大きな地震のあと、会社は平常時と同じ量の仕事をこなせません。人も設備も限られるなかで、どの製品を先につくり、どのサービスを先に再開するかを決めておくことが、BCPの出発点になります。中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」は、この経営判断をあらかじめ行っておくことを「BCPの第一歩」と位置づけています。

この記事は、BCPの基本の3つ目の段階「止まると困る業務を書き出す」の前半として、優先する業務の選び方を扱います。いつまでに再開するかは目標復旧時間の決め方、その業務に必要な人・物・金・情報は経営資源の洗い出しで扱います。

「中核事業」と「重要業務」は段階が違う

国の資料では、優先して続ける対象を2つの段階で考えます。

中小企業庁の指針は、「中核事業」を「会社の存続に関わる最も重要性(または緊急性)の高い事業」としています。例として挙げられているのは「顧客甲に対する製品Aの製造・提供」のように、誰に何を届けるかで表した事業です。そのうえで、受注、部材在庫管理、出荷、配送、支払い、決済といった、中核事業に付随する業務を「重要業務」と呼んでいます。

内閣府の「事業継続ガイドライン」も同じ順番です。まず影響度の評価の結果を踏まえて優先的に継続・復旧すべき重要な事業を絞り込み、その事業に必要な各業務を重要業務として、復旧の目標と優先順位を決めます。

つまり、先に「会社として何を守るか」を決め、次に「そのために社内で止められない仕事は何か」を書き出す、という2段階になります。指針(中級コース)は、製品Aをつくる事業であっても、製品Aをひたすら作り続ければよいわけではなく、受注、出荷、配送、支払い、決済といった業務も不可欠だと説明しています。製造やサービスの提供そのものだけでなく、その前後の事務の業務まで含めて考えます。

止まったときの影響を、7つの観点で評価する

内閣府のガイドラインは、事業影響度分析(BIA)として、まず自社の各事業が停止した場合の影響の大きさと、その変化を時系列で評価するよう求めています。評価の観点の例として示されているのが表1です。

表1事業中断による影響度を評価する観点(例)
観点自社で確かめることの例
利益、売上、マーケットシェアへの影響1日止まると、売上はいくら減るか
資金繰りへの影響入金が止まっても、支払いを何日続けられるか
顧客への影響、取引維持の可能性への影響顧客の事業が止まるか。代わりの会社に切り替えられるか
従業員の雇用・福祉への影響仕事が止まったとき、雇用を維持できるか
法令・条例や契約、SLAなどに違反した場合の影響期限や供給の義務がある業務はどれか
自社の社会的な信用への影響止まったときに、評判に響く業務はどれか
社会的・地域的な影響地域の生活や社会機能の維持に関わる業務はどれか

内閣府「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)表3.1.1-1をもとに編集部作成

右の欄は、観点を自社の問いに置き換えた編集部の例です。ガイドラインは、法令や契約の例として、契約上の供給遅延の賠償責任や、法令上の株主総会の開催期限、税務申告期限などを挙げています。

評価は、原因にかかわらず行います。ガイドラインはその理由を、顧客や取引先にとっては「事業が停止するか否か」が重要で、停止の原因は実際にはそれほど重要ではない場合が多いためと説明しています。地震でも水害でも火災でも、止まったときの影響は同じ表で評価できます。

絞り込むための4つの問い

表1で影響を並べたら、中核事業を1つか少数に絞り込みます。中小企業庁の指針(中級コース)は、「この事業の操業が停止してしまったらどうなるか」「どのような損害が出るか」をイメージしながら、次の4つの視点で考えると効率的だとしています。

  1. 会社の売上に最も寄与している事業は何か
  2. 納期や顧客と確約しているサービスの提供時間など、期限が定められている事業のうち、遅れたときの損害が最も大きい事業は何か。どの程度の遅れまでなら許容されるか
  3. 会社に課せられている法的または財政的な責務はあるか。ある場合、それを満たすためにはどの事業が必要か
  4. 市場シェアや会社の評判を維持するためには、どの事業が重要か

指針は、中核事業は最終的には経営者の判断で決めるものだとしています。事業規模が大きくない会社では中核事業が明確な場合も多いため、重要と思う事業をいくつか挙げ、財務面、顧客関係面、社会的要求面から優先順位を付ける方法でもよいとしています。

決めにくいときの考え方

どの事業も大事で絞り込めない場合もあります。内閣府のガイドラインは、重要業務の決定が難しい企業もあるが、できるだけ決定するよう努めるべきだとし、方法の一つとして、同じ事業でも顧客ごとに分け、重要な顧客への供給を重要業務にできるかを検討することを挙げています。

中小企業庁の指針も、複数の顧客に同じ製品を届ける場合は「顧客甲、乙に対する製品Aの製造・提供」、特定の顧客との契約の履行が最優先の場合は「顧客甲に対する製品A、Bの製造・提供」のように書き分ける例を示しています。事業を「顧客」と「製品・サービス」の組で表すと、比べやすくなります。

重要業務を書き出す手順

中核事業が決まったら、それを支える業務を書き出します。次の手順は、国の資料の考え方を少人数の会社で進める形に並べ直したものです。

  1. 中核事業を1行で書く。 「誰に」「何を」届ける事業かを書きます
  2. その事業の流れを、注文から入金まで順に書き出す。 受注、調達・在庫管理、製造やサービスの提供、出荷・配送、請求・入金、支払いの順に、社内で実際に行っている業務を並べます
  3. 業務ごとに「止まったら中核事業も止まるか」を確かめる。 止まるものが重要業務です。止まらないものは、後回しにできる業務として分けておきます
  4. 重要業務の間に優先順位を付ける。 最初に再開しないと、ほかの業務が動かないものを上に置きます
  5. 担当者と現場に確かめる。 ガイドラインは、情報を集める方法の一例として、アンケートやヒアリングを挙げています
補足

内閣府のガイドラインは、分析は1日当たりの売上や事務処理量を用いた簡易な評価でも一定の目的は達せられ、定量化が難しいものは経営への影響の大小で定性的に評価してもよいとしています。また、分析に時間をかけ過ぎると、その間に事業環境が変わり、作業が無意味になるおそれがあることにも注意を促しています。

重要業務ではないと判断した業務について、ガイドラインは、重要業務の復旧にめどがついた段階で復旧時期を検討するとしています。後回しにする業務も、一覧に残しておくと、発災後に「いつ再開するか」を判断するときの材料になります。

書き出した中核事業と重要業務は、事業継続力強化計画の申請書を書くときにも使えます。まとめ方は事業継続力強化計画にまとめるで扱っています。次は、選んだ業務をいつまでに再開するかを決めます。