災害のあと、従業員の安否を確かめる手段として、多くの会社がまず電話を思い浮かべます。ところが、大きな災害の直後は電話がつながりにくくなります。総務省は、東日本大震災の直後、携帯電話事業者によっては最大で平常時の約50〜60倍以上の通話が一時的に集中したとしています。

この記事では、電話がつながりにくくなる理由と県内の想定を確かめたうえで、通信事業者が災害時に提供する伝言サービスの違いを整理し、社内の安否確認を複数の手段で組み立てる手順をまとめます。

電話がつながりにくくなる理由と、県内の想定

災害時に通信が使えなくなる原因は、大きく分けて3つあります。

  • 輻輳(ふくそう):安否を気遣う電話が集中して、回線が混み合う
  • 設備の被害:電柱や電線、通信設備が壊れる
  • 停電:基地局や事業所の通信機器の電源が失われる

海老名市の地域防災計画(地震災害対策計画、令和5年2月修正)は、神奈川県の地震被害想定調査(平成27年3月報告)にもとづき、輻輳について、都心南部直下地震では県内の固定電話と携帯電話で80〜90パーセントの発信規制が行われ、2、3日は続く想定になっているとしています。携帯電話のパケット通信(データ通信)は30パーセント程度の発信規制が行われるものの、比較的早く解消される想定です。

同じ計画は、市内の固定電話の不通回線数を、都心南部直下地震で44,820回線(世帯数総数50,410回線)と想定しています。このうち44,290回線は停電によるものとされ、揺れによるものは160回線です。通信の途絶は、設備の損壊よりも、停電によって起こる部分が大きいと読み取れます。

停電と通信の関係について、国の検討会の報告(令和2年4月)は、停電の範囲で基地局の非常用発電設備の燃料が切れると携帯電話の電波が止まること、固定電話も商用電源を使わない電話機を除いて使えなくなることを示しています。事業所の電話機やルーターが停電で止まるかどうかも、確かめておく対象です。※1※1海老名市の計画によれば、NTT東日本などの通信設備を収容するビルは震度7クラスの地震に耐えるよう設計され、停電時には予備の蓄電池が作動し、その後は非常用発電機または移動電源車でバックアップを行うとされています。

災害時に使える伝言サービスの違い

電話が混み合うときに使える手段として、通信事業者は災害用の伝言サービスを用意しています。総務省は、災害用伝言ダイヤル(171)と災害用伝言板(web171)はNTT東西が、災害用伝言板は携帯電話4社が自主的に運用しているもので、提供は法令上の義務ではないとしています。

表1災害時に使える主な伝言サービス
項目災害用伝言ダイヤル(171)災害用伝言板(web171)携帯電話各社の災害用伝言板
使い方171に電話をかけ、音声で録音・再生パソコンやスマートフォンから、電話番号を入力して文字で登録・確認携帯電話・スマートフォンから、文字で登録。確認はパソコン等からも可能
1件の長さ30秒以内100文字以下選択肢と、100文字以内のコメント
件数電話番号あたり1〜20伝言(提供時に知らせる)最大20件(超えると古い伝言から削除)1電話番号あたり最大10伝言(超えると古いものから上書き)
保存期間運用期間の終了まで最大6か月その災害での伝言板の終了まで
料金NTT東西の電話からの通話料は無料(他社の電話・携帯電話は各社に確認)無料(インターネット接続の費用は別)無料(他社の伝言板へのアクセスにはパケット通信料が必要)

総務省「災害用伝言サービス」、NTT東日本「災害用伝言ダイヤル(171)」「災害用伝言板(web171)」の各ページをもとに編集部作成。提供条件は災害時の状況に応じて各社が設定する

171とweb171は連携していて、それぞれで登録した伝言を相互に確認できます。携帯電話各社の災害用伝言板とweb171は、横断して検索できるようになっています。一方で、総務省は、災害用伝言ダイヤルと災害用伝言板はそれぞれ独立したサービスだとしています。携帯電話各社の災害用伝言板への登録は、被災地域内の携帯電話からのアクセスに限られます。

