BCPは、作った時点の会社の姿を前提に書かれています。担当者が異動し、取引先が変わり、拠点が増えると、計画の中身は少しずつ実態から離れていきます。内閣府の「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)は、事業の内容や業務体制、内外の環境は常に変化しているため、点検や改善が追いつかず、計画の有効性が下がるおそれが常にあると指摘しています(Ⅷ(4))。

この記事では、ガイドラインが示す見直しの時期と点検の観点を確かめたうえで、年1回の見直しで何をどの順番で確かめるかを整理します。BCPの基本の6段階目にあたる内容で、訓練の進め方は机上訓練の進め方で扱っています。

ガイドラインが示す見直しの時期

事業継続ガイドラインは、見直しを「点検」と「経営者による見直し」の2つに分けて、それぞれの時期を示しています(Ⅶ)。

表1事業継続ガイドラインが示す点検・見直しの時期
区分誰が時期
点検各部局のBCM担当者、BCM事務局定期的に、年1回以上
経営者による見直し経営者定期的に、年1回以上。事業戦略や次年度予算を検討する機会と連動させる
随時の見直し経営者自社の事業、内部・外部の環境に大きな変化があったとき
発動後の見直し経営者自社がBCPを発動したとき(その反省を踏まえて)

内閣府(防災担当)「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)Ⅶ・脚注96をもとに編集部作成

ガイドラインは、BCPの発動に至らない日常的なトラブルが起きた場合にも見直しを行うことが望ましいとし、関係のある他の企業のBCP発動が、自社の見直しの機会になることもあるとしています(脚注96)。※1※1BCM(事業継続マネジメント)は、BCPを作り、訓練や見直しを続ける取り組み全体を指します。用語は用語集にまとめています。

中小企業では、担当者と経営者が近いため、点検と経営者による見直しを同じ時期にまとめることもできます。その場合でも、決算や翌年度の予算を考える時期に合わせると、対策に必要な費用を予算に載せやすくなります。

点検で確かめる項目

ガイドラインは、点検の観点を大きく3つ示しています(7.1)。1つ目は、計画が本当に機能するかの確認です。前提としていた事前対策が進んでいるか、復旧に必要な資機材がBCPに定めた時間内に調達できるかなど、目標復旧時間を達成できるかを左右する事項を調べます。2つ目は、事業や環境の変化に計画が追いついているかの確認です。3つ目は、想定している災害の種類や被害想定、対象とする事業や事業所の範囲を広げるべきではないか、という観点です。

これを、年1回の点検の確認表に置き換えると、表2のようになります。

表2年1回の点検で確かめる項目の例
観点ガイドラインが挙げる変化・事項確認の方法の例
人と連絡先人事異動、取引先の変更対策本部の名簿、代行者、緊急連絡先、取引先の連絡先一覧を実態と突き合わせる
業務のやり方事業所・製造ライン・業務プロセスの変更止まると困る業務と、その業務に必要な経営資源の一覧を読み直す
事業の変化新しい製品・サービスの提供開始、新たな契約の締結新しい事業や契約が、重要業務や目標復旧時間の設定に影響しないかを確かめる
外部の要求利害関係者からの要求、法令改正取引先から求められた条件や、関係する法令の改正がないかを確かめる
供給網取引先の点検など、サプライチェーンの視点主な仕入先・外注先の状況が変わっていないかを確かめる
事前対策実施が決まっていた事前対策の進捗予定していた設備の固定や備蓄が済んでいるか、遅れている理由は何かを確かめる
訓練の結果訓練で見つかった弱点・課題前回の訓練の記録から、未対応の課題を拾い出す

内閣府(防災担当)「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)7.1をもとに編集部作成。確認の方法は編集部が作成した例

点検で見つかった問題のうち、経営判断を待つ必要がない実務的なものは、早めに是正するようガイドラインは求めています。その内容は、決められた機会にまとめて経営者に報告するとよいとされています(7.3)。

経営者による見直しに持ち込むこと

点検で直せない課題は、経営者による見直しの議題にします。ガイドラインは、BCM事務局が準備として、前回の見直しで指示された事項、その後の進み具合、点検や訓練の結果から明らかになった弱点や課題、現状の対策では対応していない残存リスクなどを整理し、その中から経営者の判断を仰ぐ内容を選ぶよう示しています(7.2)。※2※2残存リスクは、目標復旧時間の達成を妨げるリスクや、現状の能力では対応が難しい事象など、優先順位を下げてこれまで対応を見送っているリスクのことです(ガイドライン脚注101)。

