降灰の被害は、地震や洪水と性質が違います。内閣府の「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」(令和7年3月)は、火山灰は徐々に降り積もり、触れても危険性は低いため、緊急的・直接的な命の危険性は低いとしています。その一方で、除去しない限りなくならないため、物資輸送やライフラインに長期間影響が出る可能性があるとも述べています。
事業所にとって問題になるのは、建物が一度に壊れることよりも、電気・通信・水が少しずつ使えなくなり、それが何日も続くことです。この記事では、国の検討会の報告(令和2年4月)とガイドラインが示した想定から、事業所の設備と従業員にどのような影響が出るとされているかを、降灰量の段階に沿って整理します。
降灰量で 分けた 4つの 段階
ガイドラインは、降灰量に応じて起こる被害の様相を4つの「ステージ」に分けています。事業所で影響を考えるときも、この区分を使うと、国や県の呼びかけと足並みをそろえやすくなります。
| 段階 | 降灰量 | 主な被害の様相 | 住民等の基本的な行動 |
|---|---|---|---|
| ステージ1 | 微量〜3cm | 鉄道・航空機等の運行停止、物資供給の支障 | 自宅等で生活を継続 |
| ステージ2 | 3〜30cm(被害が比較的小さい) | 道路通行・物資供給が困難、ライフラインへの影響は小さい | 自宅等で生活を継続 |
| ステージ3 | 3〜30cm(被害が比較的大きい) | 道路通行・物資供給が困難、ライフラインへの影響が大きく長期化 | 自宅等で生活を継続(状況に応じ生活可能な地域へ移動) |
| ステージ4 | 30cm以上、または降灰後の土石流が想定される範囲 | 降雨時に木造家屋が倒壊する可能性 | 原則避難 |
内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン(概要)」p.3(令和7年3月)をもとに編集部作成
ステージ2と3は降灰量の幅が同じで、ライフラインの被害の大きさで区別されています。ガイドラインは、火山灰は時間とともに徐々に積もるため、各地点では下の段階を経て上の段階に至る場合が多いとしています。除灰作業によって状況がよくなる場合もあります。
神奈川県は、降灰の厚さによる影響として、数ミリで道路交通に支障、10センチ以上で渓流に積もった灰による土石流の可能性、30センチ以上で木造家屋の倒壊のおそれ、と整理しています(神奈川県「火山の防災対策」)。
停電は 薄い灰でも、 雨が 降ると 起こり 得る
電気への影響は、事業所にとって最も広い範囲に及ぶものです。令和2年の報告は、降雨時に0.3cm以上の降灰で、碍子(がいし。電線を支え、電柱との間を絶縁する器具)の絶縁が低下して停電が起こるとしています。灰が乾いていれば起こりにくく、雨で濡れると起こりやすくなるという条件付きの目安です。※1※1報告の表では、この停電の目安には、火山礫の範囲、塩害対策済みのエリア、地下・屋内の施設は除くという条件が付いています。ガイドラインも、配電線・送電線の地中化や碍子の塩害対策が行われた場合には、降灰に伴う停電は発生しないと想定されるとしています。
ほかにも、報告は電気に関する影響として次のものを挙げています。
- 数cm以上の降灰で、火力発電所の吸気フィルタの交換頻度が増え、発電量が低下する。需要の抑制や電力融通でも供給力が足りない場合は停電に至る
- 降雨時10cm以上で、倒木による配電線の切断で停電する
- 0.03cm以上で、太陽光発電パネルの発電量が減る
- 火山灰が入り込むことによるガスタービン式の非常用発電設備の不具合や、メンテナンスの頻度が増えることによるディーゼル式の非常用発電設備の出力の低下
最後の項目は、事業所の非常用電源そのものが降灰の影響を受けることを示しています。停電への備えとして発電機を置いている場合も、吸気まわりが灰でふさがれないか、燃料が届かない期間をどう見込むかを、ほかの災害とは別に考える必要があります。
