取引先との打ち合わせや、取引の開始にあたっての調査票で、「BCPはありますか」「災害のとき、どのくらいで供給を再開できますか」と尋ねられることがあります。計画を作っていても、その場で要点を答えられるとは限りません。反対に、よく確かめないまま「翌日には再開できます」と答えてしまうと、あとで自社を縛ることになります。

この記事では、取引先がBCPについて尋ねる理由を国のガイドラインで確かめたうえで、聞かれやすい内容ごとに、答えのもとになる計画の箇所と、答えるときの注意を整理します。BCPの基本の6段階目「訓練と見直しを続ける」の一部として、社外への説明を扱います。

取引先がBCPについて尋ねる理由

内閣府の「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)は、企業が分業化や外注化を進めてきたことで、原材料の供給、部品の生産、組立、輸送、販売などに携わる企業のどれかが被災すると、サプライチェーン全体が止まりかねない状況になっていると指摘しています(1.3)。取引先にとって、自社の仕入先や外注先の事業継続は、自らの事業継続の一部です。

ガイドラインは、事業が止まったときの影響を分析する際に、その原因を問わずに行う理由として、顧客や取引先の経営判断では「事業が停止するか否か」が重要で、停止の原因は実際にはそれほど重要ではない場合が多いことを挙げています(3.1.1)。取引先が知りたいのは、地震の規模そのものより、「供給が止まるか、止まるならいつ戻るか」だということです。

また、ガイドラインは、非常時に企業の活動が利害関係者から見えない状態(ブラックアウト)になると、取引先が代替調達に切り替えるなど、自社の事業継続に不利な状況が進むとしています(4.2.2.2)。中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」も、取引先企業の担当者の立場に立てば、他の条件がほとんど同じなら、BCPを策定している会社と策定していない会社のどちらと契約したいかは明らかだろう、という趣旨を述べています(基本コース3)。

一方で、ガイドラインは、BCMに取り組むことで、緊急時にも供給が期待できることから取引先に評価され、新たな顧客の獲得や取引拡大につながるという平常時のメリットも挙げています(1.3)。経営者に求められる事項としても、BCMについて利害関係者の理解を求めること、情報発信によって取引先などとの信頼構築に努めることが挙げられています(1.4)。取引先への説明は、求められたときの対応であると同時に、平常時の取り組みの一つと位置づけられています。

聞かれやすい内容と答えのもとになる箇所

取引先から聞かれる内容は、業種や取引の中身によって違いますが、BCPのどの部分を見れば答えられるかは共通しています。表1は、聞かれやすい内容の例と、答えのもとになる計画の箇所を対応させたものです。

表1聞かれやすい内容と、答えのもとになる計画の箇所
聞かれやすい内容の例答えのもとになる箇所ガイドラインの該当箇所
BCPを作っているか。対象の災害は何か基本方針、対象とする事業・事業所、想定する災害2.1、3.2
自社への供給が止まった場合、いつ再開できるか重要業務と目標復旧時間・目標復旧レベル3.1.2、4.1
災害のとき、誰が連絡してくるか緊急時の体制、取引先の連絡先一覧、情報発信の手段4.2.2.2、脚注79
工場や倉庫が使えないときはどうするか代替拠点・代替手段、在庫の持ち方4.2.1
仕入先が被災したときはどうするか調達先の複数化、代替調達先の確保4.2.1
計画は更新されているか。訓練はしているか訓練と見直しの記録6.2、Ⅶ

質問は編集部が作成した例。計画の箇所は内閣府(防災担当)「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)の章立てをもとに編集部作成

表1の右2列は、社内向けの準備です。取引先に説明するときは、計画書そのものを渡す必要はありません。計画書には、従業員の連絡先や設備の配置など、社外に出すべきでない情報も含まれるため、説明用には要点だけを1枚にまとめておくと、答える内容がそろいます。

説明用の1枚には、次のような項目を入れると、表1の質問の多くに答えられます。

  1. 計画の有無と、最後に見直した年月。 見直しの日付があると、計画が使われていることが伝わります。
  2. 想定している災害。 地震であれば、どの想定をもとにしているか。神奈川県の拠点であれば、県の地震被害想定調査(令和7年3月)のどの地震を前提にしたかを書きます。
  3. その取引に関わる業務の、再開の目標。 次の章で述べる注意を踏まえて書きます。
  4. 災害時の連絡の窓口と手段。 担当部署と、電話がつながらないときの手段。
  5. 訓練と見直しの実施状況。 直近の訓練の種類と時期。訓練の進め方は机上訓練の進め方で扱っています。

