大きな地震が起きた直後の時間は、平時の組織のままではうまく動けません。上司が出張中だったり、電話がつながらなかったり、建物の一部が壊れていたりするなかで、誰かが判断し、誰かが確認し、誰かが連絡しなければなりません。
この記事では、揺れが始まってからおおむね1時間のあいだに会社として行う初動対応を、国の資料にもとづいて整理します。BCPの基本の4段階目にあたる内容です。安否確認の具体的な方法は「安否確認の方法と訓練」、従業員を帰宅させるかどうかの判断は「一斉帰宅の抑制と従業員の待機」で扱います。
国の 資料が 示す 初動対応の 柱
中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」は、緊急事態が起きたときのBCPの発動の手順を、次の順番で示しています。
- 緊急事態が発覚したら、初動対応を行う(緊急事態の種類ごとに違いがある)
- なるべく速やかに、顧客などへ被災状況を連絡するとともに、中核事業の継続方針を立て、実施体制を確立する
- 継続方針にもとづき、顧客・協力会社向けの対策、従業員・事業資源の対策、財務の対策を並行して進める
- 事態の進展・収束にあわせて、応急対策、復旧対策、復興対策を進める
このうち最初の「初動対応」について、指針は、緊急事態の発見者が従業員に周知したうえで、二次災害の防止措置、従業員の参集、安否・被災状況の把握を行うとしています。
中小企業庁の「事業継続力強化計画策定の手引き」も、発災直後の初動対応として、①人命の安全確保、②非常時の緊急時体制の構築、③被害状況の把握・被害情報の共有の3つを求めています。事業継続力強化計画の申請書では、この3つと「その他の取組」の4項目を必ず書くことになっています。
| 柱 | 手引きの記載例にある初動対応 | 記載例の対応時期 |
|---|---|---|
| 人命の安全確保 | 従業員の避難、従業員の安否確認、設備の緊急停止、顧客への対応 | 発災直後 |
| 非常時の緊急時体制の構築 | 代表取締役を本部長とした災害対策本部の立ち上げ | 発災後1時間以内 |
| 被害状況の把握・被害情報の共有 | 被災状況や生産・出荷への影響の確認、顧客・取引先・市・商工団体への第一報 | 発災後12時間以内 |
中小企業庁「事業継続力強化計画策定の手引き(令和8年7月17日版)」P11の記載例(自然災害の場合)をもとに編集部作成
表1の時間は記載例であり、国が決めた基準ではありません。ただ、「災害対策本部の立ち上げまでを1時間以内に」という目安は、自社の手順を考えるときの出発点になります。本部が立ち上がるまでの1時間に、人命の安全確保をひととおり終えている状態をめざす、という組み立てです。
神奈川県の地震災害対策推進条例も、事業者の努めとして、地震が起きたときに従業員等の安全を確保するための措置を講じ、従業員等に地震に関する情報を提供し、的確に避難させること(第14条第4項)、従業員等の安全に留意しつつ、地域住民などと連携して初期消火、救助、応急手当などを行うこと(第16条第3項)を定めています。
揺れの 最中から 避難の 完了までを 4つの 段階に 分ける
1時間の動きを考えるときは、時間を区切ると整理しやすくなります。経済産業省北海道経済産業局の「初動対応訓練企画シート」(2026年1月)は、震度6弱の地震が営業中に起きた想定で、①発生期、②揺れ直後、③揺れ収束後、④避難完了後の4つの段階に分けて、班ごとの対応を検討する形をとっています。
同じシートは、平時の組織が緊急時の意思決定や情報伝達に向いていない場合があるとして、緊急時の班を別に決めておくことを勧めています。記載例の班分けと、段階ごとの対応は表2のとおりです。
| 段階 | 災害対策本部長 | お客様対応班 | 施設設備班 | 総務班 |
|---|---|---|---|---|
| ①発生期 | 自分自身の安全確保 | 顧客誘導、販売停止 | 機械停止、火気遮断 | 避難指示、出入口確認 |
| ②揺れ直後 | 災害対策本部の設置、各班のリーダーに被害状況の収集・報告を指示 | 顧客の安否確認、避難の要否の判断 | 被害確認、電気・ガスの確認 | 社員点呼、連絡網の起動 |
| ③揺れ収束後 | 被害情報の集約、外部機関への連絡の要否の決定 | 状況説明、本部への被害報告 | 応急処置、避難経路の確保 | 記録開始、メディア対応 |
| ④避難完了後 | 復旧計画の策定 | 顧客対応の記録 | 復旧の優先順位の整理 | 帰宅判断、交通情報の提供 |
経済産業省北海道経済産業局「初動対応訓練企画シート 記載例と解説」(2026年1月23日)の各班の対応内容一覧をもとに編集部作成
表2は小売と製造を兼ねる事業所の例です。来客のない工場や倉庫ならお客様対応班は不要で、その代わりに取引先への連絡を担う役を置く、というように自社に合わせて組み替えます。シートは、意思決定を行う本部長に加えて、復旧対応(施設・設備の復旧)、外部対応(取引先や協力会社、組合や商工会との連絡)、財務管理(資金の調達や決済)、後方支援(参集管理、食料の手配、負傷者の対応)の機能があることが望ましいとしています。
