大きな地震の後に従業員を事業所にとどめる理由と、帰宅させる判断の基準は「一斉帰宅の抑制と従業員の待機」で整理しました。この記事では、その次の作業として、備蓄の量を人数から計算し、期限の管理と保管場所まで決める手順を扱います。計算の例に使う人数は、編集部が例として選んだものです。

公的な資料が示す備蓄の日数と量

事業所の備蓄の目安としてよく使われるのは、内閣府の「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」(令和8年1月)です。官民の「首都直下地震帰宅困難者等対策協議会」が平成24年9月にまとめた最終報告をもとに作られ、改定を経て現在の版になっています。

ガイドラインは備蓄量の目安を3日分とし、3日分以上の備蓄も検討するよう求めています。1人あたりの量は、水が1日3リットルで計9リットル、主食が1日3食で計9食、毛布が1枚です。東京都の帰宅困難者対策ハンドブックが示す目安も同じです。

従業員1人あたりの備蓄の目安(3日分)
日数
3日分
3日分以上も検討する
水
9リットル
1日3リットル × 3日
主食
9食
1日3食 × 3日
毛布
1枚
携帯トイレ
15回分
1日5回 × 3日

内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」(令和8年1月)、東京都「東京都帰宅困難者対策ハンドブック」(令和5年3月)。トイレは内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(令和6年12月改定)の1日5回で3日分を計算

表1公的な資料が示す、事業所の備蓄の日数
資料日数の目安事業所に関する記述(要旨)
内閣府 帰宅困難者等対策のガイドライン3日分(3日分以上も検討)来客者など外部の帰宅困難者のため、例えば10%程度の量を余分に備蓄する
東京都 帰宅困難者対策条例(第7条第2項)3日分従業者の3日分の飲料水、食糧などを備蓄するよう努める(都内の事業者が対象)
神奈川県地域防災計画(地震災害対策計画)企業の欄に日数の記載なし企業は食料・飲料水等を備蓄する。県と市町村は、従業員などを一定期間事業所内にとどめるための水・食料・物資等の備蓄を促す
藤沢市地域防災計画最低3日分(可能な限り7日分)企業は従業員等の食料・飲料水等を備蓄する
川崎市地域防災計画(震災対策編)最低3日間、推奨1週間分以上食料、飲料水、携帯トイレ・簡易トイレ、トイレットペーパー等の備蓄を推進する

内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」(令和8年1月)p.7・p.32、東京都「東京都帰宅困難者対策ハンドブック」(令和5年3月)p.15・p.43・p.46、神奈川県防災会議「神奈川県地域防災計画 地震災害対策計画」(令和8年3月)p.27〜28・p.84、藤沢市・川崎市の地域防災計画をもとに編集部作成

神奈川県の計画は、県民の備えには「最低3日分、推奨1週間分」を挙げていますが、企業の役割の項では日数を示していません。市の計画には、事業所にも1週間分程度を勧めるものがあります。所在地の市町村の計画を確かめ、3日分を下限に、何日分にするかを会社として決めます。※1※1県内の市町村の計画が事業所に求めている備蓄は、当サイトの市町村・区のページの「事業所の役割」タブにまとめています。

数える人数の決め方

ガイドラインは、対象を、雇用の形態(正規・非正規)を問わず事業所内で勤務する全従業員としています。交代勤務や外回りで全員がそろわない場合について、東京都のハンドブックは、発災時とその直後に職場にいるであろう従業者が3日間待機できる量を備える趣旨だと説明しています。在籍者の総数ではなく、事業所にいる人数が最も多い時間帯の人数を基準にすると、この考え方に沿います。

水と食料のほかに備えるもの

ガイドラインは、水・主食・毛布のほかに、簡易トイレ、衛生用品、敷物、携帯ラジオ、懐中電灯、乾電池、救急医療薬品類を挙げ、量は物資ごとに算定するとしています。このうち、公的な資料に量の目安があるのはトイレです。

トイレは1人1日5回で見積もる

内閣府の「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(令和6年12月改定)は、トイレの平均的な使用回数を1日5回とし、携帯トイレの必要数を「人数 × 5回 × 日数」で見積もるよう示しています。日数は、まず3日分を目標にするとしています。避難所向けの資料ですが、携帯トイレは「自宅・会社で使いやすいため、備蓄に適している」とされています。神奈川県も、1人1日5回として、携帯トイレを最低3日分、可能であれば7日分備蓄するよう呼びかけています。

注意

地震の後は、断水していなくても排水管が損傷していることがあります。神奈川県は、集合住宅で排水管の損傷に気付かずにトイレを使うと、下の階で汚水があふれるおそれがあるとしています。複数の階がある事業所では、建物の点検が済むまで水洗トイレを使わず、携帯トイレを使う手順にしておきます。

東京都のハンドブックは、使用済みの汚物袋の保管場所と、保管用のビニール袋や消臭剤の用意も勧めています。

薬と暑さ・寒さへの備え

東京都のハンドブックは、待機中に持病の薬が足りなくなることや、停電で空調が止まることを挙げています。薬は従業員自身が数日分を余分に持ち歩くか、可能なら会社に置いておくこと、会社は医薬品や衛生用品を準備すること、暑さ寒さには毛布やカイロ、乾電池で使える冷暖房機器などを用意することを勧めています。発電機や燃料は、法令による保管の制約があるため別に検討します(「停電が長引いたときの電源の考え方」)。

