台風の接近や強い地震のあと、建設現場では「今日は作業をするか」「いつ再開してよいか」を決めなければなりません。この判断は現場の経験だけに任されているわけではなく、労働安全衛生規則とクレーン等安全規則に、作業を中止する場面と、再開の前に点検する場面が定められています。

この記事では、規則が求めることを「中止」と「点検」に分けて条文に沿って整理し、そのうえで、会社として決めておくと現場の判断が早くなる事項をまとめます。条文の全文は e-Gov 法令検索で確認できます。

規則が定めているのは「中止」と「点検」の二つ

悪天候や地震に関する規則の定めは、大きく二つに分かれます。

一つは、悪天候のため危険が予想されるときに、その作業を行わせてはならない、または中止しなければならないという定めです。代表的なものが労働安全衛生規則第522条で、高さが2メートル以上の箇所で作業を行う場合に、強風、大雨、大雪等の悪天候のため作業の実施について危険が予想されるときは、その作業を行わせてはならないとしています。

もう一つは、悪天候や地震の「後」に作業を始めるときは、あらかじめ点検をしなければならないという定めです。足場(第567条)や作業構台(第575条の8)では、強風、大雨、大雪等の悪天候もしくは中震以上の地震の後に作業を行うとき、作業を開始する前に点検し、異常を認めたときは直ちに補修しなければならないとされています。

つまり、天候が悪いあいだは作業を止め、天候が回復したり揺れが収まったりしても、点検が済むまでは再開しない、という順番になります。

表1悪天候・地震に関する主な規定(建設現場で関わりの多いもの)
場面対象の作業・設備規則が求めること条文
悪天候のため危険が予想されるとき高さ2メートル以上の箇所での作業作業を行わせない安衛則第522条
悪天候のため危険が予想されるとき建築物の鉄骨の組立て等の作業作業を中止する安衛則第517条の3
強風のため危険が予想されるときクレーン・移動式クレーンに係る作業作業を中止する。移動式クレーンが転倒するおそれがあるときは、ジブの位置を固定するなどの措置クレーン則第31条の2・第74条の3・第74条の4
瞬間風速が毎秒30メートルを超える風が吹くおそれがあるとき屋外の走行クレーン逸走を防止する措置クレーン則第31条
悪天候・中震以上の地震の後足場・作業構台作業開始前に点検し、異常があれば直ちに補修。結果を記録し保存安衛則第567条・第575条の8
大雨の後・中震以上の地震の後明り掘削の作業箇所と周辺の地山点検者を指名し、浮石・き裂・湧水などを点検させる安衛則第358条
中震以上の地震の後・大雨等で地山が急に軟弱化するおそれがある事態の後土止め支保工部材の損傷・変形、切りばりの緊圧の度合などを点検安衛則第373条
瞬間風速が毎秒30メートルを超える風の後・中震以上の震度の地震の後クレーン(暴風後は屋外のもの)・建設用リフト作業の前に各部分の異常の有無を点検クレーン則第37条・第194条

労働安全衛生規則・クレーン等安全規則(e-Gov法令検索)、鳥取労働局の資料をもとに編集部作成

表1は建設現場で関わりの多いものを抜き出したもので、すべてではありません。鳥取労働局の資料には、解体用機械を用いた作業、型わく支保工の組立て・解体、コンクリート造の工作物の解体、ゴンドラを使用する作業なども、悪天候時の中止や悪天候後の点検の対象として挙げられています。自社が行う作業がどの条文に当たるかは、条文と労働局の資料で確かめておくと確実です。

「強風」「大雨」「中震」の目安

条文には「強風」「大雨」「中震以上の地震」とだけ書かれており、数値は示されていません。数値の目安は、行政の解釈例規(通達)で示されています。

表2悪天候・地震の目安として示されている数値
用語目安
強風10分間の平均風速が毎秒10メートル以上の風
大雨1回の降雨量が50ミリメートル以上の降雨
大雪1回の降雪量が25センチメートル以上の降雪
中震震度4以上

北海道労働局「強風・大雨・大雪・地震等の際の足場の点検について」(昭和34年2月18日基発第101号を引用)、鳥取労働局の資料(昭和46年4月15日付け基発第309号を引用)をもとに編集部作成

あわせて、鳥取労働局の資料が引く昭和46年の解釈例規では、「強風、大雨、大雪等の悪天候のため」には、作業地域が実際に悪天候になった場合のほか、その地域に気象注意報や気象警報が発表され、悪天候となることが予想される場合も含む趣旨であるとされています。雨や風が強くなってから止めるのではなく、注意報・警報が出た段階で中止を検討する、という読み方になります。※1※1震度は気象庁の尺度で、震度0から震度7までの10階級です。震度4以上かどうかは、現場の体感ではなく、気象庁が発表する現場付近の震度で確かめます。

