大きな地震の後、会社は従業員が無事かどうかを確かめる必要があります。勤務中なら点呼で済みますが、夜間や休日、外出先で被災した従業員については、連絡を取る手段が要ります。

ところが、災害の直後は電話がつながりにくくなります。総務省は、大きな災害が起きると被災地への電話が大量に殺到して回線が混雑すること、東日本大震災の直後には、携帯電話事業者によっては最大で平常時の約50〜60倍以上の通話が一時的に集中したことを説明しています。安否確認の手段は、電話がつながらないことを前提に決めておく必要があります。

この記事は、BCPの基本の4段階目のうち、安否確認を扱います。発災直後の全体の動きは「発災直後の1時間の初動手順」を参照してください。

国が企業に求めている安否確認の備え

内閣府の「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」(令和8年1月)は、企業等が平時に行うこととして、従業員等への安否確認手段と、従業員等と家族との安否確認手段の確保を挙げています。

ガイドラインに収録されている「一斉帰宅抑制の基本方針」(首都直下地震帰宅困難者等対策協議会)は、もう少し具体的です。企業等は、地震の発生時には電話が輻輳(ふくそう:通信が集中してつながりにくくなること)することを踏まえ、事業所と従業員の間の安否確認方法をあらかじめ定めること、また従業員とその家族の間でも、携帯電話の災害用伝言板、災害用伝言ダイヤル171、SNSなど複数の安否確認手段をあらかじめ確認し、利用するよう周知しておくことを求めています。

ここには2つの経路が含まれています。

  • 会社と従業員の間。 会社が従業員の状況を把握し、出社できる人数や、支援が必要な人を知るための経路です。
  • 従業員と家族の間。 従業員が家族の無事を確かめられないと、帰宅を急ぐ理由になります。家族との連絡手段を決めておくことは、従業員を会社で待機させるための前提にもなります(「一斉帰宅の抑制と従業員の待機」を参照)。

中小企業庁の「事業継続力強化計画策定の手引き」も、人命の安全確保の対策として、従業員の連絡先リスト(電話番号、メール、SNSなど)の作成を推奨の項目に挙げています。

災害用伝言サービスの使い方と制限

通信各社は、災害時に安否の確認をしやすくするため、「災害用伝言サービス」を提供しています。総務省の説明では、災害用伝言ダイヤル(171)と災害用伝言板(web171)はNTT東西が、携帯電話の災害用伝言板は携帯電話4社が、それぞれ自主的に運用しているもので、法令上の提供の義務はありません。利用に事前の登録は必要ありません。

表1災害用伝言サービスの種類と主な条件
サービス使い方伝言の量保存期間
災害用伝言ダイヤル(171)171に電話をかけ、ガイダンスに従って、被災地の人の電話番号あてに音声で録音・再生する1伝言あたり30秒以内。1電話番号あたり1〜20伝言(提供時に告知)提供期間の終了まで
災害用伝言板(携帯電話各社)携帯電話のインターネット接続機能で、「無事です。」などの選択肢と100文字以内のコメントを登録する。確認は全国から電話番号で検索1電話番号あたり最大10伝言1つの災害での伝言板の終了まで
災害用伝言板(web171)パソコンやスマートフォンで web171 にアクセスし、電話番号を入力して文字の伝言を登録・確認する1伝言あたり全角100文字まで。1電話番号あたり20伝言サービス提供終了まで(最大6か月程度)

総務省「災害用伝言サービス」、NTT東日本「災害用伝言ダイヤル(171)概要とご提供のしくみ」をもとに編集部作成。条件は提供のたびに通信事業者が設定する

いずれも、提供の開始や条件は、状況に応じて通信事業者が設定し、テレビ・ラジオ・インターネットなどで告知されます。表1の数値は、総務省とNTT東日本が案内している標準的な条件です。

使うときに注意したい点がいくつかあります。

  • 171の録音・再生は、被災地の人の電話番号あてに行います。固定電話の番号は市外局番から入力します。会社で使う場合は、「誰の番号に録音するか」を決めておかないと、伝言が分散して見つけられません。
  • 171と web171 は連携していて、それぞれに登録した伝言を相互に確認できます。一方、総務省の説明では、災害用伝言ダイヤルと携帯電話各社の災害用伝言板はそれぞれ独立したサービスです。
  • 171では、暗証番号を付けて録音・再生することもできます。
  • web171は、事前に利用者登録をしておくと、伝言が登録されたときにメールまたは電話(人工音声)で自動的に通知されるようにできます。

通話料について、NTT東日本は、NTT東日本・NTT西日本の電話サービスから録音・再生する場合の通話料は無料で、ほかの通信事業者の電話や携帯電話から発信する場合は各事業者に問い合わせるよう案内しています。

体験利用日に使ってみる

災害用伝言サービスは、次の体験利用日にも運用されています(総務省・NTT東日本による)。

  • 毎月1日、15日
  • 正月三が日(1月1日〜3日)
  • 防災とボランティア週間(1月15日〜21日)
  • 防災週間(8月30日〜9月5日)

