感染症が広がったとき、在宅勤務は「出勤する人を減らす」ための手段になります。ただ、在宅勤務の規程や機器が用意されていない会社が、流行が始まってから一斉に切り替えるのは容易ではありません。誰が在宅勤務できるのか、費用は誰が負担するのか、勤務時間をどう把握するのかが決まっていないと、現場で一件ずつ判断することになります。
この記事では、国の計画のなかで在宅勤務がどう位置づけられているかを確かめたうえで、厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(以下「テレワークガイドライン」)が平時に決めておくよう求めていることと、社内連絡の準備を、確認の順番に沿って整理します。
感染症の 対策の なかでの 在宅勤務の 位置づけ
令和6年7月2日に全面改定された新型インフルエンザ等対策政府行動計画は、準備期に、国が事業者に対して、発生時にオンライン会議の活用、テレワークや時差出勤など人と人との接触機会を減らす取組が勧奨される可能性があることを周知し、そうした場合に備えた準備を検討するよう勧奨するとしています。初動期には、テレワークや時差出勤の推進などの対策を準備するよう要請するとしています。※1※1政府行動計画が事業者に求めていることの全体は、新型インフルエンザ等対策政府行動計画で整理しています。
国の「事業者・職場における新型インフルエンザ等対策ガイドライン」(令和6年8月30日)も、業務を続ける際の感染対策の例として、テレワークの実施を挙げています。あわせて、テレワークを実施するための就業規則などの見直しと、通信機器などの整備を行うよう示しています。国内での発生の初期には、時差出勤や自家用車などでの通勤の許可とともにテレワークを推進し、その際にテレワークの就業規則などをあらかじめ作っておくことが考えられるとしています。
在宅勤務は、業務の絞り込みと組み合わせて使う手段です。どの業務を続けるかを先に決めておくと、在宅勤務の対象にする業務と人も決めやすくなります(感染症で出勤できる人が減ったときの業務の絞り込み)。
平時に 決めて おくルール
テレワークガイドラインは、テレワークを制度として導入し実施するにあたって、次の事項をあらかじめ労使で十分に話し合い、ルールを定めておくことが重要だとしています。
| 決めておく事項 | 感染症の流行時に確かめること(例) |
|---|---|
| 導入目的 | 感染拡大の防止と業務継続のために使うことを明記しているか |
| 対象業務 | 継続すると決めた業務のうち、在宅でできるものはどれか |
| 対象となり得る労働者の範囲 | 出勤が難しくなりやすい、こどもや要介護の家族がいる従業員を含めているか |
| 実施場所 | 自宅以外(サテライトオフィスなど)を認めるか |
| テレワーク可能日(希望・当番制・頻度など) | 流行時に日数の上限を外すか、当番制に切り替えるか |
| 申請等の手続 | 急に切り替えるときの簡単な手続を決めているか |
| 費用負担 | 通信費や機器の負担を決めているか |
| 労働時間管理の方法、中抜け時間の取扱い | 看病などで仕事を離れる時間をどう扱うか |
| 通常又は緊急時の連絡方法 | 誰に、どの手段で、いつまでに連絡するか |
厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」3(1)をもとに編集部作成。「感染症の流行時に確かめること」の欄は編集部による例
ガイドラインの記述のうち、規程を整えるときに押さえておきたい点は次のとおりです。
- 就業規則。 労使で協議して作ったテレワークのルールを就業規則に定め、労働者に周知することが望ましいとしています。特に、労働者に情報通信機器や作業用品などを負担させる定めをする場合は、就業規則に規定しなければならないとされています(労働基準法第89条第5号)
- 労働条件の変更。 労働契約や就業規則で定めた勤務場所や業務の進め方の範囲を超えてテレワークを行わせる場合は、労働者本人の合意を得たうえでの労働契約の変更が必要とされています
- 対象者の選び方。 正規雇用・非正規雇用といった雇用形態の違いだけを理由に対象から外さないよう留意する必要があるとしています。業務の都合でテレワークできる人に偏りが出る場合は、優先順位や頻度をあらかじめ労使で話し合うことが望ましいとしています
- テレワークが難しい業務。 エッセンシャルワーカーなどの業務のように性格上テレワークが難しいものがあるとしつつ、個別の業務によっては実施できる場合があるとして、業務の進め方の見直しを検討することが望ましいとしています。あわせて、オフィスに出勤する人だけに業務が偏らないよう留意が必要だとしています
