BCPの作成を任された総務の担当者が最初につまずくのは、書く内容よりも、誰に何を聞けばよいかが決まっていないことです。重要な業務を選ぶには営業や製造の判断が要り、目標の復旧時間を決めるには経営者の判断が要ります。担当者1人が資料を集めて書き上げても、決める人が関わっていなければ、計画は使われません。

この記事では、BCPを作る体制と、作った後に使い続ける体制について、国の資料が何を求めているかを確かめ、中小企業での組み方を整理します。根拠は、内閣府(防災担当)の「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)、中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」と「事業継続力強化計画策定の手引き」です。

国の資料が求める体制

内閣府のガイドラインは、BCMの実施にあたって経営者が最初に行うこととして、基本方針の策定(2.1)と実施体制の構築(2.2)を挙げています。2.2の内容は、次の3点にまとめられます。

  1. 責任者と事務局を指名する。 経営者は、BCMの責任者と、BCM事務局のメンバーを指名します。事務局は、責任者の指示でBCMの体制構築や運用を行う組織とされています。
  2. 全社的な体制をつくる。 関係部門すべての担当者によるプロジェクトチームを立ち上げるなど、全社的な体制を構築します。全社的な体制は既存の組織を活用してもよく、各部門で責任と権限を持つ要員を任命することが重要だとされています。
  3. 作った後も体制を解散しない。 BCPを策定した後も、事前対策、教育・訓練、見直し・改善を進める運用体制に移し、BCMを維持します。

ガイドラインは、経営者がこれらの体制で総括的な責任と説明責任を負わなければならないとしています。また「はじめに」では、事業継続の取り組みは経営者が率先して取り組むべき重要な経営課題であり、担当者のみの対応では効果が得られない、と書いています。

中小企業庁の中小企業BCP策定運用指針も、2.2「策定・運用体制の確立」で同じ方向を示しています。指針が挙げる考慮点は、経営者自らが率先して策定・運用推進にあたること、企業の規模や業務の役割分担に応じて人選すること、取引先や協力企業と意見交換やすり合わせを行うこと、取り組んでいることをすべての従業員に周知すること、の4つです。

平時の推進体制を組む

体制の組み方は、会社の規模によって変わります。指針は、家族経営のような企業では経営者1人でも構わないとし、総務、財務、労務、技術、営業などの役割分担が決まっている場合は、各部署からサブリーダーを参画させるよう求めています。

表1は、国の資料の記述をもとに、平時の役割を整理したものです。

表1平時の推進体制での役割
役割担う人の例主な仕事
責任者経営者導入の決定、基本方針の策定、経営資源の割り当て、重要業務と目標復旧時間の判断、計画の承認と見直しの判断
事務局総務・BCPの担当者資料の収集、様式の作成、各部門への聞き取り、会議の運営、事前対策の進み具合の管理
部門のサブリーダー営業・製造・物流・経理などの責任者自部門の業務と必要な資源の洗い出し、代替手段の検討、部門内への周知
従業員全員訓練への参加、自分の役割と連絡方法の確認

内閣府「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)1.4・2.2、中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」2.2 をもとに編集部作成

ガイドラインの1.4は、経営者に求められる事項の一つとして、BCMに関する議論・調整・改善などに自らのスケジュールを確保して積極的に参画することを挙げています。事務局が資料を整えても、判断の場に経営者がいなければ話が進みません。会議の日程を先に経営者の予定に入れてしまうのが、実務上は確実な方法です。

体制を作った後の運用について、ガイドラインは、導入のときより専任者を減らし、各部門との兼務でもよいので要員を確保し続けることが重要だとしています(2.2 脚注24)。また、策定のために各部門から出たメンバーを兼務のまま運用体制に残すなどして、担当者の一斉の交代や体制の縮小で詳細が引き継がれない状況を避けることが望ましい、とも書いています(6.1 脚注91)。

注意

人事異動で事務局の担当者が替わると、計画の中身を知る人がいなくなります。ガイドラインは、体制変更・人事異動・新規採用で新しく就いた責任者や担当者への教育が特に重要だとしています(5.1.3)。引き継ぎの時期を、年間の見直しの予定に組み込んでおきます。

