災害で事業所が止まると、売上は止まります。それでも、給与や家賃、リース料の支払いは続きます。国の事業継続ガイドラインも、被災すると収入が減る一方で支払いは続き、資金繰りが悪くなるおそれがあるとしています。

会社がまずすること
  1. 休業しても出ていくお金を、1か月分書き出す(1章)
  2. 現金・預金が、月商の1か月分あるか確かめる(2章。国の指針の目安)
  3. 今の保険の証券で、建物の損害と休業の損失のどちらが補償されるか確かめる(3章)

1と2の計算は、リスクファイナンス判断シートでできます(関東経済産業局のExcelのシートと同じ計算)。県と市の融資の条件は「神奈川県内で使えるBCP・防災の支援」にまとめています。

休業しても出ていくお金を書き出す

まず、事業所が止まっても払い続けるお金を書き出します。関東経済産業局のリスクファイナンス判断シートは、次の項目を挙げています。

表1休業中も出ていくお金(運転資金等)の項目
項目どこで調べるか(例)
賃金給与給与台帳、決算書の人件費
役員報酬・賞与など決算書
会社が負担する社会保険料など決算書の法定福利費
リース料などリースの契約書
事務所・工場などの賃料賃貸借の契約書
借入金の返済返済の予定表
税金前の年の納税の記録
その他(違約金など)取引先との契約書

経済産業省 関東経済産業局「リスクファイナンス判断シート 操作ガイド」(令和7年4月23日 Ver1.2)3-3をもとに編集部作成。「どこで調べるか」は編集部

シートでは、それぞれ1年分の金額を入れ、休業の期間(1週間・2週間・1か月・3か月・6か月)に合わせて割り戻します。1か月なら、1年分の12分の1です。

運転資金のほかに、壊れた建物や設備を直すお金も要ります。シートはこれを「復旧資金」として別に数えます。操作ガイドは、運転資金は休業しても翌月などすぐに払う必要がある一方、復旧資金は融資や公的な支援を使い、分割で払うことも多いと説明しています。すぐ要るお金と、後から払えるお金を分けて考えるのが、この章の要点です。

手元に月商の1か月分を置く

現金・預金は、月商の1か月分くらいを持っておくのが目安です(中小企業庁のBCP策定運用指針。経験にもとづく目安)。災害が起きた月の給与や、仕入れの支払いに充てます。

手元に置くのは、ほかのお金は入るまでに時間がかかるからです。

表2災害のときに使えるお金と、使えるようになるまでの時間
お金使えるようになるまで
現金・預金すぐ使える
保険金支払いまでに時間がかかる
会社の資産の売却換金までに時間がかかる
経営者からの支援経営者の意向しだい

中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」財務診断モデル(基本コース)参考-12 の表をもとに編集部作成

お金の備えは、BCPでいちばん後回しになりやすい項目です。BCPに「資金確保」を書いている企業は23.6%で、大企業・中堅企業以外では19.3%でした。従業員の安全確保(95.0%)などと比べて、もっとも低い項目です(内閣府、令和7年度の調査)。

まずここまで
  • 表1の項目を1か月分足して、手元の現金・預金と比べる
  • 足りなければ、取引のある金融機関に、災害のときの借入れを前もって相談しておく
余裕ができたら
  • 被災したときに支払いの期限を延ばしてもらえるか、取引先と話しておく(事業継続ガイドラインに挙げられている方法)
  • 3か月・6か月の休業でも計算してみる

保険で備えられることと、備えられないこと

保険は、手元資金や融資と並ぶ備え方の一つです。押さえておきたいのは次の3点です。※1※1当サイトの運営者(株式会社キール)は保険代理店です。この記事では特定の商品や保険会社を扱わず、国の資料に書かれている仕組みだけを説明しています。運営者については運営者情報をご覧ください。

