中小企業の防災の資料を読んでいると、「BCP」と「事業継続力強化計画」という2つの言葉が並んで出てきます。どちらも災害に備えて事業を続けるための計画ですが、性格が違います。BCPは会社が自分のために作る計画で、決まった書式も提出先もありません。事業継続力強化計画は、法律にもとづいて国が認定する制度で、書く項目と申請の手続きが決まっています。

この記事では、中小企業庁の公表資料をもとに両者の違いを表にまとめ、どちらから作るかを判断する目安を示します。

2つの計画の位置づけ

BCPについては、内閣府の「事業継続ガイドライン」が、不測の事態が起きても重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための方針・体制・手順などを示した計画、と説明しています。中小企業向けには、中小企業庁が「中小企業BCP策定運用指針」で様式と作り方を公開しています。どちらも作り方の手引きであり、作ったBCPをどこかに提出する仕組みではありません。BCPそのものの説明はBCPとは何かにまとめています。

事業継続力強化計画は、中小企業等経営強化法にもとづく認定制度です。中小企業庁は、中小企業者などが策定した防災・減災の事前対策に関する計画を経済産業大臣が認定する制度であり、「中小企業のための取り組みやすいBCP」と位置づけられる、と説明しています。制度の概要では、事業者が災害リスクなどを認識し、自社の防災・減災対策の第一歩として取り組むために必要な項目を盛り込んだもの、とされています。

つまり、事業継続力強化計画はBCPの一種で、国が項目を絞って書式を決め、認定を受けると支援策が使えるようにしたもの、と考えると整理しやすくなります。※1※1中小企業庁の資料による認定件数は、令和8年8月末日時点の累計で全国103,477件、うち神奈川県は4,604件です(いずれも連携事業継続力強化計画を含み、神奈川県のうち連携型は35件)。

表1BCPと事業継続力強化計画の比較
観点BCP(事業継続計画)事業継続力強化計画
根拠法律上の決まった書式はない。国のガイドラインや指針が作り方を示す中小企業等経営強化法にもとづく認定制度
作る主体規模を問わずすべての企業・組織中小企業者など(業種ごとに資本金・従業員数の基準がある)
書式自由。中小企業庁の指針に様式がある決まった項目を電子申請システムに入力する
提出・認定なし経済産業大臣の認定(申請先は地方経済産業局)
期間定めなし。見直しながら使い続ける実施期間は3年が上限
認定後の支援なし税制措置、低利融資、補助金の審査での加点など
公表なし認定を受けると事業者名などが中小企業庁のサイトで公表される(計画の内容は公表しない)

内閣府「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)、中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」「事業継続力強化計画認定制度の概要」(令和8年7月17日版)「事業継続力強化計画Q&A集」(令和7年12月17日版)をもとに編集部作成

認定の対象となる中小企業者の規模は、中小企業等経営強化法の定義によります。たとえば小売業は資本金5千万円以下または常時使用する従業員50人以下、サービス業は資本金5千万円以下または従業員100人以下、製造業その他は資本金3億円以下または従業員300人以下です(制度の概要 P1)。

事業継続力強化計画に書く項目

策定の手引きは、計画を作る手順として5つのステップを示しています。

  1. 計画策定の目的 自社の事業活動が担う役割と、事業継続力強化に取り組む目的を考える
  2. 災害等のリスク確認・影響想定 ハザードマップなどで拠点のリスクを確かめ、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」への影響を考える
  3. 発災時の初動対応の内容・手順 人命の安全確保、非常時の緊急時体制の構築、被害状況の把握と被害情報の共有
  4. ヒト、モノ、カネ、情報への事前対策・事後対応 人員体制の整備、設備などの導入、資金の調達手段の確保、重要情報の保護
  5. 平時の推進体制、訓練・見直し方法 経営層が関与する推進体制、年1回以上の訓練・教育、年1回以上の計画の見直し、取組の社内周知

