大きな地震が起きると、神奈川県内では、あらかじめ決められた高速道路などが直ちに通行止めになります。強い揺れを観測した区域でも、一般車両の通行が禁止されます。人命救助や消火、物資の輸送を優先するためです。
- 配送ルートと拠点の前の道路が、規制の対象に入っているかを確かめる(2章・4章)
- 発災直後に車両を出さない期間と、その間にすることを決める(3章・4章)
- 輸送協定や医薬品の輸送があれば、緊急交通路を通る事前の手続きを確かめる(4章。表4)
配送の拠点や主な納品先がどの道路に面しているかで、発災後に車を動かせる範囲は大きく変わります。名前が似ている「緊急輸送道路」と「緊急交通路」の違いから、順に説明します。
「緊急輸送道路」と 「緊急交通路」を 区別して 読む
2つは、別の仕組みです(神奈川県の道路管理課のページ)。
- 緊急輸送道路: 地震などの大規模災害の直後から、救助活動の人員や物資などの緊急輸送を円滑かつ確実に行うため、道路管理者等が前もって指定する路線
- 緊急交通路: 県公安委員会が指定する道路。災害時には、一般車両の通行が禁止される場合がある
| 項目 | 緊急輸送道路 | 緊急交通路 |
|---|---|---|
| 指定する機関 | 道路管理者等(県内の各道路管理者などで組織する神奈川県緊急輸送道路ネットワーク協議会) | 県公安委員会 |
| 目的 | 災害直後の救助人員・物資の緊急輸送を円滑かつ確実に行う | 避難・救出救助・消火などの緊急通行車両の通行を確保する |
| 平時の意味 | 橋りょうの耐震補強など、道路施設の防災対策を優先して進める | 県内に59路線の「緊急交通路指定想定路」がある |
| 災害時の意味 | 被害状況を集め、優先して通れるようにする(道路啓開)路線の対象になる | 指定されると、緊急通行車両などを除き一般車両の通行が禁止・制限される |
神奈川県「神奈川県の緊急輸送道路について」「災害時の通行規制について」、神奈川県警察「大規模災害等発生時の交通規制計画」をもとに編集部作成
県の緊急輸送道路は、2種類に分かれています。
- 第1次緊急輸送道路: 高規格幹線道路や一般国道などで構成する広域的なネットワークと、港湾などに連絡する路線。緊急輸送の骨格をなす路線です。
- 第2次緊急輸送道路: 第1次を補完して地域的なネットワークを形成する路線と、市町村庁舎などに連絡する路線です。
路線の一覧とネットワーク計画図は、県のページで公開されています。※1※1県のページでは、リーフレット「神奈川の緊急輸送道路(令和7年3月)」と、神奈川県地域防災計画の資料である緊急輸送道路一覧表がPDFで公開されています。
「緊急交通路」の道路には、ナマズの絵が描かれた看板が設置されています(県のページ)。配送ルート上で見かけるこの看板は、その道路が災害時に一般車両の通行を禁止される可能性があることを示しています。
規制される 道路と 区域を、 想定地震ごとに 確かめる
交通規制の根拠は、災害対策基本法です。災害が発生し、またはまさに発生しようとしている場合に、都道府県公安委員会は道路の区間や区域を指定して、緊急通行車両以外の車両の通行を禁止・制限できます(第76条)。
神奈川県警察の「大規模災害等発生時の交通規制計画」は、2つの柱で組み立てられています。
- 路線規制。 県の地域防災計画で想定する地震を、被災地域ごとの4つに分類します。被災地域の方向に通じる高速道路や自動車専用道路などを、前もって緊急交通路として指定しておきます。
- 面規制。 気象庁が行政区域ごとに発表する震度が一定の値を超えた区域や、大津波警報が発表された場合などに津波を警戒すべき区域が対象です。区域内の車両を区域外へ流出させ、区域内へ進もうとする一般車両と、区域内を移動しようとする一般車両の通行を禁止します。
| 想定地震 | 規制されることが決められている道路 |
|---|---|
| 神奈川県西部地震・東海地震・南海トラフ巨大地震(県南西部に大きな被害) | 東名高速道路県内全線、新東名高速道路県内全線、中央自動車道県内全線、小田原厚木道路全線、首都圏中央連絡自動車道県内全線 |
