大きな地震で工場が被災すると、すべての製品を同時に元の量まで戻すことはできません。人も設備も部材も限られるなかで、どの製品を、どの取引先に向けて、どの工程から動かすかを決める必要があります。その判断を被災後にゼロから行うと、社内の意見がまとまらず、再開が遅れがちです。

中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」は、限られた人員や資機材の範囲で事業を続けるには、まずどの商品を優先的につくるかの判断を迫られると書いています。この記事では、その判断を平時に済ませておくための手順を、国の資料と神奈川県の地震被害想定をもとに順に整理します。※1※1BCP(事業継続計画)の意味は、用語集のBCPを参照してください。計画全体の組み立てはBCPの基本にまとめています。

最初に「中核事業」を一つに絞る

指針は、会社の存続に関わる最も重要性の高い事業を「中核事業」、それを実施するために必要な業務を「重要業務」と呼んでいます。製造業であれば、中核事業は「どの顧客に、どの製品を供給するか」という形で表すと、後の検討がしやすくなります。

指針(中級コース 3.1.1.1)は、中核事業を選ぶときの視点として次の四つを挙げています。

  1. 売上げに最も寄与している事業は何か
  2. 納期などの期限が定められている事業のうち、遅れたときの損害が最も大きいものは何か。どの程度の遅れまで許容されるか
  3. 会社に課されている法的または財政的な責務を満たすには、どの事業が必要か
  4. 市場シェアや会社の評判を維持するには、どの事業が重要か

内閣府の「事業継続ガイドライン」も、事業が止まった場合の影響を、利益や売上げ、資金繰り、顧客の事業継続、従業員の雇用、法令や契約への違反、社会的な信用などの観点で、時間の経過に沿って評価するよう求めています(3.1.1)。ガイドラインは、1日あたりの売上げなどを使った簡易な評価でも一定の目的は達せられるとしており、また、分析に時間をかけすぎると事業環境が変わって作業が無意味になるおそれがあるとも注意しています。

製造ラインが複数ある工場では、ライン単位ではなく「製品と顧客の組み合わせ」で順位を付けると、同じラインで作る製品のなかでも優先するものがはっきりします。

目標復旧時間は、取引先の要請と手元資金の両方から決める

中核事業が決まったら、いつまでに再開するかの目標を置きます。これが「目標復旧時間」です。指針(3.1.1.3)は、目標復旧時間を決めるときに最低限考慮することとして、次の二つを挙げています。

  • 中核事業に関わる取引先やサプライチェーンから許容される事業停止時間の限度。取引先の経営者や幹部との直接のやりとりで把握し、調整しておく事項とされています
  • 自社の資金が耐えられる期間。収入が途絶えるなかで、納期遅延による違約金、従業員の賃金、臨時の人員の賃金、設備の修繕や新規調達の費用などに、どれだけの期間耐えられるかを見積もります

内閣府のガイドラインは、停止が許される時間の限界(許容限界)を推定したうえで、それより早い時点に目標復旧時間を置くとしています(3.1.2)。あわせて、この段階の目標はまだ実現できるかを確かめていない「案」であり、対策の検討を経てから経営判断で正式に決めること、目標は一つに限らず、時点ごとに段階的な復旧レベルを置いてもよいことも示しています。※2※2ガイドラインは、目標復旧時間の決定が難しい場合の方法として、顧客ごとに分けて重要顧客への供給を重要業務とできるかを検討することや、ライフライン・調達先・納入先の復旧時期をいくつか仮定して検討することを挙げています(3.1.2 の脚注)。

資金の面の見積もりには、関東経済産業局の考え方をもとにした当サイトのリスクファイナンス判断シートも使えます。

ラインの再開を遅らせる資源を洗い出す

目標復旧時間の案ができたら、それを実現するのに欠かせない資源を洗い出します。指針(3.1.1.2)は、資源が「利用できなくなった」「無くなった」場合に重要業務が続けられるかを想像し、項目ごとに「ほぼ操業できなくなる」「人手による代替等で一部は操業できる」「操業にはまったく支障がない」のどれにあたるかを整理する方法を示しています。「ほぼ操業できなくなる」にあたる資源が、中核事業を続けるうえでの障害、指針のいう「ボトルネック資源」です。

表1資源ごとの影響の整理(記入例の枠)
資源の例ほぼ操業できなくなる人手による代替等で一部は操業できる操業にはまったく支障がない
従業員(特定の工程を担える人)
工場の建物・生産設備・金型・工具
原材料・部品の供給
電力・ガス・水道
生産管理のシステム・パソコン・電話
納品のための輸送手段
図面・帳票などの書類

中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」3.1.1.2 の項目と3区分をもとに編集部作成。内閣府「事業継続ガイドライン」3.1.3 の要素の例を加えた

内閣府のガイドラインは、重要な要素の例として、キーパーソン、拠点、工程、機械、金型、工具、梱包、原料・部品、ライフライン、物流、データ、システム、資金などを挙げ、まずは漏れなく洗い出すことを基本としています(3.1.3)。一つを見落とすと、ほかの資源を確保しても再開できなくなるためです。また、ボトルネックを一つ解消すると次のボトルネックが現れることにも注意を促しています。

神奈川県の被害想定で、ライフラインの停止期間を確かめる

電力や水が止まる期間は、自社だけでは縮められないボトルネックになりやすい項目です。神奈川県の地震被害想定調査(令和7年3月)は、想定地震ごとにライフラインや道路の被害を示しています。

