大きな地震が起きると、人命救助や消火、物資の輸送を優先するため、道路の通行が規制されます。神奈川県内では、あらかじめ決められた高速道路などが直ちに通行止めになり、強い揺れを観測した区域でも一般車両の通行が禁止されます。配送の拠点や主な納品先がどの道路に面しているかによって、発災後に車を動かせる範囲は大きく変わります。

この記事では、名前が似ている「緊急輸送道路」と「緊急交通路」の違いを確認したうえで、規制の対象となる道路と区域、道路の復旧の目標時間、配送ルートの見直し方を順に整理します。

「緊急輸送道路」と「緊急交通路」は別の仕組み

神奈川県の道路管理課のページは、二つを次のように説明しています。緊急輸送道路は、地震などの大規模災害の直後から救助活動の人員や物資などの緊急輸送を円滑かつ確実に行うため、道路管理者等が事前に指定する路線です。これとは別に、県公安委員会が指定する緊急交通路があり、災害時には一般車両の通行が禁止される場合があります。

表1緊急輸送道路と緊急交通路の違い
項目緊急輸送道路緊急交通路
指定する機関道路管理者等(県内の各道路管理者などで組織する神奈川県緊急輸送道路ネットワーク協議会)県公安委員会
目的災害直後の救助人員・物資の緊急輸送を円滑かつ確実に行う避難・救出救助・消火などの緊急通行車両の通行を確保する
平時の意味橋りょうの耐震補強など、道路施設の防災対策を優先して進める県内に59路線の「緊急交通路指定想定路」がある
災害時の意味被害状況を集め、優先して通れるようにする(道路啓開)路線の対象になる指定されると、緊急通行車両などを除き一般車両の通行が禁止・制限される

神奈川県「神奈川県の緊急輸送道路について」「災害時の通行規制について」、神奈川県警察「大規模災害等発生時の交通規制計画」をもとに編集部作成

県の緊急輸送道路は2種類に分かれています。第1次緊急輸送道路は、高規格幹線道路や一般国道などで構成する広域的なネットワークと、港湾などに連絡する路線で、緊急輸送の骨格をなす路線です。第2次緊急輸送道路は、第1次を補完して地域的なネットワークを形成する路線と、市町村庁舎などに連絡する路線です。路線の一覧とネットワーク計画図は、県のページで公開されています。※1※1県のページでは、リーフレット「神奈川の緊急輸送道路(令和7年3月)」と、神奈川県地域防災計画の資料である緊急輸送道路一覧表がPDFで公開されています。

「緊急交通路」には、ナマズの絵が描かれた看板が道路に設置されている、と県のページは紹介しています。配送ルート上で見かける看板は、その道路が災害時に一般車両の通行を禁止される可能性があることを示しています。

大地震のときに通行が禁止される道路と区域

交通規制の根拠は災害対策基本法です。第76条は、災害が発生し、またはまさに発生しようとしている場合に、都道府県公安委員会が道路の区間や区域を指定して、緊急通行車両以外の車両の通行を禁止し、または制限できると定めています。