| 大正型関東地震(県全域に大きな被害) | 上記の5路線に加え、首都高速道路県内全線、東京湾アクアライン県内全線、保土ヶ谷バイパス及び横浜横須賀道路全線 |
| 三浦半島断層群の地震(県南東部に大きな被害) | 東名高速道路県内全線、新東名高速道路県内全線、首都高速道路県内全線、東京湾アクアライン県内全線、保土ヶ谷バイパス及び横浜横須賀道路全線、首都圏中央連絡自動車道県内全線 |
| 都心南部直下地震(県北東部に大きな被害) | 東名高速道路県内全線、新東名高速道路県内全線、中央自動車道県内全線、首都高速道路県内全線、東京湾アクアライン県内全線、首都圏中央連絡自動車道県内全線、国道246号の都県境から新石川交差点までの間 |
神奈川県警察「大規模災害等発生時の交通規制計画」(2023年9月1日更新)をもとに編集部作成
面規制の対象は、次の区域です(県警の計画)。
- 震度6強以上が観測された区域
- そのほか甚大な被害が確認された区域で、県警交通部長が必要と認めた道路の区域
- 沿岸市町が定めた津波浸水区域
発生した地震が4分類に当てはまらない場合も、震源や被害範囲が似た想定地震に当てはめて規制します(同)。
規制が 広がっていく 順番を 知って おく
県警は、規制の時系列の例を次のように示しています。
- 災害の発生後、速やかに、前もって緊急交通路として指定している路線と、震度6強以上を観測した区域で交通規制をする
- 震度6弱以下の区域でも、被害の状況などから県警交通部長が必要と認めた場合は、規制する区域を追加で指定する
- 前もって指定した道路だけでは緊急通行車両などが被災地域に円滑に移動できない場合などに、規制する道路を追加で指定する。追加の道路は、原則として県内59路線の「緊急交通路指定想定路」の中から指定される
- 災害応急対策などの復旧の状況に応じて、段階的に規制を緩和する
59路線には、国道1号、国道16号、国道246号、国道129号などの一般道路が含まれます。県道や、横浜市道の環状2号線も含まれます。自社の拠点の前の道路が一覧に入っているかは、県警のページで路線名と区間を確かめられます。

国道246号(大和市)。下鶴間トンネルの南側の歩道橋から。トラックなどの通行が多い

国道1号のとつか地下道(横浜市戸塚区)。59路線では、国道1号も東京都境から静岡県境までの間が指定想定路
写真:株式会社キール(防災経営)
同じ 道路でも、 資料に よって 位置づけが 違う
国道246号を例にすると、資料ごとの位置づけは次のとおりです。
- 県の緊急輸送道路の一覧(令和7年3月):全線が第1次緊急輸送道路
- 県警の59路線:東京都境から静岡県境までの間が、緊急交通路指定想定路
- 表2のあらかじめ規制が決められている道路:都心南部直下地震の計画の「都県境から新石川交差点までの間」だけ
大和市や海老名市を通る区間は、規制が広がるときに指定される候補の道路という位置づけです。
道路の区間で通行の禁止が行われたとき、その区間にいる運転者は、速やかに車両を区間の外へ移します。難しいときは、できる限り道路の左側端に沿って駐車するなど、緊急通行車両の妨げにならない方法で駐車します。区域で禁止が行われたときは、道路外の場所へ移します(災害対策基本法第76条の2)。警察官の指示を受けたときは、その指示に従います。
運行中のドライバーへの伝え方は、「ドライバーの安否確認と運行停止の基準」で整理しています。
発災から 数日は、 配送できる 範囲が 限られると 見込む
大規模災害では、応急復旧の前に「道路啓開」が要ります。緊急車両などを通すため、早急に最低限のがれき処理をし、簡易な段差修正などで救援ルートを開けることです(国土交通省)。
神奈川県緊急輸送道路ネットワーク協議会は、令和6年1月の能登半島地震を踏まえ、令和7年3月に「神奈川県緊急輸送道路管理マニュアル」を改定しました。改定では、4分類の地震ごとの被害を想定し、優先して啓開する候補路線を事前に選んで、目標時間を定めています。
| 分類 | 主な道路 | 選定の考え方 | 啓開目標時間 | 津波浸水想定区域の場合 |
|---|---|---|---|---|