経営者は、説明を受けて議論したうえで、すぐに実施すべき是正措置や対策を指示し、次年度以降の改善の方向性も打ち出す必要があるとされています。指示された事項のうち、調査や予算の確保、調整が必要なものは、継続的な改善の過程に持ち込み、事務局が進み具合を管理します(7.3)。

議題の例としては、目標復旧時間を今のまま据え置くか、代替の拠点や設備に費用をかけるか、見送ってきたリスクへの対策を始めるか、といったものがあります。どれも担当者だけでは決められないため、年1回の見直しの場で結論を出しておくと、翌年の点検で進み具合を確かめられます。

県の被害想定や地域防災計画が変わったとき

見直しのきっかけは、社内の変化だけではありません。ガイドラインは、政府の被害想定や新たな脅威の発生などがあれば、あわせて考慮することを推奨しています(脚注99)。また、情報が適切な時期に手に入らない場合には、政府・自治体や公的機関などからの情報収集をこまめに行うよう求めています(Ⅶ)。

神奈川県では、令和7年3月に新しい地震被害想定調査が公表されました。都心南部直下地震、三浦半島断層群の地震、神奈川県西部地震、東海地震、南海トラフ巨大地震、大正型関東地震の6つの地震が想定されています。その前の県の調査は、平成25年度から26年度にかけて実施され、平成27年3月に公表されたものです。BCPを作ったときに前の調査の数値を使っていた場合は、自社の所在地の想定がどう変わったかを確かめます。読み方は被害想定の読み方で扱っています。

市町村の地域防災計画も更新されます。災害対策基本法第42条は、市町村防災会議が、毎年市町村地域防災計画に検討を加え、必要があると認めるときは修正しなければならないと定めています。避難所や帰宅困難者への対応、災害時の情報の出し方などが変わることがあるため、所在地の市町村の計画の版を、年1回の点検のときに確かめます。※3※3市町村の地域防災計画は、県の新しい調査より前の想定を前提にしている場合があります。どの調査の数値かを確かめて使います(用語集:被害想定)。

補足

被害想定が変わっても、BCPのすべてを作り直す必要があるとは限りません。まず、自社の拠点の震度や、周辺の道路・ライフラインの想定が変わったかを確かめ、変わった部分が重要業務や目標復旧時間に影響するかを判断します。拠点ごとの確かめ方は拠点リスク確認も使えます。

事業継続力強化計画の認定を受けている場合

事業継続力強化計画の認定を受けている場合は、国への報告と、認定期間の管理が加わります。中小企業庁の「認定を受けた事業者の皆様へ」(令和8年5月22日版)の内容を、見直しに関わる点に絞って並べます。

  1. 訓練と見直しは1年に1回を目安に。 認定後に定期的な訓練と、その結果を踏まえた計画の見直しを行うことが重要だとされ、1年に1回を目安に実施を検討するよう示されています。
  2. 行ったら申請システムで報告する。 訓練や見直しを行ったときは「実施状況の振り返り」を、計画していた設備を導入したときは「投資状況の報告」を、申請システムで報告します。
  3. 実施期間の満了に注意する。 認定を受けた計画の実施期間は最長3年で、満了するとその計画の認定期間は終わります。継続して認定を受けるには、改めて申請して認定を受ける必要があります。
  4. 2回目以降の申請は、前回の訓練結果を踏まえる。 2回目以降の申請と変更申請には、「実施状況報告書」と直近の申請書の写しが必要です。報告書では、計画に書いた取組ごとに、実施状況の評価、実施状況、今後の計画方針を記載します。
  5. 内容が変わったら変更申請をする。 認定後に申請内容に変更があった場合は変更申請を行います。事業者名や住所の変更などの軽微な変更は変更申請の必要はありませんが、認定を受けた経済産業局への連絡などで認定情報を修正する必要があります。

年1回の見直しの結果は、そのまま実施状況の振り返りと報告書の材料になります。見直しのたびに、何を確かめ、何を直し、何を翌年に持ち越したかを書き残しておくと、3年後の再申請のときに読み返せます。訓練や見直しが計画どおりに進んでいない認定事業者向けには、中小企業庁のページで、中小企業診断士が訪問して助言する実効性向上支援事業(単独型の認定事業者が対象)が案内されています。申請の手順は事業継続力強化計画の申請で扱っています。