製造・建設・物流・介護のように現場での作業が中心の事業所でも、受発注、請求、勤怠の集計、会議など、在宅でできる業務が含まれていることがあります。表1の「対象業務」は、部署単位ではなく業務単位で書き出すと、在宅にできるものが見つけやすくなります。
機器・セキュリティ・作業環境を 確かめる
ルールを決めたら、実際に在宅で仕事ができる状態かを確かめます。
- 書類と決裁を電子化する。 テレワークガイドラインは、不必要な押印や署名、対面での会議、紙の資料での説明といった仕事の進め方が、テレワークの妨げになっている例があるとしています。押印や署名の廃止、ペーパーレス化、決裁の電子化、オンライン会議の導入などが有効だとしています。
- 情報セキュリティの対策を決める。 ガイドラインは、情報セキュリティの観点からすべての業務を一律に対象外とするのではなく、業務ごとに個別に判断することが望ましいとしています。対策には、総務省の「テレワークセキュリティガイドライン」などを活用するよう示しています。総務省は、第5版(令和3年5月)のガイドラインのほかに、中小企業などの担当者向けに「テレワークセキュリティの手引き(チェックリスト)」(第3版、令和4年5月)を公開しています。
- 自宅の作業環境を確かめる。 自宅などは事務所衛生基準規則などが一般には適用されない場所ですが、ガイドラインは、それらの衛生基準と同等の作業環境となるよう、事業者が教育や助言を行い、労働者用のチェックリスト(別紙2)を使うなどして作業環境の報告を求めることが重要だとしています。
- 初めて在宅勤務をする人の確認をする。 ガイドラインは、労働者がテレワークを初めて行うときは、事業者用(別紙1)と労働者用(別紙2)のチェックリストを使うなどして、安全衛生の取組が適切に行われることを労使で確かめたうえで作業を行わせることが重要だとしています。
- 一度、全員で試す。 機器やオンライン会議の道具は、使ったことがないと当日に止まります。ガイドラインも、テレワークを導入した初期や機材を新しく入れたときには、必要な研修を行うことが有用だとしています。
テレワーク中の労働者にも、労働基準法や労働安全衛生法などの労働基準関係法令が適用されます。在宅勤務だからといって、労働時間の把握や健康への配慮が不要になるわけではありません。
社内連絡の 準備
感染症の流行時に、在宅勤務と同じくらい重要になるのが、誰が出勤できて誰が休んでいるかを把握する連絡の仕組みです。国の事業者向けのガイドラインは、発生時を想定して、従業員の発症状況や欠勤の可能性などを確認する体制を作るよう求めています。
平時に確かめておく社内の情報として、ガイドラインは、従業員の緊急連絡先、学校・保育施設に通うこどもの有無、要介護の家族の有無、その他支援の必要性の有無などを挙げています。発生時には、国や地方公共団体などが公表する発生状況や感染対策の情報を、早急に従業員に正確に伝えることが求められています。外国人従業員など、日本語でのやりとりが難しい人については、その人が必要とする言語で情報を伝えられる体制を作るよう示しています。
これらを社内の準備に置き換えると、次のようになります。
- 連絡先の一覧を更新する。 緊急連絡先と、在宅勤務の可否、家族の状況(本人の同意を得た範囲)を一覧にし、年に1回と人事異動のときに更新します
- 欠勤と体調の報告の手順を決める。 誰に、どの手段で、何時までに報告するかを決めます。テレワークガイドラインが決めておく事項に「通常又は緊急時の連絡方法」を挙げているのは、このためです
- 会社からの連絡の経路を決める。 全員に一度に届く手段と、それが使えない場合の手段を決めておきます。ガイドラインの感染対策の例には、対面による会議を避けてオンライン会議を活用することが含まれています
- 判断する人と代わりの人を決める。 在宅勤務への切り替えや出社の制限を誰が決めるか、その人が休んだ場合に誰が代わるかを決めておきます
テレワークガイドラインは、テレワークでは上司や同僚が周りにいないため、コミュニケーションが取りにくく、心身の変調に気づきにくい状況になりやすいとしています。健康相談の体制を整えることや、コミュニケーションを活発にする取組を行うことが望ましいとしています。流行が長引くほど、在宅勤務をしている人への定期的な声かけの段取りが意味を持ちます。
準備の順番としては、表1のルールを決め、機器と作業環境を確かめ、連絡の一覧と手順を整えてから、一度全員で試す、という流れになります。試したときに出た問題を規程と一覧に反映しておくと、流行が始まった時点で迷う項目が少なくなります。