停電すると、店舗では照明、レジ、冷蔵・冷凍のショーケースが同時に止まります。来店客がいる中で、営業を続けるか、いったん閉めるか。止まった冷蔵ケースの商品を売り続けてよいのか。停電が長引けば、商品の扱いは店の損失にも、食品の安全にも関わります。
この記事では、停電の規模を神奈川県の被害想定で確かめたうえで、冷蔵・冷凍品の扱いを判断するときに拠り所となる法令の決まりを整理し、停電中から復旧時までの確認の順番を示します。
県の 被害想定に 見る 停電の 規模
神奈川県の地震被害想定調査(令和7年3月)は、都心南部直下地震が冬の18時に起きた場合、県内の停電は254,890軒と想定しています。横浜市、川崎市、相模原市などで被害が大きいとされています。大正型関東地震では、停電は1,952,210軒と想定されています。
同じ調査は、激甚(最悪)ケースの一つとして「停電の広域化・長期化による影響」を挙げ、定性的に記載するとしています。停電がいつまで続くかは、地震の規模や被害の場所によって大きく変わります。店舗の側では、短い停電と長い停電の両方を想定して、判断の順番を決めておくことになります。
| 想定地震 | 県内の停電軒数 |
|---|---|
| 都心南部直下地震(マグニチュード7.3) | 254,890軒 |
| 三浦半島断層群の地震(マグニチュード7.0) | 124,870軒 |
| 神奈川県西部地震(マグニチュード6.7) | 71,370軒 |
| 大正型関東地震(マグニチュード8.2) | 1,952,210軒 |
神奈川県「神奈川県地震被害想定調査 報告書概要版」(令和7年3月)の想定地震別被害想定結果の一覧をもとに編集部作成
商品の 扱いを 判断する ための 決まり
停電中の商品の扱いは、店の裁量だけで決めるものではありません。拠り所になる決まりが三つあります。
保存基準
食品には、国が定めた保存の基準があるものがあります。「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)の主なものを表2にまとめます。
| 食品 | 保存基準 |
|---|---|
| 冷凍食品(製造・加工した食品や、切り身・むき身の鮮魚介類を凍結させ、容器包装に入れたもの) | マイナス15℃以下で保存 |
| 食肉・鯨肉 | 10℃以下で保存(細切りして凍結させ容器包装に入れたものはマイナス15℃以下) |
| 生食用鮮魚介類 | 清潔で衛生的な容器包装に入れ、10℃以下で保存 |
消費者庁「食品別の規格基準について」に掲載の「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)各条をもとに編集部作成
表2の食品は、停電で庫内の温度がこの基準を超えれば、基準どおりに保存されていないことになります。停電が起きたら、まず庫内の温度を確かめて記録することが、その後の判断の出発点になります。
期限表示の 前提
食品表示基準は、消費期限を「定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限」、賞味期限を「定められた方法により保存した場合において、期待される全ての品質の保持が十分に可能であると認められる期限」と定義しています(第2条第1項第7号・第8号)。
どちらの期限も、表示された保存方法を守ることが前提です。停電で「要冷蔵」「要冷凍」の保存方法が守られなかった商品は、表示の期限がまだ先でも、その期限を前提にはできません。
食品衛生法の 決まり
食品衛生法第6条は、腐敗し、もしくは変敗した食品などを、販売し、または販売のために貯蔵し、陳列してはならないと定めています。また同法第51条にもとづき、令和3年6月1日から、原則としてすべての食品等事業者にHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が求められており、営業者は衛生管理の実施状況を記録し、保存することが求められています。停電時の温度の記録は、この日常の衛生管理の記録の延長として残しておきます。
家庭向けの目安として、農林水産省は、低温が保てる時間(扉を開けない場合)は冷蔵庫で約4時間、冷凍庫で約1〜2日間と言われている、としています。業務用のショーケースや冷凍庫は、機器や扉の構造、庫内の量によって条件が違います。家庭向けの時間をそのまま店の基準にせず、実際の庫内の温度で判断します。
停電中から 復旧時までの 確認の 順番
以上の決まりを踏まえ、店舗での確認を時間の流れに沿って並べます。
- 来店客と従業員の安全を確かめる。 照明が消えた店内では、転倒や商品の落下によるけがが起きやすくなります。地震による停電であれば、揺れへの対応が先です(手順は地震のとき店舗で来店客の安全を守るを参照)。
- 営業を続けるかを判断する。 照明、レジ、決済の手段、冷蔵ケースの状態を確かめ、安全に販売を続けられるかを判断します。判断する人と、その人が不在のときに代わる人をあらかじめ決めておきます。
- 冷蔵・冷凍設備の扉を閉め、温度を記録する。 扉の開け閉めを最小限にします。農林水産省も、停電中は冷蔵庫の開閉を最小限にするよう呼びかけています。停電が始まった時刻と、庫内の温度を時刻ごとに記録します。
- 商品を区分する。 表2の保存基準がある食品、「要冷蔵」「要冷凍」の表示がある食品、常温の食品に分け、温度の記録をもとに販売を続けるものと止めるものを判断します。販売を止めた商品は、売り場から下げて区別して保管します。
- 電気が戻ったら、安全を確かめてから通電する。 消防庁は、停電からの復旧後の再通電時に出火する「通電火災」に注意を呼びかけています。停電中は電気機器のスイッチを切り、電源プラグを抜くこと、店を離れるときはブレーカーを落とすことが対策として示されています。給電が再開されたら、電化製品や配線の損傷、近くに燃えやすいものがないかを十分に確かめてから使用します。
農林水産省は、完全に溶けてしまった冷凍食品を再冷凍することは避けるよう呼びかけています。溶けた冷凍食品を再び凍らせて売り場に戻すことはしない、と店のルールに書いておくと、当日の判断が短くなります。
消防庁によると、外見上の損傷がなくても、壁の中の配線の損傷や電化製品内部の故障によって、再通電してから長い時間がたってから火災に至ることがあります。煙などの異常に気づいたら、ただちにブレーカーを落とし、消防機関に連絡してください。
平時に 決めて おく こと
停電のたびに一から判断しないために、次の点を平時に決めておきます。
- 判断する人と基準。 営業の継続、販売の停止、商品の廃棄を誰が決めるか。本部と連絡がつかないときに店長が判断してよい範囲。
- 記録の方法。 停電の開始時刻、庫内の温度、判断した内容を書き留める様式。電気がなくても書ける紙の様式を用意します。
- 非常用電源の範囲。 非常用の電源を用意する場合、照明、レジ、冷蔵・冷凍設備のどれに優先して使うか。
非常用電源の導入を検討する場合は、事業継続力強化計画の認定制度が関わります。中小企業庁の資料によると、中小企業防災・減災投資促進税制の対象設備には、建物附属設備(取得価額60万円以上)の自家発電設備や無停電電源装置、機械及び装置(取得価額100万円以上)の自家発電設備などが含まれます。Q&A集では、太陽光パネルや蓄電池は対象ではないとされています。対象設備は計画の認定後に取得する必要があるため、導入の前に計画の準備を始めます。制度の概要はBCPと事業継続力強化計画の違いで整理しています。
中小企業庁の策定の手引きは、事業継続力強化計画の記載例として、地区で唯一のコンビニで、日用品の販売だけでなく宅配便の取次や料金収納なども行っており、早期に復旧しないと地域住民の生活に支障が生じるおそれがある、という例を示しています。停電の後にいつ、どの範囲で営業を再開するかは、店の損失の問題であると同時に、地域の中での店の役割の問題でもあります。再開までの目標の決め方は、目標復旧時間の決め方で扱っています。