沿岸に事業所や倉庫、作業現場がある会社では、津波警報や注意報が出たときに「誰が、いつ、どこへ逃げるか」を事前に決めておく必要があります。発表を聞いてから相談を始めたのでは、間に合わない場合があるためです。
神奈川県地震災害対策推進条例は、事業者の取組として、従業員等の安全の確保と、従業員等の迅速な避難の実施を挙げています。この記事では、気象庁が発表する情報の区分と、市町村が出す避難指示の考え方を確認したうえで、社内の避難ルールを決める手順を整理します。
気象庁の 津波警報・注意報の 区分
気象庁は、地震が発生してから約3分(一部の地震では約2分)を目標に、大津波警報・津波警報・津波注意報を発表します。発表の単位は「津波予報区」で、全国を66の区域に分けています。神奈川県の沿岸は次の二つに分かれています。
- 東京湾内湾:神奈川県のうち、観音崎東端以北の東京湾沿岸(千葉県・東京都の一部とあわせた予報区)
- 相模湾・三浦半島:神奈川県のうち、観音崎東端以北の東京湾沿岸を除く沿岸
二つの予報区の境は観音崎の東端です。同じ市の中でも拠点によって予報区が異なることがあるため、拠点ごとに、どちらの予報区に入るかを確かめておきます。
| 種類 | 発表基準(予想される津波の最大波の高さ) | 数値での発表 | 巨大地震の場合の発表 | 気象庁が示す行動 |
|---|---|---|---|---|
| 大津波警報 | 高いところで3メートルを超える場合 | 10メートル超、10メートル、5メートル | 巨大 | 沿岸部や川沿いにいる人は、ただちに高台や避難ビルなど安全な場所へ避難 |
| 津波警報 | 高いところで1メートルを超え、3メートル以下の場合 | 3メートル | 高い | 沿岸部や川沿いにいる人は、ただちに高台や避難ビルなど安全な場所へ避難 |
| 津波注意報 | 高いところで0.2メートル以上、1メートル以下で、津波による災害のおそれがある場合 | 1メートル | 表記しない | 海の中にいる人はただちに海から上がって、海岸から離れる |
気象庁「津波警報・注意報、津波情報、津波予報について」をもとに編集部作成
大津波警報は「特別警報」に位置づけられています。マグニチュードが8を超えるような巨大地震では、すぐに正確な規模を求められないため、最初の発表では予想される高さを「巨大」「高い」という言葉で伝え、規模が精度よく求まった時点で数値に更新します。※1※1気象庁は、最初の警報・注意報の後も分析を続け、津波が小さい、あるいは発生しない可能性が高いと確認できれば、警報・注意報の切り替えや解除を行うとしています。
気象庁は、避難のポイントとして次のことを挙げています。社内ルールの前提になる事柄です。
- 震源が陸地に近いと、津波警報・注意報が津波の到達に間に合わないことがある。強い揺れや、弱くても長い揺れを感じたときは、すぐに避難を始める
- 津波は沿岸の地形などの影響で、局所的に予想より高くなる場合がある
- 津波は長い時間くり返し来る。警報・注意報が解除されるまでは避難を続ける
- 発表される第一波の到達予想時刻は、その予報区の中で最も早く届く時刻で、場所によっては数十分、場合によっては1時間以上遅れて来ることがある
市町村の 避難指示と、 発令の 対象区域
津波のときに市町村長が出す避難情報は、基本的に「避難指示」だけです。内閣府(防災担当)と消防庁が令和8年7月21日に都道府県へ出した通知は、「避難情報に関するガイドライン」(令和8年3月改定)にもとづき、次の考え方を改めて示しています。
- 津波は短時間で来て重大な被害をもたらす場合があるため、津波警報等が出たときは「避難指示」のみを発令することを基本とする
- 津波は風水害と違い、危険度が段階的に高まるものではないため、津波の避難情報には警戒レベルを付けない。「緊急安全確保」ではなく「避難指示」を発令し、指定緊急避難場所などへの立ち退き避難を促す
- 最も重要なのは、津波のおそれがある地域や海沿いで強い揺れや長時間ゆっくりとした揺れを感じたときに、津波警報等や避難指示を待たずに、自主的かつ速やかに安全な高い場所へ移動すること
避難指示の対象になる区域は、発表される情報の種類によって異なります。
| 発表される情報 | 発令の対象とする区域の考え方 |
|---|---|
| 大津波警報 | 最大クラスの津波により浸水が想定される地域(都道府県の津波浸水想定を踏まえて指定した津波災害警戒区域等)。浸水想定の精度に限界があるため、その区域より内陸側でも立ち退き避難を考えるべきとされる |
| 津波警報 | 海岸堤防等が無い、または低いため、高さ3メートルの津波で浸水が想定される地域。避難指示の区域は広めに設定する必要があるとされる |
| 津波注意報 | 漁業従事者、沿岸の港湾施設等で仕事に従事する者、海水浴客等を念頭に、海岸堤防等より海側の地域 |