通信・水道も、 停電が 長引くと 止まる
通信について報告は、噴火直後には利用者が増えることによる電話の輻輳(つながりにくくなること)が起こり、降雨時には基地局などのアンテナに火山灰が付着して通信が阻害されるとしています。停電の範囲では、基地局の非常用発電設備の燃料が切れると携帯電話の電波が止まり、商用電源を使わない電話機を除いて固定電話も使えなくなるとされています。
水道は、原水に火山灰が混ざって水質が悪化し、浄水施設の処理能力を超えると、飲用に適さなくなるか断水になるとされています。下水道は、降雨時に雨水の管が灰で詰まり、その上流から雨水があふれる可能性があります。ここでも停電が重なると、浄水場やポンプの非常用発電設備の燃料切れによって断水や下水道の使用制限が起こるとされています。
ガイドラインの表Ⅲ-6-1は、停電が長引いた場合にライフラインの施設などへの影響が出ること、その期間は燃料の備蓄の状況などで変わることを、上下水道・通信に共通する影響として示しています。つまり、降灰の影響は停電を起点に広がっていく構造になっています。
建物・ 空調・電子機器への 影響
建物について、報告は、降雨時30cm以上の堆積で木造家屋が火山灰の重みで倒壊するものが出るとしています。体育館などの支点の間が長い大型の建物は、その地域の積雪荷重を超える重さの灰が載ると損壊するものが出るとされています。倉庫や工場のように屋根の面積が大きく勾配の緩い建物は、この条件に当てはまるかを確かめる対象になります。
事業所で見落としやすいのが、空調と電子機器です。報告は、5cm以上の堆積で空調設備の室外機に不具合が生じるとしています。ガイドラインは、空調の室外機などが降灰で目詰まりする可能性があるとして、空調が不調になると影響が出る分野では、フィルターの設置や交換用フィルターの備蓄などの対策を企業・施設でも進める必要があるとしています。通信の分野では、基地局の空調が不調になると機器が正常に動かなくなることも想定されています。報告の表には、火山灰の侵入による電子機器の不調、屋外で使う家電製品・情報機器の不具合も、影響として挙がっています。
サーバーやネットワーク機器を置いた部屋、冷蔵・冷凍の倉庫、精密機器の工程など、空調が止まると業務が止まる場所を先に洗い出しておきます。室外機の位置と、交換用フィルターの有無も確かめます。
従業員の 健康と 屋外作業
報告は、降灰による健康被害として、目・鼻・のど・気管支などに異常が生じることがあり、呼吸器疾患や心疾患のある人は症状が悪くなるなどの影響を受ける可能性が高いとしています。ガイドラインは、降灰による直接の急性の健康被害の可能性は低いとしつつ、屋外で行動するときにはゴーグルとマスクの着用などの対策が望ましいとしています。
除灰などの屋外作業については、ガイドラインは、ヘルメット・防塵マスク・ゴーグルなどを着け、視界不良による事故が起こらないよう配慮し、厚手の手袋や作業靴で安全を確保する必要があるとしています。事業所の敷地で除灰をする場合は、作業する従業員の装備と、持病のある従業員を屋外作業から外す判断を、あらかじめ決めておくことになります。
ここまでの想定を事業所の側から見ると、影響の出方には順番があります。まず鉄道が止まって人が動けなくなり、次に雨と重なって停電が起こり、停電が長引くと通信と水が止まります。社内で影響を洗い出すときは、自社の拠点がどのステージに入り得るかを確かめたうえで、停電が何日続くと何が止まるかを設備ごとに並べると、対策の優先順位が見えやすくなります。
具体的な備品と社内の手順は降灰に備える事業所の備品と社内の手順で、道路と鉄道への影響は富士山の降灰と物流で整理しています。停電が長引いたときの電源の考え方は、停電が長引いたときに事業を続けるための電源の考え方を参照してください。