令和2年2月5日の朝8時ごろ、神奈川県逗子市池子で、道路に隣接する民有地の斜面が崩れ、歩道を歩いていた人が土砂に巻き込まれて亡くなりました。国土交通省の資料によると、崩れた規模は幅8〜9m、長さ8m、深さ1m程度で、雨は降っていませんでした。原因は、風化した凝灰岩(火山灰が固まった岩石)が崩れ落ちたものと考えられています。

国土交通省はこの事例を受けて、斜面は風化が進むと雨が降っていなくても突然崩れる危険性があるとして、土地所有者が自主的に点検するときのポイントを示しました。この記事では、その資料と神奈川県の公表資料をもとに、がけや擁壁の近くにある事業所や工事の現場で、平時に確かめておくことを整理します。

がけ崩れは突然起きるため、平時の点検が前提になる

国土交通省は、がけ崩れを、地中にしみ込んだ水分が土の抵抗力を弱め、雨や地震などの影響で急激に斜面が崩れ落ちる現象と説明しています。突然起きるため、人家の近くで起きると逃げ遅れる人も多く、死者の割合も高くなっているとしています。神奈川県も、がけ崩れは崩壊の速度が極めて速く、主な要因は大雨や長雨で地面に水がしみ込むことだが、地震で起きることもあると説明しています。

県内でがけ崩れが多い地域として、神奈川県は三浦半島や横浜、川崎、鎌倉市内を挙げています。こうした地域に事業所や倉庫、介護施設、工事の現場がある場合は、大雨の日の対応だけでなく、晴れた日の点検を組み合わせることが前提になります。事業所や経路が土砂災害警戒区域に入っているかどうかは、土砂災害警戒区域に事業所や通り道が入っていないかを調べるで調べ方を整理しています。

斜面と擁壁で見る項目

点検は、斜面そのもの、擁壁、排水の3つに分けて見ると漏れが少なくなります。擁壁について国土交通省は、構造物である擁壁は時間の経過とともに老朽化し、雨や地震によってひびが入ったり傾いたりするが、その危険度の程度は住民にはわかりにくいと説明しています。見た目で判断しにくいからこそ、毎回同じ項目を同じ順で確かめ、前回との違いを記録することが点検の中心になります。

表1斜面・擁壁の点検で見る項目
対象見る項目資料での位置づけ
斜面亀裂がないか風化の進行で斜面が不安定になっている可能性がある(国土交通省)
斜面浮き石がないか同上
斜面落石がないか同上
斜面植生が貧弱ではないか風化が進みやすいため、特に注意が必要(国土交通省)
擁壁クラック(ひび割れ)、水平移動、目地の開き、角の部分の開き、傾き擁壁の変状として点検する項目(国土交通省のチェックシート)
排水水抜き穴があるか、詰まっていないか、擁壁から水がしみ出していないか、排水溝がずれたり壊れたりしていないか擁壁の周辺環境の条件として点検する項目(同上)

国土交通省「神奈川県逗子市のがけ崩れをふまえた急傾斜地(がけ地)の点検を行う際のポイント」「我が家の擁壁チェックシート(案)」、神奈川県「用語の解説」をもとに編集部作成

国土交通省の擁壁チェックシートは、空石積み擁壁、増積み擁壁、2段擁壁、張出し床版付擁壁の形式について、本来、宅地の擁壁として適さないものであり、変状がなくても構造上の問題について専門家に相談することを勧めています。また、チェックシートで安全と判定されても日常の点検を続けること、安全度が低いと判定された場合はより詳細な調査を行うことが適当としています。

※1※1国土交通省のチェックシートは、高さ1m以下の擁壁はほぼ安全なものが多いとしてチェックの対象外としています。また、洪水や高潮、地盤の液状化などによる宅地の災害は扱っていません。

前兆現象として示されているもの

点検とは別に、斜面に普段と異なる状況が見られることがあります。神奈川県は、がけ崩れの前兆現象として次のものを挙げています。

  • がけから小石がパラパラと落ちてくる
  • がけに割れ目ができた
  • がけからのわき水が濁ってきた
  • 地面にひび割れができた

土石流については、山全体がうなるような音がする(山鳴り)、川の流れが急に濁ったり流木が混じり始めたりする、雨が降り続いているのに川の水かさが減り始める、といった前兆が挙げられています。山あいの現場や、渓流の近くを通る配送ルートでは、こちらも共有しておきます。

