地震の揺れへの備えは、二つの段階に分けて考えると整理しやすくなります。一つは建物そのものが揺れに耐えられるか、もう一つは建物の中にある家具や設備が倒れたり動いたりしないか、です。建物が倒れなくても、棚やキャビネットが倒れれば、従業員がけがをし、避難の通路がふさがり、書類や機器も損なわれます。

この記事では、はじめに屋内の被害がどの程度想定されているかを確かめ、次に建物の耐震性の確かめ方、最後に家具・設備の固定と配置の要点を整理します。

屋内の家具類による被害の想定

神奈川県の地震被害想定(令和7年3月)は、死者数を原因別に想定しています。冬の平日18時に発災した場合、屋内収容物の落下・転倒による死者は、都心南部直下地震で200人、大正型関東地震で980人と想定されています。

東京消防庁は、近年の地震被害の調査で、負傷者の3〜5割が屋内での家具類の転倒・落下・移動によって負傷していたとしています。東日本大震災の後に都内の中高層建物のオフィスで行った調査では、20%のオフィスで家具類の転倒・落下・移動が発生したとの回答があり、高い階ほど、特に長周期地震動によるとみられる家具類の移動が多く発生する傾向が確認されています。

県の被害想定も、留意事項のなかで、高層ビルの中高層階では揺れの増幅や長周期地震動によって、固定していない棚の転倒や、キャスター付きの什器やコピー機などの移動で人に衝突するなどして、想定以上に負傷者が出る可能性があると指摘しています。地表の震度が6弱以下の地域でも起こり得るとしている点に注意が必要です。

建物の耐震性を確かめる

旧耐震と新耐震の区切り

建物の耐震性を考えるときの最初の区切りは、建築基準法の耐震基準が強化された時期です。国土交通省は、現行の耐震基準(新耐震基準)は昭和56年6月1日から適用されているとしています。それより前の基準は「旧耐震基準」と呼ばれ、国土交通省は、昭和56年以前に建築された建物には耐震性が不十分なものが多く存在するとして、まず耐震診断で耐震性を把握することを勧めています。

新耐震基準が目標としている性能について、国土交通省は、中規模の地震(震度5強程度)に対してはほとんど損傷を生じず、極めて稀にしか発生しない大規模の地震(震度6強から震度7程度)に対しても、人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないこととしています。「倒壊しない」ことが目標であり、「損傷しない」ことや「そのまま使い続けられる」ことまでは目標に含まれていない点は、BCPを考えるうえで押さえておきたいところです。

表1旧耐震・新耐震の区切りと、確かめる書類
区分目安確かめ方
旧耐震基準新耐震基準の適用(昭和56年6月1日)より前に建築確認を受けたもの。県の計画・説明では、昭和56年5月31日以前に工事に着手した建築物を対象にしている建築確認の日付、着工の時期を書類で確かめる。耐震診断の結果があれば、その内容を確かめる
新耐震基準昭和56年6月1日以後に建築確認を受けたもの建築確認の日付と、検査済証の有無を確かめる

国土交通省「マンションの耐震性等についてのQ&A」、神奈川県「耐震改修促進法について」「神奈川県耐震改修促進計画」をもとに編集部作成

竣工の年だけでは区切りを判断できない場合があります。国土交通省は、新耐震基準の適用日より前に建築確認を受けている建物では、既存の構造計算書で新耐震基準への適合を確かめることはできないとしています。書類がそろわないときは、建築士などの専門家に耐震診断を相談します。

耐震改修促進法の考え方

建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)は、現行の耐震規定に適合していない建築物(既存耐震不適格建築物)の所有者に対し、耐震診断を行い、必要に応じて耐震改修を行うよう努めることを定めています。神奈川県は、平成25年11月25日施行の改正で、現行の耐震規定に適合していないすべての建築物の所有者がこの努力の対象になったと説明しています。

一部の建築物には、耐震診断が義務付けられています。不特定多数の人や避難に配慮が必要な人が利用する大規模な建築物(要緊急安全確認大規模建築物)と、県や市町村が指定した避難路の沿道の建築物などです。国土交通省の資料では、たとえば病院・店舗・旅館などは階数3以上かつ床面積の合計5,000平方メートル以上、一定量以上の危険物を扱う貯蔵場などは階数1以上かつ床面積の合計5,000平方メートル以上が要緊急の対象とされています。県は、市町村が義務付けた避難路の沿道とその報告期限は、各市町村に問い合わせるよう案内しています。

賃借している事務所・倉庫の場合

建物を借りている場合、耐震診断や改修の判断は所有者が行います。借り手としては、次の点を建物の所有者や管理会社に確かめておくと、BCPの前提が明確になります。

  1. 建築確認を受けた日付(または着工の時期)と、新耐震基準によるものかどうか
  2. 旧耐震基準の建物であれば、耐震診断の有無とその結果
  3. 室内の壁が建物の構造体につながっているか(家具を固定できる壁かどうか)

