BCPや事業継続力強化計画は、書類ができた時点では、まだ「書いてあるとおりに動けるか」が確かめられていません。連絡網は本当につながるのか、担当者が不在のときに誰が代わるのか、目標の時間に間に合うのか。これを確かめる方法の一つが、会議室で机を囲んで行う机上訓練です。

机上訓練は、人を動かしたり設備を止めたりしないため、少人数で、業務への影響を小さく始められます。この記事では、国のガイドラインでの位置づけを確かめたうえで、中小企業向けに公開されている企画シートと教材を紹介し、地震を想定した机上訓練の進め方を順に整理します。BCPの基本の6段階目「訓練と見直しを続ける」にあたる内容です。

国のガイドラインでの訓練の位置づけ

内閣府(防災担当)の「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)は、BCPを紙面や社内向けのホームページに載せて周知するだけでは、すべての関係者が実践できると考えるのは現実的でないとして、継続的な教育・訓練の実施が不可欠だとしています(6.2.1)。訓練の目的としては、次の3つが挙げられています。

  1. 知識として知っていること(安否確認など)を実際に体験し、身体感覚で覚えること
  2. 手順にできない事項(経営者の判断が必要な事項、想定外への対応など)について、判断・意思決定の力を鍛えること
  3. BCPやマニュアルの弱点や問題点を洗い出すこと

ガイドラインは、教育・訓練の方法を表にまとめています。机上訓練の要素に近いものを抜き出すと、表1のようになります。

表1事業継続ガイドラインに例示された訓練の方法(抜粋)
目的訓練の方法ガイドラインの説明の要旨
BCP・マニュアルの内容の理解促進内容確認(ウォークスルー)役割分担、手順、代替先への移動、確保する資源の確認などを、机上訓練などにより行う
手順書・マニュアルの習熟反復訓練(ドリル)重要な動作を繰り返して身に付ける実働の訓練。避難訓練、消防訓練、対策本部の設営訓練など
事業継続能力の確認・向上、意思決定災害模擬演習・状況想定訓練(シミュレーション)・役割演技法訓練(ロールプレイング)緊急時を想定した状況で、判断・対応を体験し、それぞれの役割に応じた意思決定を模擬的に行う
発展的な訓練総合演習机上訓練と実働訓練を組み合わせ、目標復旧時間内での業務再開などの対応力を確認する

内閣府(防災担当)「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)表6.2.2-1をもとに編集部作成

ガイドラインは、訓練の時期について、定期的(年次など)に行うほか、体制の変更や人事異動、採用などで要員に大きな変更があったとき、BCPを見直したときにも行うとしています。また、どの方法でも、目標をはっきり決め、その達成度を評価する方法をあらかじめ決めておく必要があるとしています(6.2.2)。※1※1ガイドラインは、訓練の分け方には、机上訓練・リアルタイム訓練など実施の形式に着目する方法もあり、表の分け方は一例だとしています(表6.2.2-1の脚注)。

初めての訓練では、表1の上の段にある「内容確認」から始めると、準備が少なくて済みます。作ったBCPを読み合わせながら、「この場面で誰が何をするか」を1つずつ確かめていく形です。

中小企業向けに公開されている企画シートと教材

訓練を一から設計する必要はありません。中小企業庁の事業継続力強化計画のページでは、訓練に使えるツールとして次の2つが紹介されています。

北海道経済産業局「BCP訓練企画シート」

北海道経済産業局が、中小企業が自社で手軽にBCP訓練を実施できるよう作成したシートです(2026年1月23日公表、2026年8月26日に使い方を追記)。中小企業庁のページでは、BCP訓練(机上訓練)の企画・実施をサポートするツールと説明されています。訓練は3種類に分かれています。

表2BCP訓練企画シートの3種類の訓練
訓練内容(北海道経済産業局の説明)用意されている様式
安否確認訓練安否確認体制が有効に機能するかを確認する企画シート、記載例と解説
初動対応訓練災害発生直後に必要な対応を、担当者ごとの役割を明確にしながら整理する企画シート、記載例と解説、参加者用ワークシート
事業継続訓練中核事業を目標復旧時間内に再開するための具体的な対応を検討する企画シート、記載例と解説、参加者用ワークシート

経済産業省北海道経済産業局「訓練企画シート」のページをもとに編集部作成

企画シートには、実施日や対象者、想定する災害など、訓練の企画に必要な検討事項を整理します。記載例と解説には、専門家の視点からの助言も載っています。シートと記載例は、社内訓練での利用に限り複製・引用ができ、営利目的の利用は禁止されています。

