大きな地震が起きた直後、オフィスビルや商業施設、病院などの施設で最初に動くことになるのは、防災センターや受付にいる警備員であることが少なくありません。施設の従業員も被災しているなかで、建物に人がとどまってよいかを確かめ、来館者に何を伝えるかを決めなければなりません。

この記事では、消防庁が示す地震時の初期対応の考え方と、内閣府が示す建物の緊急点検の方法をもとに、揺れの直後から来館者の待機・退避を判断するまでの順番を整理します。施設の管理者と、施設警備を担う警備会社の双方が、事前の打ち合わせに使うことを想定しています。

揺れがおさまるまでは身を守り、そのあと組織として動き出す

消防庁の「大規模地震等に対応した消防計画作成ガイドライン」(平成31年)は、地震発生時には身の安全を第一とし、大きな揺れがおさまった後に組織的な活動を開始することを消防計画に記載するよう求めています。警備員も、揺れている間は持ち場の確認より先に、自分の身を守ることが前提です。

同ガイドラインが地震の初期対応として消防計画に記載を求めている主な事項は、次のとおりです。

  • 危険な場所からの待避、パニック防止のための放送、出火防止の措置、自衛消防組織の活動開始の手順
  • パニック防止のために、冷静な行動を促す放送を防災センター等から行うこと。そのための館内放送の文例
  • 防災センターで、気象庁の地震情報、津波情報、緊急地震速報などの情報を集めること
  • 一定の震度以上の地震が起きた場合は、管理権原者などの指示がなくても自衛消防本部を設置し、活動を始めること
  • 火災や要救助者が出たときに、消防機関への通報を誰が行うか(通報の重複を避けるため)

「一定の震度以上なら指示を待たずに動き出す」という定めは、施設警備にとって特に重要です。夜間や休日には、施設の管理者と連絡が取れないことがあるためです。何の震度で、誰が活動開始を決めるのかを、施設の消防計画と警備の契約の双方で一致させておきます。

被害の状況を集める

揺れがおさまったら、建物全体の被害の情報を集めます。同ガイドラインは、総合操作盤、自動火災報知設備、監視カメラ、設備のモニタ、従業員などからの速報で把握する例を挙げ、整理する情報の例として、負傷者数、閉じ込め者数、火災などの二次災害の有無、構造などの損壊を示しています。

防災センターで集める情報と、それをもとに行う対応を、表1に整理しました。

表1地震直後に防災センターで集める情報と対応の例
集める情報主な手段対応の例
火災の有無自動火災報知設備、従業員からの通報通報、初期消火、避難誘導
負傷者・閉じ込め者従業員からの通報、巡回救出救護、救護場所の設置
エレベーターの停止・閉じ込め監視盤、インターホンエレベーター会社への連絡。安全確認までは使用停止
建物・設備の損壊監視カメラ、設備モニタ、巡回立入禁止の措置、避難経路の変更
地震・津波の情報気象庁の地震情報・津波情報在館者への情報の伝達

総務省消防庁「大規模地震等に対応した消防計画作成ガイドライン」(平成31年)の記載事項をもとに編集部作成

同ガイドラインは、エレベーターが停止した場合の対応として、エレベーター会社との連絡体制、エレベーター会社が安全を確認するまでは使用を停止すること、閉じ込めが起きた場合の救出方法などを消防計画に記載する例を挙げています。停電時に非常用電源がなく館内放送が使えない場合の伝達方法も、あらかじめ決めておく必要があります。

建物の安全を確かめる 第1次チェックと第2次チェック

大きな地震の直後は、応急危険度判定士などの建築の専門家がすぐには来られないことが想定されます。内閣府の「大規模地震発生直後における施設管理者等による建物の緊急点検に係る指針」(平成27年2月)は、建築の専門知識を持たない建物の管理者などが、専門家が到着する前に、建物の使用の可否を短時間で判断するための方法をまとめたものです。判断の対象は、建物の崩壊などにより、建物内の滞在者や避難者などの生命や身体に危険が及ぶ状態かどうかです。

指針は、鉄骨造、鉄筋コンクリート造、木造のそれぞれについて、次の流れで確認するとしています。

  1. 第1次チェック(一見して危険かどうか)。 建物の外部から、建物の内部に入ってもよいか、内部で待機してよいかを確認します。一見して危険と判断される場合は、建物全体を使用不可とします。
  2. 第2次チェック(余震による危険性)。 隣接地の建築物、周辺の地盤、構造躯体の状況から、余震が起きた場合の危険性を確認します。危険と判断される場合は、建物全体を使用不可とします。構造躯体の損傷は、鉄骨造では窓枠の変形や損傷、建物の傾きから、木造では建物の傾き、建具のゆがみ、壁の損傷状況などから判断します。鉄筋コンクリート造では、柱・壁・梁の損傷の状況を確かめます。
  3. 落下物の点検。 建物の内外の落下物(天井材などの非構造部材)の状況から、立ち入ってはいけない場所を確認します。落下物の危険がある場所や部屋は使わず、それ以外の場所を使います。

