「BCPを作ってほしい」と取引先や金融機関から言われたとき、まず迷うのは、すでにある防災計画や消防計画と何が違うのか、という点です。避難訓練をしていて、備蓄もある。それでも足りないと言われるのはなぜか。

この記事では、国がBCPをどう定義しているかを確かめたうえで、従来の防災活動との違いを整理します。根拠にするのは、内閣府(防災担当)の「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)と、中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」です。どちらも、社内で説明するときにそのまま示せる公的な資料です。

国のガイドラインが示すBCPの定義

内閣府の事業継続ガイドラインは、BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)を次のように説明しています。大地震などの自然災害、感染症のまん延、テロなどの事件、大事故、サプライチェーン(供給網)の途絶、突発的な経営環境の変化といった不測の事態が起きても、重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い期間で復旧させるための、方針・体制・手順などを示した計画です(ガイドライン 1.1)。

この定義には、2つの要素が含まれています。

  1. 対象は「重要な事業」であること。 すべての業務を守るのではなく、止めてはいけない事業を選ぶことが前提になっています。
  2. 「中断しない」だけでなく「短い期間で復旧させる」ことも含むこと。 止まることを前提に、いつまでに戻すかを決めておく考え方です。

ガイドラインは、計画そのものに加えて、計画の策定や更新、予算と資源の確保、事前対策、教育・訓練、点検、継続的な改善といった平常時からの活動全体を、BCM(Business Continuity Management、事業継続マネジメント)と呼んでいます。そして、BCMは経営レベルの戦略的活動として位置づけられるとしています(ガイドライン 1.1)。※1※1ガイドラインの脚注によると、以前の版では、こうした平常時の活動も広い意味のBCPに含めて説明していました。国際的にはBCPを「不測の事態が起きたときの対応計画書」という狭い意味で使うことが多いため、整合をとってBCMという言葉で説明するようになった、とされています。

中小企業庁の中小企業BCP策定運用指針も、同じ考え方に立っています。指針は、緊急事態への備えがBCPであるとしたうえで、普段行っていないことを緊急時に行うのは実際には難しく、あらかじめ対処の方策を検討し、日頃から継続的に訓練しておくことが必要だと書いています(指針 1.1)。

表1事業継続ガイドラインの主な改定
時期主な目的(ガイドラインの記載による)
平成17年8月企業・組織の災害時における事業継続計画(BCP)の策定促進(第一版)
平成21年11月ガイドラインの実用性向上
平成25年8月平常時からの事業継続マネジメント(BCM)の普及促進、災害教訓・国際動向などの反映
令和3年4月災害時の従業員などの外出抑制策などの反映の促進
令和5年3月企業を取り巻く環境変化の反映(テレワーク、オンラインでの意思決定、情報セキュリティーの強化など)

内閣府「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)の「改定に当たって」表(1)をもとに編集部作成

防災計画との違い

多くの会社には、すでに防災の取り組みがあります。避難経路の掲示、消火器の点検、備蓄、年1回の避難訓練などです。内閣府のガイドラインは、こうした従来の防災活動とBCMの関係を表にして比べています。表2はその要点です。

表2企業の従来の防災活動と事業継続マネジメント(BCM)の比較
観点従来の防災活動事業継続マネジメント(BCM)
主な目的身体・生命の安全確保、物的被害の軽減身体・生命の安全確保に加え、優先的に継続・復旧すべき重要業務の継続または早期復旧
考慮する事象拠点がある地域で発生が想定される災害自社の事業中断の原因となり得るあらゆる発生事象
重視すること死傷者数・損害額を最小限にすること、安否確認と被災者の救助・支援、拠点の早期復旧左に加え、重要業務の目標復旧時間・目標復旧レベルの達成、経営と利害関係者への影響を許容範囲に抑えること、収益を確保し企業として生き残ること
検討の範囲自社の拠点ごと(本社ビル、工場など)全社的(拠点横断的)、委託先・調達先・供給先などサプライチェーンを含む
取り組む主体防災・総務・施設など特定の部門経営者を中心に、各事業部門・調達・販売・サポート部門が横断的に
主な対策耐震補強、備蓄、二次災害の防止、救助・救援、復旧工事など代替拠点の確保、拠点や設備の二重化、情報のバックアップなどの代替戦略と、現地復旧戦略

内閣府「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)表1.2-1をもとに編集部作成(表現を一部短くしています)

表2の右の列は、左の列を置き換えるものではありません。「身体・生命の安全確保に加え」とあるとおり、防災活動の上に重ねる形になっています。ガイドラインも、防災活動は企業経営の観点からも今後とも極めて重要であり、BCMと防災活動を並行して進めるべきだとしています(ガイドライン 1.2)。

