施設の常駐警備や工事現場の交通誘導をしている最中に、大きな地震が起きることがあります。そのとき警備員は、契約先の従業員でも、施設の管理者でもありません。警備会社に雇われ、契約で決めた範囲の業務を行っている立場です。
災害が起きてから「どこまで頼めるのか」「いつまで残ってもらえるのか」を話し合う余裕はありません。この記事では、警備業法が契約の書面に求めている事項を確かめたうえで、施設の消防計画との関係、帰宅困難者対策のガイドラインの記述を踏まえ、警備会社と契約先が平時に決めておく項目を整理します。警備会社の担当者と、警備を委託している会社の総務担当者の双方に向けた内容です。
警備業法が 契約の 書面に 求めている こと
警備業法第19条は、警備業者が警備業務の契約を結ぼうとするときは契約を結ぶまでに契約の概要を記載した書面を、契約を結んだときは遅滞なく契約の内容を明らかにする書面を、依頼者に交付しなければならないと定めています。記載する事項は警備業法施行規則第33条・第34条で、警備業務の種類ごとに決められています。
施設警備(警備業法第2条第1項第1号の警備業務のうち、機械警備を除くもの)の契約の概要に記載する主な事項は、表1のとおりです。
| 区分 | 記載する事項 |
|---|---|
| 業務の範囲 | 警備業務を行う日及び時間帯、警備業務対象施設の名称及び所在地、警備員の人数及び担当業務 |
| 警備員と装備 | 警備員が有する知識及び技能、警備員が用いる服装、使用する機器又は各種資機材 |
| 施設の管理 | 警備業務対象施設の鍵の管理に関する事項 |
| 事故のとき | 警備業務対象施設における盗難等の事故発生時の措置 |
| 報告 | 報告の方法、頻度及び時期その他の依頼者への報告に関する事項 |
| 契約の条件 | 対価、支払の時期及び方法、期間、再委託、免責、損害賠償、契約の更新・変更・解除に関する事項 |
| その他 | 苦情を受け付けるための窓口、特約があるときはその内容 |
警備業法施行規則 第33条(e-Gov法令検索)をもとに編集部作成
交通誘導警備や雑踏警備(同項第2号の警備業務)の契約では、これに加えて、警備業務を行う場所と、その場所における負傷等の事故発生時の措置を記載することになっています。
表1のとおり、記載事項に「災害時の対応」という名前の項目はありません。地震や風水害のときの警備員の動きを契約に盛り込むとすれば、「事故発生時の措置」「報告に関する事項」「免責に関する事項」「特約」などの欄で、具体的に書き分けることになります。施行規則第35条は、書面を交付するときは、依頼者に書面を十分に読むべき旨を告げるなど、依頼者が記載内容を確実に知ることができる方法によるとしています。災害時の取り決めも、この書面の説明の場で、双方が読み合わせておくと確実です。
警備員に 特別な 権限は ない
警備業法第15条は、警備業者と警備員は、警備業務を行うにあたって、この法律により特別に権限を与えられているものでないことに留意し、他人の権利や自由を侵害したり、個人や団体の正当な活動に干渉したりしてはならないと定めています。
災害の直後、警備員は来館者に避難の方向を案内したり、危険な場所への立ち入りを控えるよう呼びかけたりします。こうした案内は、契約で定めた業務の範囲で、施設の管理者の方針に沿って行うものです。警備員が独自の判断で来館者を強制的に移動させる権限を持っているわけではありません。
そのため、災害時に警備員が来館者に何を伝えるか、どの場所を立入禁止にするかは、施設の管理者が決め、警備員はそれを実行する、という役割の分け方を、契約先の側で決めておく必要があります。
施設の 消防計画と、 委託警備の 位置づけを そろえる
大規模・高層の建物などでは、消防法にもとづき、管理権原者に、地震などに対応した防災管理の消防計画の作成、防災管理者の選任、自衛消防組織の設置が義務づけられています。消防白書(令和6年版)によると、このような防災管理対象物は令和6年3月31日現在で全国に1万124件あります。
消防庁の「大規模地震等に対応した消防計画作成ガイドライン」(平成31年)は、防災センター等に勤務する委託者(警備会社等)との契約内容によって災害対応に支障を来すことのないよう、連携体制を構築することを求めています。また、自衛消防の業務の一部を委託する場合は、その指揮命令系統を消防計画に明確に記載するとしています。
