新型インフルエンザ等対策政府行動計画は、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」)にもとづいて政府が定める計画です。感染症の危機が起きたときに、国、地方公共団体、事業者などが連携して、発生の段階に応じて行動できるようにするための指針と位置づけられています。
この計画は、令和6年7月2日に閣議決定で全面的に改定されました。内閣感染症危機管理統括庁のページでは、2026年9月の時点で、その後の計画本体の改定は示されておらず、計画を具体化するガイドラインが令和7年12月15日に一部改定されたと掲載されています。この記事では、改定の要点を確かめたうえで、一般の事業者に求められていることを、法律、計画、ガイドラインの順に整理します。
令和6年7月の 全面改定で 変わった こと
内閣感染症危機管理統括庁の発表と計画の概要では、主な変更点として次のことが挙げられています。
| 項目 | 改定後の内容 |
|---|---|
| 対象とする疾患 | 新型インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などだけでなく、その他の幅広い呼吸器感染症も念頭に置く |
| 時期の区分 | 準備期・初動期・対応期の3期に分け、特に準備期の取組を充実 |
| 対策項目 | これまでの6項目から13項目に拡充 |
| 分量 | 約90ページから約230ページに拡充 |
| 想定 | 感染が長期化する可能性も踏まえ、複数の感染拡大の波への対応や、対策の機動的な切替えを明確化 |
| 見直し | 実施状況を毎年度フォローアップし、おおむね6年ごとに改定について検討 |
内閣感染症危機管理統括庁「『新型インフルエンザ等対策政府行動計画』の閣議決定」、新型インフルエンザ等対策政府行動計画(概要)をもとに編集部作成
13の対策項目は、実施体制、情報収集・分析、サーベイランス、情報提供・共有とリスクコミュニケーション、水際対策、まん延防止、ワクチン、医療、治療薬・治療法、検査、保健、物資、国民生活及び国民経済の安定の確保です。事業者に関わる記述は、主に「まん延防止」と「国民生活及び国民経済の安定の確保」の章にあります。
神奈川県も、国の計画の全面改定を受けて、令和7年3月に「神奈川県新型インフルエンザ等対策行動計画」を全面的に改定しています。事業所が県内にある場合は、県の計画もあわせて確かめておくと、県からの要請がどの枠組みで出されるかがわかります。
法律と 計画が 一般の 事業者に 求めている こと
特措法第4条は、事業者と国民の責務を定めています。事業者に関わる部分は、次の3つです。
- 事業者及び国民は、新型インフルエンザ等の予防と感染の拡大の防止に努めるとともに、対策に協力するよう努めなければならない
- 事業者は、新型インフルエンザ等のまん延により生ずる影響を考慮し、その事業の実施に関し、適切な措置を講ずるよう努めなければならない
- 登録事業者(特定接種の対象となる、医療の提供や国民生活・国民経済の安定に寄与する業務を行う事業者として登録を受けたもの)は、発生したときにおいても、その業務を継続的に実施するよう努めなければならない
いずれも「努めなければならない」という努力義務の書き方です。一般の事業者について、業務継続計画を作ることを法律で義務づける規定ではありません。※1※1介護サービス事業所のように、業種ごとの基準で業務継続計画が義務づけられている場合は別です。介護事業所については介護事業所の業務継続計画(BCP)で整理しています。
政府行動計画は、一般の事業者の役割を次のように書いています。
- 新型インフルエンザ等の発生時に備えて、職場における感染対策を行うことが求められる
- 発生時には、感染防止の観点から、一部の事業を縮小することが必要な場合も想定される
- 特に多数の者が集まる事業を行う者は、感染防止のための措置の徹底が求められるため、平時からマスクや消毒薬などの衛生用品の備蓄に努めるなどの対策を行う必要がある
計画の基本的な考え方の部分では、全ての事業者が自発的に職場における感染予防に取り組むことに加えて、感染拡大を防止する観点から、継続する重要業務を絞り込むなどの対策を積極的に検討することが重要だとしています。あわせて、従業員のり患などにより一定期間、事業者のサービスの提供水準が相当程度低下する可能性があることを周知し、国民の理解を得るための呼びかけも必要だとしています。
