の発令など)と、対策の内容(輸送の中止・延期・変更、物流施設の休止・稼働縮小など)を、荷主と物流事業者が協議して共有しておくよう求めています。とり得る対応策として、在庫の積み増し、代替輸送手段の確保、代替物流施設の確保を挙げています。

同ガイドラインのアンケート調査では、過去10年間の予見可能な自然災害で、輸送計画の事前中止などを行った企業の割合は、荷主で47.1%、物流事業者で37.7%でした。ガイドラインは、対策を実施した結果、災害が起きなかったり被害が小さかったりした場合には事後に検証し、基準の精度を上げることに生かすよう求めています。一方で、そのことを理由に今後の対策に消極的にならないようにする必要があるとも述べています。

搬出先となる代わりの倉庫は、災害が迫ってから探しても見つからないことが多いとされています。ガイドラインは、災害時にはスポット契約で代替の物流拠点を確保するのが難しいことが多いとして、平時から物流拠点の複数化を進めるよう求めています。取り決めておく内容は、搬出先の倉庫、搬出する貨物の順番、搬出にかかる費用の負担、荷主への報告の方法です。

浸水した後の再開の判断は、水が引いて建物の安全を確かめてからになります。浸水継続時間が長い地域では、再開までの間、代わりの倉庫から出荷する期間も含めて荷主と話し合っておきます。