防災管理の義務がかからない規模の建物でも、考え方は同じです。施設の消防計画や社内の防災の決まりで「警備員が行う」と書かれている業務が、警備会社との契約書面に書かれているかを突き合わせてください。消防計画には書かれているのに契約には書かれていない業務は、災害時に誰も担わないおそれがあります。
防災センターの監視や館内放送を警備員に任せている施設では、同ガイドラインが地震の初期対応として挙げている、パニック防止のための放送、気象庁の地震情報などの情報収集、消防機関への通報を誰が行うかの取り決めが、そのまま警備員の業務になります。契約の書面と消防計画の双方で、担当を一致させておきます。
契約先と 決めて おく 項目
ここまでの内容を踏まえ、警備会社と契約先が災害時について取り決めておく項目を順に挙げます。取り決めた内容は、契約の書面の特約や、別紙の「災害時対応の取り決め」として残しておくと、担当者が替わっても引き継げます。
- 警備員が行う業務と行わない業務。 来館者への案内、エレベーターの閉じ込めの確認、防災センターでの情報収集、出入口の管理など、災害時に警備員に頼む業務を具体的に挙げます。建物の安全を判断する役割や、立入禁止を決める役割は施設側に残すのか、明確にしておきます。
- 警備員自身の安全確保の基準。 建物が危険と判断されたときや、津波・浸水のおそれがあるときに、警備員が持ち場を離れて退避してよい条件を決めます。退避したことを誰に連絡するかも決めておきます。
- 勤務の延長と交代。 交通機関が止まると、交代の警備員が来られず、勤務中の警備員がそのまま残ることになります。労働基準法第33条は、災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合は、使用者は行政官庁の許可を受けて、その必要の限度で労働時間を延長できるとし、事態急迫のため許可を受ける暇がない場合は事後に遅滞なく届け出なければならないとしています。これは警備員を雇う警備会社の手続きです。契約先とは、延長の上限の目安、交代が来るまでの配置人数の縮小を認めるか、延長分の対価をどう扱うかを決めておきます。
- 連絡の手段と順番。 電話がつながりにくい場合に備え、警備会社の本部、施設の担当者、警備員の三者が、どの手段で、どの順番で連絡を取るかを決めます。施設の担当者が不在の夜間・休日に、誰の指示を仰ぐかも決めます。
- 鍵と入退館の管理。 施行規則第33条が記載を求める「鍵の管理」は、災害時にも関わります。停電で電気錠が動かない場合の開け方、避難のために開放してよい扉を決めておきます。
- 帰宅困難者を受け入れる場合の扱い。 内閣府のガイドライン(令和8年1月)は、一時滞在施設を開設する場合、警備員や施設管理業者などにも開設している旨を共有し、来訪者対応や入退場管理を適切に行えるよう認識の共有を徹底することが望ましいとしています。施設が一時滞在施設になる予定があるなら、受け入れ時の出入口の管理や立入可能区域の設定を、警備の業務としてどこまで頼むかを決めておきます。
- 報告の方法。 災害時の報告を、平時の日報とは別に、どの様式でいつ出すかを決めます。
| 年齢 | 警備員数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 60歳未満(計) | 31万4,476人 | 約52.7% |
| 60〜64歳 | 7万5,001人 | 12.6% |
| 65〜69歳 | 7万8,496人 | 13.1% |
| 70歳以上 | 12万9,012人 | 21.6% |
| 総数 | 59万6,985人 | 100% |
警察庁「令和7年における警備業の概況」をもとに編集部作成
表2のとおり、警察庁の統計では、令和7年末の警備員のうち70歳以上が21.6%を占めています。※1※160歳未満の計は、同資料の30歳未満・30〜39歳・40〜49歳・50〜59歳の人数を編集部で合計したもので、構成比はその合計を総数で割った値です。また、警備業者の90.3%は警備員数が100人未満の事業者です。災害時の取り決めでは、勤務中の警備員の年齢や体力を考慮した退避の基準や、長時間の勤務にならないための交代の段取りを、警備会社と契約先の双方で確かめておくことが大切です。取り決めた内容は、警備会社・契約先それぞれのBCPにも同じ内容で書いておくと、災害時の動きが食い違いません。