大きな地震や台風のあと、道路をふさいだ土砂や倒木を取り除き、壊れた護岸を応急に直す作業は、自治体の職員だけでは行えません。多くの場合、自治体があらかじめ協定を結んでおいた地元の建設業者が出動します。
この協定は、自治体と建設業の団体、あるいは個別の会社のあいだで結ばれる文書です。何が書かれているかを知っておくと、協定に加わっている会社は災害時の動き方を社内で決めやすくなり、加わっていない会社も、地域の中で自社がどう関わりうるかを考える材料になります。この記事では、神奈川県が地域防災計画の資料として公表している協定書を中心に、仕組みを整理します。
協定は 法律上どう 位置づけられているか
災害対策基本法は、国や自治体などの「災害予防責任者」に対して、民間の協力を得るための備えを求めています。第49条の3は、災害応急対策や災害復旧に必要な物資・資材・役務の供給や提供を業とする者などを「物資供給事業者等」とし、その協力を得ることが必要となる事態に備えて、協定の締結その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならないとしています。
また第49条の2は、他の者の応援を受けたり応援したりする事態に備え、相互応援に関する協定の締結や共同の防災訓練などに努めることを定めています。
どちらも「努めなければならない」という努力義務で、協定を結ぶかどうか、誰と結ぶかは自治体ごとに決められます。そのため、協定の相手や中身は、県と市町村、また市町村どうしでも異なります。自社の地域の協定は、県や市町村の地域防災計画の資料編や、市町村が公表する協定の一覧で確かめます。
神奈川県の 協定書に 見る 協定の 種類
神奈川県の地域防災計画には、マニュアル・資料として、建設業に関わる協定書が収録されています。主なものを表1にまとめます。
| 資料番号 | 協定の名称 | 結ぶ者 | 主な内容 |
|---|---|---|---|
| 4-7-(2) | 各地区建設業団体等との地震・風水害・その他の災害応急工事に関する業務協定 | 県の事務所長と各地区の建設業協会の会長(ひな形) | 災害のおそれがある場合の防止、二次災害の防止と復旧に係る工事 |
| 4-7-(3) | 地震等の災害応急活動に関する協定書 | 神奈川県知事と一般社団法人神奈川県建設業協会 | 大規模災害時の現地調査、建設機材・資材の確保、応急復旧工事 |
| 4-7-(4) | 建設資機材等の調達に関する協定書 | 神奈川県と神鉄連協同組合 | 条鋼、鋼板、鋼管、シートパイル・ガードレールなどの調達 |
| 4-7-(5) | 地震災害応急復旧用仮設橋に関する協定書 | 神奈川県と日本橋梁建設協会(昭和63年10月1日) | 橋に被害が出たときの仮設橋の確保 |
| 4-7-(20) | 災害時における災害応急対策業務及び建設資材調達に関する包括的協定書 | 関東地方整備局長、関東の都県知事・政令市長・高速道路会社などと、一般社団法人日本建設業連合会関東支部長 | 公共施設の災害応急対策業務と建設資材等の調達 |
神奈川県地域防災計画 マニュアル・資料 地震災害対策計画 第4章(資料4-7-(2)〜(5)・4-7-(20))をもとに編集部作成
このほか県は、林道の災害に備える協定も結んでいます。令和7年1月には、県の自然環境保全センターと一般社団法人神奈川県森林土木建設業協会県央支部が「県営林道における地震・風水害・その他の災害応急工事等に関する業務協定」を締結すると発表しました。
協定書に 書かれている、 要請から 精算までの 流れ
地元の建設業者に関わりが深いのは、県の事務所と地区の建設業協会が結ぶ業務協定(資料4-7-(2))です。ひな形の条文から、災害時の流れを順に追うと次のようになります。
- 自主的なパトロール。 協会に加入する施工業者は、災害が起きたときは、県からの現地調査の要請があるかどうかにかかわらず、自主的にパトロールを行い、被害の状況を県の事務所に連絡します(第5条第1項)。
- 出動の要請。 県の事務所長は、災害応急工事等が必要と認めたときに、協会に出動を要請します。通常の連絡ができる場合は、電話等で要請し、災害の場所・被害状況・工事内容などを伝えます(第2条・第4条)。
- 連絡が取れない場合。 電話等が途絶して連絡ができない場合は、協会の判断で応急復旧が必要かつ可能と認めるときは、県の要請があったものとみなして、施工業者に工事を行わせます(第4条第2号)。
- 工事の実施。 施工業者は、あらかじめ協会が定めた工事の区間や区域で、現地に派遣された県土整備局の職員の指示に従って工事を行います。職員が現地にいないときは、協定の目的に沿って工事を行います(第3条・第5条)。