神奈川県警察の「大規模災害等発生時の交通規制計画」は、二つの柱で組み立てられています。

  • 路線規制。 県の地域防災計画で想定する地震を被災地域ごとの4つに分類し、被災地域の方向に通じる高速道路や自動車専用道路などを、あらかじめ緊急交通路として指定しておく
  • 面規制。 気象庁が行政区域ごとに発表する震度が一定の値を超えた区域や、大津波警報が発表された場合などに津波を警戒すべき区域で、区域内の車両を区域外へ流出させ、区域内へ進もうとする一般車両と区域内を移動しようとする一般車両の通行を禁止する
表2想定地震ごとに、あらかじめ緊急交通路として規制されることが決められている道路
想定地震規制されることが決められている道路
神奈川県西部地震・東海地震・南海トラフ巨大地震(県南西部に大きな被害)東名高速道路県内全線、新東名高速道路県内全線、中央自動車道県内全線、小田原厚木道路全線、首都圏中央連絡自動車道県内全線
大正型関東地震(県全域に大きな被害)上記の5路線に加え、首都高速道路県内全線、東京湾アクアライン県内全線、保土ヶ谷バイパス及び横浜横須賀道路全線
三浦半島断層群の地震(県南東部に大きな被害)東名高速道路県内全線、新東名高速道路県内全線、首都高速道路県内全線、東京湾アクアライン県内全線、保土ヶ谷バイパス及び横浜横須賀道路全線、首都圏中央連絡自動車道県内全線
都心南部直下地震(県北東部に大きな被害)東名高速道路県内全線、新東名高速道路県内全線、中央自動車道県内全線、首都高速道路県内全線、東京湾アクアライン県内全線、首都圏中央連絡自動車道県内全線、国道246号の都県境から新石川交差点までの間

神奈川県警察「大規模災害等発生時の交通規制計画」(2023年9月1日更新)をもとに編集部作成

面規制の対象は、震度6強以上が観測された区域、そのほか甚大な被害が確認された区域で県警交通部長が必要と認めた道路の区域、沿岸市町が定めた津波浸水区域とされています。発生した地震が4分類に当てはまらない場合も、震源や被害範囲が似た想定地震に当てはめて規制を行うとされています。

規制が広がっていく順番

県警は、規制の時系列の例を次のように示しています。

  1. 災害の発生後、速やかに、あらかじめ緊急交通路として指定している路線と、震度6強以上を観測した区域で交通規制を実施する
  2. 震度6弱以下の区域でも、被害の状況などから県警交通部長が必要と認めた場合は、規制する区域を追加で指定する
  3. あらかじめ指定した道路だけでは緊急通行車両などが被災地域に円滑に移動できない場合などに、規制する道路を追加で指定する。追加の道路は、原則として県内59路線の「緊急交通路指定想定路」の中から指定される
  4. 災害応急対策などの復旧の状況に応じて、段階的に規制を緩和する

59路線には、国道1号、国道16号、国道246号、国道129号などの一般道路や、県道、横浜市道の環状2号線も含まれています。自社の拠点の前の道路が一覧に入っているかどうかは、県警のページで路線名と区間を確かめられます。

注意

道路の区間で通行の禁止が行われたとき、その区間にいる運転者は、速やかに車両を区間の外へ移動しなければなりません。難しいときは、できる限り道路の左側端に沿って駐車するなど、緊急通行車両の妨げにならない方法で駐車します。区域で禁止が行われたときは道路外の場所へ移動します(災害対策基本法第76条の2)。警察官の指示を受けたときは、その指示に従います。運行中のドライバーへの伝え方は「ドライバーの安否確認と運行停止の基準」で整理しています。

道路が通れるようになるまでの目安

国土交通省は、緊急車両などの通行のため、早急に最低限のがれき処理を行い、簡易な段差修正などで救援ルートを開けることを「道路啓開」と呼んでいます。大規模災害では、応急復旧の前にこの道路啓開が必要になります。

神奈川県緊急輸送道路ネットワーク協議会は、令和6年1月の能登半島地震を踏まえ、令和7年3月に「神奈川県緊急輸送道路管理マニュアル」を改定しました。改定では、4分類の地震ごとの被害を想定し、優先して啓開する候補路線を事前に選び、目標時間を定めています。

表3優先啓開候補路線の分類と啓開目標時間
分類主な道路選定の考え方啓開目標時間津波浸水想定区域の場合
優先啓開候補路線I国道(国・県・政令市管理)、高速道路会社管理道路国土の骨格をなす幹線道路である高速道路と、交通量の多い国道48時間大津波警報等の解除後の作業となるため、72時間以内
優先啓開候補路線II県道(県・政令市管理)、市道(政令市管理)、臨港道路等路線Iと、災害拠点病院や広域応援活動拠点等を結ぶ路線48時間拠点が津波浸水想定区域内の場合は72時間以内
優先啓開候補路線III国道(政令市管理)、県道(県・政令市管理)、市道(政令市管理)路線I・IIと、物資輸送拠点や孤立集落地区内のヘリポート等を結ぶ路線72時間大津波警報・津波警報の解除後に作業