なお、クレーンの暴風時の措置と暴風後の点検は、平均風速ではなく「瞬間風速が毎秒30メートルを超える風」を基準にしています。屋外に設置されているエレベーターと建設用リフトの倒壊防止の措置は、瞬間風速が毎秒35メートルを超える風が吹くおそれがあるときです(クレーン則第152条・第189条)。同じ「風」でも、条文によって基準にする風速の種類と値が違う点に注意が必要です。

地震・強風の後、作業を再開するまでの手順

規則が求める点検を、現場で漏れなく行うための順番の例です。点検の対象は現場の設備によって変わるため、自社の現場に合わせて置き換えてください。

  1. 震度・風速を確かめる。 気象庁が発表した現場付近の震度、または観測された風速を確認し、表2の目安に当たるかを判断します。当たる場合は、点検が済むまで作業を始めないことを作業員全員に伝えます。
  2. 点検者を指名する。 足場や明り掘削の点検は、条文上「点検者を指名して」行うことになっています。北海道労働局の資料は、足場の組立て等作業主任者など、足場の点検について十分な知識・経験を持つ者から指名することを示しています。
  3. 条文の点検事項に沿って点検する。 足場であれば、床材の損傷や掛渡しの状態、緊結部の緩み、墜落防止設備の取り外し・脱落の有無、脚部の沈下・滑動の状態など、第567条第2項が定める9つの事項を点検します。明り掘削では浮石・き裂の有無や湧水の状態の変化、クレーンでは各部分の異常の有無が対象です。
  4. 異常があれば補修し、補修が済むまで使わない。 足場・作業構台は、異常を認めたときは直ちに補修することが求められています。
  5. 結果を記録する。 足場の点検では、点検の結果と点検者の氏名、補修等の措置を講じた場合はその内容を記録し、足場を使う仕事が終わるまで保存しなければなりません(第567条第3項)。
  6. 再開を決め、作業員に伝える。 点検と補修が済んだことを確認した者が再開を決め、朝礼などで点検の結果とあわせて伝えます。
注意

地震の後は、余震で揺れが繰り返すことがあります。一度点検して再開した後に、あらためて中震以上の揺れがあった場合は、同じ条文の「地震の後」に当たるため、もう一度点検が必要になります。

元請と下請で重なる点検と記録

足場や作業構台の点検は、作業を行う事業者だけでなく、注文者にも求められています。労働安全衛生規則第655条は、注文者が請負人の作業員に足場を使わせるときは、悪天候もしくは中震以上の地震の後に、点検者を指名して作業開始前に点検させ、危険のおそれがあるときは速やかに修理することを定めています。点検の結果と点検者の氏名などを記録し、仕事が終わるまで保存することも同じです。作業構台についても第655条の2に同様の定めがあります。

元請の立場で足場を設けて下請に使わせる場合、元請と下請の双方に点検の定めがかかります。どちらが、いつ、どの様式で点検し、記録をどこに保管するかを、工事の始めに取り決めておくと、災害の後に同じ足場を二重に点検したり、逆に誰も点検しないまま作業が始まったりすることを防げます。北海道労働局の資料には、点検の実施理由(悪天候後・地震後・組立後など)や是正内容を書き込むチェックリストの様式例が載っており、社内の様式を作るときの参考になります。

会社として決めておくこと

条文は「危険が予想されるとき」に中止を求めていますが、どの時点で危険が予想されると判断するかは、現場に委ねられています。判断を現場の責任者1人に負わせないために、次のことを平時に決めて、社内の安全衛生の決まりやBCPに書いておくと、当日の連絡が短くなります。

  • 中止を検討する情報:どの気象注意報・警報が発表されたら、どの作業を止めるか。高所作業、クレーン作業、掘削作業など、作業の種類ごとに決めておきます。
  • 判断する人と代わりの人:現場代理人が不在のときに誰が決めるか。
  • 点検者の名簿:足場、掘削、クレーンのそれぞれについて、点検者として指名できる人を現場ごとに挙げておきます。
  • 再開を伝える方法:点検が済むまで作業員が現場に入らないよう、再開の連絡を誰がどの手段で出すか。
  • 記録の保管先:点検記録の様式と、写しを本社に送る手順。

大雨の後は、現場そのものが浸水や土砂の流入で使えなくなっていることもあります。所在地の浸水や土砂災害の想定は、拠点リスク確認や市町村のハザードマップで、工事の着手前に確かめておくと、中止を判断するときの材料になります。