地震への備えというと、自社の建物や設備、従業員の安全が中心になりがちです。しかし、自社の工場や店舗が無事でも、部品や商品を納めている仕入先が被災すれば、作るものや売るものが入ってこなくなります。この記事では、仕入先の被災に備えて平時に確かめておくことと、代わりを確保する考え方を、国と神奈川県の公表資料に沿って整理します。

仕入先の被災で自社が止まる仕組み

内閣府の「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)は、企業が生産効率の向上などを目指して分業化と外注化を進めてきた結果、原材料の供給、部品の生産、組立、輸送、販売などに関わる企業のどれかが被災すると、サプライチェーン全体が止まりかねない状況になっていると指摘しています(1.3)。

神奈川県の地震被害想定調査(令和7年3月)の概要版も、都心南部直下地震について、沿岸地域の工場や生産拠点、倉庫などが被災することで、生産能力の低下や海上輸送の支障など多方面への影響が生じると記しています。同じ地震で、県東部では1か月程度の通行止めとなる道路の区間が生じるとも想定されています。仕入先の建物が無事でも、道路や港が使えなければ品物は届きません。

国の調査にみる取り組みの状況

内閣府の「令和5年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」(令和6年3月)は、BCPを策定済みの企業(1,034社)に、BCPに記載している項目と、策定の検討に含めた範囲をたずねています。

表1BCP策定済み企業の回答にみるサプライチェーンへの目配り
質問全体その他企業(大企業・中堅企業以外)
BCPに「サプライチェーン維持のための方策」を記載している29.0%27.4%
BCPの検討に含めた範囲に「仕入先」がある48.2%43.7%

内閣府「令和5年度 企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」(令和6年3月)問14・問21をもとに編集部作成。複数回答、n=1,034

同じ調査で、BCPに「従業員の安全確保」を記載している企業は全体の95.2%でした。自社の中の備えに比べ、仕入先まで含めた備えは少ないことが分かります。なお調査は、業種別では製造業で「サプライチェーン維持のための方策」の記載が5割を超え、他業種より高いとしています。※1※1調査の「その他企業」は、業種と資本金・常用雇用者数による区分で、大企業と中堅企業にあたらない企業です。区分の基準は調査報告書の調査概要に示されています。

BCPそのものを策定している企業の割合は、内閣府の最新の調査(令和7年度)で大企業75.8%、中堅企業54.8%です。策定中を含めると87.1%と65.9%になります。中堅企業は前回(令和5年度)の45.5%から増えています(「令和8年版 防災白書」第1部 1-9)。

仕入先を「重要度」と「代わりの見つけやすさ」で整理する

すべての仕入先に同じ手間をかけることはできません。まず、自社の中核事業に欠かせない仕入先を絞り込みます。中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」は、原材料などの供給が「利用できなくなった」場合に重要業務を続けられるかを想像し、「ほぼ操業できなくなる」「人手による代替等で一部は操業できる」「操業にはまったく支障がない」のどれにあたるかを整理する方法を示しています(中級コース 3.1.1.2)。※2※2中核事業と目標復旧時間の決め方は「製造ラインが止まったときの復旧の優先順位」で詳しく扱っています。

この区分に、代わりの見つけやすさを重ねると、手を打つ順番が見えてきます。

表2仕入先の整理の枠組み(例)
止まったときの影響代わりが見つけやすい品目(汎用品など)代わりが見つけにくい品目(特注品・認定品・一社のみの品目など)
ほぼ操業できなくなる代替の調達先を一覧にしておく最優先で対策を考える。在庫・複数化・仕入先との連携を組み合わせる
一部は操業できる代替の調達先を一覧にしておく在庫の持ち方と、優先して供給を受ける品目を仕入先と話し合う
支障はない平時の管理のままでよい仕入先の状況を定期的に確かめる

中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」3.1.1.2 の3区分をもとに編集部作成

右上の欄に入る仕入先が、自社の目標復旧時間を左右します。中小企業庁の指針(3.1.1.3)は、目標復旧時間を決めるときに取引先やサプライチェーンの要請を考慮するよう求めていますが、仕入先の側から見れば、自社も「要請する側」です。仕入先がいつ出荷を再開できそうかを知らないまま自社の目標を決めても、実現できるかどうか分かりません。

内閣府のガイドラインは、調達先の復旧時期が分からない場合の方法として、ライフライン、調達先、納入先などの復旧時期を大胆にいくつか仮定し、目標復旧時間を検討することを挙げています(3.1.2 の脚注)。仕入先から明確な答えが得られない段階でも、「2週間止まったら」「1か月止まったら」と仮定を置いて、自社への影響を試算しておくことはできます。