  1. 建物の損害と、休業の損失は、別の補償です。 建物や機械の損害は火災保険で、事業が止まったことによる損害は利益保険(休業の補償)で備えます(中小企業庁の指針)。休業中の給与や家賃に備えるなら、休業の補償があるかを確かめます。
  2. 地震の備えは、企業向けの補償で考えます。 事業所には、企業向けの火災保険に地震の補償を付ける形があります。住まい向けの地震保険(政府が再保険する制度)は、工場や事務所の建物には使えません(財務省)。火災保険だけでは、地震による火災は補償されません。水害の補償も、契約によって付いているかどうかが違います。
  3. 保険金は、入るまでに時間がかかります。 すぐ出ていくお金は、手元の資金でまかなう前提で考えます。リスクファイナンス判断シートも、この比較には保険金を入れません。被害の状況によっては、契約した金額の一部しか受け取れないこともあります。

加入の状況は、次のとおりです。

表3中小企業の保険の加入の状況
調べたこと結果
地震による休業の損失(利益)を補償する保険に入っている(2018年)14.6%。存在を知らなかった企業は27.0%
地震に備える保険に入っている(2025年度、大企業・中堅企業以外)45.3%

中小企業庁「2019年版 中小企業白書」第3-2-42図(資料:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「中小企業の災害対応に関する調査」2018年12月)、内閣府「令和7年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」図表2-16

大切なのは、入っているかどうかより、何が補償されるかです。白書でも、保険が役に立たなかった理由でもっとも多いのは「被災した災害は補償の対象外であった」でした。

証券を見ても分からないときは、「いつ」「いくらを」「どうやって」支払われるかを、契約している保険会社や代理店に聞きます(操作ガイドの勧める聞き方)。保険も、災害のときの融資の予約も、前もって契約しておくものです(事業継続ガイドライン)。

被災したあとは、入るまでの時間を見て使う

被災したあとに使えるお金を、使える時期の順に並べると、次のようになります。

表4被災したあとに使えるお金の順番(編集部の整理)
時期使うもの主な条件
すぐ手元の現金・預金―
2か月以内に申請国税の納付の猶予財産のおおむね20%以上の損失。災害がやんだ日から2か月以内に申請
2か月以内に申請社会保険料の納付の猶予財産のおおむね20%以上の損失。罹災証明書などを付けて、2か月以内に申請
必要なときに相談県税の徴収の猶予原則1年以内(最長2年)
数週間〜災害の融資・保証日本政策金融公庫の災害貸付(国が指定した災害)、県の災害対応融資、セーフティネット保証4号(売上が前年より20%以上減少など)
数週間〜雇用調整助成金休業させて雇用を守るときの国の助成金。災害のときは、条件をゆるめる特例が出ることがある
数か月〜補助金災害ごとに国が決める。例:なりわい再建支援補助金
被害の調査のあと保険金契約の内容しだい

国税庁、日本年金機構、神奈川県、日本政策金融公庫、神奈川県信用保証協会、厚生労働省、中小企業庁、石川県の各資料をもとに編集部作成。時期は編集部の目安

表4のうち、気をつけたい点が3つあります。

  1. 補助金は、あてにしすぎない。 会社の財産は、災害が原因でも自費で直すのが原則で、補助は特例です(石川県のQ&A)。補助金は災害ごとに名前も中身も決まります。令和6年能登半島地震では、なりわい再建支援補助金(中小企業は4分の3以内)が設けられました。
  2. 罹災証明書と、被害の写真を残す。 県の災害対応融資や社会保険料の納付の猶予などで、市町村の罹災(被災)証明書などを求められます。名前は自治体によって違います。片付ける前に、被害の写真を撮っておきます。
  3. 期限を確かめる。 納付の猶予は、2か月以内に申請します。国税の申告・納付の期限の延長は、期限を過ぎてからでも申請できます。

大きな災害のあとは、県などに特別相談窓口が開かれます。令和8年台風第25号では、横須賀市と三浦市に災害救助法が適用され、神奈川県が10月1日から中小企業向けの窓口を開いています。

社内でまとめておくこと

紙1枚にまとめておくと、被災したときにすぐ動けます。

計算はリスクファイナンス判断シートで、休業の期間を変えながら試せます。

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