表2神奈川県の地震被害想定にみるライフラインと道路の被害(抜粋)
項目都心南部直下地震大正型関東地震
上水道被災直後の断水人口2,634,710人。復旧に33日被災直後の断水人口5,183,690人。復旧に50日程度
下水道527,620人に機能支障。復旧に40日1,077,640人に機能支障。復旧に90日程度
電力停電は全県で254,890軒停電は全県で1,952,210軒
道路県東部で1か月程度の通行止めとなる区間が生じる全県で1か月程度の通行止めとなる区間が生じる

神奈川県「地震被害想定調査報告書概要版」(令和7年3月)の都心南部直下地震・大正型関東地震の記述をもとに編集部作成

都心南部直下地震について、概要版は、沿岸地域の工場や生産拠点、倉庫などが被災することで、生産能力の低下や海上輸送の支障など多方面への影響が生じるとも記しています。冷却水や洗浄水を使う工程、排水処理が必要な工程は、建物や設備が無事でも、上下水道が戻るまで動かせない場合があります。表1の「電力・ガス・水道」の欄は、この期間を念頭に置いて記入すると現実に近くなります。

現地で直すか、別の場所で作るかを、被害の段階ごとに決める

ボトルネックが分かったら、それをどう確保するかを考えます。内閣府のガイドラインは、方向性を二つに分けています。一つは被害を防ぎ、軽くし、早く直す「現地復旧」、もう一つは使えなくなったときに代わりを確保する「代替」です(4.1)。ガイドラインは、代替の考え方は幅広い事態に共通して効果があるため必ず検討すべきとしつつ、同等の生産能力を持つ拠点を平時から持つのは費用の面で容易でないことも認めています。そのうえで、代替拠点の場所だけを決めて立ち上げの訓練を行う方法や、同業他社と災害時の相互支援を合意する方法を例に挙げています。

指針(3.2.1)は、製造業で施設・設備が被災した場合の代替確保の選択肢を次のように並べています。

表3施設・設備が被災した場合の代替確保の選択肢
番号選択肢
1同一の機能をもつ施設を協力会社等に持ち、並行して操業しておく
2回復用の作業施設と設備類を保持しておく
3回復用の作業場所だけを確保(または具体的に想定)し、設備は購入やリースで確保する
4ほかの製品の製造施設・設備を一時的に転用する
5同業組合などを通じて、回復用の作業場所を他社と提供し合う協定を結ぶ
6別の場所に新たに施設を建設する

中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」3.2.1 をもとに編集部作成

指針は、これらを時間の経過に沿って組み合わせることが重要だとし、例として、発災後3日間は社内のほかの設備で事業の一部を続け、その間に本来の設備の購入やリースを手配して社内の回復用作業場所で3週間は事業を続け、その間に仮施設を建設する、という流れを示しています。

内閣府のガイドラインはさらに、被害の想定に「軽微」「甚大」「壊滅」といった段階を付け、段階ごとに戦略を考える方が実践的だとしています(4.2.1)。被害が軽微なら現地復旧、甚大なら現地に戻ることを前提に代替拠点で対応、壊滅なら代替拠点での対応や事業からの撤退も考える、という整理です。これを製造ラインに当てはめると、次の手順になります。

  1. 中核事業に使うラインと工程を特定する。 表1で「ほぼ操業できなくなる」とした資源が、どの工程にあるかを書き出します。
  2. 被害の段階を三つ置く。 たとえば「設備の点検と軽い修理で動く」「主要設備の交換が必要」「建屋ごと使えない」のように、自社の設備に合わせて言葉を決めます。
  3. 段階ごとに、現地復旧か代替かを決める。 表3のどの選択肢を使うか、誰が手配するかを決めます。
  4. 段階ごとの再開の目安を置き、目標復旧時間の案と比べる。 届かない場合は、事前の対策(設備の固定、予備品の確保、協力会社との取り決めなど)を加えて差を埋めます。
  5. 経営者が正式に決め、根拠を記録する。 ガイドラインは、分析から決定に至った根拠や経過、選んだ理由を記録として残すことを強く推奨しています。
注意

ラインの再開は、従業員の安全と設備の安全確認が済んでからです。危険物や高圧ガスを扱う工程がある工場では、法令にもとづく点検や手続きが先になります。詳しくは「危険物・高圧ガスを扱う工場の地震への備え」で整理しています。

他社と組む方法と、国の制度

自社だけで代替拠点を持つのが難しい場合、表3の1や5のように協力会社や同業者と組む方法があります。中小企業庁の「事業継続力強化計画」には、複数の事業者が共同で作る「連携事業継続力強化計画」もあり、手引きが公開されています。※3※3中小企業庁のページによると、令和元年7月16日から令和9年3月31日までの間に事業継続力強化計画または連携事業継続力強化計画の認定を受けた事業者が、認定の日から1年を経過する日までに計画に記載した対象設備を取得して事業に使った場合、特別償却16%の税制措置を受けられます。適用の条件は同ページの実施要領で確かめてください。制度の概要は用語集の事業継続力強化計画にまとめています。

決めた順番を、発動の基準とつなげておく

最後に、決めた優先順位を「いつ使うか」とつなげます。指針(3.3.1)は、中核事業のボトルネックが影響を受け、早く対応しなければ目標復旧時間内に復旧できない場合を正しく把握することが、BCPの発動基準を決めるポイントだとしています。発動されたのかどうかが分からない状態では、従業員が判断できず、所定の対応が遅れるためです。

「震度いくつ以上」「主要設備が停止したら」など、揺れの大きさとボトルネックの被害の組み合わせで発動の条件を書き、そのときに最初に動かすラインと担当者を一枚にまとめておくと、被災直後の打ち合わせが短くなります。