代わりを確保する選択肢

内閣府のガイドラインは、調達・供給の観点での戦略・対策として、次のような選択肢を挙げています(4.2.1(2))。

表3調達・供給の観点での戦略・対策
選択肢内容ガイドラインが示す留意点
在庫の見直し適正在庫の見直しや、在庫場所の分散化で供給を続ける—
調達先の複数化調達先を複数にする、代替調達先を確保する複数の調達先が同時に被災する場合や、2段階以上先の調達先が同一でそこが被災する場合にも留意する
供給先・調達先との連携在庫の持ち合い、調達先の事業継続能力の把握、BCMの実施の要請・支援、共同訓練、さらに先の調達先の事業継続能力の把握の要請—
代替調達の簡素化汎用部品の使用など、設計仕様の段階で代わりを見つけやすくしておく—

内閣府「事業継続ガイドライン」(令和5年3月)4.2.1(2)をもとに編集部作成

複数化で見落としやすいのは、表3の留意点です。調達先を二社にしても、両社が同じ地域にある場合や、両社が同じ材料メーカーから仕入れている場合には、一度の地震で両方が止まることがあります。神奈川県内の仕入先を複数にしただけでは、県内全域で被害が想定される地震への備えとしては十分でない場合があります。

在庫を増やす方法は、確実性が高い一方で、保管の場所と資金を平時から使います。どの品目を何日分持つかは、表2の右上の欄に入る品目に絞り、目標復旧時間と仕入先の再開の見込みとの差を埋める量を目安にすると、無理のない範囲に収まります。

物流を含めて考える

仕入先が無事でも、運ぶ手段が止まれば品物は届きません。国土交通省の「多様な災害に対応したBCP策定ガイドライン」(令和5年3月)は、荷主と物流事業者の連携を扱った資料で、発荷主だけでなく、納品条件などを通じて物流に大きな影響力を持つ着荷主も連携の対象としています(1章)。仕入れる側の会社は、この着荷主にあたります。ガイドラインは、災害時にはスポット契約で代替の輸送手段や物流拠点を確保するのが難しいことが多いとして、平時から輸送モードの多様化や、委託する物流事業者・物流拠点の複数化を進めるよう求めています(4章(5))。小売業では、店舗への納品の条件を災害時にどこまで緩められるかを、仕入先や物流事業者と前もって話しておくことが、この連携にあたります。

仕入先と平時に確かめておくこと

整理した仕入先のうち、表2の右上の欄に入るところから、次の順に確かめていきます。

  1. 災害時の連絡先を交換する。 営業担当者だけでなく、工場や物流の責任者の連絡先を、互いに複数控えます。
  2. 仕入先の拠点と、その地域の被害想定を確かめる。 どの工場や倉庫から出荷されているかを聞き、その所在地の被害想定を拠点リスク確認や自治体の資料で確かめます。
  3. 仕入先の事業継続の取り組みをたずねる。 BCPの有無や、被災時に出荷を再開できる見込みの時期、代わりの生産拠点があるかを聞きます。ガイドラインが挙げる「調達先の事業継続能力の把握」にあたります。
  4. 2段階先の調達先を聞ける範囲で聞く。 仕入先がどこから材料を仕入れているかを知ると、表3の同時被災の留意点を確かめられます。
  5. 在庫の持ち方と、被災時の優先供給について話し合う。 どちらが、どこに、何日分の在庫を持つか。被災時に限られた量を出荷するとき、自社向けがどの順番になるかを確かめます。
  6. 決めたことを文書にし、年に一度見直す。 担当者の異動や仕入先の拠点の移転で、内容はすぐに古くなります。
補足

仕入先にBCPや在庫の話を持ちかけるときは、一方的な要請ではなく、自社の目標復旧時間と事情を先に伝えると話が進みやすくなります。ガイドラインは、調達先に対するBCMの実施の要請とあわせて「支援」も挙げています。

被災直後に確かめること

内閣府のガイドラインは、発災後の対応手順の例として、自社の経営資源の被災状況に加え、調達先やサプライチェーンの状況など、必要な資源を確保できるかを確かめることを挙げています(5.1.1.2 の表5.1.1.2-2)。平時に作った仕入先の一覧に、連絡がついたか、出荷の見込みはいつかを書き込む欄を用意しておくと、被災直後の確認をそのまま記録に残せます。

仕入先と共同で備えを進める方法として、中小企業庁の事業継続力強化計画には、複数の事業者が連携して作る「連携事業継続力強化計画」があります。取引先同士で在庫の持ち合いや代替生産の取り決めを進める場合に、その内容を計画として整理する枠組みとして使えます。