人数から量を計算する

量は「人数 × 1人1日あたりの量 × 日数」で求めます。表2は、事業所に20人がいる場合の例です。

表2従業員20人の事業所の計算例
品目1人1日あたり計算式(3日分)3日分10%を足した量7日分とした場合
水3リットル20人 × 3リットル × 3日180リットル(2リットル入りで90本)198リットル(99本)420リットル
主食3食20人 × 3食 × 3日180食198食420食
毛布1人1枚(日数によらない)20人 × 1枚20枚22枚20枚
携帯トイレ5回20人 × 5回 × 3日300回分330回分700回分

1人1日あたりの量は内閣府(防災担当)「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」(令和8年1月)参考資料2、トイレの回数は内閣府(防災担当)「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」(令和6年12月改定)p.8・p.27による。人数と計算は編集部作成

「10%を足した量」は、ガイドラインの外部の帰宅困難者のための上乗せ(例えば10%程度)を、編集部が各品目に当てはめたものです。店舗や窓口があり来訪者が多い事業所は、上乗せの幅を広げて考えます。「7日分とした場合」は、市の計画が推奨する日数に同じ1日あたりの量を当てはめたものです。

置き場所の広さについて、東京都のハンドブックは、100人の3日分の水(2リットルのペットボトル)・食料(乾パン)・毛布(真空パック)を高さ1mに積むと、床面積は約3m²程度になるとしています。実際には品目や箱の大きさで変わるため、箱を並べて確かめます。

期限を管理し、入れ替える

ガイドラインは、水や食料を選ぶときは賞味期限に留意する必要があるとしています。農林水産省の「災害時に備えた食品ストックガイド」(平成31年3月)は、普段の食品を少し多めに買い置きし、賞味期限を考えて古いものから消費し、消費した分を買い足して一定量を保つ方法を「ローリングストック」と呼んでいます。家庭向けの資料ですが、社内で日常的に使える飲料や食品があれば、同じ考え方で回せます。長期保存の品目は、期限の前にまとめて入れ替える計画を立てます。

入れ替えを続けるために、次の3つを決めておきます(編集部の提案)。

  1. 担当者と台帳。 正と副の2人を担当にし、品目・数量・保管場所・期限を1枚の台帳にまとめます。期限の早い順に並べると、次に入れ替えるものがすぐわかります。
  2. 点検の日。 ガイドラインは、施設内待機の手順を年1回以上の訓練で確かめるよう求めています。訓練の日に台帳と現物を突き合わせると、点検の日を別に設けずに済みます。
  3. 期限が近いものの使い道と、人数の見直し。 訓練で試食する、社内で配るなどを決めておきます。採用や移転で人数が変わった年は、表2の計算をやり直します。

保管場所を分け、計画に書く

ガイドラインは、備蓄品の保管場所の分散や従業員への配布を検討するよう求めています。東京都のハンドブックのチェックリストは、高層ビルではエレベーターの停止に備えて保管場所を分散させること、事前に従業員に配っておく方法も検討すること、備蓄品が避難通路をふさぐなど消防法令等に違反する状態にしないことを挙げています。階が分かれている事業所では各階に一部を置き、敷地に複数の建物がある場合は建物ごとに分けます。

浸水の想定がある場所では、置く高さにも注意します。中小企業庁の「事業継続力強化計画策定の手引き」は、事業所の弱点の例に「浸水想定より低い位置に物品が保管されている」ことを挙げ、棚の物品を高い位置に上げる、周囲よりくぼんだ場所に物を置かない、といった対策の例を示しています。拠点リスク確認や市町村・区のページで、事業所の浸水の想定を確かめてから置き場所を決めます。

事業継続力強化計画に書く

決めた内容は、事業継続力強化計画の申請書に書けます。手引きには、備蓄に関わる例が次のように載っています。

表3事業継続力強化計画策定の手引きにある備蓄に関わる例
手引きの箇所書かれている例
脆弱性リスト(p.10)のモノ従業員数に対し、十分な量の物資を備蓄していない
初動対応の「人命の安全確保」の例(p.13)自然災害の初動対応のため、○○を備蓄する
具体的対策事例(p.17)災害発生直後から活動する従業員数(対策本部要員)を基に、備蓄しなければならない物資・量を検討、準備する(簡易トイレ、浄水器、飲食料、毛布、保温シート、カセットコンロ・ボンベ、ラジオ、救急セット、衛生用品など)

中小企業庁「事業継続力強化計画策定の手引き」(令和8年7月17日版)p.10・p.13・p.17をもとに編集部作成

手引きの例は対策本部の要員の数を基にしていますが、帰宅困難者のガイドラインは全従業員を対象にしています。申請書には、待機する全員の3日分と、復旧にあたる要員の追加分を分けて書くと、根拠を説明しやすくなります。書き方は「事業継続力強化計画の申請書の書き方」で整理しています。※2※2神奈川県が実施している「帰宅困難者対策取組企業公表制度」では、応募できる取組の1つに「従業員等の施設内待機に向けた食料等の備蓄等を実施していること」が挙げられています。応募は通年で受け付けています。

従業員の家庭の備えも確かめてもらう

従業員が事業所にとどまって待機できるかは、家族が自宅で無事に過ごせるかにも左右されます。家庭の備蓄は、同じ株式会社キールが運営する「防災備蓄診断」で、家族の人数と住まいから足りない品目と数量を確かめられます。社内の訓練や研修で案内すると、事業所の備蓄と家庭の備蓄をあわせて見直すきっかけになります。従業員に配る案内は「従業員の家庭の備え 配布キット」で、会社名を入れて印刷できます。家庭から見た事業所の備蓄の数え方は、同じサイトの「事業所の防災備蓄」にもまとめています。