事業継続力強化計画を作る場合も、平時の推進体制は申請書の項目の一つです。策定の手引きは、経営層の指揮の下での体制整備、年1回以上の訓練や教育、年1回以上の計画の見直し、取組内容の社内周知の4点を検討して記載するよう求めています。記載例として、代表取締役の指揮の下で担当部署を統括として推進体制を整えることや、管理職全員で組織する会議を年2回開いて具体的な取り組みを検討・決定することが示されています。

緊急時の体制で決めておくこと

平時の推進体制とは別に、災害が起きたときに動く体制も決めておきます。ガイドラインの5.1.1.1は、事業継続のための緊急時の体制を定め、関係者の役割・責任と指揮命令系統を明確にし、その責任者は経営者が担う必要があるとしています。

同じ箇所で、重要な役割を担う人が死傷したり連絡がつかなかったりする場合に備えて、権限の委譲や、代行者と代行順位も定めるよう求めています。中小企業では経営者1人に判断が集まりやすいため、経営者が不在のときに誰が決めるかを書いておくことが、特に大切になります。※1※1ガイドラインは、経営者が参集できない場合でも、重要事項の決定をできるだけ経営者自らが行えるよう、経営者との通信手段を多重化しておくことも推奨しています(5.1.1.1 脚注75)。

事業継続力強化計画の手引きは、非常時の緊急時体制の構築について、具体的な対策の例を挙げています。表2はその一部です。推奨とされている項目には、手引きで印が付いています。

表2非常時の緊急時体制の構築で決めておく項目の例
決めておくこと手引きの記載の例推奨
本部の構成災害対策本部の構成要員、班の役割を定める推奨
設置の基準震度○以上の地震が発生した場合、気象庁より特別警報が出されたときなど、設置基準を決定する推奨
参集の基準災害発生時の参集基準を定める—
代行者上位者の不在時に備え、代行して意思決定を行う代行者を定める—
要員の選定本部の要員として、事業所から○○km圏内に住む者を予め選定する—
社内への周知災害対策本部を設置した際の社内への周知方法を定める—

中小企業庁「事業継続力強化計画策定の手引き」(令和8年7月17日版)の「非常時の緊急時体制の構築の例」をもとに編集部作成

緊急時の体制の形について、ガイドラインは、日常の組織をそのまま使う方法と、情報収集・分析評価・後方支援・実施対応・情報発信などの機能別に組織を立ち上げる方法がある、としています(5.1.1.1 脚注76)。少人数の会社では、日常の組織をそのまま使い、誰がどの機能を兼ねるかを決めておく形が現実的です。

本部の置き場所も体制の一部です。ガイドラインは、本社が使えなくなることも想定し、同時に被災しない代替拠点を確保する必要があるとしています(4.2.2.1)。代替拠点の場所は、自社の営業所や取引先の事務所、商工会議所などでもよく、どの代替拠点に誰がいつどのように集まり、どの業務を続けるかを決めておく必要があるとされています。

体制づくりの進め方

以上を踏まえると、中小企業で体制をつくる作業は、次の順に進められます。

  1. 経営者が責任者になることを決め、社内に伝える。 指針が求めるとおり、取り組んでいることを全従業員に周知します。
  2. 事務局を決める。 総務の担当者に加え、できれば別の部門からも加わってもらい、異動のときに中身を知る人が残るようにします。
  3. 部門ごとのサブリーダーを決める。 業務の洗い出しと代替手段の検討を担ってもらいます。兼務で構いません。
  4. 会議の予定を決める。 策定の期間中の会議の日程に加え、策定後の年1回以上の訓練と見直しの時期を、先に年間の予定に入れます。
  5. 緊急時の体制を平時の体制とあわせて書く。 本部長と代行順位、設置の基準、参集の基準、本部の場所と代替場所を決めます。

策定に必要な時間の目安は、指針の1.2に示されています。基本コースは経営者1人で延べ1〜2日程度、中級コースは経営者とサブリーダーを含む数人で2〜3日とされています。

当サイトのBCPの基本では、この記事を1段階目に置いています。体制が決まったら、2段階目のハザードマップの読み方と拠点リスク確認で所在地のリスクを確かめ、3段階目の止まると困る業務を書き出すで各部門のサブリーダーと一緒に重要業務を選びます。発災直後に本部が何をするかは、発災後1時間の初動対応と安否確認の手順で扱っています。