神奈川県地震災害対策推進条例は、事業者の取組として、事業所の施設・設備の耐震性の向上を挙げています。耐震改修促進法に関する相談は、県や、建築主事を置く市の窓口(所管行政庁)が受け付けています。

対策の効果の試算

国の首都直下地震の想定(令和7年12月)は、対策の効果も試算しています。内閣府の「令和8年版 防災白書」によると、都心南部直下地震で建物の耐震化率が100%相当になれば、全壊する建物は約112,000棟から約15,000棟へ、約87%減るとされています。

火災では、揺れを感じると電気を自動で止める感震ブレーカー等の効果が示されています。設置率が現状の約20%から100%になれば、焼失する建物は約268,000棟から約74,000棟へ、約72%減ります(冬・夕方、風速8m/s)。感震ブレーカーは、停電から戻ったときの「通電火災」を防ぐ装置です。内閣府の調査(令和6年度)では、神奈川県の住宅の設置率は21.6%でした。事務所・工場でも、分電盤に合わせて設置を検討できます。

家具・設備の固定と配置

家具や設備の対策は、東京消防庁の「家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック」(令和6年1月発行)に、オフィス向けの章があります。要点を、対象ごとにまとめます。

表2オフィス・作業場の家具類の主な対策
対象ハンドブックが示す主な対策
キャビネット金具で床や壁の下地(鉄骨・コンクリート等)にボルトで固定し、上部を壁と固定する方式が最も効果的。ボルトは直径6ミリメートル以上の強度のあるものを使う。二段に重ねる場合は上下を連結したうえで床・壁と固定する
壁に付けられないキャビネットなるべく背の低いものを選び、背中合わせや左右に連結して奥行きを増す
書架・物品棚・移動ラック床・壁・天井と固定する。上部をつなぎ材で連結する(床固定と併用)。落下防止材を付け、筋交いで補強する
デスク互いに連結し、床に固定する。引き出しが飛び出すと重心が前に偏って転倒することがあるため、ラッチ付きのものを選ぶ
複写機・複合機一般的な複合機は使用時重量が150キログラム程度になる。キャスターをロックし、アジャスターを使い、ベルトなどで壁面に固定する。固定方法は取扱説明書やメーカーに従う
ローパーテーションI型より L型、コの字型、H型の順に安定する。床・壁に固定し、ガラスには飛散防止フィルムを貼る

東京消防庁「家具類の転倒・落下・移動防止対策ハンドブック」(令和6年1月発行)のオフィス家具類の章をもとに編集部作成

固定する壁や床にも注意が必要です。ハンドブックは、軽量鉄骨下地の中空壁への固定は強度の確認が難しいため補助的な方法と考えること、石膏ボードの奥にコンクリート壁がある場合はコンクリートに達するアンカーボルトで固定すること、床パネルを外せるフリーアクセスフロアでは一般に家具を固定できないため、補強材を入れて床スラブに直接固定することなどを示しています。建物の構造体につながっていない間仕切り壁には、重い家具を置かないよう求めています。壁が構造体につながっているか分からない場合は、建物の管理会社などに確かめます。

配置についても、ハンドブックは次の点を挙げています。

  • メインの避難通路は直線状にし、幅1.2メートル以上を確保する
  • 避難通路や出入口の周りに、倒れたり動いたりしやすい家具類を置かない
  • 窓際に背の高い家具を置かない(窓ガラスが割れる危険と、避難経路をふさぐおそれがある)
  • 大型の家具は部屋の中央に置かず、壁に沿って置き、床・壁の両方と固定する
  • 物を置かない「安全スペース」を決めて明示し、緊急地震速報を受けたらそこへ退避する

工場や倉庫の棚・ラックも、考え方は同じです。重いものを下段に置き、上部をつないで床と固定し、落下防止材を付けます。通路に面した棚が倒れると、避難の経路と、復旧の作業の動線の両方がふさがります。

注意

固定の器具は、取り付ける壁や床が十分な強度を持っていることが前提です。固定の方法が分からない設備や、重量のある機械は、メーカーや専門の業者に相談してください。

点検は、チェックリストで年に一度

ハンドブックには、オフィス内の転倒・落下・移動防止対策のチェックリストが付いています。背の高い家具を単独で置いていないか、二段重ねの家具を上下で連結しているか、引き出しや扉の開放防止をしているか、避難路に物を置いていないか、コピー機の転倒・移動防止をしているか、など21項目です。レイアウトの変更や、機器の入れ替えのたびに見直すと、固定の抜けを防げます。

揺れの強さそのものは、所在地の地盤や想定する地震によって違います。所在地で想定される揺れは「神奈川県の地震被害想定(令和7年3月)の読み方」や拠点リスク確認で確かめられます。揺れの強さを表す震度の区分は用語集で説明しています。