結果は、「建物の使用不可」「危険な箇所以外は立入可」「建物の立入可」の3つに分かれます。

重要度 高

指針は、天井について、平常時と比べて歪みや隙間、破損、ずれが確認できるときは、その天井がある部屋を使用不可と判断するとしています。吹き抜けやホールなどの高い天井が落ちると大きな被害につながるためです。来館者を集める場所に、こうした部屋を使わないでください。

鉄筋コンクリート造のひび割れについて、指針は、平常時からあるひび割れと区別するため、平常時の状況を確認しておくことが望ましいとしたうえで、大規模災害時には、裂け目が2ミリメートル以上のひび割れ、深いひび割れ、エックス字のひび割れなどに特に注意する必要があるとしています。

指針によるチェックはあくまで緊急・応急的なもので、チェックのあとも、必要に応じて速やかに建築の専門家による安全確認を受けることが重要とされています。

来館者を待機させるか、退避させるか

指針は、カルテとチェックシートで建物の安全を確認したうえで、建物内での待機や建物からの退避を判断することが望ましいとしています。ただし、明らかに建物が危険な場合などの緊急時は、待機・退避を先に判断し、並行して安全確認を行うことも考えられるとしています。

建物が危険でないと判断した場合、来館者をすぐに外へ出すことが安全とは限りません。内閣府の帰宅困難者対策のガイドライン(令和8年1月)は、大規模な集客施設や駅などの事業者に、発災時の対応として、施設の安全性を確認したうえで、利用者を施設内や安全な場所で保護することを挙げています。施設が安全でない場合は、事業者が一時滞在施設などへ利用者を誘導するとしています。

来館者への対応では、次の点をあらかじめ決めておきます。

  • 誰が待機・退避を決めるか:判断するのは施設の管理者です。管理者が不在のときに誰が決めるか、警備員はその決定をどう来館者に伝えるかを決めます。
  • 待機させる場所:落下物の点検で使用可とした場所の中から、来館者を集める場所の候補を平時に決めておきます。
  • 要配慮者への対応:同ガイドラインは、高齢者、障がい者、乳幼児、妊婦、外国人などの要配慮者が必要とする物資の備えや、やさしい日本語や多言語での情報提供を挙げています。
  • 帰宅の案内:公共交通機関の運行情報を伝え、むやみに移動を始めないよう呼びかけます。同ガイドラインは、発災から72時間(3日間)は人命救助に重要な期間であることから、原則として一斉帰宅を抑制するという考え方を示しています。従業員の待機の決め方は「一斉帰宅の抑制と従業員の待機」で整理しています。

平時に済ませておく準備

地震の直後に建物の安全を確かめるには、平時の準備が欠かせません。内閣府の指針は、建物の設計者、構造設計者、建築施工業者などの専門家と一緒に「カルテ」を作り、安全確認を行う箇所(構造柱、耐力壁、梁など)を図面に記入しておくことを示しています。建物の竣工図や構造計算書なども、カルテとあわせて保管しておくことが望ましいとされています。

指針が示す平時の準備は、次のとおりです。

  • 役割分担:建物の安全確認を行う者と、待機・退避や帰宅困難者の受け入れを判断する者をあらかじめ決めておく。安全確認は複数の者で行うことが望ましい
  • カルテの作成と更新:建物の状況は年々変化するため、年に1回程度カルテを更新する
  • 訓練:専門家を交えた事前の教育や訓練を受け、年に1回程度チェックシートを用いた安全確認の訓練を行う。安全確認を行う箇所の平常時の状況を、可能な限り写真などで記録しておく

施設警備を委託している場合、カルテの保管場所と、チェックシートを使う担当者を警備会社と共有しておくことが大切です。夜間・休日の地震では、安全確認の第1次チェックを警備員が行うことになる場合があります。訓練にも警備員が加わり、実際にチェックシートを使う手順を確かめておくと、当日の判断が早くなります。帰宅困難者対策のガイドラインも、年1回以上の実動訓練や図上訓練による手順の確認と改善を挙げています。

こうした初動の手順は、施設を持つ会社のBCPの最初の部分にあたります。所在地の揺れの想定は拠点リスク確認で確かめられます。