重要度 高

前兆現象に気づいたときは、斜面に近づいて確かめようとせず、直ちに周りの人と安全な場所へ離れてください。気象庁は、こうした普段と異なる状況に気づいた場合は、直ちに周りの人と安全な場所に避難するとともに、市町村役場などに連絡するよう求めています。

工事の現場で法令が求める点検

建設業の現場では、斜面の近くでの作業に法令上の点検の義務があります。労働安全衛生規則第358条は、事業者が明り掘削の作業を行うときは、地山の崩壊や土石の落下による労働者の危険を防止するため、点検者を指名して、作業箇所とその周辺の地山について点検させることを求めています。

表2明り掘削の作業で求められる地山の点検
点検の時期点検する内容
その日の作業を開始する前浮石とき裂の有無と状態、含水・湧水・凍結の状態の変化
大雨の後同上
中震以上の地震の後同上
発破を行った後発破を行った箇所とその周辺の浮石とき裂の有無と状態

労働安全衛生規則 第358条をもとに編集部作成

同規則は、明り掘削の作業で地山の崩壊や土石の落下のおそれがあるときは、あらかじめ土止め支保工を設け、防護網を張り、立入りを禁止するなどの措置を講じること(第361条)も定めています。明り掘削に限らず、地山の崩壊や土石の落下で労働者に危険を及ぼすおそれがあるときは、地山を安全な勾配にする、落下のおそれのある土石を取り除く、擁壁や土止め支保工を設ける、崩壊の原因となる雨水や地下水を排除する、といった措置を講じることも求めています(第534条)。

表2の「大雨の後」の点検は、大雨の日の作業中止の判断とつながっています。大雨の情報が出たときの動き方は、土砂災害警戒情報(レベル4土砂災害危険警報)が出たときの事業所の行動で整理しています。

点検を社内の手順にする

斜面の近くの事業所で点検を続けるには、担当と時期を決めて記録を残すことが欠かせません。次の順で手順を作ります。

  1. 斜面と擁壁の所有者・管理者を確かめる。 神奈川県は、がけ地の防災工事は本来、土地の所有者などが行うべきものとしています。敷地内の斜面か、隣地や道路の斜面かによって、点検の結果を誰に伝えるかが変わります。賃借している拠点では、貸主との役割分担も確かめます。
  2. 区域の指定を確かめる。 急傾斜地崩壊危険区域では、土地の掘削・盛土・切土などの形状を変える行為や、水の放流や浸透を助長する行為などに許可が必要です。敷地内の排水の付け替えや造成を考えるときは、事前に所管の土木事務所に確かめます。
  3. 点検の時期を決める。 定期の点検に加えて、大雨の後と、強い揺れの地震の後に点検する日を設けます。工事の現場では、表2の時期が法令上の最低限です。
  4. 写真で記録する。 毎回同じ位置から斜面と擁壁を撮影し、亀裂や水のしみ出しの変化を比べられるようにします。
  5. 異常があったときの連絡先を決める。 国土交通省の資料は、斜面に変状が見られる場合は市町村などに連絡するよう示しています。所管の市町村の窓口と、土木事務所の連絡先を手順書に書いておきます。
※2※2神奈川県は、県が急傾斜地崩壊対策の工事を行った後の施設は県の所有物になるものの、草刈りや排水溝の掃除などの日常の管理は、住んでいる人や土地の所有者が行うとしています。対策工事が済んだ斜面でも、排水溝の詰まりなどの点検は続ける必要があります。

点検で見つかった課題と、その対応は、BCPの事前対策の欄に書き込んでおくと、年に1回の見直しのときに進み具合を確かめられます。川崎市のように、市町村が崖地や擁壁の点検のポイントや相談の窓口を案内している場合もあるため、所在地の市町村のウェブサイトもあわせて確かめます。