通信事業者によっては、これ以外の体験利用日を設けている場合や、地域の防災訓練の際に体験できる場合もあります。災害が起きている間は体験利用ができないことがあります。

会社として決めておくこと

伝言サービスは、個人どうしの安否確認には向いていますが、会社が従業員全員の状況を短い時間で集計する用途には限界があります。会社と従業員の間の経路は、別に決めておく必要があります。

北海道経済産業局の「安否確認訓練企画シート」(2026年1月)は、安否確認の運用を、通知・報告・集計・フォロー(未回答者への連絡)の4つに分けて、それぞれの手段と担当を決める形をとっています。シートの記載例は特定の事業者の利用を推奨するものではないと注記したうえで、次の点を解説しています。

  • 通知は、災害時の通信障害を考えて、メールやSMS、アプリなど複数の経路を確保することを検討する
  • 報告は、従業員全員が自力で操作できる手段にする
  • 集計は、手作業ではなく自動で集計できる手段を選び、未回答者をすぐに把握できるかも考慮する
  • 未回答者へのフォローは、電話など別の手段で、各部署の責任者が行う

報告項目は5つ程度に絞る

同じシートは、単に「従業員が無事か」だけを確かめても、復旧の対応に当たれる従業員が何人いるかなど、事業の早期復旧に必要な情報はわからないとしています。一方で、災害時は心理的にも物理的にも余裕がないため、回答の項目が多いと回答できない原因になるとして、5項目程度に絞ることを勧めています。

表2安否確認の報告項目の例
報告事項選択肢の例
氏名自由記述
所属部署自由記述
本人の安全状況無事/軽傷(移動可能)/重症(移動不可)
家族の安否状況無事/負傷者あり
出社可能性出勤可/出勤不可

経済産業省北海道経済産業局「安否確認訓練企画シート 記載例と解説」(2026年1月23日)の記載例をもとに編集部作成

回答の順番は、「本人の無事、けがの有無、出社できるか」のように直感的に答えられる並びにするよう解説されています。

このほか、次の点も社内で決めておきます。

  1. 安否確認を始める条件。 所在地で震度いくつ以上の地震が起きたら、会社から連絡がなくても従業員が自分から報告する、という条件を決めておくと、通知が届かない場合にも報告が集まります。
  2. 会社の連絡先が使えないときの報告先。 災害用伝言ダイヤルで録音する電話番号(会社の代表番号など)や、代わりの報告先を決めます。
  3. 対象者の範囲。 パート・アルバイトや派遣社員を含めるかは、会社の体制や、事業継続に欠かせない業務に就いているかを考えて決めるよう、シートは解説しています。
  4. 連絡先の更新。 入社・異動・電話番号の変更のたびに連絡先リストを更新する担当を決めます。

年1回の安否確認訓練

決めた手段が本当に使えるかは、訓練で確かめます。内閣府のガイドラインは、企業等に年1回以上の実動訓練や図上訓練による手順の確認と改善を求めています。

北海道経済産業局のシートは、所要時間1時間30分の訓練プログラムの例を示しています。

表3安否確認訓練のプログラム例
プログラム所要時間企画者が確かめること
①安否確認訓練の開始通知—通知が問題なく届いているか
②回答15分参加者からの回答を受け取れているか
③未回答者に対するフォロー30分フォローの手段に不都合はないか
④集計15分集計の機能が問題なく使えるか
⑤評価・振り返り15分到達目標を達成できたか、未回答の理由は何か

経済産業省北海道経済産業局「安否確認訓練企画シート 記載例と解説」(2026年1月23日)をもとに編集部作成

シートの記載例では、到達目標を「報告率90%以上、所要時間30分以内」のように数値で決めています。数値で決めておくと、訓練の後に達成できたかを評価しやすくなります。解説では、回答の時間は10〜15分程度の短い時間に設定し、未回答者へのフォローには30分程度を確保することを勧めています。フォローの時間が短いと、「危険な状態にある人」と「単に見落とした人」を区別できないためです。

また、最初の訓練は実施日を事前に知らせ、対象者、目的、通知が届く手段と返信のしかたを伝えておくと、報告漏れを減らせます。慣れてきたら、事前の連絡をせずに行うことも効果的だとされています。

訓練の後は、未回答だった人に理由を聞き、報告項目や手段を見直します。記載例では、報告率が目標に届かなかった原因として新人の不慣れや操作ミスを挙げ、フォームの見直しや社員教育を改善策にしています。体験利用日に家族と一緒に171や web171 を試してもらうことも、従業員と家族の間の経路を確かめる方法になります。

安否確認の手順は、事業継続力強化計画の申請書の「従業員の安否確認方法」の欄にも書く内容です(「事業継続力強化計画の申請書の書き方」を参照)。訓練の結果を踏まえた見直しは、「年1回の見直しで確認すること」で扱います。

従業員が家族と171・web171を試しておくよう呼びかける案内は、「従業員の家庭の備え 配布キット」で会社名を入れて印刷できます。