降灰への備えは、地震への備えと重なる部分が多い一方で、降灰ならではの備品と判断があります。内閣府の「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」(令和7年3月)は、備蓄品は基本的には地震などほかの災害と同様の準備を基本としつつ、防塵マスクや防塵ゴーグルなどの降灰対策用品も確保することが望ましいとしています。
この記事では、ガイドラインと、それを踏まえて降灰対策を追記した「神奈川県富士山火山広域避難指針」(令和8年3月)の呼びかけに沿って、事業所でそろえる備品と、段階ごとの社内の手順を整理します。影響の想定そのものは、富士山噴火の降灰が事業所に与える影響でまとめています。
国と 県が 示している 行動の 基本
ガイドラインの基本方針は、できる限り降灰域内に留まって、自宅などで生活を継続することです。そのために日頃からの十分な備蓄が重要だとしています。ただし、降灰量が30cm以上ある地域の木造家屋や、土石流の危険がある地域など、直ちに命の危険がある場合は避難などの行動をとる必要があるとしています。
神奈川県の指針も同じ考え方です。降灰量30cm以上の範囲にいる住民などは原則として立ち退き避難の対象とし、30cm未満の範囲の住民は可能な限り降灰域内に留まって生活を継続するとしています。そのうえで、物資の不足や停電・断水などのライフラインの障害が長引いた場合は、ライフラインが復旧している地域などへの避難が必要になる場合があるとしています。
事業所について、ガイドラインは、従業者などを一定期間事業所内に留めておくことを想定した物資の備蓄などを行うとしています。広域降灰では鉄道などが止まり、自力で帰宅することが難しい人が大量に出る可能性があるためです。※1※1ガイドラインは、降灰による建物の倒壊や火災が降灰開始後すぐに増えることは考えにくい点で、首都直下地震とは異なると指摘しています。降灰が落ち着いているタイミングで、除灰や物資輸送に影響のない範囲で、徒歩での分散帰宅などを行うことが考えられるとしています。
事業所で そろえる 備品
ガイドラインには、家庭での備蓄品目の例が載っています。表1は、そのうち降灰に特有のものと、屋外作業や設備の保護に関する記述を、事業所で使う形に並べ直したものです。
| 備品 | ガイドラインの記述 | 事業所で確かめること |
|---|---|---|
| 飲料水・食料などの一般の備蓄 | 首都直下地震対策では1週間分の備蓄が推奨されているが、降灰対策では可能であればそれ以上が望ましい | 事業所に留まる従業員の人数と日数 |
| 防塵マスク | 一人1日あたり必要量1個 | 屋外作業をする人の人数と日数 |
| 防塵ゴーグル(保護めがね) | 一人あたり必要量1個 | 屋外に出る可能性のある人の人数 |
| 清掃用の器具 | ほうき、スコップ・シャベル、収集袋など | 敷地の広さと、灰を集める場所 |
| 作業時の装備 | ヘルメット、防塵マスク、ゴーグル、厚手の手袋、作業靴など | 除灰をする担当者の人数 |
| 空調のフィルター | 空調装置へのフィルターの設置や交換用フィルターの備蓄 | 止まると業務が止まる空調の場所 |
内閣府「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」(令和7年3月)p.23 図Ⅲ-1-2、p.51、p.59をもとに編集部作成。数量の目安は家庭での備蓄品目の例に示された値
備蓄の量について、ガイドラインは、富士山の宝永噴火では2週間噴火が継続したことを挙げて、1週間より多くの備蓄を望ましいとしています。防塵マスクについては、屋外作業に従事する人以外は、通常のマスクで代替することも考えられるとしています。
介護施設など要配慮者が利用する施設について、ガイドラインは、降灰時の移動の困難さや暑さ・寒さ対策への配慮から、物資や燃料などを多めに備蓄しておくことが重要だとしています。病院・介護施設の平時の対応の例として、インフラ・ライフラインの停止を想定した体制の構築(備蓄品の確保、非常用電源の確保、施設間での避難先の確保・連携など)も挙げられています。