内閣府(防災担当)・消防庁「津波に係る適切な避難情報の発令について」(令和8年7月21日)に引用された「避難情報に関するガイドライン」(令和8年3月改定)の記載をもとに編集部作成
事業所にとって見落としやすいのは、津波注意報のときの扱いです。ガイドラインは、注意報のときの対象を基本的に海岸堤防の海側の区域とし、避難行動の対象者を漁業従事者や港湾区域の就業者、海岸でのレジャー目的の滞在者などとしています。あわせて、海岸堤防が無い地域で地盤の低い区域は、立ち退き避難の対象とする必要があるとしています。港湾の荷役、岸壁や海岸での工事、海沿いの施設の管理などに従事する従業員は、注意報でも避難の対象になると考えてルールを作ります。
社内の 避難ルールを 決める 手順
ここからは、拠点ごとにルールを決める手順です。
- 拠点の浸水想定を確かめる。 事業所・倉庫・定期的に作業する現場ごとに、県の津波浸水想定と市町の津波ハザードマップで、浸水が想定されるか、どのくらいの深さかを確かめます。調べ方は「相模湾・東京湾沿岸の津波浸水想定の調べ方と読み方」を参照してください。
- 海岸堤防の海側か陸側かを確かめる。 表2のとおり、注意報のときに避難の対象になるかどうかが変わります。
- 行動の起点を「揺れ」に置く。 警報や避難指示を待たず、強い揺れや長い揺れを感じた時点で避難を始めることを、ルールの最初に書きます。
- 避難先を決める。 市町のハザードマップに載っている指定緊急避難場所や津波避難ビルのうち、拠点から歩いて行ける場所を、第一候補と第二候補の二つ決めます。経路が川や海沿いを通らないかも確かめます。
- 情報の種類ごとの行動を決める。 表3のように、大津波警報・津波警報・津波注意報のそれぞれで、誰がどう動くかを決めます。
- 戻る基準を決める。 警報・注意報が解除されるまで、拠点に戻らないことを明記します。車両や在庫を取りに戻る行動を禁止することも書いておきます。
- 周知と訓練をする。 新しく入った従業員、派遣や協力会社の作業員、来客にも伝わるようにします。年に一度は、実際に避難先まで歩いて時間を測ります。
| 状況 | 社内の行動の例 |
|---|---|
| 強い揺れ、または長い揺れを感じた | 情報を待たずに、決めてある避難先へ移動を始める。責任者は点呼の準備をする |
| 大津波警報 | 浸水想定区域の内外を問わず、沿岸の拠点の全員が高台・津波避難ビルへ避難する。区域の外側の拠点も、より高い場所への移動を検討する |
| 津波警報 | 浸水想定区域内の拠点の全員が避難する。海岸や岸壁での作業は即時に中止する |
| 津波注意報 | 海岸堤防より海側で作業している従業員は、ただちに作業をやめて海岸から離れる。陸側の拠点は情報の更新に注意し、警報への切り替えに備える |
| 解除 | 解除を確認し、拠点の被害と周辺の状況を確かめてから戻る |
情報の区分は気象庁、対象区域の考え方は内閣府「避難情報に関するガイドライン」による。社内の行動は編集部が作成した例
表3の「大津波警報」の行は、ガイドラインが「区域より内陸側であっても立ち退き避難を考えるべき」としている点を反映した例です。拠点の条件に合わせて調整してください。
津波は一度で終わりません。第一波が小さくても、後から来る波の方が高くなることがあります。警報・注意報が解除されるまでは、拠点に戻らないでください。
ルールに 書いて おく 項目と、 義務が かかる 施設
ルールは、次の項目を1枚にまとめておくと、掲示や配布に使いやすくなります。
- 拠点の住所、津波予報区の名前、浸水想定の有無と深さ
- 避難を始める合図(揺れ・大津波警報・津波警報・津波注意報)と、それぞれの対象者
- 避難先(第一候補・第二候補)と、そこまでの経路と所要時間
- 避難を呼びかける担当と、不在のときの代わりの担当
- 点呼の方法と、会社への安否の報告方法
- 戻ってよい基準(解除の確認)
津波防災地域づくりに関する法律では、市町村の地域防災計画に名称と所在地が定められた「避難促進施設」の所有者または管理者に、避難確保計画の作成、市町村長への報告、公表と、避難訓練の実施と報告を義務付けています(第71条)。対象は、地下街等と、社会福祉施設・学校・医療施設など、主に防災上の配慮を要する人が利用する施設のうち政令で定めるものです。従業員は、その計画にもとづく避難訓練に参加しなければならないとされています。介護・福祉の事業所で沿岸に施設がある場合は、所在地の市町村の地域防災計画に施設が載っているかを確かめてください。
設備や在庫を浸水からどう守るかは、「沿岸の事業所・倉庫で確かめる津波への備え」で扱っています。決めた避難ルールは、BCPや事業継続力強化計画の初動対応に記載できます。