中小企業基盤整備機構「Business Survival WORKSHOP」

中小企業基盤整備機構(中小機構)のカードゲーム形式の教材です。事業継続力強化計画の認定を受けている中小企業などに向けた、主に地震・水害を対象とするワークショップで、カードゲームでランダムに災害を発生させ、自社への影響や初動対応、事前・事後の対策を考えます。中小機構のページでは、1グループ3〜5名程度とされ、カードゲーム教材一式は希望する事業者に無料で提供されます(申し込みが必要)。※2※2ワークショップは、被害想定と初動対応を考えるワーク、早期復旧のための事前・事後対策を考えるワーク、振り返りと計画の見直しの3つで構成されています。

少人数で机上訓練を企画する手順

北海道経済産業局の企画シートは、訓練を「企画」「周知」「実施」「見直し」の4段階で進めるよう示しています。この流れに沿って、地震を想定した初動対応の机上訓練を例に、準備から実施までを並べます。

  1. 訓練の種類と目的を1つに絞る。 最初は表2の初動対応訓練など1種類にし、「発災直後の1時間に、誰が何をするかを確かめる」のように目的を一文で書きます。ガイドラインが求めるとおり、何ができれば達成とするかも決めておきます。
  2. 想定する地震を決める。 神奈川県の地震被害想定調査(令和7年3月)では、都心南部直下地震、三浦半島断層群の地震、神奈川県西部地震、東海地震、南海トラフ巨大地震、大正型関東地震の6つが想定されています。自社の所在地で影響が大きいものを選び、発生の曜日と時刻も決めます。想定の読み方は被害想定の読み方で扱っています。
  3. 参加者と役割を決める。 経営者、総務・BCPの担当者、現場の責任者など、BCPに役割が書かれている人を中心に数名を集めます。進行役を1人置き、進行役は答えを示さず、状況を伝える役に徹します。
  4. 周知する。 実施日と目的を参加者に伝えます。BCPや初動対応の手順を事前に読んでおいてもらいます。
  5. 状況を段階的に示して、対応を答えてもらう。 「電話がつながらない」「担当者が出社できない」など、条件を1つずつ加えます。参加者は、BCPのどこに書いてあるかを確かめながら、自分の役割での対応を答えます。
  6. 気づいた点を書き出す。 手順が書かれていなかったこと、書かれていても実行できなかったことを、その場で付箋やワークシートに残します。
注意

机上訓練の目的は、うまく答えることではなく、計画の足りないところを見つけることです。答えに詰まった場面ほど、見直しの材料になります。進行役は、参加者を評価する場にしないよう、はじめに伝えておきます。

所要時間の目安は公的な資料では定められていないため、1回目は目的を絞り、業務に支障のない長さで区切ります。回を重ねるごとに、安否確認や事業継続の訓練へ広げていく方法があります。安否確認の手順そのものは安否確認の方法で整理しています。

訓練の結果を計画の見直しにつなげる

訓練で見つかった課題は、記録して計画に戻さなければ、次の訓練でも同じ場面で止まります。事業継続ガイドラインは、訓練で見つかった弱点や課題のうち、経営判断を待つ必要がない実務的なものは点検・評価を経て是正し、経営判断が必要な重要なものは経営者による見直しにかけ、議論したうえで是正・改善するとしています(6.2.2)。

実務では、書き出した気づきを次の2つに分けておくと、その後の扱いが決まります。

  • 担当者の判断で直せるもの。 連絡先の誤り、手順の書き漏れ、置き場所の変わった備品など。訓練のあとすぐに計画やマニュアルを直します。
  • 経営者の判断が要るもの。 代替の拠点を確保するか、設備を追加するか、目標復旧時間を変えるかなど。年1回の見直しの議題にします。見直しで確かめることは年1回の見直しで確かめることにまとめています。

事業継続力強化計画の認定を受けている場合は、訓練の記録を国への報告にも使えます。中小企業庁の「認定を受けた事業者の皆様へ」(令和8年5月22日版)は、認定後に定期的な訓練と、その結果を踏まえた計画の見直しを行うことが重要だとし、1年に1回を目安に実施を検討するよう求めています。訓練や見直しを行ったときは、申請システムの「実施状況の振り返り」に内容を記載します。振り返りは最大5回分を記載でき、実施日も入力できるため、訓練の記録としても使えます。※3※3振り返りに記載した内容は、2回目以降の申請で必要になる「実施状況報告書」の取組内容の欄に自動的に転記されます(単独型のみ)。

北海道経済産業局の企画シートも、参加者の意見や振り返りで得られた課題をもとに改善プランを記載し、BCPや事業継続力強化計画、必要な事前対策の見直しにつなげるよう示しています。1回の訓練で見つかる課題は限られますが、訓練と見直しを繰り返すことで、計画は書類から実際に使える手順に近づいていきます。制度そのものについては用語集の事業継続力強化計画も参照してください。