重要業務と目標復旧時間が決まったら、その業務を動かすために何が要るかを書き出します。人がいても機械が動かなければ製造は止まり、機械が動いても受注の記録が失われれば出荷先が分かりません。業務は、いくつもの資源がそろって初めて動きます。
中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」は、中核事業と重要業務を継続するために必要な資源を「人、物、金、情報等」の区分で挙げ、可能な限り漏れがないように、思い付く限りあげるよう求めています。この記事は、BCPの基本の3つ目の段階の仕上げとして、その書き出し方を扱います。
4つの 区分で、 資源を 書き出す
指針は、「人」には自社の従業員や協力会社が含まれ、「物」には施設や設備、原材料、電力・ガス・水道といったインフラも含まれると説明しています。内閣府の「事業継続ガイドライン」は、重要な要素(経営資源)の例として、キーパーソン、事務所・工場等の拠点、工程、機械、金型、工具、梱包、原料・部品、サービス、ライフライン、物流、データ、システム、資金などを挙げています。これらを4つの区分に並べると、表1のようになります。
| 区分 | 資源の例 | 書き出すときの問い |
|---|---|---|
| 人 | 従業員、キーパーソン、協力会社 | その人がいないと進まない作業はあるか |
| 物 | 事務所・工場・店舗、設備・機械・金型・工具、原材料・部品・梱包、輸送手段、電力・ガス・水道 | 代わりが手に入るまでに何日かかるか |
| 金 | 資金 | 入金が止まっても、給与と支払いを続けられるか |
| 情報 | データ、情報システム、パソコン、電話、各種書類・帳票類 | 失われたら、取引先や在庫が分からなくなるものはどれか |
中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」3.1・3.1.1.2、内閣府「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)脚注36をもとに編集部作成
書き出すときに便利なのが、指針(中級コース)が示す方法です。従業員、工場等の施設・店舗、設備(製造用機材等)、原材料等の供給、パソコン(インターネットや電子メールを含む)、情報管理システム、電話、電力、ガス、水道、納品のための輸送手段、各種書類・帳票類などについて、それが「利用できなくなった」または「無くなった」場合に、重要業務を続けられるかを想像していきます。業種に特有の資源もあるため、日常の業務で気づいているものも加えます。
内閣府のガイドラインは、重要な要素のすべてを漏れなく洗い出すのが基本だとしています。洗い出しが不十分だと、ある要素を確保する対策をとっても、別の要素を確保できずに対策の意味がなくなりかねないためです。
欠けた ときの 影響で、 3つに 分ける
書き出した資源は、欠けたときに重要業務がどうなるかで分けます。指針は、次の3つのどれに当てはまるかを整理するよう示しています。
- ほぼ操業できなくなる
- 人手による代替等で、一部は操業できる
- 操業にはまったく支障がない
1と2に当たる資源が、重要業務を続けるうえでの障害になり得るものです。指針はこれを「ボトルネック資源」と呼んでいます。
想定した 災害で、 ボトルネックを 絞り込む
次に、被害想定やハザードマップで確かめた災害が、それぞれの資源にどれだけ影響するかを考えます。指針は、影響の度合いを次の3段階で判断してもよいとしています。
- 目標復旧時間内の復旧に間に合わない程度の影響を受ける、または間に合わない程度の時間、影響を受け続ける
- ある程度の影響は受けるが、目標復旧時間内の復旧には間に合う
- ほとんど被害を受けない
指針は電力を例に説明しています。電力がなくなると「ほぼ操業できなくなる」と評価し、想定する災害の一つが震度6強の地震だとすると、問いは「会社の付近で震度6強の地震が起きた場合、何時間または何日間、電力の供給が止まるか」に置き換えられます。その影響が目標復旧時間に間に合わない程度であれば、「震度6強の地震で電力が被害を受けると、中核事業を目標復旧時間内に復旧できない」という結論になります。影響の度合いが判断できない場合は、高めに想定しておくほうが確実だとしています。
内閣府のガイドラインは、これらの要素のなかで、確保できるまでの時間を早めない限り重要業務の復旧を早めたり復旧のレベルを上げたりできないものを「ボトルネック」として把握するとしています。あわせて、ボトルネックになりそうな要素だけを直接探す方法は作業を軽くできるが、見落としのおそれがあるため慎重に考えるべきだとしています。また、あるボトルネックを解消すると、別のボトルネックが出てくることにも留意が必要だとしています。
影響の評価は、資源ごとに「目標復旧時間に間に合うか」で判断します。目標復旧時間が決まっていないと、この段階の判断ができません。先に目標復旧時間の決め方を済ませておきます。
ボトルネックに、 代替と 事前対策を 用意する
絞り込んだボトルネックには、2つの方向から備えます。被害を受けないように守る対策と、使えなくなったときの代わりを用意する対策です。指針は、使えなくなった場合に代替を確保する手段として、次のものを検討しておくよう挙げています。
- 情報連絡の拠点となる場所
- 被災した重要施設・設備
- 臨時従業員(「被災生活支援」と「事業復旧」との2通り)
- 資金
- 通信手段・各種インフラ(電力、ガス、水道等)
- 情報類(バックアップの方針)
区分ごとに、国の資料が示す考え方を補っておきます。
人。 内閣府のガイドラインは、重要業務の継続に不可欠な要員について、代わりの要員を事前に育成・確保すること(クロストレーニング、新規雇用等)を挙げています。「その人しかできない作業」は、手順を書き出して2人目が担えるようにしておきます。
情報。 ガイドラインは、重要な情報のバックアップを確保し、同じ事象で同時に被災しない場所に保存することが必要だとしています。どれくらいの期間のデータの損失を許容するかを検討し、それにもとづいてバックアップの頻度を決めることも重要だとしています。紙の書類について、指針は、重要書類のコピーを事業所とは別の場所に保管し、事業所内では耐火性の金庫等に保管するよう示しています。例として、賃貸借契約書、売買契約書、運送契約書、リース契約書などの契約書類や、自社のBCPが挙げられています。
金。 ガイドラインは、被災すると収入が減少または一時停止する一方で、給与や調達先等への支払いは続けなければならず、資金繰りの悪化が懸念されるとしています。そのため、日頃から危機的事象に対応するための最低限の手元資金を確保するよう努めることを求めています。休業したときに資金が足りるかは、リスクファイナンス判断シートで試算できます。
物。 指針は、事前対策を「ソフトウェア対策」と「ハードウェア対策」に分け、費用のかかるハードウェア対策は、利益が出たときに少しずつ投資し、数年程度をめどに完了を目指すことが現実的だとしています。その場合も、中核事業が影響を受ける可能性が高い災害向けの対策と、その災害で影響を受ける資源向けの対策を優先するよう示しています。
対策の手段を探すとき。 内閣府は、防災の課題を持つ自治体・企業と、技術やサービスを持つ企業を引き合わせる「防災×テクノロジー官民連携プラットフォーム」(防テクPF)を運営しています。令和7年度からは企業どうしのマッチングも始まり、令和7年8月の初回のイベントでは、25社の42のニーズに300件近い提案が寄せられました。登録は令和8年3月末で、自治体等921件、民間企業等2,237件です(「令和8年版 防災白書」第1部 1-10)。ボトルネックへの対策の手段が社内で見つからないときの、探し先の一つになります。
書き出した資源とボトルネックの一覧は、事業継続力強化計画の申請書で事前対策を書くときの材料になります。まとめ方は事業継続力強化計画にまとめるで扱っています。一覧は、担当者の異動や取引先の変更で変わるため、年1回の見直しの対象に入れておきます。