市町村の地域防災計画には、想定する地震が起きたときに、停電が何軒、断水が何人、通信の不通が何回線になるかといった、ライフラインの被害想定が載っています。BCPで「停電が何日続くと考えるか」を決めるとき、手元にある公的な根拠はこの数値です。
ただし、この数値をそのまま自社の前提に写すと、読み違えが起こります。この記事では、県央の大和市・座間市・海老名市の計画を例に、ライフラインの想定の読み方と、自社の計画への置き換え方を整理します。
まず、 どの 調査の 値かを 確かめる
市町村の計画の被害想定は、多くの場合、神奈川県の地震被害想定調査の結果をもとにしています。県は平成25〜26年度に調査を行い、令和7年3月に新しい調査を公表しました。どちらの調査を使っているかは、市町村と計画の版によって違います。
- 大和市(令和5年5月修正):神奈川県が平成25年度から平成26年度に実施した地震被害想定調査の結果をもとに想定している。今後、県が新たに調査を実施する場合は、その結果をもとに見直すとしている
- 海老名市(令和5年2月修正):「神奈川県地震被害想定調査報告書(平成27年3月)」の被害量を活用している
- 座間市(令和8年3月):県が公表した「神奈川県地震被害想定調査報告書」(令和7年3月)の想定地震をもとにしている
大和市は被害が最大となる冬の18時、海老名市は冬の平日午後6時に地震が起きた場合の値であることを明記しており、座間市も電力と通信の表に冬18時の発災と書いています。同じ「都心南部直下地震」でも、平成25〜26年度の調査と令和7年の調査では、手法も前提も違います。※1※1被害想定の考え方は、用語集の被害想定にまとめています。大和市のページでは、同じ市の2つの調査の数値を並べて示しています。
同じ 地震でも、 値の 大きさが 大きく 違う
表1は、都心南部直下地震について、3市の計画に載っているライフラインの想定を並べたものです。
| 項目 | 大和市 | 海老名市 | 座間市 |
|---|---|---|---|
| もとにした県の調査 | 平成25〜26年度 | 平成25〜26年度(平成27年3月報告) | 令和7年3月 |
| 停電 | 113,450軒 | 77,240軒(電灯軒数86,980軒、復旧日数7日) | 最大2,490軒 |
| 通信(固定電話)の不通 | 86,450回線 | 44,820回線 | 2,150回線 |
| 断水人口 | 9,450人 | 16,790人(復旧日数1日) | 直後6,110人(復旧完了9日後) |
大和市地域防災計画 総則 p.17(令和5年5月修正)、海老名市地域防災計画 地震災害対策計画 p.21・p.23(令和5年2月修正)、座間市地域防災計画 資料編 p.44・p.46(令和8年3月)をもとに編集部作成
停電の想定(いずれも都心南部直下地震)は、大和市の113,450軒に対して、座間市は最大2,490軒です。隣り合う市で数十倍の違いがありますが、これを「座間市は停電しにくい」と読むことはできません。座間市の値は令和7年の調査、大和市と海老名市の値は平成25〜26年度の調査で、調査の時期も計算の方法も違うためです。
海老名市の計画は、停電の計算方法を説明しています。電柱の被害などによる配電線の被害に加えて、震度の有無から、供給側の設備の被災に起因する停電軒数を算出しているとしています。都心南部直下地震では、配電線の被害による停電は660軒、供給側の設備の被災による停電は77,240軒で、統合した結果が77,240軒です。つまり、この想定の停電の大部分は、市内の電線が切れることではなく、供給側の設備の被災によるものとして見積もられています。通信の不通回線44,820回線のうち、44,290回線が停電によるものとされているのも、同じ構造です。
想定する地震が変わると、どのライフラインが大きく止まるかも変わります。大和市の計画では、停電は都心南部直下地震でも大正型関東地震でも113,450軒で同じですが、断水人口は都心南部直下地震の9,450人に対して大正型関東地震では82,830人、都市ガスの供給停止は0戸に対して68,690戸です。座間市の資料編でも、大正型関東地震では停電が13,200軒、断水人口が直後34,500人、都市ガスの供給停止が23,500件と、都心南部直下地震より大きな値になっています。停電だけを見て前提を決めると、水やガスが止まる期間を見落とすことがあります。
想定の 数値を、 自社の 計画に 置き換える 手順
このような違いがあるため、市の想定から自社の前提を作るときは、数値そのものよりも、何が起こり得るかと、その期間の見積もりを取り出すことが大切です。次の順番で作業します。
- 所在地の計画のライフラインの表を探す。 本編に載っていない場合は、資料編を確かめます。座間市の計画では、ライフラインの想定は資料編に載っています。
- 調査の名前・年・条件を書き写す。 「神奈川県地震被害想定調査(令和7年3月)、都心南部直下地震、冬18時」のように、社内の資料にそのまま書きます。数値だけを書き写さないようにします。
- 軒数を割合に直す。 母数が載っていれば、割合にすると自社への当てはめが考えやすくなります。海老名市の都心南部直下地震では、電灯軒数86,980軒のうち77,240軒で、約9割にあたります。
- 復旧日数の意味を確かめる。 海老名市の計画は、電力の復旧日数は電柱のみの復旧を対象としていると注記しています。建物の中の設備が使えるようになるまでの日数とは限らないため、自社の前提では、これより長い場合も考えておきます。
- 複数の想定地震を並べる。 1つの地震だけでなく、計画が対策の目標にしている地震と、最大の被害になる地震の両方を確かめます。海老名市の計画では、大正型関東地震の停電は77,240軒、復旧日数は12日です。
- 自社の前提を1行で決める。 「停電は○日続くものとして、止まると困る設備を動かす」のように、社内で共有する前提を決めます。前提の根拠として、手順2で書き写した資料名を添えます。
自社の前提ができたら、止まると困る設備と電源の備えを洗い出します。その手順は停電が長引いたときに事業を続けるための電源の考え方で、通信が止まった場合の連絡手段は通信障害に備える 安否確認と連絡手段の複線化で整理しています。
読む ときに 気を つける こと
市の想定は、市の全域を対象にした値です。自社の事業所がある地点で停電するかどうか、何日で復旧するかを示すものではありません。海老名市の計画は、県の調査で報告された被害量を、応急活動の事前対策や応急活動対策、復旧・復興対策を計画的に進めるために活用するとしています。事業所の地点ごとの見通しを示すことを目的にした値ではない、と考えて使います。
また、計画は改定されます。座間市の計画は、災害対策基本法第42条にもとづき毎年検討を加え、必要があると認めるときは修正するとしています。大和市の計画も、県が新たに調査を実施する場合は、その結果をもとに見直すとしています。自社の前提に市の想定を使ったときは、計画の版を記録し、BCPを見直す時期に、所在地の計画が改定されていないかを確かめます。
ライフラインの想定を社内で説明するときは、「どの調査の、どの地震の、どの条件の値か」を必ず添えます。数値が大きいか小さいかより、その値がどの前提から出てきたかを示すほうが、取引先や社内の理解を得やすくなります。BCPの全体の組み立ては、BCPの基本を参照してください。