介護施設で電気が止まると、影響は一か所にとどまりません。たんの吸引などの医療機器、冷蔵庫と調理の設備、冷暖房、電話や記録のパソコンが、同じ時刻にいっせいに使えなくなります。どれから手当てするかをその場で考えると、判断が遅れます。
厚生労働省の「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」は、電気が止まった場合の対策を、自家発電機があるかどうかで分けて書くよう示しています。この記事では、このガイドラインと、災害時の社会福祉施設等の支援に関する厚生労働省の通知をもとに、施設で決めておくことを順に整理します。計画全体の義務と中身は、介護事業所の業務継続計画(BCP)で説明しています。
止まる 設備を 書き出し、 優先順位を 付ける
最初の作業は、施設のなかで電気を使っている設備を書き出すことです。ガイドラインの記載例では、稼働させるべき設備として、医療機器(喀痰吸引、人工呼吸器など)、情報機器(パソコン、テレビ、インターネットなど)、冷蔵庫・冷凍庫、照明器具・冷暖房器具が挙げられています。
書き出した設備には、優先順位を付けます。ガイドラインは、自家発電機がある場合について、発電機でまかなえる時間と範囲を確認し、使用する設備を決めたうえで優先順位をつけるよう求めています。例として、最優先を医療機器・情報収集、優先を照明・空調としています。
| 優先度 | 設備の例 | 自家発電機がない場合の代わりの手段の例 |
|---|---|---|
| 最優先 | 医療機器(喀痰吸引、人工呼吸器など) | 乾電池、手動で動かせるもの、機器のバッテリー |
| 最優先 | 情報収集(テレビ、ラジオ、インターネット、携帯電話) | 乾電池式のラジオ、車のバッテリーからの充電 |
| 優先 | 照明 | 乾電池式の照明 |
| 優先 | 冷暖房 | 夏は保冷剤、冬は湯たんぽ・毛布・使い捨てカイロなど |
| — | 冷蔵庫・冷凍庫 | 夏場の暑さ対策として保冷剤を用意 |
厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」の記載例をもとに編集部作成。代わりの手段の欄は同ガイドラインの記述から編集部が例として整理
自家発電機がない施設について、ガイドラインは、電気なしでも使える代わりの物(乾電池や手動で動くもの)の準備や、業務の進め方を検討するよう示しています。自動車のバッテリーや電気自動車の電源を活用すること、太陽光発電など再生可能エネルギーの活用を検討することも挙げられています。
表1は一つの例です。入所者のなかに医療機器を使っている方が何人いて、どの機器を使っているかで、最優先の範囲は変わります。入所者の状態が変わったときは、表もあわせて見直します。
医療機器の 電源を 確かめる
停電への備えで、命に直接関わるのは医療機器です。確かめておくことは、次の順番で整理すると漏れが少なくなります。
- 機器の一覧を作る。 入所者ごとに、使っている医療機器の種類と台数を一覧にします。
- バッテリーで動く時間を確かめる。 機器ごとに、内部・外部のバッテリーでどのくらい動くかを、取扱説明書や販売・貸与している業者に確かめます。
- 予備の電源を決める。 自家発電機につなぐのか、予備のバッテリーを使うのか、乾電池や手動の器具に切り替えるのかを機器ごとに決めます。
- 切り替えの手順を職員が練習する。 夜間の少ない人数でも切り替えられるよう、訓練で実際に手を動かします。
- 医療機関との連絡の段取りを決める。 電源が確保できない場合に、どこに連絡し、誰が判断するかを決めておきます。
バッテリーで動く時間は、機器によって大きく違います。在宅で使う人工呼吸器についての厚生労働省の資料では、使用機器による差はあるものの、内部・外部バッテリーの稼働時間は約30分から11時間とされています。※1※1この数値は、在宅で人工呼吸器を使う患者の支援について検討した厚生労働省の会議資料(平成31年3月)によります。施設で使っている機器の稼働時間は、機器ごとに確かめる必要があります。同じ種類の機器でも、施設にある1台ずつの時間を確かめておく必要があります。
自家発電機がある施設では、ガイドラインは、あらかじめ設置場所と稼働方法を確認し、燃料の確保策を取引業者と確認しておくよう示しています。記載例には、発電機の出力と使用可能な時間、燃料の種類を書く欄があります。発電機が何時間動くかは、燃料の量で決まります。燃料をどこから、どのくらいの時間で補給できるかまで決めて、はじめて計画として使えます。
食事・水・トイレを 電気と ガスなしで 回す