目標復旧時間を伝えるときの注意

取引先がもっとも知りたいのは、再開までの時間です。ここは、答え方によって自社の責任の範囲が変わるため、準備がもっとも必要な部分です。

事業継続ガイドラインは、目標復旧時間と目標復旧レベルについて、単なる目標ではなく、講じた対策によって達成できるものでなければならないとしています(脚注30)。経営者は、事業継続の戦略と対策の決定と一体的に、これらを実現可能で対外的にも説明できるものとして正式に決定するとされています(4.1)。さらに、対外的にも説明する自社の目標復旧時間や目標復旧レベルは、一種の公約として実現できるものでなければならないため、実施の可能性を見極めてから経営判断で決定する、と述べています(脚注35)。

注意

担当者がその場の判断で再開の見込みを答えると、それが取引先の計画に組み込まれることがあります。取引先に伝える目標復旧時間は、経営者が正式に決めたものだけにし、まだ検討中の場合はそのとおりに伝えます。

伝えるときは、前提の条件もあわせて示します。ガイドラインは、停止が許される時間の限界は、火災で自社だけが被災した場合と、広域災害で顧客や取引先も同時に被災した場合とで、ある程度異なると考えられるとしています(脚注31)。大きな地震では、自社の復旧だけでなく、道路や電気、仕入先の状況にも左右されます。「自社の拠点の被害が〇〇の範囲にとどまる場合」のように、目標がどの前提で立てられているかを添えておくと、取引先も自社の計画に組み込むときの幅を見込めます。目標復旧時間の決め方は目標復旧時間の決め方で扱っています。

公的な制度を使って示す

口頭の説明に加えて、公的な制度を使うと、取り組みを第三者の目に見える形で示せます。

事業継続力強化計画は、中小企業が作った防災・減災の事前対策の計画を経済産業大臣が認定する制度で、中小企業庁は「中小企業のための取り組みやすいBCP」と位置づけています。中小企業庁は認定を受けた事業者の一覧を公表しており、認定を受けた事業者は、認定ロゴマークを自社の広報活動や販売活動に使うことができます(使用規約とロゴマークマニュアルの確認が必要)。取引先に説明するとき、認定を受けていることと、中小企業庁の事業継続力強化計画のページに認定事業者の一覧があることを示せば、先方が自分で確かめられます。制度の利点は事業継続力強化計画の認定で受けられる支援で整理しています。

ガイドラインは、取り組みの概要を有価証券報告書や事業報告書などで積極的に開示することも推奨しています(脚注18)。上場していない中小企業でも、会社案内やホームページで、計画の有無と見直しの時期を示しておく方法があります。その場合も、目標復旧時間などの具体的な数値を載せるかどうかは、前の章の注意を踏まえて経営者が判断します。

説明のあとに続けること

取引先への説明は、一度で終わりません。取引先の担当者や連絡先が変われば、災害時の連絡はつながらなくなります。ガイドラインは、取引先などの利害関係者の連絡先一覧を作成し、確実に更新しておくよう求めています(脚注79)。また、点検の際には、人事異動や取引先の変更による当然必要な修正が行われているかを定常的に確かめ、取引先の点検などサプライチェーンの視点での点検・評価も必要だとしています(7.1.2)。説明した内容と連絡先は、年1回の見直しの確認項目に入れておきます。

取引先との関係を一歩進める方法もあります。ガイドラインは、調達・供給の観点での対策として、供給先・調達先との連携(在庫の持ち合い、調達先の事業継続能力の把握、事業継続に関する共同訓練の実施など)を挙げ(4.2.1)、経営者に対しては、取引先や業界団体、地域の関係者と共同してBCPの訓練や見直しを行うことが望まれるとしています(Ⅷ(6))。取引先から尋ねられたことをきっかけに、互いの連絡の手順を1枚にそろえておくと、説明が相互の備えに変わります。複数の企業で計画を作る方法は連携事業継続力強化計画で扱っています。