従業員が少ない会社では、1人が複数の班を兼ねることになります。その場合でも、「揺れ直後に誰がどの設備を点検するか」まで決めておくことが、シートの解説で確認の観点として挙げられています。
施設設備班の 順番:安全確認、 二次災害の 防止、 設備保全
施設や設備の担当について、シートは、どの段階でも人命の確保を優先することを原則とし、安全確認、二次災害の防止、設備保全の順番を崩さないよう求めています。機械の非常停止ボタンの位置と操作方法、ガスコンロやボイラーなど火気設備の遮断手順を、平時に書き出して掲示しておくと、担当者がいない時間帯でも近くの人が操作できます。
沿岸の事業所では、神奈川県地震災害対策推進条例第15条第3項が、強い揺れまたは長い揺れの地震が起きたときは、津波による浸水のおそれがない場所まで従業員等を迅速に避難させるよう努めることを事業者に求めています。津波の浸水が想定される場所では、表2の③④の作業よりも避難を先に行います。
災害対策本部を 立ち上げる 基準と、 責任者が 不在の とき
発災直後に最も迷いやすいのは、「本部を立ち上げるかどうか」「誰が本部長を務めるか」です。事業継続力強化計画策定の手引きは、非常時の緊急時体制の構築の対策事例として、次のような取り決めを挙げています。
- 災害対策本部の設置基準を決める。 例として、所在地で震度○以上の地震が起きた場合、大規模な水害の危険が予測され本部長が必要と認めたとき、気象庁から特別警報が出されたとき、などが示されています。
- 本部の構成要員と班の役割を決める。 表2のような班分けと、各班のリーダーを決めます。
- 参集の基準を決める。 勤務時間外に起きた場合に、誰が、どの条件で会社に集まるかを決めます。手引きには、事業所から○○km圏内に住む人を本部の要員として選んでおく例もあります。
- 代行者を決める。 上位の人が不在のときに、代わって意思決定を行う人を決めます。
- 社内への周知方法を決める。 本部を設置したことを、どの手段で社内に伝えるかを決めます。
設置基準に震度を使うと、判断が自動的になり、迷う時間が減ります。震度の階級は用語集を参照してください。基準にする震度は、所在地で想定されている揺れの強さを踏まえて決めます。自社の拠点の想定は、拠点リスク確認で確かめられます。
代行者は、1人だけでなく順番を付けて複数決めておくと、本部長と第1順位の代行者が同時に不在のときにも対応できます。夜間や休日に起きた場合を考えて、最初に事業所に着いた人が本部長の到着までに何をするかも決めておくと、初動が途切れにくくなります。
1時間の うちに 済ませる ことと、 その後に 回すこと
発災から1時間のあいだにすべてを終わらせることはできません。表1・表2を踏まえると、1時間以内にめざすのは次の状態です。
- 従業員と来客が安全な場所にいて、けが人の有無がわかっている
- 火気と主要な設備が止まり、二次災害のおそれがある箇所がわかっている
- 災害対策本部が立ち上がり、本部長(または代行者)が決まっている
- 社内にいない従業員の安否確認が始まっている
一方で、取引先や顧客への第一報、被害の詳しい確認、事業をどう続けるかの判断は、本部が立ち上がった後に行います。手引きの記載例では、被害状況の把握と第一報を発災後12時間以内としています。止まると困る業務と目標の時間を先に決めておくと、本部が最初に何を判断すべきかが明確になります(「止まると困る業務を書き出す」「目標復旧時間の決め方」を参照)。
従業員をいつ帰宅させるかも、1時間のうちに決める必要はありません。内閣府の「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン」(令和8年1月)は、発災時に、施設の安全を確認し、周辺の火災状況などを確かめたうえで、従業員等を施設内または他の安全な場所に待機させることを企業等に求めています。神奈川県の条例第17条第4項も、事業者に、施設等の安全と周囲の状況を確認のうえ、従業員等に施設内での待機を指示するなど、一斉帰宅の抑制に必要な措置を講じるよう努めることを定めています。
手順は 1枚の 紙に まとめて 訓練で 確かめる
決めた手順は、班ごとの動きを1枚にまとめ、事務所の目に付く場所と各班のリーダーの手元に置きます。北海道経済産業局のシートは、1時間30分程度の机上訓練で、個人で考えたうえで班ごとに話し合い、各班の対応を一覧にして重複や抜けを確かめる進め方を示しています。訓練の進め方は「机上訓練のやり方」で詳しく扱います。
事業継続力強化計画を申請する場合は、ここで決めた内容を申請書の「自然災害等が発生した場合における対応手順」の欄に当てはめます(「事業継続力強化計画の申請書の書き方」を参照)。