手引きには、記載が足りないと認定の対象にならない点も書かれています。たとえば、自らの事業活動がサプライチェーンや地域経済で担う役割の記載がない場合や、ハザードマップなどの根拠資料が記載されていない場合です。初動対応の各項目も、必ず記載する必要があるとされています。

BCPと比べると、事業継続力強化計画には、重要業務を細かく分析したり、業務ごとに目標復旧時間を決めたりする項目は求められていません。その代わり、所在地のリスク、初動対応、4つの経営資源への対策、平時の訓練と見直しという、BCPの骨格にあたる部分が一通り含まれています。

補足

すでにBCPを作っている会社は、手引きの記載例にならって、BCPの該当部分を転記し、BCPの該当ページを参考書類として添付できます。秘匿したい情報は塗りつぶしてよいとされています(策定の手引き P3)。

認定までの手続き

制度の概要と Q&A集によると、手続きの流れは次のとおりです。

  • 申請は単独型・連携型ともに「事業継続力強化計画電子申請システム」から行います。Q&A集では原則電子申請のみとされています。
  • システムへのログインには GビズIDアカウント(プライムまたはメンバー)が必要です。取得には最低でも2週間程度かかるとされているため、先に手配しておきます。
  • 審査の標準処理期間は45日です(Q&A集では約45日)。申請書に不備があると、経済産業局からの照会などで時間がかかる場合があります。
  • 申請期限はありません。実施期間は3年が上限で、期間が終わった後も認定を続けたい場合は新たに申請します。2回目以降の申請には、前回の計画の実施状況報告書が必要です。

認定を受けると使える支援として、制度の概要は、日本政策金融公庫による低利融資、信用保証の別枠の追加や保証枠の拡大、中小企業防災・減災投資促進税制、補助金の審査での加点などを挙げています。税制は、青色申告書を提出する中小企業者などで、令和元年7月16日から令和9年3月31日までの間に認定を受けた事業者が、認定を受けた日から1年を経過する日までに、計画に記載した対象設備を取得して事業の用に供した場合に、特別償却16%を受けられるものです。金融支援を使う場合は、計画を提出する前に関係機関に相談するよう案内されています。

神奈川県の事業者の申請先は、関東経済産業局の中小企業課です。

どちらから作るかの考え方

中小企業庁は、中小企業BCP策定運用指針のページで、事業継続力強化計画を策定することも有用なので、指針を活用しつつ策定を検討するよう案内しています。両方を別々に作る必要はなく、一方を作れば、もう一方の多くの部分に使えます。自社の状況に合わせて、入り口を選びます。

表2どちらから作るかの目安
自社の状況先に作るもの理由
防災・BCPの計画がまだ何もない事業継続力強化計画項目が決まっており、書く範囲が絞られている。記載例も手引きにある
取引先からBCPの提出や説明を求められているBCP(指針の基本コースなど)重要業務と目標復旧時間を示せるほうが、取引先への説明に向く
防災設備の導入や、低利融資の利用を予定している事業継続力強化計画税制措置や金融支援は認定が条件。設備は認定後に取得する必要がある
すでにBCPがある事業継続力強化計画を追加で申請BCPの該当部分を転記・添付でき、作業が少ない

中小企業庁の公表資料の記載をもとに編集部作成(判断の目安は編集部による例)

判断で迷いやすいのは設備投資との順番です。Q&A集は、税制措置の対象となる設備は計画の認定後に取得することが必須で、認定前に取得した設備は対象外になると明記しています。導入の予定がある場合は、発注の前に計画の準備を始めます。

どちらを先にしても、作った計画は年1回以上の訓練と見直しで使い続けることが前提です。内閣府のガイドラインも、初めから完璧なものを目指さず、できることから始めて改善していくことを強く推奨しています。

当サイトのBCPの基本では、事業継続力強化計画にまとめる段階を5段階目に置いています。申請書の項目ごとの書き方は事業継続力強化計画の申請、認定を受けたときの支援は事業継続力強化計画の認定で使える支援、複数の会社で作る連携型は連携事業継続力強化計画で扱っています。手引きが推奨している資金の過不足の見積もりは、リスクファイナンス判断シートで試算できます。