| 優先啓開候補路線I | 国道(国・県・政令市管理)、高速道路会社管理道路 | 国土の骨格をなす幹線道路である高速道路と、交通量の多い国道 | 48時間 | 大津波警報等の解除後の作業となるため、72時間以内 |
| 優先啓開候補路線II | 県道(県・政令市管理)、市道(政令市管理)、臨港道路等 | 路線Iと、災害拠点病院や広域応援活動拠点等を結ぶ路線 | 48時間 | 拠点が津波浸水想定区域内の場合は72時間以内 |
| 優先啓開候補路線III | 国道(政令市管理)、県道(県・政令市管理)、市道(政令市管理) | 路線I・IIと、物資輸送拠点や孤立集落地区内のヘリポート等を結ぶ路線 | 72時間 | 大津波警報・津波警報の解除後に作業 |
神奈川県緊急輸送道路ネットワーク協議会「神奈川県緊急輸送道路管理マニュアル 改定概要」(令和7年3月改定)5ページをもとに編集部作成
啓開は、緊急車両を通すための作業です。通れるようになった道路が、すぐに一般の配送に開放されるわけではありません。
神奈川県の地震被害想定調査(令和7年3月)の概要版は、1か月程度の通行止めとなる区間が生じると想定しています。都心南部直下地震では県東部で、大正型関東地震では全県でです。発災から数日の間は、自社の車両で配送できる範囲はかなり限られると考えて、計画を立てます。
配送ルートを、 平時に 規制と 照らし合わせる
規制と啓開の考え方が分かったら、自社の配送ルートに当てはめます。
- 拠点と主な納品先を地図に置く。 倉庫、営業所、主な納品先と、その間の主なルートを書き出します。
- 規制の対象になる道路に印をつける。 表2の道路と、59路線の緊急交通路指定想定路のうち、ルート上にあるものに印をつけます。ルートの大半が印のついた道路になるなら、発災直後の配送はほぼできないと見込みます。
- 拠点の所在地の揺れの想定を確かめる。 面規制は、震度6強以上の区域が対象です。拠点や納品先の市町村でどの程度の揺れが想定されているかを、拠点リスク確認や県の被害想定で確かめます。
- 発災直後に「動かない」期間を決める。 規制と啓開の状況が分かるまでは車両を出さない、という判断も選択肢に入れます。その間に何をするか(安否確認、在庫と車両の点検、荷主への連絡)を決めます。
- 荷主と代替の手段を話し合う。 道路などの交通インフラが被害を受けた場合は、荷主と物流事業者が連携して、代替輸送手段や代替物流施設を確保します(国土交通省「多様な災害に対応したBCP策定ガイドライン」)。平時のうちに、使える手段と決め方を共有しておきます。
緊急交通路を 通る ための 手続きを、 前もって 確かめる
緊急交通路を通るには、確認を受けた緊急通行車両や規制除外車両であることを示す、証明書と確認標章が要ります。災害の直後は警察署の窓口が非常に混雑することが予想されるため、神奈川県警察は事前の手続きを設けています。
| 区分 | 主な対象 | 災害発生前の手続き |
|---|---|---|
| 緊急通行車両 | 災害対策基本法第50条第1項の災害応急対策に使われる計画がある車両。指定行政機関等が保有・調達する車両や、指定行政機関等と災害時の契約・協定を結んだ企業・団体の車両で、使用の本拠の位置が県内のもの | 緊急通行車両であることの確認を受け、標章等の交付を受けられる。協定書の写しなどの書類が必要 |
| 規制除外車両 | 医師・歯科医師・医療機関等が使用する車両、医薬品・医療機器・医療用資材等を輸送する車両、患者等搬送用車両(特別な構造または装置があるもの)、建設用重機・道路啓開作業用車両・重機輸送用車両 | 事前届出を行い、規制除外車両事前届出済証の交付を受けると、災害発生時にほかの車両より優先して標章等の交付手続きを受けられる |
神奈川県警察「緊急通行車両・緊急輸送車両・規制除外車両の確認手続について」(2024年5月28日更新)をもとに編集部作成
- 自治体などと災害時の輸送協定を結んでいる運送会社は、緊急通行車両の事前の確認を受けられる場合があります。
- 医薬品や医療機器を運ぶ会社は、規制除外車両の事前届出の対象になり得ます。
対象に当たるかどうかと、要る書類は、車両の使用の本拠を管轄する警察署などで確かめてください。
社内で、次の項目をまとめておきます。