時期ごとに 国が 事業者に 要請すると されている こと
計画の第3部「国民生活及び国民経済の安定の確保」の章は、国が事業者に働きかける内容を時期ごとに書いています。事業者の側から見ると、どの時期にどんな要請が来るかの見取り図になります。
| 時期 | 国などが事業者に行うとされていること |
|---|---|
| 準備期 | 関係業界団体を通じることなどにより、可能な範囲で発生時の業務継続計画を策定するよう勧奨し、必要な支援を行う |
| 準備期 | 発生時にオンライン会議、テレワーク、時差出勤など人と人との接触機会を減らす取組が勧奨される可能性があることを周知し、その場合に備えた準備の検討を勧奨する |
| 準備期 | マスクや消毒薬などの衛生用品、食料品や生活必需品などの備蓄を勧奨する |
| 初動期 | 従業員の健康管理の徹底、症状のある職員などへの休暇取得の勧奨、オンライン会議の活用、テレワークや時差出勤の推進など、感染拡大防止に必要な対策の準備を要請する |
| 対応期 | 職場における感染対策の徹底を要請し、症状のある従業員の健康管理や受診の勧奨、出勤が必要な者以外のテレワーク、学校などが臨時休業した場合の保護者である従業員への配慮などへの協力を要請する |
| 対応期 | 事業継続に役立つ情報(事業所の感染防止対策や、感染した可能性がある従業員への対応など)を更新しながら提供する |
新型インフルエンザ等対策政府行動計画(令和6年7月2日)第3部「まん延防止」「国民生活及び国民経済の安定の確保」をもとに編集部作成
準備期の項目には、学校などが臨時休業した場合に保護者である従業員への配慮が必要となる可能性があることにも留意すると書かれています。子育てや介護をしている従業員が多い職場ほど、出勤できる人の数が早い段階で減ります。
対応期には、影響を受けた事業者を支援するために必要な財政上の措置などを、国、都道府県、市町村が講ずるとされています。
まん延防止等重点措置や緊急事態措置のもとでは、都道府県知事が一部の業態の事業者に営業時間の変更などを、また学校、社会福祉施設、興行場など多数の者が利用する施設の管理者に使用の制限などを要請できる仕組みがあります。事業者向けのガイドラインは、対象になる業態の事業者に、要請される可能性を考えて事業継続の方針を検討するよう求めています。
事業者向けガイドラインが 示す準備
計画を具体化するものとして、内閣感染症危機管理監の決裁で「事業者・職場における新型インフルエンザ等対策ガイドライン」(令和6年8月30日)が定められています。事業者全般を対象に、感染対策と重要業務の継続を検討するうえで必要な内容を示したものです。
ガイドラインは、BCPを作るときの影響の規模の目安として、例えば従業員の最大40%程度の欠勤を想定することが考えられるとしています。ただし、この水準は目安であり、実際には業態に応じて柔軟に想定することが重要で、リモートワークの普及や影響の長期化の可能性も踏まえる必要があると注記しています。
ガイドラインの章立ては、次の順になっています。自社で準備を進めるときの項目立てとしても使えます。
- 対策体制の検討・確立(基本方針と意思決定の方法、代わりに決める人、情報を集めて共有する体制)
- 感染対策の検討・実施(平時の検討、発生時の対策、海外勤務の従業員への対応)
- 事業継続の検討・実行(事業継続の方針、影響の分析と重要業務の特定、重要な資源の確保、人員計画、発生時のBCPの策定・実行)
- 教育・訓練
- 点検・改善
平時に確かめておく社内の情報として、ガイドラインは、従業員の緊急連絡先、学校・保育施設に通うこどもの有無、要介護の家族の有無などを挙げています。事業継続の方針は、従業員や訪問者などの感染対策の実施を前提に、事業者自らの経営判断として決めるものとされています。
全般的なBCPの作り方については、ガイドラインは内閣府の「事業継続ガイドライン」や経済産業省の資料を参照するよう示しています。当サイトでは、BCPの基本で全体の流れを、感染症で出勤できる人が減ったときの業務の絞り込みで重要業務の絞り方を、感染症に備える在宅勤務と社内連絡の準備でテレワークと連絡の準備を扱っています。