富士山は神奈川県内にはありませんが、神奈川県は、富士山が噴火した場合の降灰について「県内全域に影響がおよぶ可能性」があるとしています(神奈川県「火山の防災対策」、2026年7月15日更新)。溶岩流や噴石と違い、火山灰は風に乗って遠くまで届き、道路や鉄道を長い期間にわたって使いにくくします。

物流の事業所にとっては、自社の車両が走れるか、ドライバーや倉庫の従業員が出勤できるか、荷主や配送先が営業しているか、という3つの問題が同時に起こります。この記事では、国の検討会が示した降灰の厚さと影響の目安をもとに、県西・県央の事業所が配送と通勤の計画で確かめておく項目を整理します。

国の想定が前提にしている噴火

内閣府の検討会(大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ)は、令和2年4月の報告で、1707年の宝永噴火と同じ規模の噴火をモデルにして降灰の広がりを計算しました。風向きの違いで3つのケースを置いています。

  • ケース1:宝永噴火の実績に近い、西風が卓越する場合。降灰は神奈川県と千葉県を中心に分布
  • ケース2:影響を受ける人口・資産が大きくなる、西南西風が卓越する場合。神奈川県と東京都を中心に分布
  • ケース3:風向の変化が比較的大きい南寄りの風の場合。山梨県・静岡県・神奈川県を中心に広く分布

3つのケースのいずれでも、神奈川県が降灰の中心に含まれています。令和7年3月に内閣府が公表した「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」は、このうちケース2をモデルにしています。ガイドラインの図には、県内の代表的な地点として相模原市付近・秦野市付近・小田原市付近・横浜市付近の降灰量の推移が載っており、灰は1日で積もり終わるのではなく、噴火が繰り返されるたびに段階的に増えていく形で描かれています。※1※1ガイドラインは、宝永噴火では2週間噴火が継続したとしています。また、この想定は検討のための一例で、将来の噴火の状況を示したものではなく、実際には風向や噴火の規模・継続時間によって降灰の状況は変わると注意書きを付けています。

降灰の厚さと、道路・鉄道への影響の目安

報告は、過去の噴火や実験の結果から、どのくらいの厚さでどのような影響が出るかの目安(閾値)を整理しています。道路と鉄道に関する主なものを表1に抜き出しました。

表1降灰の厚さと道路・鉄道への主な影響の目安
対象想定される影響目安の厚さなど
道路車線などが見えにくくなることによる速度低下0.1cm以上
道路二輪駆動車の速度低下(時速20km)降雨なし2cm以上
道路二輪駆動車の速度低下(時速10km)降雨時0.5cm以上、降雨なし5cm以上
道路二輪駆動車が通行不能降雨時3cm以上、降雨なし10cm以上
道路四輪駆動車が通行不能降雨時10cm以上、降雨なし30cm以上
道路視界不良による速度低下・通行不能視程60m以下で速度低下、30m以下で通行不能
鉄道車輪とレールの通電不良などによる運行停止0.05cm以上(初回は微量で運行停止)
鉄道停電・電力供給の不安定による運行不能降雨時0.3cm以上などの停電時、停電エリアのすべての路線

大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ「大規模噴火時の広域降灰対策について(報告)」本文 表1(令和2年4月)をもとに編集部作成

報告は、これらの値は「おおよそどのくらいの降灰で何が起こりうるのか」を認識するためのもので、実際の噴火時にこのとおりに影響が出るとは限らないとしています。それでも、配送の計画にとって読み取れることは多くあります。雨が降ると、乾いているときより薄い灰で車が動けなくなります。厚さがわずかでも、スピードは大きく落ちます。そして鉄道は、ごく少ない灰で地上の路線が止まります。

表1のほかにも、報告はスリップやスタックによる滞留車両の発生、交通量の多い道路での渋滞、緊急交通路として指定された路線での一般車両の通行禁止を、影響として挙げています。

除灰はどの道路から進むとされているか

降灰で止まった道路を通れるようにする作業(道路啓開)について、ガイドラインは、降灰範囲内の道路を同時に除灰することには相当な時間が必要と想定し、優先度の高い拠点を決めて人員・資機材を集中させる考え方を示しています。優先の順番は次のとおりです。

  1. 降灰量が30cm未満の段階(ステージ1〜3)では、電力施設や浄水場などのライフラインの復旧・維持を最優先にする
  2. 備蓄だけでは生活を続けにくくなる段階(ステージ3)では、物資供給のルートも優先して確保する
  3. 降灰量が30cm以上で避難が必要になる段階(ステージ4)では、救助・避難のルートを緊急に確保する