停電すると、冷蔵庫と調理の設備、給湯が止まります。都市ガスが同時に止まることもあります。ガイドラインは、都市ガスが止まった場合、復旧まで長い期間(1か月以上)かかる可能性があるとしています。カセットコンロは火力が弱く大量の調理は難しいため、それを考えて備蓄を整えるよう示しています。
ガイドラインの記載例では、ガスが止まった場合の代わりの手段として、次のようなものが挙げられています。
- 調理:カセットコンロ、カセットガス、ホットプレート
- 給湯:入浴は中止し、清拭に切り替える
- 暖房:湯たんぽ、毛布、使い捨てカイロ、灯油ストーブ
ホットプレートは電気を使う器具です。停電とガスの停止が重なる場合には使えないため、自家発電機の優先順位の表にのせるかどうかを決めておきます。
備蓄の 量の 考え方
備蓄について、ガイドラインは、行政の支援が始まる目安である被災後3日目まで、自力で業務を続けるための備蓄を行うとしています。備蓄の数量の考え方として、水は1人1日3リットル(3日で9リットル)、食料は1人1日3食(3日で9食)、毛布は1人1枚を挙げ、1人当たりの数量に日数を掛け合わせると目安になると説明しています。食料品の例には、経管栄養食や高カロリー食も含まれています。
厚生労働省などの通知も、都道府県と市区町村が社会福祉施設等に対し、ライフラインの途絶や物流の断絶に備えて、入所者と職員の最低でも3日間の生活に必要な食料・飲料水・生活必需品・燃料などの備蓄に努めるよう要請することとしています。
水道が止まったときのトイレについて、ガイドラインは、簡易トイレを備蓄し、電気・水道が止まった場合は速やかに所定の場所に設置して使うよう案内することを挙げています。周知が遅れると汚物があふれて処理の業務が増えるためです。
| 品目 | 1人当たり | 3日分(1人) | 50人の場合 |
|---|---|---|---|
| 水 | 1日3リットル | 9リットル | 450リットル |
| 食料 | 1日3食 | 9食 | 450食 |
| 毛布 | 1枚 | 1枚 | 50枚 |
数量の考え方は厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」による。50人の場合の計算は編集部による例
通信と 記録を 止めない、 支援に つなぐ
停電すると、固定電話やパソコン、施設内のネットワークが使えなくなることがあります。ガイドラインは、被災時は固定電話や携帯電話が使えなくなる可能性があるため、複数の連絡手段で関係機関と連絡がとれるように準備しておくよう示しています。あわせて、電気が止まってサーバなどが使えなくなった場合の対策として、手書きによる事務処理の方法や、データのバックアップの方法を計画に書くよう求めています。
入所者の服薬や医療機器の設定など、停電中にも必要になる情報は、紙でも確かめられるようにしておきます。どの書類を持ち出すかを決めておくことも、ガイドラインの確認項目に含まれています。
行政の 支援の 流れを 知って おく
こども家庭庁と厚生労働省の通知「災害発生時における社会福祉施設等の被災状況の把握等について」では、災害時の社会福祉施設等の支援の流れが示されています。施設が知っておきたい点は次のとおりです。
- 台風などあらかじめ予想できる災害では、都道府県等が施設に対し、非常用自家発電設備が正常に動くかの点検・確認、食料や飲料水などの確保、燃料の補充や補給手段の確保、早めの避難の検討などを呼びかけることとされています
- 災害時は、国と都道府県等が「災害時情報共有システム」で施設の被災状況を把握します。都道府県等は、被害がない場合も含めて入力されているかを施設に確かめ、入力のない施設には速やかな入力を依頼することとされています
- 停電している施設については、都道府県等が非常用自家発電設備の有無を確かめ、電源車の支援を求めている施設を把握して、電源車による支援の調整を行うこととされています
- 発電設備の燃料が足りず、通常の取引先から調達できない場合には、都道府県の災害対策本部などを通じて燃料の支援を要請する仕組みがあります
つまり、支援を受けるには、施設が自分の状況(停電しているか、発電機があるか、燃料があと何時間分か)を正しく伝えられることが前提になります。停電しても入力や連絡ができるよう、携帯電話の充電の手段と、連絡を担当する職員を決めておきます。
停電への備えは、設備を買いそろえることよりも、どの設備を何時間動かすかを先に決めることから始まります。表1のような一覧を施設の実情に合わせて作り、訓練で実際に切り替えてみると、足りない物と手順がわかります。施設の所在地で想定されている災害は、拠点リスク確認で調べられます。