降灰時に してはいけない ことと、 火山灰の 片付け
ガイドラインは、降灰時に行ってはいけない事項として、次の3つを例に挙げ、周知しておくことが重要だとしています。
- 火山灰を側溝などに捨てる
- 屋根に積もった火山灰を無理に取り除こうとする
- 降灰中に自動車を運転する
令和2年の国の検討会の報告は、降雨時に下水道の雨水の管が火山灰で閉塞し、その上流から雨水があふれる影響を想定しています。敷地の灰を排水溝に流さないことは、社内の手順にも書いておきます。※2※2中央防災会議 大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ「大規模噴火時の広域降灰対策について(報告)」(令和2年4月)本文 p.11。
敷地に積もった灰の処分について、ガイドラインは、火山灰が堆積した場所に応じて施設管理者などがそれぞれ処分を行い、宅地から排出された火山灰は市町村が処分するとしています。施設管理者が敷地内で処分場所や仮置場を確保することが難しい場合は、敷地外に仮置場を確保する必要があるともしています。事業所の敷地の灰をどこに集め、どう出すかは、所在地の市町村の案内を確かめて決めることになります。
ガイドラインは、屋根に積もった火山灰を無理に取り除こうとすることを、してはいけない事項に挙げています。降灰中は地面が滑りやすくなるともしています。屋根や高所の除灰を社内で行うかどうかは、建物の構造と作業の安全を確かめたうえで、事前に決めておきます。
段階ごとに 社内で 決めて おく 手順
ガイドラインの概要は、国・地方公共団体・事業者・住民の対応を、平時から降灰量の増加までの段階に分けて示しています。そのうち事業者に関わる項目を軸に、社内の手順を段階ごとに並べると次のようになります。
- 平時。 降灰を想定した計画を作り、訓練を行います。ガイドラインは、計画の策定、情報収集・提供の体制の整備、訓練の実施を、国・地方公共団体・事業者・住民に共通の対応としています。表1の備品をそろえ、従業員に降灰時の対応を周知します。
- 火山活動が活発になったとき(噴火前・降灰前)。 ガイドラインは、事業者の対応として出勤の抑制やテレワークの体制などの確認を挙げています。作業員などの体制の確保、資機材・燃料などの準備、降灰の影響を受ける施設の保護・点検もこの段階の対応とされています。備蓄品を再確認します。
- 降灰が始まったとき(ステージ1)。 国と地方公共団体からは、不要不急の外出の抑制、車両の利用自粛、屋外作業時の留意事項の周知などの呼びかけが想定されています。社内では、出勤・配送の停止の判断、事業所に留まる従業員の確認、除灰の準備を行います。
- 降灰量が3cmを超えたとき(ステージ2・3)。 徒歩以外の移動手段が制限される段階です。備蓄を使って事業所での生活と業務を続け、ライフラインの状況を確かめます。
- 降灰量が30cm以上になるとき(ステージ4)。 地方公共団体から退避・避難の呼びかけが行われる段階です。木造の建物にいる人は、噴火直後は堅牢な建物に退避し、その後に域外へ避難するとされています。
ガイドラインは、対応に時間がかかる場合は一段早く対応を始めることも重要だとしています。社内の判断の起点を決めておく際には、神奈川県の指針が紹介しているとおり、国は噴火発生後30〜40分で「広域降灰を生じ得る噴火であること」の情報を提供できるとしている点が参考になります。市町村は、気象庁の噴火警報や降灰予報などから避難の必要性を判断するとされています。
決めた手順は、既存のBCPに「降灰」の項として加えるか、地震の計画と共通の部分(備蓄・安否確認・出勤の判断)に降灰特有の項目を書き足す形にすると、社内での説明がしやすくなります。BCPの全体の組み立てはBCPの基本で、配送と通勤への影響は富士山の降灰と物流で整理しています。