- 着工の報告。 協会は、工事に着手した状況を、様式により速やかに県の事務所に報告します。急ぐときは電話で報告し、あとで様式を出します(第6条)。
- 費用の立替えと精算。 活動に要した費用は、施工業者等がいったん立て替えます。精算の単価は、災害発生時の神奈川県の積算基準等によるとされ、県は請求に基づいて協議のうえ支払います(第7条〜第9条)。
協定の期間は締結の日から1年間で、終了日の30日前までにどちらかが延長しない旨を文書で通知しない限り、1年ずつ更新されたものとみなす、という自動更新の形になっています(第11条)。
協定書のうえでは、費用はまず施工業者が立て替えることになっています。出動が続けば、燃料や資材の支払い、協力会社への支払いが、県からの支払いより先に来ます。そのあいだの手元資金をどう確保するかは、社内で見積もっておく必要があります。
知事と県建設業協会が結ぶ協定(資料4-7-(3))では、要請は原則として協会あての文書によるとし、それが難しい場合は口頭で要請して、後から文書で通知するとしています。県が協会に連絡できない場合は、協会の会員に直接協力を要請できるという定めもあります。
国と都県・政令市などが日本建設業連合会関東支部と結ぶ包括的協定(資料4-7-(20))には、関東地方整備局の管内で震度6弱以上の地震が起きた場合は、要請を待たずに、会員の使用可能な建設機械・資材・作業可能人員などの情報の収集を始めるという定めがあります。同じ協定では、支部が会員の技術者・建設機械・建設資材などの数を把握し、毎年4月末までに報告することも定められています。
市町村とも 協定が 結ばれている
協定は県だけのものではありません。たとえば大和市が公表している災害協定の一覧(令和8年5月7日現在)には、次のような建設・設備関係の協定が載っています。
| 協定 | 協定日 | 相手 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 災害応急対策の応援に関する協定 | 平成20年7月1日 | 一般社団法人大和建設業協会 | 応急復旧工事に関わる人的及び資機材等の提供 |
| 災害応急対策の応援に関する協定 | 平成4年10月1日 | 竹中重機株式会社 | 同上 |
| 災害時等における飲料水の応急給水に関する協定 | 平成20年7月1日 | 大和市管工事協同組合 | 応急給水の確保 |
| 災害時における応援に関する協定 | 平成18年11月1日 | 大和市電設協会 | 電気設備の修理、内線電話の配線 |
| 災害時における応援に関する協定 | 令和5年7月18日 | 大和市空調衛生工業会 | 公共建築物の点検と設備の応急措置、空調衛生の応急確保 |
大和市「大和市の災害協定一覧」(令和8年5月7日現在)をもとに編集部作成
団体と結ぶ協定のほか、個別の会社と結んでいる例もあります。業種も土木だけでなく、管工事・電気・空調衛生など、公共施設の設備を扱う業種に広がっています。大和市の地域の状況は大和市のページにもまとめています。
協定に 加わる 会社が 社内で 決めて おく こと
協定は、災害時に自治体の仕事を優先して引き受けることを意味します。一方で、自社の現場や取引先の工事も止まっています。協定上の出動と自社の復旧を同時に進めるには、平時に次のことを決めておく必要があります。
- 出動の判断と連絡の窓口:協会や自治体から要請が来たとき、社内で誰が受け、誰が出動を決めるか。連絡が取れない場合に協定書が想定している「自主的なパトロール」を、誰がどの区域で行うか。
- 人と機械の把握:出動できる技術者・作業員の人数と、使える建設機械・資材を一覧にしておきます。包括的協定のように、団体から在庫や人員の報告を求められることがあります。
- 自社の現場の扱い:施工中の現場の点検と、協定上の出動のどちらに誰を充てるか。自社の現場の点検は労働安全衛生規則で求められるものがあり、省けません。
- 記録と精算の準備:着工の報告と費用の請求には様式が決まっています。作業の日時・人員・機械・材料を記録する係を決めておくと、精算が滞りません。
こうした内容は、会社のBCPの中で「地域への協力」の項目として書いておくと、協定の中身と自社の復旧計画の関係が社内で共有しやすくなります。
なお、建設業者の企業評価である経営事項審査では、国、特殊法人等または地方公共団体と、災害時の建設業者の防災活動について定めた防災協定を結んでいる場合に、社会性の項目「防災活動への貢献の状況(W3)」で加点されます。国土交通省の資料では、この項目の評点は令和5年1月1日の改正後の表で20点とされています。※1※1国土交通省の資料は、防災協定を結ぶ建設業者が災害時の24時間待機など自らの負担を伴いながら防災活動を行っていることを、加点評価の背景として挙げています。