そのうえで、ガイドラインは両者のいちばん大きな違いを次の点に置いています。災害などで使える経営資源が限られることを踏まえて、優先すべき重要な事業・業務を絞り込み、どの業務をいつまでにどのレベルまで回復させるかを、経営判断として決めることです。防災活動の単なる延長としてBCMをとらえると、効果を十分に発揮できないおそれがある、とも書かれています(ガイドライン 1.2)。

補足

社内で説明するときは、「防災計画は人と建物を守る計画、BCPは事業を守る計画。人命の安全確保はどちらでも最優先」と整理すると伝わりやすくなります。ただし、BCPは防災計画の代わりにはなりません。消防法などにもとづいて作っている計画は、そのまま維持します。

経営者が関わる理由

表2の「取り組む主体」の行にあるとおり、BCPは総務部門だけで作るものではありません。ガイドラインは「はじめに」の中で、事業継続の取り組みは経営者が率先して取り組むべき重要な経営課題であり、担当者だけの対応では効果が得られないと述べています。

経営者に求められる事項として、ガイドラインの1.4は、BCMの導入を決めて自社の重要事項として実施させること、経営理念やビジョンを踏まえて基本方針を定めること、経営資源の割り当てや計画の策定・見直しを判断すること、議論や改善に自らのスケジュールを確保して参画すること、などを挙げています。重要業務の絞り込みや目標復旧時間は、売上や取引先との関係に直結する判断であり、担当者だけでは決めきれないためです。

BCPが求められる背景として、ガイドラインは国の制度にも触れています。災害対策基本法にもとづく国の「防災基本計画」には、企業の果たす役割の一つとして、災害時に重要業務を継続するためのBCPを策定するよう努めることが記載されています(ガイドライン 1.3)。※2※2ガイドラインによると、平成25年度の災害対策基本法の改正で、災害応急対策や災害復旧に必要な物資・資材・役務を供給・提供する事業者について、災害時にも事業活動を継続的に実施するよう努めなければならないという規定(第7条第2項)が加えられました。いずれも「努める」とされた努力義務です。

平常時の利点についても書かれています。緊急時にも製品やサービスの供給が期待できることから取引先に評価され、新たな顧客の獲得や取引の拡大、投資家からの信頼の向上につながる、というものです(ガイドライン 1.3)。

中小企業はどこから始めるか

ガイドラインは、BCMの範囲は自社の事業内容や規模に応じて経営者が判断してよいとしています。多額の出費を伴わなくても一定の対応は可能であり、初めから完璧なものを目指して着手をためらうのではなく、できることから始めて継続的に改善していくことを強く推奨しています(ガイドライン 1.1)。

中小企業庁の中小企業BCP策定運用指針は、投入できる時間と労力に応じた4つのコースを用意しています。指針が示す目安は表3のとおりです。

表3中小企業BCP策定運用指針のコースと、策定に要する日数の目安
コース内容策定に要する日数の目安
入門最低限必要な要素を抽出したコース経営者1人で1〜2時間程度
基本目標復旧時間や緊急連絡先などの具体的な情報を様式に記入経営者1人で延べ1〜2日程度
中級理論を学びつつ体系的に策定経営者1人で延べ3〜5日、経営者とサブリーダーを含む数人で2〜3日
上級策定済みの企業が、他社との連携や深い分析でステップアップ経営者とサブリーダーを含む数人で延べ1週間程度

中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」1.2 本指針の使い方 をもとに編集部作成

指針は、この日数はBCPの策定に限った目安で、会社の規模や事業内容によって変わること、別に教育訓練や見直しの時間が必要になることも注記しています。

指針はBCPを作る目的を、緊急時にも事業を継続できるよう準備することで、顧客からの信用、従業員の雇用、地域経済の活力の3つを守ることだと説明しています(指針 2.1)。基本方針を書くときの出発点として、そのまま使える整理です。

最初に作る計画の形としては、中小企業庁の「事業継続力強化計画」もあります。中小企業庁はこの制度を「中小企業のための取り組みやすいBCP」と位置づけています。BCPとの関係や、どちらから手をつけるかは、BCPと事業継続力強化計画の違いで整理しています。

当サイトのBCPの基本では、初めての担当者が読む順番を6つの段階に分けています。この記事はその1段階目です。社内の体制をどう組むかは中小企業でBCPを作る体制で、次の段階の、所在地で起こり得る災害の調べ方はハザードマップの読み方と拠点リスク確認で扱っています。重要業務の絞り込みと目標復旧時間は、止まると困る業務を書き出すと目標復旧時間の決め方に続きます。