神奈川県緊急輸送道路ネットワーク協議会「神奈川県緊急輸送道路管理マニュアル 改定概要」(令和7年3月改定)5ページをもとに編集部作成

啓開は緊急車両を通すための作業で、通れるようになった道路がすぐに一般の配送に開放されるわけではありません。神奈川県の地震被害想定調査(令和7年3月)の概要版は、都心南部直下地震では県東部で、大正型関東地震では全県で、1か月程度の通行止めとなる区間が生じると想定しています。発災から数日の間は、自社の車両で配送できる範囲はかなり限られると考えて計画を立てる必要があります。

配送ルートを平時に見直す手順

規制と啓開の考え方が分かったら、自社の配送ルートに当てはめます。

  1. 拠点と主な納品先を地図に置く。 倉庫、営業所、主な納品先と、その間の主なルートを書き出します。
  2. 規制の対象になる道路に印をつける。 表2の道路と、59路線の緊急交通路指定想定路のうちルート上にあるものに印をつけます。ルートの大半が印のついた道路になる場合、発災直後の配送はほぼできないと見込みます。
  3. 拠点の所在地の揺れの想定を確かめる。 面規制は震度6強以上の区域が対象です。拠点や納品先の市町村でどの程度の揺れが想定されているかを、拠点リスク確認や県の被害想定で確かめます。
  4. 発災直後に「動かない」期間を決める。 規制と啓開の状況が分かるまでは車両を出さない、という判断も選択肢に入れ、その間に何をするか(安否確認、在庫と車両の点検、荷主への連絡)を決めます。
  5. 荷主と代替の手段を話し合う。 国土交通省の「多様な災害に対応したBCP策定ガイドライン」は、道路などの交通インフラが被害を受けた場合に、荷主と物流事業者が連携して代替輸送手段や代替物流施設を確保するよう求めています。平時のうちに、利用できる手段と決め方を共有しておきます。

緊急交通路を通るための手続き

緊急交通路を通行するには、確認を受けた緊急通行車両や規制除外車両であることを示す証明書と確認標章が必要です。神奈川県警察は、災害の直後は警察署の窓口が非常に混雑することが予想されるため、事前の手続きを設けています。

表4災害発生前にできる手続きの概要
区分主な対象災害発生前の手続き
緊急通行車両災害対策基本法第50条第1項の災害応急対策に使われる計画がある車両。指定行政機関等が保有・調達する車両や、指定行政機関等と災害時の契約・協定を結んだ企業・団体の車両で、使用の本拠の位置が県内のもの緊急通行車両であることの確認を受け、標章等の交付を受けられる。協定書の写しなどの書類が必要
規制除外車両医師・歯科医師・医療機関等が使用する車両、医薬品・医療機器・医療用資材等を輸送する車両、患者等搬送用車両(特別な構造または装置があるもの)、建設用重機・道路啓開作業用車両・重機輸送用車両事前届出を行い、規制除外車両事前届出済証の交付を受けると、災害発生時にほかの車両より優先して標章等の交付手続きを受けられる

神奈川県警察「緊急通行車両・緊急輸送車両・規制除外車両の確認手続について」(2024年5月28日更新)をもとに編集部作成

自治体などと災害時の輸送協定を結んでいる運送会社は、緊急通行車両の事前の確認を受けられる場合があります。医薬品や医療機器を運ぶ会社は、規制除外車両の事前届出の対象になり得ます。対象に当たるかどうか、必要な書類は、車両の使用の本拠を管轄する警察署などで確かめてください。