優先して除灰する道路としては、まず緊急輸送道路が想定されています。令和2年の報告は、物資を運ぶ場合には緊急輸送道路から輸送先までの経路も通れる必要があるとし、道路上に放置されたスリップ・スタック車両の撤去も考慮する必要があるとしています。一方で、除灰の済んだ道路が民間の配送にすぐ開かれるとは書かれていません。自社の配送ルートが除灰の対象になるかどうかは、事業所の側では決められないと考えておくほうが、計画としては安全です。

ガイドラインは、住民に知らせておくべき「降灰時に行ってはいけない事項」の1つに、降灰中に自動車を運転することを挙げています。降灰が始まった段階(ステージ1)での国と地方公共団体の呼びかけの例にも、不要不急の外出の抑制と並んで、車両の利用自粛が入っています。

注意

配送を続けるかどうかを、ドライバー個人の判断に任せないようにします。降灰が始まったら車両をどこに止めて待機させるか、どの時点で運行を止めるかを、会社として先に決めておきます。

鉄道が止まったときの従業員の移動

鉄道は微量の降灰で地上の路線が止まるとされています。報告とガイドラインによれば、大部分が地下を走る路線でも、地上の路線が止まったことによる利用の集中や、車両・作業員の不足によって、運行停止や輸送力の低下が起こる可能性があります。停電の範囲では、地上・地下ともに止まります。

このため、県西・県央で鉄道通勤の従業員が多い倉庫や営業所では、灰が降り始めた時点で出勤できる人数が大きく減ることを前提にします。ガイドラインは事業所に対して、交通機関が止まったときの出社・帰宅が困難になる場合の対策を、事業継続計画(BCP)などにまとめておくことが望ましいとしています。事業所の対応例として、災害時には出勤の抑制やテレワークの推進、平時には従業員への対応の周知や、移動が困難な人が出ることを想定した備蓄をあげています。

徒歩での移動については、ガイドラインは、激しい降灰中でなければ屋外でも直ちに命の危険が及ぶことは考えにくいとしつつ、視界の低下と地面の滑りやすさに注意し、ゴーグルとマスクを着けることが望ましいとしています。

県西・県央の事業所が平時に確かめること

国の想定と県の指針から、物流の事業所が平時に確かめておく項目を順番に並べます。※2※2神奈川県富士山火山広域避難指針(令和8年3月)は、国は噴火発生後30〜40分で「広域降灰を生じ得る噴火であること」の情報(トリガーとなる情報)を提供できるとしていることを紹介しています。社内の判断の起点を、この種の情報に置く考え方があります。

  1. 拠点と主な配送先を、降灰の想定と重ねる。 県の指針とガイドラインの降灰分布の図で、自社の拠点・倉庫・主な配送先がどの程度の降灰の範囲に入り得るかを確かめます。風向で大きく変わるため、1つのケースだけで判断しないようにします。
  2. 運行を止める基準を決める。 表1の目安を参考に、雨の有無と降灰の状況で運行を止める段階を社内で決めます。車両の待機場所も決めておきます。
  3. 緊急輸送道路との位置関係を確かめる。 拠点が緊急輸送道路からどのくらい離れているか、その間の道路を誰が管理しているかを把握します。
  4. 鉄道が止まった場合の人員を見積もる。 鉄道通勤の従業員の数を拠点ごとに数え、出勤できる人数で回せる業務を洗い出します。
  5. 荷主・配送先と取り決めを交わす。 降灰時に配送を止める条件と連絡の方法を、平時に荷主や配送先と取り決めます。
  6. 拠点に留まる人の備蓄をそろえる。 従業員が一定期間事業所に留まることを想定した物資を備えます。

座間市の地域防災計画(令和8年3月)は、火山灰について、風の影響で遠方まで降り、道路の通行障害を起こすほか、停電や断水が各所で起こるとしています。降灰は道路だけの問題ではなく、拠点の電気・水・通信にも同時に影響します。ガイドラインは、降灰の直接の影響がない地域でも、首都圏の輸送に支障が出れば通常どおりの物資供給が難しくなる可能性があるとして、事業継続の対策を検討する必要があるとしています。首都圏との間で荷物を運ぶ県内の事業所にとっては、自社の拠点に灰が降らない場合でも関係する想定です。

降灰が事業所の電気・通信・建物などに与える影響は、富士山噴火の降灰が事業所に与える影響で、備品と社内の手順は、降灰に備える事業所の備品と社内の手順で整理しています。BCPの全体の組み立ては、BCPの基本を参照してください。