171は、加入電話、INSネット、公衆電話、ひかり電話のほか、災害時にNTTが避難所などに設置する災害時用公衆電話から使えます。携帯電話からも使えますが、詳しくは契約している通信事業者への確認が必要とされています。INSネットとひかり電話で、ダイヤル式の電話機を使っている場合は利用できません。

web171では、あらかじめ利用者登録をしておくと、伝言が登録されたときに通知先へメールや電話(音声)で知らせることができます。メールの通知先は最大10件、音声の通知先は最大1件まで登録できます。

注意

登録された伝言は、保存期間が過ぎて消去される以外の方法では削除できない、と総務省は説明しています。171には暗証番号を使って録音・再生する方法もあります。社内の連絡に使う場合は、伝言に入れる内容(氏名・安否・居場所・出勤できるか)をあらかじめ決め、住所など不要な個人情報は入れないようにします。

社内の安否確認を、複数の手段で組み立てる

伝言サービスは、1つの電話番号を「伝言の置き場所」にして使う仕組みです。社内で使うには、どの番号を置き場所にするか、誰が確かめるかを決めておく必要があります。次の順番で決めると、手順が短くまとまります。

  1. 伝言を置く電話番号を決める。 事業所の代表番号にまとめるのか、各自の携帯電話番号に登録するのかを決めます。固定電話の番号は市外局番から入力します。
  2. 手段の順番を決める。 社内で使っている安否確認の仕組みやメール、チャットに加えて、つながらないときに使う171・web171・携帯電話各社の災害用伝言板の順番を決めます。音声通話より、データ通信を使う手段のほうが混み合いにくい理由があります。※2※2総務省は、災害用伝言ダイヤルは全国に分散したシステムで運用され、被災地以外で伝言を預かるためつながりやすく、災害用伝言板は電話(音声通信)ではなくインターネット等(データ通信)で登録・確認するためつながりやすいと説明しています。
  3. 伝言の定型を決める。 「氏名、無事かどうか、今いる場所、出勤できるか」など、短く入れる項目を決めます。171は1伝言30秒以内、web171は100文字以下です。
  4. 確かめる担当者を決める。 誰が伝言を再生・確認し、結果をどこに集めるかを決めます。担当者が被災した場合の代わりの人も決めます。
  5. 連絡がつかないときの行動を決める。 連絡がつかない場合に、従業員が自分で判断して取る行動(その場にとどまる、決めた集合場所に向かうなど)を決めておきます。
  6. 体験利用日に訓練する。 次の章の体験利用日に、実際に登録と確認をしてみます。

停電に備えて、事業所の電話機・ルーター・携帯電話の充電手段を確かめることも、この手順の一部です。電源の備えは停電が長引いたときに事業を続けるための電源の考え方で整理しています。

体験利用日に訓練する

171とweb171は、災害時以外にも体験利用ができます。NTT東日本は、体験利用の提供日を次のように案内しています。

表2災害用伝言ダイヤル(171)の体験利用日
時期期間
毎月1日、15日0時〜24時
正月三が日1月1日0時〜1月3日24時
防災週間8月30日9時〜9月5日17時
防災とボランティア週間1月15日9時〜1月21日17時

NTT東日本「災害用伝言ダイヤル(171)体験利用のご案内」をもとに編集部作成

NTT東日本によれば、体験利用時の提供条件は、伝言録音時間30秒、電話番号あたり20伝言で、伝言は体験利用期間の終了まで保存されます。災害が発生した際には体験利用ができない場合があります。総務省は、携帯電話各社の災害用伝言板を含む災害用伝言サービスも、毎月1日・15日、正月三が日、防災とボランティア週間、防災週間に体験利用できるとし、事業者によってはこれ以外にも体験利用日を設けている場合があるとしています。

総務省は、家族や友人、職場の同僚と体験利用日に使い方を確かめ、災害時の安否確認の方法をあらかじめ決めておくよう呼びかけています。年に1回、防災週間などに合わせて社内で登録と確認の訓練をし、手順で決めた番号や定型が実際に使えるかを確かめると、手順の見直しにもつながります。安否確認はBCPの初動の一部です。全体の組み立てはBCPの基本を参照してください。